やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
試験期間は何の問題もなく終わり、私はバイトに勤しんでいる。普段はそこまで真剣にシフトに入ることはしないのだが、来月は先輩の誕生日があるのでそれなりに出費を見込んでの行動だ。
「一色さん最近かなりの頻度で出勤してるけど、何か欲しいものでもあるの?」
このように先輩バイトから出勤頻度の多さを疑問視されるくらいには、ここ最近の私は働いているのだ。前々からそれなりに出勤はしていたのだが、ここ最近ほどではなかったからな。
「彼氏の誕生日が来月でして。何を贈ろうか決めてはいないんですが、それなりにお金は必要かなって思いまして」
「あー彼氏ねー……うらやまけしからん理由で安心したわ」
「いったい何だと思ってたんですか?」
「てっきりおかしな宗教に嵌ったとか、詐欺にあったとかそういう理由でお金がいるのかと思ったから」
「さすがにそんなことにはならないと思いますよ」
そもそも神など信じていないので宗教に嵌ることはないだろうし、先輩と付き合っているお陰で――せいで他人を信じるなんてバカらしいと思うようになっているので、詐欺師の嘘八百を看破することが出来ると思っている。なので詐欺にあうこともないだろう。言い切らないのは、万が一という可能性を無視しないためであり、自分を過信しないようにとの戒めでもある。
「まぁ一色さんはしっかりしてるからそういうことにはならないだろうなとは思ってたけどさ。まさか彼氏へのプレゼント代を稼ぐためだとは思わなかったから。ちなみに、一色さんは誕生日に何を貰ったの?」
「これです」
私は今も小指に嵌めている指輪を先輩バイトに見せる。飲食店はアクセサリーとか禁止なところが多いだろうがこの店は一つならOKなのでそのまま着けている。
「へー可愛い指輪だね」
「これを貰うまではどう想われているのか不安だったんですけど、ちゃんと私のことを彼女だって認識してくれているって分かって安心しました」
「比企谷君ってそういうところはっきり言ってくれないの?」
「捻くれ者ですからね。実の妹に言わせれば捻デレらしいですけど」
「あまり聞かないジャンルね……」
先輩との付き合いが長い人なら言い得て妙だと思う表現だが、付き合いが短い人からしてみればしっくりこないのかもしれない。まぁ、私だって先輩以外にこの表現が当てはまる人物を知らないので、先輩以外にこの表現を当てはめられていたらしっくりこなかったのかもしれない。
「憎まれ口だとか不愛想な雰囲気ばっかりだったりするんですけど、最終的には私のことを大事にしてくれているんだって分かってるんで」
「はいはいご馳走様。確かに比企谷君なら浮気するようなこともないだろうし、そもそも浮気できるほど器用じゃなさそうだしね」
「ある面ではかなり器用かもしれませんけど、人間関係に関していえば不器用ですからね。むしろ人間関係を構築するのが下手までありますし」
以前先輩から借りた小説に登場した人間擬きの吸血鬼擬きさんではないけども、あの人も友人を作ると弱くなるとか考えていそうでしたしね。実際友人と言える人と言えば戸塚先輩と材木座先輩くらいでしょうか。玉縄さんは友人というよりかは知人みたいな感じですし。
「兎に角お金が必要な理由は分かったけど、無理だけはしないようにね。自分の誕生日プレゼントの為に無理をして倒れたなんて比企谷君が知ったら何を言われるか分からないわよ?」
「気を付けます」
先輩のことだから私のことを馬鹿にしながらかなり心配してくれるでしょうしね。それはそれで嬉しいかもしれないが、心配をかけることになるのは避けたい。私は先輩バイトの忠告を胸に刻みつつ、無理をしない程度に頑張ろうと心に決めた。
