刀使ノ巫女 ~特別祭祀遊撃機動分隊録~   作:刹撥丸

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お待たせしました、第1話になります。
本編中に警察関連の話が出てきますが、ほとんどは聞き齧った知識やドラマ等からの知識を基に書いてるので間違ってる箇所があるかも知れません。
どうかご了承ください。


-case1-

鬱蒼と木々が生い茂るとある山中、差し込む木漏れ日が樹々の緑を照らし出し、穏やかな雰囲気を醸し出す。

いつもであれば一見静かながらも耳を澄ませば鳥や自然の息づく声を聴くことができるだろう。

だが今、それらは息を潜め、不気味なほど静かに、その脅威が過ぎ去るのを待っていた。

 

「────────!!」

 

その緊張を破るかのように錆びた金属の擦れるような唸り声が辺りに響く。

声の正体はなんとも形容しがたい、辛うじて生き物を模しているだろうとは分かる異形─荒魂─。

大きさは成体の熊くらいの大きさ、並の自然動物であれば易々と蹴散らされてしまうであろう。

対峙するは二人の少女、彼女らは荒魂の咆哮にひるまず、腰に携えた刀を抜き放つ。

鞘に包まれていた(しろがね)は木漏れ日を拾い煌く。珠鋼を熱し、叩き、重ねを繰り返し、研磨されたその輝きは美しくも尋常ならざる厳かさを持つ。

二人は握った得物─御刀─に力を籠め、力を引き出す。

途端、彼女らを薄い白い膜のようなものが包む、隠世の力を引き出し、一時的に自身を幽体に近い状態にする写シと呼ばれるものである。

古来より、世に出でて人に害成す異形の怪異、荒魂。

生半な術では対処できぬその厄災を唯一祓うことのできる存在、御刀。

御刀の力を引き出し、荒魂を斬って祓うことのできる神薙ぎの巫女、人々は彼女らを刀使と呼ぶ。

 

「私が陽動するから、正面抑えて!」

 

「おうさ!」

 

言うが早いか片方の黒髪の刀使─隼水 千颯─はその場から消え、荒魂の真左に出る。

刀使の使う能力の一つ、現世と隠世との時間差を利用し高速移動を可能にする技、迅移である。

迅移の勢いを付けて千颯は荒魂に御刀を打ち付けるが、堅い外殻に阻まれる。

荒魂は攻撃してきた千颯を排除せんと、左腕を勢いよく払うが、それを読んでいた千颯は地を蹴り後退し横薙ぎを避ける。

その後千颯は迅移を使い木々の間を縫う様に移動すると、攻撃され、こちらの攻撃を避けられた怒りか荒魂は完全にそちらに気を取られる。

 

「よそ見は良くないぜ、荒魂さんよ!」

 

千颯に気を取られている荒魂に向かってもう一人の赤髪の刀使─龍美 喬─が斬りかかる。

喬の攻撃を察知した荒魂は咄嗟に片腕で喬の御刀を受け止める。方や大型動物サイズ、方や少女では力の差は歴然、普通に考えれば荒魂の膂力に吹き飛ばされるのが関の山だが、そうはならなかった。

喬と荒魂はその場で拮抗していた、身体能力を向上させる技、八幡力である。

しかし荒魂の方が力が強いのか喬は少々押し返され気味であった、それでも喬は不敵な笑みを浮かべる。

 

「やるじゃんか……、南無八幡!」

 

そう叫ぶと喬は八幡力の段階を上げる、力関係は逆転し、荒魂は片腕を地面に付きながらもう片腕で喬の御刀を受ける状況である。

 

「チハ!」

 

荒魂を抑えつけながら喬は相方の名を叫び合図する、と同時に御刀を引き、一歩下がる。

抑えつけられていた力が無くなり、込めていた力は急に解き放たれる。

荒魂の腕は空を切り、伸び切る。その瞬間を見逃さず、千颯は迅移で距離を詰め、フッと息を吐きながら伸び切った腕に垂直に御刀を振り下ろす。

一閃、伸び切った事により外殻の間にできる関節を捉え狂い無く刃を通し、今度こそ振りぬく。

片腕を斬り落とした千颯はそのままの勢いで荒魂から距離を取り、残心する。

 

