やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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気にしなくてもいいと思う


気になるペース

 先輩との関係が進展した翌日、私にしては珍しく友人との予定が入っていた。昨日の今日で先輩と別行動は避けたかったのだけども、前々からの予定をキャンセルするわけにもいかなかったので、渋々外出しているのだ。

 これが当日誘われたのなら考えるまでもなく断ったのだが、予定の方が先に入っていたから仕方がない。もしドタキャンなんてしたら、先輩に怒られただろうし、友人には理由を根掘り葉掘り聞かれることになっただろう。

 

「休みも今日で終わりか」

 

 

 明日から講義が再開するので、先輩と一日中ゆっくりできる日は限られてくる。ただでさえ先輩は忙しい人なのに、家庭教師のバイトが今年も入るとは思っていなかったのでそこは誤算だ。まぁ、先輩の評判が高いと思えば少しは誇らしくなるのかもしれないけど。

 そう思おうとしても、やはり先輩との時間が減ってしまうのは残念だという気持ちの方が大きい。せっかくキスをして、これからという――

 

「って、なんだか厭らしい子みたいな考えになってるような」

 

 

 集合時間になっても友達が現れないので、私は一人でそんなことを考えてしまっているのだろう。決して根が厭らしい子だというわけではない。そう自分に言い聞かせていると、漸く友達たちが現れ、少し申し訳なさそうに駆け寄ってきた。

 

「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃった」

 

「まさかいろはがもういるなんてね」

 

「私は別に時間にルーズなつもりはないけど?」

 

「そういう意味じゃなくて、せっかくの連休だから、彼氏といちゃいちゃしてて遅刻するんじゃないかって話てたからさ」

 

 

 もししてていいのなら、永遠に来ることはなかっただろう。先輩は私の予定は知らなかったのだし、私だってそれが許されるならそっちの方が良かった。

 だが先約を無碍にしてまで先輩といちゃいちゃなんてするつもりはない。断腸の思いではあったけども、先約を優先するのは人として同然だから。

 

「そんなわけないでしょ。というか、先輩だって忙しい人なんだから、連休中ずっと一緒ってわけじゃないわよ」

 

「そうなの? でも、隣に住んでるんでしょ? 他のカップルよりかは一緒にいる時間が多そうだけども」

 

「そんなことないとは思うけど」

 

 

 言い切る自信がないのは、他の恋人たちがどれくらい一緒にいるのかがわからないから。決して先輩の部屋にしょっちゅうお泊りしていることを知られたくないとか、そういう理由ではない――はず。

 

「まぁ、いろはがもういるならいいわ。早速行きましょう」

 

「行くって、店の前で待ち合わせしてるんだから、中に入るだけじゃない」

 

「それは言わないお約束よ」

 

「どんなお約束なのよ」

 

 

 友人たちとくだらないやり取りをしているのも、これはこれで悪くはない。先輩と付き合いだしてからは、少し疎遠になりかけていたから、こうして友情を確かめ直すのも必要だっただろう。何せ、入学当初からの付き合いで、私が若干男性恐怖症であることを考慮して男性客がいない、もしくは少ないお店を選んでくれる貴重な友人なのだから。

 

「それにしても、まさかいろはに先越されるとは思わなかったな」

 

「まぁ、この子男性恐怖症だしね。彼氏なんてできっこないって思ってたから」

 

「私だって、彼氏なんて無理だろうなって思ってたわよ」

 

 

 先輩や戸塚先輩だったら怯える必要もなかったから、彼氏にするならどっちかじゃないと言われていた時もあったが、あの時は本当に先輩と付き合えるなんて思ってもいなかった。だってあの時は先輩は雪乃先輩のことが好きで、雪乃先輩の方の問題が片付いたら雪乃先輩と付き合うと思っていたから。

 だがいざ先輩の気持ちを知る機会が訪れると、もしかしたら私にもチャンスがあるのではないかと思った。そこからは必死に意識してもらえるように頑張っていたが、高校時代にじゃれついていたのとさほど変わらなかった。

 

「しかもあんなイケメン。ほんと、可愛いって罪だよね」

 

「というわけで、ここはいろはの奢りで」

 

「なんでよっ! 休みの間バイトしてた二人の方がお金に余裕があるでしょうが」

 

「いろはだってバイトしてるんだし、彼氏持ちに対する罰よ」

 

「理不尽な罰じゃないの……」

 

 

 確かに先輩に奢ってもらったり、一緒にご飯を食べたりして食費は浮いているけど、だからと言って経済的に余裕があるわけではない。むしろ浮いた食費で先輩に何かプレゼントできないかと考えているので、無駄遣いは避けたいまである。

