やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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そこまで行くのか?


嫉妬の行く先

 先輩が朝食の用意をしている間、私はずっと小町さんの寝顔を眺めていた。別に小町さんの可愛さに目覚めたとかではなく、この妹が何時まで寝ているのか純粋に興味を抱いたからである。

 私だったらじっくりと寝顔を見られていたら、その気配に気づいて目を覚ますと思うのだけど、小町さんはさっきから起きる気配すらなく、ぐっすりと眠っている。頬を突いてみたりしたら起きるのかもしれないけど、そんなことをしてる最中に先輩に見られたらあらぬ誤解をされそうなので止めておこう。

 

「(それにしても、本当に起きませんね……)」

 

 

 同じような時間に寝た先輩はこうして起きて朝食の用意をしているというのに、小町さんはぐっすり寝ている。この状況にモヤモヤしてきたので、私は小町さんの観察を止めて先輩の隣に移動する。

 

「何か用か?」

 

「いえ、寝ている小町さんを見ていたんですけど、なんだかモヤモヤしてきたので先輩の方に来ました」

 

「モヤモヤ? 小町の寝顔に欲情でもしたのか?」

 

「そんなわけないですよ。私は別に同性愛者じゃないので」

 

 

 そう言った趣味の人を否定するわけではない。だが私にはちゃんと異性の恋人がいるのにそう思われるのが嫌だからはっきりと否定したに過ぎない。先輩の方も軽い冗談だったようで、私の言葉に過敏に反応することはしない。そもそもこの人は高校時代から多様性を認めていた側の人だから。

 そもそも人と同じようなことをして安心する人ではなかったので、多様性を認めているというよりも同調圧力に屈しない人なのかもしれないけど、海老名先輩の趣味を否定することなく、それを誰かに告げることもなく過ごしていた――告げる相手がいなかったとか、そう言った事情だけではないだろう。

 実際戸塚先輩や材木座先輩、それから玉縄さんや折本さんなどに教えることはできただろうが、先輩がそのことを話したということは聞かない。戸塚先輩はなんとなく気づいていそうだけども、後の三人は海老名先輩のことは知っていても、その秘密までは知らなさそうだし。

 

「さっきから何を考え込んでるんだ?」

 

「多様性の難しさを」

 

「はぁ?」

 

「いえ、何でもないですよ」

 

「考え込むのは良いが、そろそろできるから小町を起こしてきてくれ」

 

「分かりました」

 

 

 先輩に頼まれたので仕方なく、という感じで私は小町さんを起こしに再びベッドの隣へ移動する。さっきと変わらず小町さんは気持ちよさそうに眠っているので、私は再びモヤモヤを抱きつつも小町さんを起こすことに。

 

「小町さん、起きてください」

 

「むにゃ……あと五分……」

 

 

 起こされた人が言うと聞いていたセリフを、まさか実際に耳にすることになるとは……

 

「って、感動してる場合じゃなかった。小町さん起きてください。そろそろ先輩のご飯が完成しますよ」

 

「それは寝ている場合じゃないね!」

 

「っ!? ビックリしました」

 

 

 急に飛び起きてきた小町さんに、私は思わず数歩引いた。まさか先輩のご飯に釣られるとは思っていなかったのもあるけど、さっきまでのは狸寝入りだったのではないかと思ったからだ。もしかしたら私がモヤモヤしてるのを薄目で見てほくそ笑んでいたのではないかとか、そんなことを考えてしまったから距離を取ったのだ。

 

「おはようございます、いろはお義姉ちゃん」

 

「お、おはようございます。とりあえず顔を洗って来てください」

 

「分かりました。いろはお義姉ちゃんの部屋の洗面台をお借りしますね」

 

「どうぞ。鍵は開いていますので」

 

 

 隣の部屋に来るのにいちいち鍵を掛けていられないというのもあるが、どうせこういった流れになるだろうと思っていたから鍵は掛けなかったのだ。小町さんも私がそう答えるだろうと分かっていたのか、鍵を要求することはせず既に私の部屋に向かっていたし。

 

「でも、洗顔くらいなら先輩の部屋でもできると思うんですけどね」

 

 

 タオルが気になるとかでしょうか? でも小町さんはブラコンですから、先輩のタオルを気にするとか、そういうことはないでしょうし……

 