「─────!?」

 

片腕を失い、バランスを崩した荒魂は叫びとともに倒れこむ。その咆哮は痛みか驚愕か怒りか、あるいはそのどれもであろうか。

そんな荒魂の心情を知ってか知らずか喬が追撃をかける。

一歩引き、大地を踏みしめ、先ほどより更に八幡力の段階を上げた、込めた力は十二分。

 

「うぅりゃああ!!」

 

口から気合を発し先ほど引いた右足を今度は力を込め大きく前に踏み込む、同時に腕を大上段から大きく御刀を振り下ろす。

見事、その一撃は荒魂を両断した。

斬り祓われノロに戻った荒魂だったものを見下げ、喬はふうと一息付く。

瞬間片耳に付けたインカムからもう一人の仲間─金石 琉阿─の声が届く。

 

『まだいます喬サン!5時の方向!』

 

「んな!?」

 

出遅れたのか油断を突こうとしていたのか喬の後ろの木の影から小型の荒魂が飛び出してくる。

完全に気の抜けていた喬は身体に力を込め直すと迎撃しようとする。

 

(間に合うか…?)

 

写シがあるとはいえ、損傷はそれなり痛みを伴うし、万一写シが剥がれたりすればそのまま命の危機に繋がりかねない。

その万一の覚悟もしながら振り返るが、それは杞憂に終わる。

琉阿の通信によって荒魂を察知した千颯が素早く対応し、荒魂を突き貫いていた。

そのまま荒魂を切り裂き、ノロへ還す。

 

「ふう……琉阿さん、まだ近くに荒魂はいますか?」

 

『……周囲に反応なし、それで終わりみたいでスね』

 

琉阿のその言葉を聞くと千颯はわかりましたと返事をして御刀を鞘に仕舞う。

通常、刀使にはスペクトラムファインダーという荒魂を探知する機器が支給されているが、琉阿の乗るバンには特別製のスペクトラムファインダーが搭載されており、千颯や喬のものや衛星情報と同期し、更広範囲をに探知できる設備だ。

 

「チーフ、周囲の荒魂の掃討、終了しました」

 

千颯がインカム越しに任務終了の報告を送る、送り先はこの分隊の隊長─氷室 順─である。

 

『二人ともお疲れ様、管理局には連絡入れておいたから回収班が来るまで悪いがもうちょっとそこで待機しててくれ』

 

「わかりました」

 

報告が終了してふうと一息吐く千颯に喬が言葉を投げる。

 

「いやぁチハ助かったよ!」

 

飄々と気さくに声を掛けた喬であったが、返ってきたのは怒号であった。

 

「喬!荒魂を倒しても油断しない!」

 

「あーうん、悪かったよ……」

 

流石に自分の不手際だと分かっているからかどこかバツの悪そうに謝罪する喬ではあるが、千颯の怒りは収まらない。

 

「悪かったよ、じゃないでしょ!怪我するかもしれなかったのに!」

 

「いやだから悪かったって……」

 

バンの中で待機している二人は千颯の説教が始まるとそっとインカムを外す。

順はため息をつき、琉阿は苦笑いをしている。

 

「はぁ、また始まったよ……」

 

「アハハ……、でもまあ今回は流石に喬サンが悪いでスからね……」

 

「そうだな、千颯にはしっかり怒ってもらうとしよう」

 

喬は実力は確かに高いのだが、たまにポカをやらかしその度に説教を食らうのは隊内では最早名物となっていた。

こうなったら暫く収まらない。最初は謝罪している喬ではあるが段々と諦め気味に返事が雑になり、最終的に口論になるのも様式美であった。

別に仲が悪いわけではない、お互い心の底では納得ずくでやってるから喧嘩するほど…というやつである。

案の定、回収班が到着して順が仲裁するまで口論は続くのであった……

 

 

 

 

 

