やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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実際どんな父親なのかは知りません


拍子抜けな対面

 私が母に真意を問いただす前に先輩がリビングに入って行ってしまう。私は慌てて先輩の後を追う為に母を追い抜かしてリビングへと入る。そこには普段見せないような表情を浮かべている父が腕組みをしながら座っている。

 

「(こんなお父さん見たことないな……)」

 

 

 私が一人暮らしをしたいと言い出した時もここまで難しい表情はしていなかった。私の中ではあの時の父が一番険しい表情だったのだが、その時をはるかに超えた険しい表情を浮かべているではないか……これはもしかしたら実家に帰ってくる前に恐れていたことが起こるのではないだろうか。

 

「君がいろはの彼氏だね」

 

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。いろはさんとお付き合いさせていただいている比企谷八幡と申します」

 

 

 先輩が折り目正しく一礼をしながら挨拶をすると、父の表情が少し揺らいだ――ように私には見えた。まさかここまで丁寧に挨拶されると思っていなかったのか、それとも先輩の雰囲気に気圧されたのかは分からないが、確かにさっきまで纏っていた雰囲気が変わったのだ。

 

「お父さん、意外と小心者だからね」

 

 

 私が今のやり取りを見て動揺しているのを察した母が、耳元でそう告げる。確かに父は小心者というか臆病なイメージがあり、何をするにもマイナス思考から入る。今回もどんな想定をしていたのかは分からないが、もう少しダメな男が来るとか思っていたのかもしれないな。

 

「比企谷君の挨拶を受けてどうしようか考えていたパターンを全部忘れちゃったのかもしれないわね。それくらい比企谷君が真面目だったというのもあるし、お父さんが安心したってことなのかもしれないわ」

 

「そもそもお父さんが心配するような相手を選ぶわけないじゃない」

 

「まぁいろはは色々と打算的な性格だからお母さんは心配してなかったんだけど」

 

「娘に対して随分な言い草じゃない?」

 

 

 母親だからこそ娘の性格を熟知していても不思議ではないのだが、あまりにもな言い草に思わず反論してしまう。だが私の反論など母に効果があるはずもなく、あっさりと流されて父の隣に移動してしまう。

 

「ほらお父さん。せっかく比企谷君が挨拶してくれたんだからお父さんも何か言わなきゃ。お父さんが固まってるから比企谷君も困惑しちゃってるじゃない」

 

 

 母に促されて漸く父が再起動を果たした。そんなにフリーズするような挨拶でもなかったし、彼女の親に挨拶するのなら無難すぎる挨拶のように感じたんだが、私の印象と父の受けた印象は違ったのだろうな。

 

「わざわざ来てもらって悪いね」

 

「いえ、いずれあることだとは思っていましたので」

 

「そうか。君のような男性がウチのいろはと付き合っているというのが信じ難いが、家内から聞く限りではだいぶ大事にしてもらっているようで安心したよ」

 

 

 私が母親に定期的に連絡していることは先輩も知っている。なのでそこまで驚くことではないのだが、私が先輩との関係を赤裸々に語っているような言われ方をして、むしろ私の方が少し驚いてしまった。

 

「今日呼び出したのは君と言う人間を一目見ておきたかったというのとウチの娘をお願いしますと言っておきたかったからなんだ」

 

「だったらどうしてあんな呼びつけるような文面を私に送ってきたのよ。てっきり先輩との交際を反対するために呼びつけたって思ってたんだから」

 

「いろはもお父さんに似て小心者よね。もう成人している娘が交際している相手にとやかく口を出すほど私たちも野暮じゃないわよ。もちろん、よっぽどの酷い相手だったら別だけども」

 

 

 母の暴露に私はここに来るまでずっとしていた緊張が解けた。もちろん先輩との付き合いを反対されたからと言って別れるつもりはなかったし、そんなこと言ってくるお父さんと絶縁してやるみたいな勢いだったからこの反応は肩透かしを喰らった気分だ。

 

「恥ずかしながら昔からいろはのことは色々と甘やかして育ててきたからね。君のようなしっかりとした男性を選ぶとは思っていなかったから心配だったんだよ」

 

