走る。
遮二無二走る。
息はキレギレ、心臓の鼓動は今まで経験したことのない速さで鼓動を打ち、長時間酷使された脚は休ませろと悲鳴を上げている。
が、止まれない、止まるわけにはいかない。
酸素不足で朦朧とした頭にもういいだろ等と諦めの言葉がよぎるが、頭からそいつを追い出す。
見覚えも土地勘も無い、更には裏路地に入ったおかげでどこに繋がっているかの予想もつかない道を駆ける。
ただ、この狭くて暗い道が迷路のようにいくつも枝分かれしているおかげで未だ追いつかれずに済んでいる。
それでも奴らは追跡をやめる気配など微塵も無く、目ざとくこちらを探し、追い込もうとしてくる。
「いたぞ!こっちだ!」
しまった、視界を切った油断からかそれとも脚が限界に来ているのか、多少のスピードが緩んだところを見つかってしまう。
「俺はこっちから行くから、二人は追い込んでくれ!」
どうやら追っては二手に分かれるらしい、後ろを振り向く余裕も無いが追手が分散したのなら幸いだ、
限界だと喚く身体に鞭を打ち、勢いを上げる。
途中、いつからそこに置いてあったのかもわからない空の一斗缶を蹴飛ばし、壁に立てかけてある雑具を引っ張り倒す。
「この……!」
「のわっ!いってぇ!」
それが功を奏したのか追手が一人転んだようだ、ツキが回ってきたぞ。
「ちょっと、大丈夫!?」
「何してんだ!こっちは良いから早く追えって!」
「わ、わかった!」
転んだ相方を心配する声とそれを振り払いこっちの追跡を急かす声が後ろからする。
しかしもう遅い、その一瞬止まった隙に更に距離を離す。
曲がりくねった道を右に曲がり、次に左に曲がる。
本当に滅茶苦茶に、反射で道を選び追手を撒く、これでは分かれた方が先回りするのも無理だろう。
依然走りながらだがそんなことを考える余裕すら生まれていた、そして突き当たりを曲がった瞬間迷路の出口が現れた。
まるで地獄に垂らされた一本のクモの糸の如き光が暗い路地に差し込む。
やった!これで逃げ切れる!
だが、それを掴もうとした瞬間、希望の糸は無残にも切られてしまう。
「ハァ、ハァ……、上げて落とすようで悪いがここは通行止めだ」
信じられない……
なんでだ!?
居るはずのない手分けした一人が目の前に現れた。
「やっと追い込んだ!」
「さんざん手こずらせやがって……!」
唖然としている間に後ろからの追手にも追いつかれてしまう、一本道なので進むも引くこともできない。
「大人しくお縄につけ!抵抗しても罪が重くなるだけだぞ!」
知ったことかと心の中で吐き捨てながら前後を交互に見比べ逃げる算段を立てる。
前方には男、こいつは警察官だ。
後方には二人、双方とも制服を来た女子ではあるがその腰には大分物騒なものを下げている。
御刀、この二人は刀使だ。
なんだって刀使が荒魂じゃなくて俺なんかを追って居るのか。
二人の刀使はこちらが顔を向けた瞬間に腰の御刀に手をかける。
「二人とも、向こうが襲い掛かりでもしない限り抜くなよ!」
後ろからの警察官の声が俺を通り越して二人にかけられる。
二人は構えはそのまま、眼は俺を見据えたまま小さく頷く。
どう頑張ったって刀使には勝てない以上、選択肢は一つになっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
瞬間、地を蹴り絶叫を上げながら警察官に突撃する。最早破れかぶれの吶喊だ。
運が良ければ振り切って逃げられるかもしれない…
「気持ちはわからんでもないがな、警官も舐めるもんじゃないぜ!」
しかし世界はそんなに甘くできてはいなかった…
掴みかかろうとした瞬間身体は宙を舞い、地面に叩きつけられていた。
「この……大人しくしろ!よし、午後0時58分犯人確保!」