見事に晴れ渡った空の下、日光を反射し青く光る海、まだまだ海開きには寒すぎる時期だがロケーションとしては最高だ、

只今海岸線の国道を走行中、ハイキング中の民間人から海沿いの山中に荒魂出現の報を受け、刀使部隊を編成し派遣するよりも我ら分隊の方が早いと判断し現地に出動、出現した荒魂を討伐後ノロの回収を管理局に任せ撤収したところだ。

 

「海沿い出たんで、暫くは道なりッスね」

 

そう言うのは助手席に座る琉阿、現場でのオペレートだけでなく、行きなれていない現場に行くときにはこうしてナビゲートしてもらっている。

 

「いやぁそれにしても、仕事が嫌になるくらいいい天気っスねぇ……」

 

外の景色を見ながらそう琉阿が一人ごちる。

全くもって、仕事でなければどこかに寄り道していくのに……

ちらっとルームミラーに目を向ける、後部座席では千颯と喬がいるが一仕事終わった後だからか二人とも多少疲れの色が見える。

今回出現したの荒魂はそこまで大きいものではないし、幸い早めに現場に着けたおかげで人の居る地点まで進行していなかった為民間人を気にするようなこともなかった。

しかし、どんなに小さかろうと荒魂は荒魂、戦う刀使は年端も行かぬ少女達だ、命を張っての戦いは想像以上に気を張るものだろう。

 

「……そうだな」

 

少しの沈黙の後そう返す、ましてや女子学生だ、近所とも言い難い場所まで仕事ではるばる来て多少の見返りでもなければ嘘というものだろう。

俺も少し休憩したいしな…

 

「三人とも、休憩にしようか」

 

「わかりました」

 

「さんせーい」

 

性格の違うが両方とも賛成の意見が返って来る、返事を得るや否や天啓の如く目の前の道路沿いに一件のコンビニを見つける。

丁度いい、

ウィンカーを出してコンビニの駐車場に入り、端の方に停めるとサイドブレーキを引く。

一応いつでも出動できるようにエンジンは付けたままだ。

 

「なんか催促したようで悪いッスね」

 

「気にするな、俺も休憩したかった、見てるだけだったけどな…」

 

私もですよと琉阿は苦笑いすると車を降りる。

いつもはいつ無線が入るか分からない為誰か車に残りながらローテーションで休むが今回は彼女たちの休憩の為なので残ることにする。

後ろの二人も降りようとするが、喬が降りた後、千颯がドアに片手を掛けながら立ち止まる。

 

「チーフ、何か買って来ましょうか?」

 

「あーじゃあコーヒーを頼む、君たちの分もここから出していいよ」

 

そう言って財布を千颯に渡そうとするも、悪いですよと断られる。

この娘のこういうところは謙虚というか真面目だなと思う。

 

「いいから、俺からの労いだと思ってくれればさ」

 

それを制して財布を渡す、上司からの労いと聞けば不承不承ながらも受け取ってくれた。

その後返ってきた千颯からビニール袋と財布を受け取る。

3人は休憩がてら海を見に行った。

 

「……おっ?」

 

コーヒーの入っていた袋には一緒にチョコ菓子が入っていた。

千颯のことだ、これは彼女がお金を出したのだろう、逆に気を使わせてしまったかな……

部下の好意を無下にはできない、遠慮なく頂くとしよう。

3人は変わらずに海を見ながら談笑してるのが運転席のガラス越しに見て取れる、その姿は間違いなく友達同士のソレだ。

それを見ながら口に残ったチョコ菓子の甘味をコーヒーを飲んで身体に流し込む。

よくタイプも性格も違う3人があそこまで仲良くなったものだと感慨深いものを感じるな、

最初に会ったときはここまで仲良くなるとは思わなかったと当時を振り返る。

この3人との出会いは少し前まで遡る。

俺が警部補なんて歳に合わない役職をもらってるのもそれに関係している……

 

 

 

 

 

「特別祭祀遊撃機動分隊、ですか……?」

 

