今回は刀使の子は出てきません、説教パートその1です。
「うーん……」
当面俺を悩ませている問題に自然と唸り声を上げながら署内の机に突っ伏す。
問題というのは勿論この間の龍美さんと隼水さんの大喧嘩のことだ。
あの喧嘩の後、一応龍美さんは分隊に支給された貸家に帰ってきてはいた。
それを見た隼水さんも別に何も言わずまた喧嘩、というわけではなかったし仕事には着いて来はするのでそこに関してはいいのだが、
隊内の雰囲気は険悪そのもので居心地は最悪だった。
食事はもう一緒にはせず食事時になると家から出ていく、空腹そうな様子は見ないから恐らく外で食べているんだろうが……
こうなってくると同じ家屋に住んでいるということが災いしてくる、絶えず空気がピリピリしており、金石さんは悪くないのだがどこかオドオドしっぱなしだ。
一回見かねて二人に仲直りするように話かけてみたものの、暖簾に腕押しだ。
一応署内までは一緒の車に乗っては来る、しかし着いてから待機状態になると龍美さんはさっさと外へ行ってしまう、余程一緒に居たくないのだろう。
このままでは分隊の存続に関わる、しかしどうしたらいいかわからず、こうして唸っていたところだ……
だが唸っているだけでは当たり前というかいい解決策は浮かんでこない、
「はぁ……」
堪らずため息を一つ吐くと、不意に背中を叩かれると共に聞き覚えのある快活な声が響く。
「よぉ後輩!元気か!」
暫く前まで毎日聞いていた声にその主を察するとのそっと顔を上げて声のした方を振り向く。
「先輩……」
「そう、愛しの先輩様だぞ、愛想でもいいから笑顔の一つでも見せたらどうだ?」
声の主は俺の元上司、元刀使の先輩のものだった、何の気まぐれか署内に来ていたらしい。
相変わらず明朗すぎる性格に少しの懐かしさと鬱陶しさを感じつつ、つい口から出たのは憎まれ口だった。
「はぁ、愛しのねぇ……、まあ何も言わずに栄転してった尊敬する先輩ですからね」
「まぁだ根に持ってるのか、あれは悪かったって、急な辞令だったしな」
そんなため息交じりの憎まれ口を先輩は笑って謝りながら流すと肩に手を回してくる、
「それにしても聞いたところによるとお前も出世して部隊任されてるそうじゃないか!よきかなよきかな!」
相変わらずよく響く声でそう言いながら肩をバシバシと叩いてくる。
「んで、その隊長様がなーんか悩み事あるみたいだが?」
瞬間、声のトーンが少し下がる。
「……わかります?」
「それだけ落ち込んでりゃ当たり前だっての」
先輩のほうを向くと顔は笑っていたが真剣味を帯びていた。
やはり先輩ということか、こういうことは分かるらしい。
というか俺がわかりやすかっただけか……
「ま、ここじゃ何だ、場所変えるか」
「……そっすね」
それでいて普段の性格からガサツな様に見えてこういう風に気を使ってくれるのは本当にありがたい、
今回はその好意に甘えるとしよう。
先輩に連れられて横に自販機のある人気のないベンチに座る、先輩は自販機で2本コーヒーを買うと1本差し出した。
「ほい、そんで、どんな悩みなんだ?その分隊の関係なんだろ?」
「ありがとうございます、実は……」
ここまで気を使ってくれてはぐらかすのは失礼だろうと思い、コーヒーを受け取り、封を開けて一口飲むと今抱えてる問題について包み隠さず話した。
「あははははは!そんなことか!」
「そんなことかって…こっちは真剣に…!」
「ごめんごめん、言い方が悪かったな、もっと進退窮まった悩みかと思ったんだ。でも立派に上司やってるみたいじゃないか」
「……でも、関係を修復できていないんですけど…」
こっちの悩みを笑い飛ばしかけた先輩に怒りが湧くも、真剣な顔のまま謝る姿に言葉を飲み込む、口調は相変わらずだが…
一度吐いた以上弱音が続くが先輩はそんな様子に笑ったまま言葉を続ける。
「確かにアンタにまだ教えてないことが二つあった…」
「教えてないこと…?」
「そう、上に立つ人間の仕事と、年ごろの女の子の扱い方だ」
「年ごろ……??」
前半はともかく、後半の年ごろという部分に引っかかりを憶えた俺は不思議そうにまじまじと先輩を見る、いやぁ流石に年ごろってのは無理が…
「ぶん殴るよ?」
「失礼しました…」
そんな俺の思考を読み取ったか、先輩は顔に怒気を見せる。瞬間俺は謝っていた、本気で怒らせると怖い上にホントに手が出るからなこの人…
でもそんなやりとりも懐かしく、少し気持ちが楽になる。
