やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
小町さんが帰り、先輩が新しい生徒と顔合わせに出かけたため、私は自分の部屋で一人考え事をしている。誰かに相談できることでもないし、ましてや今まで自分では知らなかったことなので考えがまとまることはないだろうけども、考えないわけにもいかないことだ。
「まさか私が小町さんに嫉妬していたとは……」
確かに先輩と仲が良すぎるとは思っていた。だがあくまでも兄妹として仲が良いと分かっていたのでそこまで嫉妬することではないと思っていたはずなのに、小町さんに指摘され、どうやら私は小町さんのことを女として嫉妬していたのだ。
高校時代の先輩ならもしかしたら、と思っても不思議ではないが、今の先輩は小町さんのことをそこまで溺愛しているわけではないだろう。約二年間まともに会っていなかったというのもあるのだろうけども、ある程度自立して小町さんに甘える必要が無くなったのも大きいだろう。逆に小町さんの方が先輩に甘えまくっているまである。
だからというわけではないが、私が小町さんに嫉妬しているのかもしれない。本当なら甘えるのは私だ、という考えが胸の奥底に芽生え、小町さんに対して敵対心に近い思いを抱いたとか。
「こんなこと相談できる相手なんていないし、そもそも相談したとしても答えが貰えるとも思えないし」
私の周りに恋人がいる友人はいる。だが別の女ではなく血縁の妹に嫉妬している友人などいないだろう。だから相談しても意味がないだろうし、そもそも笑われて終わるのがオチだろう。私だって血縁の妹に嫉妬しているなんて聞かされれば、そんな意味のないこと考えるだけ無駄だとか言って終わるだろう。
だがいざ自分がその立場になってみるとどうしても嫉妬が止まらないのだ。小町さんの容姿とか性格というのも多分にあるのだろうけども、あの兄妹は普通の兄妹と比べても距離が近すぎるのだ。普通年頃の妹はあそこまで兄にべったりということはないだろうし、逆も無いとは思う。だが小町さんは普通に先輩のベッドで寝るし、先輩も小町さんが寝た後のベッドで普通に寝れている。
普通に考えれば家族だから気にする必要がないということなのだろうけども、私だったらお父さんが使った後のベッドでは寝れないかもしれない。
「……いや、この考え方じゃないんだろうな」
普通娘が父親に嫌悪感を抱くのと比企谷兄妹を比べても意味はないだろう。一時期の感情を対象にしても先輩や小町さんの気持ちは分からないし、そもそも分かったところで対処のしようがない。
一番簡単な解決方法は、先輩と小町さんを会わせないということなんだろうけども、そこまでやってしまうと束縛が強すぎる。先輩に嫌がられてフラれるまであるかもしれない。そんなことになったらこの先生きていけるか分からないまである。
「こんなこと考えるなんて、私ってかなり独占欲が強い人間だったのか……」
執着心はそれなりにあると自覚していたし、先輩もそのことは知っているだろう。何せ高校入学してから二年の冬休みまでは葉山先輩に執着していて、それ以降は先輩に執着していたのだ。他に目を向けられていればもしかしたら先輩じゃない相手と付き合っていたのかもしれないけど、そんなことを考えても意味はない。だって私が本当に好きなったのは先輩しかいないから。
「初めての彼氏だからなのかもしれないけど、妹相手に嫉妬するのが普通なのかもしれないって思っちゃう時もあるんだよね……」
普通の妹ならこんなこと思わないのかもしれないけど、相手はあの小町さんだ。先輩が高校時代豪語していたように、可愛らしい見た目だし、若干小悪魔っぽい性格も可愛さを増すスパイスだと思えるレベルだ――たまに腹黒い一面が見えるけど、その辺りもご愛敬だと思えるレベルだ。
「あぁ、本当に誰にも相談できない問題だよね……」
こんなことを先輩に相談したら、妹に嫉妬してるやばいヤツとか思われそうだし、友達に相談したら笑われて終わりだと分かっているから一人で悩んでいるのだが、一人だとどうしても答えにたどり着けない。そもそも答えなんてないのかもしれないけど、考えないわけにはいかない問題なのだ。私と先輩の関係が今より先に進むためにも。
一人で永遠に考えていたらいつの間にか寝てしまったようで、次に気が付いた時は既に外は暗くなっていた。