年明け間もない、これから更に寒くなってくるような季節であった。

世間では年の瀬の大災厄で未だにてんやわんや、特に首都圏とその周辺は大量発生した荒魂の被害からの復興はまだまだ途上だ。

更には荒魂の出現頻度が目に見えて増えており、刀使も東奔西走していると聞く。

そんなこんなで世間的に鬱屈した雰囲気が渦巻いている。

市民の不安・不満が高まると次に何が起こるかというと犯罪の増加だ、

荒魂という一般人にはどうしようもない脅威に溜まったストレスは発散場所を失い、非行・軽犯罪に走る者が増加、更にそれが他者のストレスになるという悪循環を生み出す始末。

おかげで俺みたいな末端の警察官はそれらの処理で大忙し、

だのに永田町のお偉方はあっちが悪いこっちが悪いと責任転嫁して政策は遅々として進まずにいる。

正直いい加減にしてほしいとは思ったが、端っぱの巡査部長程度の立場では何も変えることはできず、かといって職務に手は抜けないので疲弊する毎日だった。

そんな中いきなり署長に呼び出されれば、心当たりはなくても何か怒られるんじゃないかと胃を少しキリキリさせながら署長室に向かうのは仕方のないことだ。

胃を苛む不安とは裏腹に署長から切り出されたのは上記の聞いたことのない分隊の名前だった。

 

「うむ」

 

「名前が長いですね……特別祭祀ということは刀使に関する分隊でしょうか?」

 

「そうだ、刀剣類管理局から挙がってきた提案でな、現在治安の悪化に対して現場の人間の手が足りないのは君も承知してるだろう、向こうも似たような状態らしくてな……」

 

一呼吸置いた後に署長がつづける。

 

「こちらと連携を密にしてお互いの人で不足を少しでも補おうという訳だ、まあ今回のは試験的な物だがな」

 

はぁ……と生返事を返してしまう。別に分隊がよくわかってないとかそういうのではなく何故一介の巡査部長である俺に言うのかが釈然としないからだ。

 

「要するにだ、こちらの仕事を手伝ってもらう代わりにこちらもあちらの仕事に合わせて細かく連携していこうということだ」

 

「すみません署長、一つよろしいですか?」

 

「なんだね?」

 

耐えきれなくなり署長の呼吸の合間を縫って言葉を割り込ませる。

 

「分隊の設立についてはわかったのですが、私が呼ばれた理由と関係があるのでしょうか?」

 

「うん?あぁ、まずそれを話していなかったな……」

 

すまんすまんと頭を掻く。

まあ俺一人呼び出してこんな話をするくらいだ、安易に想像はつくが確認というものがある、何かの間違いかも知れないしな……間違いであってくれ……

しかしながらそんな淡い期待も無残に打ち砕かれることとなる…

 

「氷室 順巡査部長」

 

「はい!」

 

署長のさっきまで好々爺然とした雰囲気が引き締まる、この切り替えは流石と言わざるを得ない。

自然と曲げていたつもりのないこちらの背筋まで伸びる勢いだ。

 

「貴官を特別祭祀遊撃機動分隊の分隊長に任命する!」

 

「……はい!」

 

想像通りであった、分隊長と言えば聞こえはいいが仕事が増えるだけだ…

しかしながら上の命令は逆らえないのが警察という組織の悲しい性、はいと答える以外の選択肢が無かった。

 

「まあそう嫌そうな顔をするな、試験運用ということで色々と優遇はしてくれるらしい、それに特例として君を警部補に推薦もする」

 

形式的な挨拶が終わったのでまた先ほどまでの雰囲気に戻る。

……ん?警部補へ推薦といったか?

 

「警部補……ですか?自分は巡査部長になってからそこまで年数は行っていないのですが…」

 

「特例と言っただろう?人を連れて現場を掛け摺り回るようになればそれなりの権限というものが要る、まぁ私からの選別だと思ってくれ、無論試験は受けて貰うがそちらは君なら問題ないだろう」

 

「ありがとうございます……」

 

降って湧いた出世の目に嬉しくないでもないが、正直分隊を任せる為の餌の様にも感じ、胸中複雑であった。

 

「今回君を選んだのは普段の勤務態度と年の瀬の働き、それと君があの娘の元部下であれば刀使と仕事をしていけると判断した上での決定だ」

 

