やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
戸塚先輩の話を聞く限り、先輩は大学でモテまくり――というわけではなく、一部女子からの人気が高く、彼女がいると知っていながらも告白してくる人が数人いるらしい。
「サークルの後輩からも、八幡の彼女のことを聞かれたりもしたしね」
「先輩の話では、サークルの女子の大半は戸塚先輩狙いだって聞いてたんですけど」
「全員が全員、僕のことが好きなわけないよ。それに、僕より八幡の方が頼りになりそうだと思うのは自然だと思うよ。僕はほら、こんな見た目だから」
戸塚先輩は確かに女性顔だとは思うが、頼り甲斐がないという感じは受けない。それは最低限鍛えているからというだけではなく、いざという時にしっかりと物事を言える人だということを知っているからだろうか。
結衣先輩も同じように思っているのか、何か否定の言葉を捻りだそうとしているが、どう言えばいいのか分からないという顔をしている。
「確かにヒッキーの方が頼りになりそうだとは思うけど、それだけで彩ちゃんのことを判断するのは違うと思うんだけどな」
「もちろんそれだけじゃないとは思うよ。大学生になってからの八幡は目にある程度活力が宿ってるから、高校時代のゾンビみたいな見た目じゃないしね。高校時代もあれはあれでカッコよかったのかもしれないけど、今は見てすぐにカッコいいって分かるような見た目だからね。私服だというのも相まってるのかもしれないけど」
確かに先輩の私服姿はカッコいいと高校時代に思ったことがある。もちろんそれ以外もカッコいいと思ったことはあるけど、それを本人に言ったことはない。言ったら負けだと思っていたから。
だってせっかくおしゃれして待ち合わせに行った私のことは褒めないのに、私が先輩のことを褒めるなんてできない。せめて先輩が先に私のことを褒めていたら、私だって褒めていただろうに。
「……あれ?」
「いろはちゃん、どうしたの?」
「いえ……」
高校時代のお出かけのことを思いだしていたら、最近のデートのことを思いだして私は思わず声を漏らした。そういえば私、先輩の容姿のことを褒めたことあったっけ? そして私がおしゃれしたことを褒めてもらったことってあったっけ?
なんとなくボソッと褒められたことなら何度かある――あの人は捻デレだから真正面から褒めるなんてできないのかもしれないけど、どうせなら真正面から分かりやすく褒められたい。私ばかり先輩のことが好きって感じで、先輩は本当に私のことが好きなのだろうかと不安になるのだ。そうした不安を払拭するのにはやはり、先輩に褒めてもらうのが一番だろう。
「でも一色さんは本当に八幡から愛されてるんだね」
「はい?」
いったい何を見て戸塚先輩がそんなことを言い出したのか分からず、私は思わず小首をかしげる。今日の私のコーデに先輩に愛されている要素なんてどこにあったというのだろうか。
「その指輪、八幡が誕生日にプレゼントしたやつだよね?」
「あぁ、このピンキーリングですか? そうですね、先輩から貰ったものです」
「僕が知ってる限りだけど、誰かの誕生日にそうやって形が残るものをプレゼントしたのって、そんなに多くないし」
「私はサブレの首輪を貰ったけど、確かにヒッキーからのプレゼントって多くないかも」
「元々交友関係が狭かったってのもあるけど、そうやって普段から身に着けられるものをプレゼントしたってことは、ちゃんと一色さんのことを想ってるってことなんだろうしね」
確かに貰った時は嬉しかったし、先輩がちゃんと私のことを考えてくれているんだと思ったけど、ずっと身に着けているとそういう気持ちは薄れてくる。何時までも浮かれてたら怪しくてしょうがないだろうし、身に着けてるのが普通になったということなのだろう。
だが外から見たらこの指輪が先輩が私のことをちゃんと好きでいてくれているという証拠になるのだろう。そう考えると、常に着けて周りを牽制していたということになるのだろうか?