「まさか、違う意味で気になるからなのでしょうか?」

 

「何がだ?」

 

「っ!? せ、先輩……急に声をかけないでくださいよ」

 

「人のベッドの前で考え込んでたと思えば急に変なことを言い出したんだ。声をかけるに決まってるだろ」

 

「そんなに考え込んでました?」

 

「小町が出て行ってからずっとだから、五分くらいか?」

 

「えっそんなに……?」

 

 

 先輩に言われるまで気づかなかったが、どうやらそれだけの時間が流れていたようだ。どうやら私は小町さんに嫉妬するだけではなく、新たな疑念を抱き始めてしまったのかもしれない。

 

「(最終的にはライバルにならないと思っていたんですけど、戸塚先輩は兎も角小町さんは違うのかもしれないですね)」

 

 

 先輩の中での寵愛ランキングを考えれば仕方ないけど、同性と血縁者ということで安心していたけど、やはり小町さんは侮れないのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人で朝食を摂り終えた後、小町さんは変える準備を始めている。元々の予定ではなく急遽泊まりに来たのでそれほど荷物はない。だがそれでも昨日着ていた服など、そう言ったものは持って帰るようだ。

 

「それじゃあお兄ちゃん、小町がいないからっていろは先輩といちゃいちゃし過ぎないようにね」

 

「そもそもいちゃいちゃなどしてないからな。お前の中のお兄ちゃん、どれだけ酷いの?」

 

「そりゃゴミいちゃんだよ、ゴミいちゃん。むしろここまで成長したことに小町は驚きを隠せないレベルだよ」

 

「先輩、なんで妹に成長を驚かれてるんですか……」

 

 

 兄妹の時間を邪魔するつもりはなかったのだけども、ツッコミを入れずにはいられなかった。高校時代の先輩は確かにダメ人間代表みたいな感じでしたけど、卒業して既に三年。そこから成長していても不思議ではないというのにこの人は……

 

「小町がお兄ちゃんと会っていなかったというのもあるんですけど、ゴミいちゃんは永遠にゴミいちゃんだと思っていたので、驚きを禁じ得ないんですよね」

 

「最近では小町の方がぐうたらしてるじゃねぇかよ。この部屋に泊まりに来た時、何かしてるか?」

 

「してないよ。だってのんびりするためにここに来てるんだから、わざわざ家事するわけないじゃん」

 

「すがすがしいほどのダメ人間っぷりですね……」

 

 

 先輩が思わず丁寧語になっているのを聞いて、小町さんがこの部屋で何かをすることは本当にないんだなと理解した。小町さんと言えば働き者のイメージがあっただけに、先輩の部屋ではダメ人間になっているんだと知れてちょっとホッとする。

 

「だって実家では小町がずっとお兄ちゃんの世話をしてたんだから、お兄ちゃんの部屋ではお兄ちゃんが小町の世話をするのは当然なのです」

 

「いやいや、俺の部屋に小町の居場所はないだろ。お前はこの部屋で生活してるわけじゃないのに」

 

「小町だって実家を出て暮らしてみたいけど、お父さんが頑として反対してるからね。だから疑似体験としてこの部屋に泊まりに来てるんだよ」

 

「一人暮らしを経験したいなら、ちゃんと家事しろよ……普通誰もしてくれないんだからな」

 

「疑似体験だから大丈夫なのです! まぁ、今後は少し泊まりに来る機会を減らしておくよ。いろは先輩に嫉妬されて、背後から刺されるとか嫌だしね」

 

「はい? なんで私が小町さんを刺さなきゃいけない――」

 

「だって、私とお兄ちゃんが喋ってると、鋭い視線を向けてくるじゃないですか。まさか、無意識だったんですかね?」

 

 

 小町さんに言われるまで、私がそんな視線を向けているなんて知らなかったので、私は驚いてしまった。その反応を見て小町さんも驚いている。

 

「本当に無意識だったんですね……小町はあくまで妹としてお兄ちゃんが好きなだけなので、心配しなくても大丈夫ですからね」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 謎の慰めをされ、私はそう答えるしかなかった。まさか妹である小町さんに嫉妬して、あまつさえ排除しようと考えているんじゃないかと思われていたとは……




ヤンデレも真っ青になりかねない……
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