最後の抵抗も空しく、その声と同時に腕に手錠がはめられた。
「氷室警部補殿、ご協力ありがとうございました!」
捕まえた犯人を待機していた警官に引き渡した後、一人の警官が俺の許へ来て元気よくそう言いながら敬礼した。
その後ろでは手錠をしたさっきの男がパトカーに乗せられている、
「あ、ああ……そちらもお気をつけて」
はいと返事をして警官はパトカーに乗り込み、サイレンを鳴らして走り去っていった。
「警部補殿、ねぇ……」
咄嗟にぎこちない返事を返してしまったな、
いまだに警部補という立場に実感がわかない。
「さて、俺たちも撤収するか」
パトカーの後ろ姿を見送った後、気分を切り替えて後ろで待機していた刀使の二人に声をかける。
「二人ともお疲れ様、助かったよ」
「お疲れ様ですチーフ」
片方の、黒髪のいかにも真面目そうな顔をした娘が姿勢正しく返事と共に軽く会釈する。
隼水 千颯(はやみ ちはや)。綾小路武芸学舎の刀使で見た通り真面目な娘だ。
「おつかれーっす」
もう片方、赤髪のちょっとボーイッシュな娘は伸びをしながら砕けた挨拶を返す。
龍美 喬(たつみ きょう)。美濃関学院の刀使でちょっとヤンキーぽいところがあるが根はいい娘だ。
「そういえば喬、さっき派手に転んでたけど大丈夫なの?」
「そうなのか、怪我とかしてないか?」
「心配ねぇ、あんなんで怪我なんてしねーぜ」
などと会話をしながら近くに止めてあったバンに乗り込む。
バンといっても普通のバンとは違い、中はかなり改造されており、座席はソファが両窓側に向かい合うような作りになっていたり、
御刀を立てかけるラックやPCその他電子機器を扱うための電源設備もある。さながら小さ目のキャンピングカーのようだ。
「お疲れ様です」
「お疲れー」
「皆さん、お疲れ様でス」
ノートPCをいじりながらこっちを一瞥し挨拶をしたのは、栗毛色の髪の眼鏡をかけた娘。
金石 琉阿(かねいし るあ)、鎌府女学院の生徒でこの娘も一応刀使ではあるが常時はオペレートをしてもらってる。
先ほど犯人の逃走経路に先回りできたのも彼女の誘導あってこそのものだ。
「あぁお疲れ様、さっきはオペレート助かったよ」
相変わらずPCを睨みながら「ッス」と返事になってるんだかなってないんだかな言葉が返ってきたが、いつものことなので今はもうあまり気にしていない。
「よし、それじゃ撤収するけど全員大丈夫?なんもないか?」
運転席に座り後部座席の3人に問いかける、全員から問題なしの返事を受けるとそのままエンジンをかけて車を発進させる。
大荒魂「タギツヒメ」が起こした一連の災厄、俗に「年の瀬の大災厄」と呼ばれるそれがとある刀使達により解決されてよりいくばくかの時が過ぎて…
首都圏の受けた打撃は恐ろしく、また今までタギツヒメが制御していた荒魂達が堰を切ったかのように無秩序に頻出、世界は混迷の最中にあった。
人々の不安・不満・焦燥・絶望……そういった解決されない負の感情は渦を巻き肥大化する。
結果、犯罪の増加に繋がってしまっていた……
荒魂の頻出及び犯罪の増加、事態を重く見た警察庁並びに刀剣類管理局は今まで以上の協力体制を取ることを決定。
試験的に警察官と刀使による少数精鋭に独自の機動力を持たせ、事件と荒魂、双方に柔軟に対応するための部隊を設立。
その名を ─特別祭祀遊撃機動分隊─
これは一人の警察官と三人の刀使達による分隊の活動記録である。
読んでくださりありがとうございます。
冒頭にあるように刀使ノ巫女関連のSSは初めてなので試行錯誤しながら書いていきますのでお見苦しいところもあるとは思いますが、お付き合い頂ければと思います。
ではまた次回お会いしましょう。