少なくとも私の前で先輩にちょっかいを出そうとする女性はいなかったし、ウチの大学でも先輩のことを狙おうと画策している女子がいるという噂は聞いたことがない。まぁ、結衣先輩でダメだったんだからそれ以上の容姿を持った人間がどれだけウチの大学にいるんだという話もあるかもしれないけど。
「八幡はああ見えて硬派だから、女子と二人きりになるようなシチュエーションは避けているし、もしそういうシチュエーションになったとしても、他人が全くいない空間にはいかないだろうしね。絶対に誰かの目が届くような場所で話してる」
「そうなんですか?」
「この間玉縄君が偶々女子と二人きりで話してる八幡を見かけたらしいんだけど、わざわざ目立つような場所に移動してたって言ってたからね。人前では話しにくかったのかもしれないけど、人目がない場所は八幡が嫌ったから折衷案としてそうなったんじゃないかって」
「そうですか」
今度先輩に聞きださなければいけないことが出来たと、私は心の中で先輩に詰め寄る決意をする。私以外の女性と二人きりになるなとは言えない。先輩のバイト上、どうしても二人きりにならなければならないだろうから。
だがそれ以外の女子と二人きりというのは、やっぱりどうしても面白くない。小町さん相手でも嫉妬するのだから、全くの赤の他人と二人きりでいるところを見たら発狂する自信まである。それくらい私は先輩のことを想っているのだ。
「まぁヒッキーは疑り深い性格だから、告白されても宗教の勧誘とか思いそうだけどね」
「付き合いがない相手からいきなり告白されたとしたら、ありえそうですね」
「はは、確かにそんなことを話してたよ。いきなり勧誘されても興味ないんだけどって」
「女子からしたら必死の告白だったのかもしれないけど、ヒッキーからしてみたら余計に怪しく見えちゃったんだろうね」
私や結衣先輩、更には雪乃先輩はある程度以上先輩との関係を構築してから告白したから疑われなかったが、あの人は基本的に人からの好意に懐疑的な人間だ。見ず知らず――もしくは付き合いの浅い相手から告白されても信じないだろう。
「普通に断っただけだから、八幡の悪い噂が出回ることもないし、そもそも人目があるところで断ってるから、嘘を言い触らすことも出来ないしね」
「先輩なら嘘を吹聴されても気にしなさそうですけどね」
あの人は他人から悪い評価をされても気にしない――振り回されないだけの強靭な精神の持ち主だから。そうでなければ、高校時代の悪行三昧で評価最悪の中普通に登校なんてできなかっただろう。まぁ、戸塚先輩や川崎先輩のように、先輩のことを理解してる相手がいたからなのかもしれないけど。
だがもしそうだとしたら、大学でも問題なく生活できるということになる。戸塚先輩はいるし、材木座先輩や玉縄さんといった、先輩のことを理解して付き合っている友人がいるのだから。
先輩のことを問い詰めようと思っていたのだが、先輩が帰ってくるのが遅かったので日を跨いでしまった。そんな時間に訪ねてきたというのに、先輩は変な妄想はせずに変わらず嫌そうな顔で私を出迎えた。
「いったい何の用なんですかね? 今日はいろいろあって疲れてるんですけど」
「先輩、大学でモテモテみたいですね」
「戸塚にでも聞いたのか? 殆ど知らない相手にモテたって仕方ないだろ。てか、最初は本気で宗教の勧誘だと思ったくらいだ」
「相変わらず人からの好意を素直に受け取れないんですね」
「いろはや由比ヶ浜のように、付き合いが長い相手からの好意は素直に受け取っただろ」
「そうですねー」
この人に信じてもらうにはかなり長い時間が必要なのだろう。まぁ、出会ってすぐ信じられた戸塚先輩は兎も角として。
「それに、彼女がいるんだから他の女子から告白されても嬉しくない」
「そうなんですか? 自分が人気者だって知れて良いじゃないですか」
「そもそも目立つようなことはしたくないんだよ。悪目立ちし過ぎた人間が言う台詞じゃないかもしれないけどな」
「先輩の悪行にはちゃんと理由があったとはいえ、裏事情を知ろうとしなければただの最悪な人ですからね」
私の言葉に先輩はがっくりと肩を落としてキッチンへ消えていった。とどめを刺したつもりはないが、やはり先輩は高校時代の事をそれなりに気にしているようだ。
好感度は高いでしょうしね