「まったく、人が相談乗ってやってるってのに…まぁいい、人の上に立つ人間の仕事だったな」
「……」
真面目に話を聞く体勢を取る。
「まあ私も人の受け売りなんだがな、人の上に立つ人間の最初の仕事は、部下がどんな人間か理解すること」
「どんな人間か…」
「そう、書面に書いてあることじゃないぞ?どんな人間で何が好きで嫌いで、何をすれば喜ぶか怒るのか、つまるところ個性それを理解することだな」
先輩は一拍置いて続ける、
「どんな人間だってただあーしろこうしろと言うだけじゃ動くかもしれないけど、万全に動くわけじゃないし、今のアンタみたいに問題が起こると急に立ちいかなくなるなんてよくあるもんさ」
「……」
「人を動かしたいなら、少人数ならなおさら、実際触れ合ってその人間の個性を理解して尊重しなきゃダメってこと」
確かに、俺は彼女達のことを書面でしかわかってなかった。
仕事は問題なくやってくれるから、それでいいとなっていたのだろう…
言葉を噛みしめ、自らを省みる。
先輩はその様子を見るとゆっくりと言葉を続ける。
「二つ目は一つ目とちょっと繋がっているんだけど、年ごろの女の子、というか刀使の扱い方だな」
「刀使の扱いかたですか…」
今度は茶化さずに真剣に聞くように言ったこと繰り返す。
「ああ、刀使の扱い方ってもそう難しいもんじゃないんだが…アンタ、刀使をどう思ってる?」
「刀使ですか?うーん、御刀持って荒魂と戦って…俺も助けてもらったしあんな歳ですごいなぁと思いますね…」
「うーん、まあ40点てところかな」
「40点……」
意外なところで辛辣な評価に戸惑うが先輩は構わず続ける。
「アンタが今言った「あんな歳で」ってとこがなきゃ0点だよ、刀使なんてな御刀だなんだ持って写シだなんだと力使えるからって中身は年ごろの女の子なんだよ、たまにそれを分かってない、彼女らを体のいい駆除道具だなんだと思ってる馬鹿もいるがな…」
「……!」
「そもそも、他に対処の仕様がないからって荒魂なんて化け物相手に思春期の女の子が戦ってるんだぞ、一歩間違えば死んじゃうような仕事してて悩み・ストレスが無い方がおかしいだろうが」
「そうですね…」
「そりゃあ性格の問題もあるだろうけど喧嘩の一つもするわ、それに対してアンタはなんて言ったんだ?」
「仕事だから皆で協力してって…」
「あほ、それが一番ダメだってこれまでの話聞いてわかるだろ?」
「はい……」
頭を殴られた気分だった、元刀使の先輩故にその言葉には説得力も重みもあった。
俺は一番大事なことを失念していた、刀使だって人間、それも女の子だ、なのに俺は彼女たちを公務員だから仕事になればちゃんとやるだろうと「他人」扱いしていた…
部下として預かっている、いや自分たちの代わりに命を張って戦ってもらっているというのに「彼女達個人」に向き合っていなかったのだ。
「先輩ありがとうございます、行ってきます!」
「おう、何かあったらまた相談しな!そんときはアンタの奢りでな!」
立ち上がって一礼すると、先輩は先ほどの快活な声に戻り軽口交じりに背中を一度叩く。
先輩の言葉に相談できる人間が後ろにいてくれるというのはここまで頼もしいことなのかと思うと身体に力が入る。
「まーったく手間のかかる後輩だ……頑張んな、順…」
歩きだして暫くした順を見て先輩は一つため息をつきながらもその背中を見送る、応援の言葉をつぶやきながら。
「うしっ!」
先輩からの教えを胸に自分の頬を叩き、心機一転する。
道が見え、やることが定まる ─彼女達一人一人に向き合う事─ するとどこに行くにも脚に力が入るというものだ。
とりあえず、先ほどまで自分のいた席まで戻ると、庶務の方が伝言を伝えてくれた。
「氷室警部補、応接室にてお客様がお待ちです、対応お願いします」
「わかりました、ありがとうございます。……はて、お客様?」
俺個人を訪ねる人が居るなんて珍しい、特に誰とも会う予定なんてなかったしな…
などと考えながら応接室の扉を開けるとそこに居たのは予想外の人だった……
本編中は累さんがいたけれど、世間にはもっと一杯の刀使OGがいるんだろうなということと、世間の大人の刀使に対するスタンス、「刀使だって女学生」ということに焦点を当てて話が表現できていればなと思います。
次回は早めに投稿したいと思います。
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