「なるほど……」

 

あの娘とは元刀使だった俺の元上司のことだ。

男ばかりの職場に食い込むためなのか男勝りで豪快、とにかく現場&実戦主義な結構なスパルタであり、当時付いていける新人が俺以外居なかったらしい、事実相当キツかった。

しかし間違いなく仕事のできる人で、あの人のお陰で仕事を憶えたといっても過言ではなく今でも尊敬しているが、本人は教えることは教えた!といいさっさと栄転してしまった。

確かに元刀使としての経歴からなのかあの人と刀使のサポートの仕事を行ったことはある、話だけだが刀使時代の話も聞いているので他よりかは期待される理由もわかる。

 

「先ほども言ったが今回の分隊は試験的なもの、これからどうなるかは君たち次第ということだ、期待しているぞ」

 

「はい!」

 

「詳細は追って連絡する、今日はもう下がって良い」

 

返事の後一例して署長室を後にする。

その後どこから聞きつけてきたのか署長に呼び出されたことをかぎつけた同僚たちに質問攻めにあうのだがそれはまた別の話。

 

 

 

 

 

辞令を受けてから暫くして……

問題なく昇進試験をパスした俺は分隊の説明および隊員を迎える為、刀剣類管理局の本部へ向かうこととなった。

車の中から正門前の守衛さんに身分証である警察手帳と辞令の書類を渡して通過、車を駐車場に停めると正面玄関の前に立つ。

刀剣類管理局は一応警察組織ではあるがほぼほぼ独立した組織のようなものだ、荒魂に対処できる唯一の存在であるため独自の権限を有している。

その本部というからにはやはりかなりの大きさの建物だ、心なしか厳かな雰囲気を纏っている。

居住まいを正して玄関をくぐると、黒を基調に赤色の入った制服を着た二人の少女 ─片方は男と見紛う端正な顔つきをした茶髪の子、もう片方は育ちのよさそうな佇まいの朱色の髪の子─ が姿勢を正して待っていた

 

「お待ちしてりました氷室警部補、特務警備隊の獅童です」

 

「此花です」

 

「本日は我々がご案内させていただきます」

 

「氷室 順です、よろしくお願いします」

 

二人が交互に頭を下げる、頭を上げるのを見るとこちらも挨拶を返す。

元折神紫親衛隊、現特務警備隊の獅童真希と此花寿々花、刀使と仕事をする機会がほとんどない俺でも知っているくらいの有名人だ。

二人とも現役の刀使を束ねる立場にいるのは流石というべきか、まだ高校生の時分だろうに堂に入った物腰だ。

 

「こちらです、朱音様がお待ちです」

 

案内する二人の喋りや動きはお互いを邪魔せず補うように絶妙だ、なんとも息の合ったものだと内心感心しながら先導する二人に付いていく。

管理局本部の中は外観に違わず静かで厳かだ、そんな雰囲気だからか全ての物が自分の身の周りにあるものよりも格が一つも二つも違うもののように見えてくる。実際そうなのだろうが…

それにしても今ちらっと名前の出た折神 朱音、現刀剣類管理局局長代行、確か去年の鎌倉特別危険廃棄物漏出問題後から代行を行っており、本来の局長である姉の折神 紫は年の瀬の大災厄で負傷、療養中だそうだが…

裏で色々あったとか近々引退するかもだとかいう噂も耳にしたが、正直ここいら辺の問題は雲の上の話で当時はさしたる興味もなかったので聞き流していた。

どちらにしても一介の警官では普通合うことも無い役職の方だ、相応に緊張するな……

廊下の途中、局長室と書かれたドアの前までくると獅童さんがノックをする。

 

「はい」

 

「獅童です、氷室警部補をお連れしました」

 

「お通ししてください」

 

彼女は返ってきた言葉に返事をしてドアを開ける。

中からのどうぞという言葉を受けるとドアの前で一礼し入室する。警備隊の二人は室内には入らず室外に待機みたいだ。

室内では紫がかった髪色の一人の女性が机の前に立っていた。

写真では見たことがある、この方が折神 朱音さん。

写真で見たのと違わぬ穏やかそうな顔とは裏腹に実際に会ってみると予想以上に品のある佇まいをしている、なるほど代理とはいえ管理局局長に就く風格がある。

 