「男親と言うのはそういう感じなのだということは理解できます。ウチも妹がいますので父親がそんな感じですから」

 

「比企谷君も娘の親になれば分かると思うぞ。もちろん、今すぐに親になるとか言われたら困るが」

 

「先輩とはそんな関係じゃないって!!」

 

 

 父としては冗談だったんだろうし先輩の方も愛想笑いで済ませたのだが私が過剰反応してしまったので場の空気が凍った。

 

「あっ、いや……」

 

「今のはお父さんが悪いわね、うん。比企谷君もそう思うでしょう?」

 

「いや、どうなんでしょうね」

 

 

 母に話を振られて困惑している先輩の背後に隠れ、私は涙目になりながら父を睨む。私に睨まれた父は困ったように母を見るが、母は半分以上面白がって何も言わずに先輩に話を振り、先輩はどう答えればいいのか分からず困ったように頭を掻くという地獄絵図。どうしてこうなったのか分からないが、先輩との実家訪問は特に問題が起こることなく無事に終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の爆弾発言で幕を閉じた実家訪問から暫くして、私は大学でそのことを友人に擦られていた。

 

「いろは、あんた両親の前で未経験発言をしたんですってね」

 

「いい加減にしてよ……」

 

「だって面白いじゃない」

 

「私は面白くないのよ……」

 

 

 いったいどこから話が漏れたのかは分からないけど、私が先輩と私の両親に会いに行くということは話していたのに、その内容まで友人に知られているのだ。

 

「でもまぁ付き合いに反対されたわけじゃなくて良かったじゃない」

 

「まぁね……」

 

「それにしてもいろはの見た目で未経験とはね」

 

「なによ、私はビッチじゃありませんからね」

 

「私はいろはとそれなりに付き合いがあるから知ってるけど、あんたの見た目しか見てないヤツは驚きだと思うわよ。もちろん、そんな相手にまで今回の話が広がってるわけじゃないから知りようがないでしょうけども」

 

「てか、あんたも誰から聞いたのよ」

 

 

 出所なんて限られているし、こんなことを話す人なんて一人しかいない。私は未来の義妹の姿を思い浮かべて辟易としてしまう。恐らく先輩にしつこく付き纏って聞き出したんだろうけども、先輩も馬鹿正直に話したとは思い難い。小町さんが勝手に脳内補完をしてさらに尾ひれを着けて面白おかしく話しているのだろう。

 

「なんて言ったっけあんたの彼氏の妹」

 

「小町さん」

 

「そうそうその子が結衣さんと話してるのを聞いただけよ」

 

「やっぱり」

 

 

 案の定小町さんが結衣先輩に話しているのを偶々この子が聞いていただけだった。とりあえず誰彼構わず言いふらしているとは思っていなかったけど、本当に言いふらしてるわけではないと分かって一安心だ。もちろん、結衣先輩にだけとはいえ無関係の人に話している件ではゆっくりと話し合いたいところだが。

 

「あんたの彼氏も奥手と言うか無欲と言うか」

 

「何が言いたいのよ」

 

「手を出しても抵抗しない相手が自分の部屋で寝てるって言うのに手を出さないって言うのはねぇ……」

 

「先輩は私が男性恐怖症だって知ってるから、私が少しでも嫌がるかもしれないことはしてこないのよ」

 

「そういえばあったわねそんな設定」

 

「設定じゃないわよ」

 

 

 実際問題未だに一人でスーパーとかに出かける時は戦々恐々するし、夜道を一人で歩いている時はすれ違うサラリーマンですら恐怖の対象になりうるのだ。少しずつ克服しているとはいえ先輩に手を出されたらどんな反応をするかなんて、私ですら分からないのだから先輩が私にちょっかいを出してくるはずもない。

 

「とりあえず結婚するころには治ってるといいわね」

 

「け、結婚っ!?」

 

「あれ? てっきり結婚の挨拶をしに行ったんだと思ってたんだけど」

 

「どうしてそんなに話が飛んでるのよ!」

 

 

 思いっきり勘違いされていたと思ったが、友人の顔は笑っている。私はからかわれたんだと分かり顔に熱が篭るのを感じたのだった。




そこまで話が飛んでる風でもない
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