「いつの間に寝ちゃったんだろう……」
うたたねしたからと言って風邪をひくような陽気ではないので気にしないが、考えがまとまらないまま寝てしまったので若干の気持ち悪さが残っている。
「いったいどうすればいいんだろう……? あれ、私いつのまにタオルケットなんて羽織ったんだろう?」
自分で羽織った覚えがないタオルケットが落ちたことで、私は寝る前に抱いていた疑問とは別の疑問を抱いた。無意識に羽織ったのだろうか。
「いろは、起きてるか?」
「先輩?」
私の部屋の扉を先輩が開ける。私が先輩の部屋の合鍵を持っているように、先輩も私の部屋の合鍵を持っているのでそこは問題ではない。だが先輩が私の部屋を訪れるのは珍しいことだ。
私との関係が上手くいっていないとはではなく、私が先輩の部屋を訪れる回数の方が圧倒的に多いから、先輩がこの部屋に来ることがないだけである。
「もしかしてこのタオルケット」
「帰ってきたらいろはがすぐに部屋に来ると思ったが来なかったから様子を見たら寝てたからな」
「別にいつも先輩の部屋に突撃してるわけじゃ――」
言いかけてここ数日の私の行動を思い返す。先輩が帰宅したらすぐに先輩の部屋に入り浸ってた気がして、私はゆっくりと視線を先輩から逸らす。
「私って先輩のプライベートをかなり奪ってます?」
「別に気にしなくてもいいが、どちらかと言えば奪ってる方なんじゃないか? 付き合いたてとはいえ、四六時中一緒にいなくてもいいとは思うが」
「そんな四六時中一緒にはいないですよ。最近は自分の部屋で寝てますし」
「いや、そのセリフが出てくる時点でおかしいからね? 普通付き合いたてで恋人の部屋に泊まりまくるっておかしいと思うけど」
「そうなんですかね? 先輩が初めての彼氏だからよく解りませんけど」
「俺も解らないけど、一般的にはおかしいんじゃないのか?」
あの先輩から一般的とか言われると笑いそうになるけど、確かに普通の彼氏彼女なら、いきなりお泊りとか厭らしいとか思うのかもしれない。だが私と先輩の間にそういうことはなく、あくまでも健全なお泊りだから問題ない。誰に聞かれても正直に答えられるお泊りだ。
「先輩が私に何かしてくれたら、もしかしたら自分の時間が増えるかもしれませんよ?」
「それってフラれてない? 自分の時間が増えるイコールいろはが俺と別れてるとかじゃない?」
「どうでしょうね」
先輩が少し焦ってるのが嬉しくて顔がにやけているのが分かる。まさか先輩が私と別れたくないと思ってくれているとは思わなかったので、これは嬉しい誤算だ。
「そもそも、いろはだっていきなり何かされたら嫌だろ。そういうのにはちゃんと段階があって――」
「先輩ってかなりヘタレですよね。何しても抵抗しない――抵抗できない相手がいるのに何もしないですし。据え膳食わぬは――なんていいますけど、先輩は恥だって思ってないでしょうし」
「俺を信頼してる相手に、いきなりそういうことするわけないだろ」
恥ずかしそうに視線を逸らしながら答える先輩を見て、私の頬も熱を帯びる。まさかここまで大事にされているとは思っていなかったのもあるが、先輩がちゃんと私のことを考えてくれているのが嬉しいからだ。
「だが、何もしないのもそれはそれで不満なんですよ? もしかしたら私に魅力がないんじゃないかって思っちゃいますし」
「じゃあどうすればいいんだよ……」
「キスしましょう! よくよく考えたら、まだしてなかったような気がしますし」
「間接キスならしょっちゅうしてるから、忘れてたのかもしれないな」
確かに先輩のお箸であーんとか、その逆はしょっちゅうやってるから忘れていたのかもしれない。冷静になって考えるとかなり恥ずかしいが、私はついに先輩にキスをおねだりしたのだ――できたのだ。
「いろは、目を瞑ってくれ」
「は、はい」
ここでほっぺや額だったらヘタレと罵ってやろうと思っていたが、先輩はちゃんと私の唇にキスをしてくれた。若干短かったけども、確かに先輩の唇の感触を私の唇に感じた。
「え、えへへ……」
「にやけてるぞ」
「これからは毎日しましょう!」
「毎日は勘弁してくれ」
これは嵌ってしまうかもしれない。私は先輩とのキスにそれだけの感動を覚えたのだった。
箍が外れたらやばそうな二人……