やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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ヘタレコンビですから……


進展させる難しさ

 小町さんにからかわれたのが悔しくて、私はどうにかして話題を変えられないか思考を巡らす。だが私が動揺しているのをこの小悪魔が見逃すわけがなく、人の悪い笑みを浮かべながらさらにからかいに来た。

 

「これは本当にいろはお義姉ちゃんになる日は近いんじゃないですかね~。もしかして小町、そろそろ小姑になるんですか?」

 

「そ、そんなことはないのでわくわくしないでください」

 

「小町としては、小姑になるなら可愛い甥か姪の顔を見たいところですが、奥手のいろは先輩はまだ兄にそういうことを強請ったりしてないんですよね? お兄ちゃんの方もそういう欲があるのかどうか分からない感じですし」

 

「さっきからなんなんですか!?」

 

 

 小町さんのからかいがきつ過ぎて、私は思わず声を荒げる。小町さんの方も私がここまで動揺するとは思っていなかったのか、これ以上のからかいはヤバいと思ってくれたようだ。

 

「小町ちゃんも遊びすぎ。いろはちゃんをイジメて楽しいの?」

 

「イジメてるわけじゃないですよ。義姉妹のコミュニケーションといいますか、兄を盗られたことに対するちょっとした仕返しといいますか」

 

「盗られたって、ヒッキーは小町ちゃんのお兄ちゃんであることには変わらないでしょ?」

 

「そう言うことではないんですよ」

 

 

 小町さんはかなりのブラコンで、先輩が自分に構ってくれる時間が減ったことが気に入らないのだろう。だが先輩が妹離れすることを望んでもいた節があるので、あまり堂々と嫉妬するのは避けたいと思っているのだろう。

 だがそれでもブラコン部分が強すぎて私に対する当たりがキツくなるのは仕方がないと本人は思っているようだが、キツく当たられる身からすると堪ったものではない。先輩との仲を進展させられなくて悩んでいるというのに、その妹の件でも頭を悩ませなければいけないのだから。

 結衣先輩が小町さんの相手をしてくれている間に、私は平常心を取り戻そうと飲み物を口に運ぶ。今回は慌て過ぎて先輩のコーヒーを間違って飲むなどというミスを犯すことなく、しっかりと自分のミルクティーを飲んで冷静さを取り戻す。

 

「さっきの話ですけど、先輩が今から本格的に司法試験の勉強をしたとして、合格できるんですかね?」

 

「兄は容量が良いので、今からでも十分間に合うと思いますよ。まぁ、失敗したら別の道もあるでしょうし。ゼミの教授からも気に入られているので、就職先くらい見つけてくれるでしょう」

 

「そんなことがあるんですか?」

 

「さぁ? 小町は知りませんけど」

 

 

 相変わらずいい加減なことを言う小町さんに、私は苛立ちを覚えたがそれを覚られることはしない。先輩との関係を続けていく上では、この妹はどうしても避けられない相手だ。ならば良好な関係を築いていた方が後々楽ができるから。

 本音を言えば、小町さんと今後も関わっていかなければいけないのはかなり厳しい。この子は高校時代からなんとなく苦手だったし、先輩と付き合いだしてからはますます遠慮が無くなってきたから。だがそれは小町さんが素の状況で私に接してくれているという証拠でもあるので、あまり無碍にして先輩に報告でもされたらどうなるか分からないのだ。

 

「(相手をするにしても無視するにしても、気を使わなければいけない相手なんですよね……)」

 

 

 先輩がシスコンじゃなかったらここまで頭を悩ませる必要はなかっただろう。だがあの人はあの人でかなりのシスコンっぷりを発揮するから、その大切な妹を邪険に扱う彼女なんていらないとか思うかもしれない。そんなことはないと思いたいのだが、あの人のシスコンっぷりは相当な物なのでありえない話ではないのだ。それこそ、私と小町さん、どちらかしか選べないとなったら小町さんを選びそうなくらいに。

 そりゃ、付き合って半年の彼女と二十年近く家族として側にいた小町さんのどちらかしか選べないとなったら、家族を選ぶ可能性だってあるでしょう。でもそういったことではなく小町さんに負けるのはなんとなく受け入れられない私がいるのだ。

 

「(同族嫌悪……とは違うんでしょうね)」

 

 

 どことなく似ているとは思いますが、私と小町さんは同族ではない。私は結構作っていたけど、この子は天然の小悪魔だから。それでいて同性にも人気が高いとか、ほんとどういう生き方をしたらそんな風になれるのだろうかと本気で妬んだ時もあるくらいだ。