 

「まぁ、それは冗談として」

 

「本当に冗談なんでしょうね?」

 

 

 私がジト目で睨みつけると、友人たちは笑顔で視線を逸らす。私が承諾したら本気で奢らせるつもりだったのだろう。

 

「てかいろは」

 

「なに?」

 

「前々から思ってたんだけど、何時まで『先輩』呼び名の? 付き合いだしたのってバレンタインデーだって聞いてるけど」

 

「そ、それは……高校時代の先輩だし、再会してからもずっと先輩って呼んでたから癖が抜けなくて……先輩も無理に変えなくても良いって言ってくれてるから……」

 

 

 私だって本当は先輩のことを名前で呼びたい。先輩は私のことを名前で呼んでくれているのに、私は未だに先輩呼びじゃ、なんだか距離があるみたいだと思っている。

 だがいくら呼び方を変えようと決心しても、いざ口にしようとしたらヘタレてしまうのだ。それが分かっているから、先輩も無理に変えなくても良いと言ってくれているのだけども……

 

「そんなんじゃ、いざという時に萎えちゃわない?」

 

「いざって、何時よ……」

 

「そりゃ、初夜とか?」

 

「っ! エホッ!」

 

 

 水分を口に含んだタイミングでそんなことを言われたので、私は思いっきり咽てしまう。言った本人も顔を赤らめているのを見るに、狙ったわけではなさそうだ。それにしても、他の人の耳がある場所でそういうことを言うのはどうなのだろう。

 

「ゴメン。でも、実際そういう時になったら、その呼び方はどうなの?」

 

「そうなったらさすがに変わると思うけど……」

 

「てか、いろはって彼氏とキスしてるの? そういう雰囲気が一切感じられないんだけど」

 

「き、キスくらいしてるわよ!」

 

 

 昨日漸くではあるが、嘘ではない。私は内心そんなことを考えながら、友人たちからの追及をなんとか躱すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どっと疲れた友人たちとの時間が終わり、私はヘロヘロになりながら自室に戻る――ことはせずに先輩の部屋に入る。

 

「ただいまです」

 

「お前の部屋は隣。ここは俺の部屋なんだが?」

 

「細かいことは気にしちゃダメです」

 

「いや、細かくはないだろ」

 

 

 口では文句を言いながらも、実力行使をしてこない先輩の優しさ。いくら先輩が非力な部類とはいえ、女の子一人を部屋から追い出すのは難しくない。まして私は小柄な部類だし。

 

「先輩の所為で色々と疲れたんです。今日はこのまま先輩の部屋にお泊りして体力の回復をしなきゃ割に合いません」

 

「俺の所為? 今日お前は友達と出かけてたんだろ?」

 

「先輩との関係を聞かれて疲れたんです……まぁ、半分くらいは私の自爆でもありますけど」

 

「ほぼ八つ当たりじゃねぇかよ……」

 

 

 具体的なことは何も話さなかったけども、先輩は私を受け入れてくれるようだ。本気で嫌そうなら帰るつもりだったけども、やっぱり先輩は優しいですね。口にはしないけども。

 

「ねぇ先輩」

 

「なんだ?」

 

「やっぱり私も名前呼びにした方がいいですかね? そっちの方がより恋人っぽい感じがする気がしますし」

 

「前にも言ったが、無理に変える必要はないだろ。周りがどんなペースで進んでるのかは知らないが、俺達には俺たちのペースがあるんだし、いろはのタイミングで良いと俺は思うが――っ!?」

 

 

 先輩の優しさが嬉しくて、私は先輩の唇を奪う。昨日初めてしたとは思えないくらいの積極性だろう。先輩があっけに取られて放心してるのが答えだろう。

 

「ぷはぁ……お前、いきなり何を」

 

「先輩の優しさが嬉しくて、我慢できませんでした」

 

「あのな……まぁ、いろはが良いならいいけどよ」

 

「昨日言ったじゃないですか。毎日しましょうって」

 

「だから、毎日はさすがに多いっての。飯作る」

 

 

 先輩が照れているのは明らかだが、ここで追及したら追い出されそうなので、私は素直にキッチンに逃げる先輩を見送ったのだった。

 

「やっぱり、先輩は優しくてカッコいいですね」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないですよ」

 

 

 先輩に聞かせるつもりもなかったので、聞き取れなくても当然だろう。私はキッチンで料理をする先輩の後ろ姿を眺めながら、自分の唇を触ってニヤニヤするのだった。




いろはが積極的に……なったのか?
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