「神奈川県警から来ました、氷室 順です」

 

「始めまして折神 朱音です。氷室さん、本日はご足労頂きありがとうございます」

 

こちらが名乗り終わり頭を下げると同時に向こうも頭を下げ、挨拶を返す。

所作にも品格がある、思わず見とれてしまった。

 

「早速ですが、今回の分隊設立についてお話をしてもよろしいでしょうか?」

 

「は、はい!」

 

「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ、基本的なことはもうお話が行ってるとは思いますが……」

 

朱音さんから出た話は確かに署長から出た話とだいたい同じであった。

ただ、やはり刀剣類管理局と言うべきか、分隊の刀使は県警に出向扱いで名実共に自分の部下として就くこと等、刀使側に関する話は初耳のものもあった。

 

「最後に、出向に行く刀使の皆さんのこと、よろしくお願いします」

 

「はい、刀使の方々は本官が責任を持ってお預かりさせて頂きます!」

 

姿勢を正し、そう返事をすると朱音さんはふふと少し微笑んだ。

 

「ああいえ、すみません、聞いていた通り真面目そうな方だと思いまして」

 

「は、ありがとうございます」

 

真面目そうだと褒められる分には素直に嬉しい、自然と感謝の返事を返す。

返事を受けた朱音さんは言葉を続ける。

 

「本来は文書や警備隊の方からの説明で十分なのでしょうが、刀使の子達を預ける方なら一度会っておきたいと思いまして。それに……」

 

一旦呼吸を置いて更に言葉が続く、

 

「年の瀬の英雄と呼ばれる方ですから、個人的にも気になっていまして」

 

「あ、いえそれは……」

 

年の瀬の英雄、最近になって呼ばれるようになってしまった異名、

年の瀬の大災厄時に首都圏の避難誘導と警備の応援に行った際のことを指しているものだ。

荒魂の被害を受けている避難集団と遭遇、逃げ遅れた人々を救おうと衝動的に飛び出し、助けたのは良いが結局自分も荒魂に襲われそうになったところを駆け付けた刀使に助けられた。

確かに民間人を救ったのは事実だが、そこだけが強調されてしまい、どこにいってもその話題を出されるので少し辟易している。

結局のところ、昨今の世間の下向きの風潮を少しでも払拭するためのプロパガンダに使われているだけなのだ。

 

「あの時は考え無しといいますか、衝動的に動いてしまって……結局自分も刀使さんに助けられましたし……」

 

あの時の自分の行動に後悔はしてないが、今考えても考え無しだと思うし、もし先輩に会ったら怒鳴り散らされそうだ。

そう思い言い訳がましく言葉を並べる、それを見て朱音さんは再び小さく笑う。

 

「ふふ、想像以上に誠実な方で安心しました、私も心置きなく任せることができます」

 

そう言うと朱音さんは穏やかな表情のままこちらに向き直る。

 

「重ね重ねになりますが、どうぞよろしくお願いします」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

深々とお辞儀をするのを見て、こちらも頭を下げる。

挨拶を済ませると局長室を後にし、再び獅童さんと此花さんの先導に付いていく、

 

「こちらです氷室警部補、すでに出向予定の刀使には招集をかけてあります」

 

随分と手際の良い、

署長室で辞令を受けてからの流れも中々に早かったのでやはり警察庁・刀剣類管理局、双方ともにこの状況を打破すべく動いているのだろう。

暫く本部内を歩いた先の一室の前で立ち止まる、部屋の前の札には第一会議室とある。

先ほどと同じように獅童さんが扉をノックする、違うのは返事を待たずに扉を開けたことだ。

 

「氷室さんは少々お待ちを」

 