 

「いろはちゃん、さっきから黙っちゃったけど怒ってるの?」

 

「ちょっとした冗談ですから怒らないでくださいよ~」

 

「怒ってないですよ。ただちょっと、どうやったら上手く行くのか考えているだけです」

 

「上手く?」

 

「いえ、こっちの話です」

 

 

 こればっかりは結衣先輩は無関係だろう、私と小町さんの関係なんて……いくらお人好しの結衣先輩だって、ある意味恋敵の人間関係まで取り持ちたくはないだろうし。

 

「兎に角、小町としてはいろは先輩とバチバチしてお兄ちゃんに怒られたくないので、ここは仲直りと行きましょうよ」

 

「だから、怒ってないですって――先輩が小町さんを怒るんですか?」

 

「そんなに意外ですか? お兄ちゃんは結構小町のこと怒りますよ? まぁ、主に小町が踏み込み過ぎて怒られるんですけど」

 

「あぁ~……」

 

 

 その光景はなんとなく想像できる。先輩はあまり踏み込んでほしくないと思っている人だし、小町さんは結構無遠慮に踏み込んでくる人だ。いくら兄妹とはいえ、それは許せなかったんだろうな。

 

「それで納得されるのは複雑ですけど、いろは先輩が思ってるほど、お兄ちゃんは小町に優しくないんですよ」

 

「そうですかね?」

 

 

 外から見てる分には、だいぶ優しい兄だとは思うのだけど、内側にいる小町さんからするとそうではないらしい。そう思ったのは私だけなのかと結衣先輩を見ると、結衣先輩も意外そうな顔をしている。

 

「ヒッキー、かなり小町ちゃんに優しいと思うけど」

 

「そうですかね?」

 

「うん。いろはちゃんには甘いけど、小町ちゃんにはそれ以上って感じがする」

 

「それって、私が妹扱いされてるってことですか?」

 

「ううん、それとは違う感じだよ。高校の時から思ってたけど、ヒッキーっていろはちゃんのお願いとか嫌々言いながらも聞いてたし」

 

 

 それは確かに私も感じていた。あの他人に興味がない先輩が、いくら泣き顔を見たからと言ってただの後輩のお願いをあそこまで聞いてくれたのだ。お人好しというにはお世辞にも愛想がないあの人が、私のお願いだけは聞いてくれたのだ。しかも、かなりの無理難題を。

 

「あの時からヒッキーの中ではいろはちゃんは特別だったのかもしれないね」

 

「あの人の中で特別だったのは奉仕部だと思いますよ。だからあの空間を壊したくなかったから雪乃先輩や結衣先輩に対して恋愛感情を抱かないようにしていたのかと」

 

「そうなのかな? 私はヒッキーとゆきのんが付き合ってもあの場所にはいっただろうし、逆だったとしてもそうだと思う」

 

 

 結衣先輩は兎も角、雪乃先輩はどうだろう。あの人は先輩が自分以外の女性と付き合っているのを間近で見せつけられるのを耐えられるとは思えない。部長という立場から先輩を追い出すまであると思う。

 

「まぁ、結衣さんもだいぶ特別だと思いますけどね。お兄ちゃんが女の子の家に行ったのは、小町が知る限り雪乃さんと結衣さんだけですから」

 

「そういえば、うちには来たことなかったですね」

 

「今はしょっちゅう行き来してるんじゃないですか?」

 

「……私が先輩の部屋に入り浸ってるだけで、先輩が私の部屋に来ることは殆どないです」

 

 

 改めて考えると、私って先輩の部屋に行きすぎなのじゃないだろうか……もちろん、疚しい気持ちなどなく単純に一緒にいたいだけだから、今のところ先輩に本気で拒否されたことはない。だがもし、そういう気持ちが芽生えて先輩に強請ったら、今後部屋に入るのが難しくなるのだろうか……

 

「また考えこんじゃった」

 

「恋する乙女は忙しいんですね」

 

 

 結衣先輩と小町さんが私の顔の前で手を振っているが、それに反応するリソースは残ってない。私は今後の付き合い方を本気で考え直した方がいいと思考の全てを先輩に使っているから。結局その後も小町さんにからかわれたり結衣先輩に羨ましがられたりしながらも、私の思考の殆どは先輩によって支配されていたのだった。




小町が絶好調だったな
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