お金の方の心配はとりあえずクリアできたが、問題は何をプレゼントすればいいのかさっぱりわからないという点だろう。こういう時に相談する相手と言えば――
「すみません戸塚先輩、わざわざ付き合ってもらって」
「気にしなくていいよ。僕も八幡に何かプレゼントしなきゃなって思ってたから」
――先輩の唯一にして最高の友人と言っても過言ではない戸塚先輩だろう。何故小町さんに相談しなかったのかというと、小町さんに言えばそのまま先輩の耳に入りそうだと思ったからである。決してからかわれるだとか、真剣に相手してもらえないんじゃないかとか思ったわけではない。
「それにしても、ちょっと安心したよ」
「何がです?」
何の脈略もなく安心されても私には何のことかさっぱり分からない。分からないことに時間を費やす趣味は無いので、私は本人に尋ねる。
「八幡と一色さんが付き合ってるのはもちろん知ってるし、互いに互いのことを想っているのも知ってるけど、こうやってプレゼントを真剣に選んでるのを見ると八幡は本当に一色さんに想われてるんだなって」
「戸塚先輩、かなり恥ずかしいことを言ってるって自覚してます?」
「まぁね。それでも僕は、八幡には幸せになってほしいって本気で思ってるからさ」
戸塚先輩は高校時代に先輩が犯してきた悪行の裏事情もしっかりと知っている。だからこそ先輩には幸せになってほしいと本気で思っているのだろう。
「八幡がしてきたことの表面しか視なくて罵倒したり無視したりすることは簡単だよ。でもどうして八幡がそんなことをしなきゃいけなかったのかを考えられる人なら、八幡が考え無しにそういうことをする人じゃないって分かるはず。そして一色さんは八幡がそうすることで話が纏まるならそれでもいいって考える人だって知ってるでしょ? だから一色さんなら八幡を幸せにしてあげることが出来るんじゃないかって思ってるからね」
「結衣先輩や雪乃先輩でもいいのでは?」
この質問は意地悪だろう。戸塚先輩だってあの二人が先輩のことを本気で好きでいることは知っているし、ある面から見れば私よりもお似合いだと思う。そう思っていてなお、戸塚先輩には私が先輩の一番だと認めてほしいのだ。
「確かにあの二人も八幡がそういう人だって分かってるよ。でもあの二人は一度八幡のことを見限った。由比ヶ浜さんが相模さんから受けた以来で、雪ノ下さんが一人で抱え込んだ結果だったり、無理難題を引き受けておいて最後の最後で何もできなかった二人に、八幡を責める権利なんてなかったのに。実はあの時僕は、八幡に奉仕部を抜けた方が良いんじゃないかって言ってたんだ」
「そうだったんですか?」
それは初耳だ。先輩もそんな話をしてくれたことなんてなかったし、先輩が奉仕部から抜けるかもしれないなんて、あの二人も思ってもいなかっただろうし。
「そもそも八幡が奉仕部に入った経緯を考えれば抜けるべきだったんだけどね」
「確か舐め腐った作文を提出した罰でしたっけ?」
「名目上は更生させるためなんだけど、あの部に在籍すればするほど八幡の人間関係は改善されるどころか悪化していくだけだったからね。葉山君だって八幡の裏事情を知っていながらも自分が何もできないことを知られたくないから何も言わなかったしね。海老名さんと戸部君の件は悪いのは葉山君だって」
「戸塚先輩、顔がちょっと怖いですよ?」
「あぁゴメンね。今更ながら葉山君のことを殴っておけば良かったって思ってさ」
「……本気で怒ってるんですね」
「助けられたはずの戸部君はそのことに気づいてないし、グループの長である葉山君はそのことを教えようともしなかったからね。同罪どころか葉山君の方が罪が重いと思ってる」
あの時はまだ葉山先輩に傾いていたからそんなこと思わなかったけども、あの時から先輩の方がって思っていたら私も葉山先輩を本気で憎んだりしたのだろうか。そんなことを思いながら戸塚先輩とのショッピングを続けたのだった。
ちょっぴり黒戸塚が……