そう言って此花さんは獅童さんとともに部屋に入る。

ここからでは室内の全てまでは見えないが、見える範囲では壁にホワイトボードが設置され、長机が並んでいるのが見える、どうやら普通の会議室のようなものだろうか。

此花さんが扉の前で、獅童さんはホワイトボードの前まで歩いていき室内へ向き直る、俺は此花さんの後ろで待機。

獅童さんがホワイトボードの前に立つと椅子を動かす音が聞こえた、どうやら起立したようだ。

 

「君たち分隊に出向する刀使の上に付く方が到着された、くれぐれも失礼のないように、氷室警部補、お願いします」

 

その言葉と同時に前にいた此花さんと獅童さんが一歩横にずれ、どうぞと声をかける。

俺は先ほどと同じく一礼をしてから入室して獅童さんと同じようにホワイトボードの真ん前まで歩き、室内中央に向き直る。

正面の長机に三人の─それぞれ黒髪、赤髪、栗毛色の髪の─少女達が間隔を置いて座っていた。

 

「神奈川県警から来ました、氷室 順です、分隊としてこれからよろしくお願いします。」

 

そう言って頭を下げると同時に少女達も三者三様ではあるが頭を下げる。

しかし三人か…、話は聞いていたし書類で顔や氏名も確認してはいるが、こうして相対するとやはり三人というのは少数という感じがする。

心なしか会議室も物寂しい。

 

「では、隼水から順番に自己紹介を」

 

「はい!」

 

隼水と呼ばれた黒髪の少女が元気よく返事をする。

全体に向けていた視線を彼女に向けると隼水さんは視線をまっすぐに返してきた。

 

「綾小路武芸学舎中等部三年の隼水 千颯です、年の瀬の英雄の下に付けるなんて光栄です!」

 

「あはは……隼水さん、よろしく」

 

尊敬の眼差しを向ける隼水さんに思わず苦笑いしてしまう、女子学生にまで広まっているのか……

ただまぁ、尊敬されること自体は嬉しく思う。

それに立ち居振る舞いからわかるが隼水さんはとても真面目そうで上手くやっていけそうだ。

 

「では次、龍美」

 

「うい」

 

獅童さんに呼ばれ、いかにも気怠げといった感じに返事をする赤髪の少女。

辰美と呼ばれた彼女は一応姿勢を正してこちらに視線を送る。

 

「えと……美濃関学院中等部二年、龍美 喬……です、よろしくお願いします。」

 

「よろしく、龍美さん」

 

慣れていないのか気乗りしないが渋々といった感じで自己紹介する龍美さん。

見た目は少々突っ張ってそうだが挨拶前に姿勢を正したり、渋々ながらも自己紹介をするあたり悪い娘ではなさそうだが。

 

「最後に、金石」

 

「はいっス」

 

最後に返事をしたのは栗毛色の髪をした眼鏡を掛けた少女。

金石という子は半目気味で龍美さんとは違った意味で少々気だるげな印象を受けるが、ハッキリ返事するあたり眠いわけではないようだ。

 

「鎌府女学院の高等部一年、金石 琉阿っス、よろしくお願いしまス」

 

「よろしく、金石さん」

 

「あの……」

 

「ん?」

 

なんというか独特な言葉遣いをする子だな、と思っていると金石さんが言葉を続ける。

 

「できればなんでスけど、あんまり前には出たくないなぁって……」

 

「……え?刀使さんなんだよね?」

 

予想外の要求に呆気に取られ、間の抜けた返事をしてしまう。

金石さんもわがままを言ってる自覚があるのかどこか言いづらそうにしてはいる。

 

「えと……まぁ一応、ただ元々研究班の出身なんでスよね……」

 

「えーっと……」

 

咄嗟に獅童さんの方を見るとそちらも少しバツが悪そうにしている。

 

「まぁ刀使としての最低限の訓練はしているので戦えないというわけではないですが……」

 

「どこも人員不足なもので……申し訳ありません」

 

此花さんからの補足の説明が入る、確かにどこも人員不足だとは聞いたがここまでとは……

でもまあ訓練はしているというし、少ない人間でやりくりする苦しみは知っているので文句を言うつもりもない。

それに分隊の面子をどう配置するかというのも自分の仕事だ、荒魂と戦うのは彼女たちであるので彼女たちの意思を尊重したいとは思う。

 

「わかった、まあ皆の意見とどれくらいの実力があるかを見てから配置を考えるようにするよ」

 

金石さんは少しほっとした表情をするが、今度は龍美さんが声を上げる、

 

「ハイハイ!それならアタシは前に出してくれよ!」

 

「ちょっと龍美さん!それを決めるのは氷室さんなんだからあんまりわがまま言っちゃ……」

 

「なんだよ、意見聞くって言ったのはあっちだぜ、真面目ちゃんだなぁ」

 

「……なんですって!?」

 

龍美さんをなだめようとした隼水さんであったが、返しの一言に火が付いた様子。

 

「大体龍美さん、一番年下なんだから言葉遣いってものがあるでしょ!」

 

「んだよ、歳の一つも二つ程度大して変わりゃしないじゃんか」

 

龍美さんが一々言い返すものだから隼水さんも更にヒートアップ、終いにはお互いなによなんだよと口論に発展する。

それを見た金石さんはあわあわとうろたえ、獅童さん此花さん両名は頭に手を当てため息。

 

「はぁ……まぁアクは強いですが、あの二人の刀使としての実力は我々が保証します」

 

「まあ、そうじゃないと困るんだが……」

 

獅童さんが呆れながらにフォローする、しかしこの状況のフォローにはあまりなっていないな……

思わず素が出てしまった。

 

「うーん、大丈夫かなぁ……」

 

まだ暫く口論が止みそうにない二人を見て一抹どころではない不安を抱いていた……

結局喧嘩は見るに見かねた獅童さんの一喝が飛ぶまで続いた。

 

 

 

 

 

これが俺と彼女達のファーストコンタクトだった……

思い出したらなんだか笑いが込み上げて来た、フッっと少し鼻で笑うと窓の外から声を掛けられる。

 

「チーフ?どうしたんですか?」

 

千颯達がいつの間にやら帰ってきていたようだ。

 

「いやなに、初めて会った時の事を思い出してね」

 

その言葉を聞いた途端に千颯の顔が赤くなる、

 

「なっ!?アレは今でも申し訳ないと思ってます……」

 

本人も相当恥ずかしい記憶なのか後半は消え入る様な声で口ごもる。

それを見て何のことかわからないといった顔で千颯の後ろにいた喬も得心がいったようだ。

 

「あーアタシとチハで喧嘩した奴か!」

 

「喬!」

 

余程思い出したくないのか千颯は無遠慮な喬を窘めるように名を叫ぶ。

それをやはり苦笑いしながら見ている琉阿。

見慣れた光景になんだか可笑しくなって再び笑ってしまう。

 

「もう!チーフまで!」

 

膨れる千颯であったが、すぐにつられて笑う。

なんとも和やかな雰囲気であったが、次の瞬間終わりを告げる。

緊急の無線を知らせる着信音がバンの中に響き渡ると、反射でそれを手にとり応答する。

 

「県警から特遊隊、県警から特遊隊」

 

「はい、こちら特遊隊」

 

特遊隊というのは我ら特別祭祀遊撃機動分隊のことだ、流石に正式名称が長すぎるため、いつもは特遊隊又は単に分隊と呼ばれることが多い。

ホルダーから無線を取った瞬間に千颯達も真顔になり、急いでバンに乗り込む。

 

「××市△△町の国道○○号沿いにて男性2人が暴れているとの通報有り、喧嘩と思われる、至急向かわれたし」

 

「了解」

 

短い返事を返し無線をホルダーに戻す。

ナビに現場の住所を入れ終えた助手席の琉阿はPCを開く。ネット掲示板やSNSから現場の状況を分析するためだ。

あとの二人も後部座席でシートベルトを締めている、準備万端だ。

 

「よぉし、皆準備はいいな!」

 

「「「はい!」」」

 

全員からの返事を確認すると現場の場所と方向をナビで確認、サイドブレーキを解除してアクセルを踏む。

さあ事件だ!




1話を最後までご高覧いただきましてありがとうございます。
どうでしたでしょうか。
個人的には前回と比べてそこそこ長い文章になりました。
次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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