やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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最大にして最強


最大の悩みの種

 私の実家を訪問してからと言うもの、私の中で何かが壊れたのではないかと思うくらい積極的に先輩に甘えているような気がする。もちろん先輩の邪魔にならない程度ではあるのだが、それでも訪問前と比べればだいぶ積極的になっている。例えばここ数日先輩の部屋に泊まるということはしていなかったのだが、色々と吹っ切れたここ数日は先輩の部屋で寝泊まりをしてたり、普段なら先輩は床に布団を敷いて寝るのだが一緒のベッドに誘ってみたりと――もちろん袖にされているのでそれ以上に展開することはないのだが――今までの私ではありえないようなことまでしてみたりしている。

 その原因が何なのか考えてみたら、この間友人に冗談交じりで言われた「結婚挨拶」というのが一つのトリガーになっているのではないか。

 

「(我ながら単純というかなんというか……)」

 

 

 先輩と結婚という妄想は何回かしたことはあるし、より具体的なことまで考えたことだってある。だがそれはあくまでも私一人の中でのことで、周りからは精々恋人同士としか見られたことはなかった。だが先輩が私の両親に挨拶したという話を聞いた友人がからかいではあっても私と先輩が結婚するということを言い始めたのが私の中で大きな意味を持ったのかもしれない。

 

「――は」

 

「………」

 

「いろは?」

 

「は、はいっ?」

 

 

 随分と考え込んでいたようで先輩から名前を呼ばれていても気づけずに心配をかけてしまったようだ。先輩が私の顔を覗き込むように視界に入ってきたので私は思わず声を裏返して飛び退いてしまった。そんな私を見て先輩は苦笑いを浮かべながらカップを見せる。

 

「コーヒー淹れるがいろはも飲むかって聞いてたんだが」

 

「そ、そうなんですね……ごめんなさい、いただきます」

 

「了解」

 

 

 短く返事をして先輩はキッチンへ向かう。その背中に手を伸ばしたくなる衝動に駆られた自分に驚きを覚えつつ私は飛び退く前の位置に座り直す。

 

「先輩」

 

「なんだ?」

 

「もしかして結構長いこと私のこと呼んでました?」

 

「いや、二、三回くらいだが」

 

「そうですか」

 

 

 最近気づいたことだが、先輩は嘘を吐くとき無意識に視線を右斜め上に向ける癖があるようで今も若干右斜め上を見ている。つまりもう少し長いこと私のことを呼んでいたのだろうが私が気に病まないように嘘を吐いてくれているのだろう。こういう細かい気遣いも最近になって気づくことが出来るようになったのでますます意識してしまっているのかもしれない。

 

「てか先輩、どうして小町さんにこの間のことを話しちゃったんですか? お陰で私は大学でからかわれることになってるんですけど」

 

「具体的なことは何も話してないし、精々いろはの両親と軽く話して好印象は持ってもらえたとしか言ってないんだけどな」

 

「そうなんですか? 小町さんの話だと私と先輩が結婚を前提に付き合ってるみたいな感じになってるんですけど」

 

「そりゃ小町の悪い癖だろ。話に尾ひれを付けて大げさに話して周りの反応を楽しんでるだけだろ」

 

「実際にされる側の人間からしてみたら最悪な癖ですね、それ……」

 

 

 先輩から真相を聞かされ、私はここ数日先輩に抱いていた恨みを全て小町さんに向ける。まぁ殆ど先輩に対しては恨みなど抱いていなかったので、元々小町さんに抱いていた恨みがより強くなっただけだろうけども。てかここ数日小町さんは私に近づいてこないし、私の方も無理に小町さんと話そうとはしていない。だから今日まで先輩が小町さんにどんな話をしたか知らなかったくらいだ。

 もし私と先輩が本当に結婚した場合、小町さんは小姑と言うことになる。そう考えるともう少し有効な関係を築いておきたいところではあるが、小町さんの相手は私ではなく先輩がしてくれるので私としては無理に付き合わなくてもいい相手という考えになっている。

 

「(でも本当に結婚した場合はそうはいかないんだろうけども)」

 

 

 義実家との付き合いなんてそれほどしたいなんて思わない人の方が多いだろうけども、実際無関心を貫ける人はそう多くはないだろう。そもそも先輩は両親とは兎も角小町さんとは比較的に仲が良い部類で、今も先輩の部屋に小町さんが遊びに――もっと言えば泊まったりするような間柄だ。そんな相手が私に対して無関心を貫いてくれるかなんて考えるまでもないだろう。先輩がシスコンなのではなく、小町さんがブラコン過ぎるのではないかと最近考えるくらいには、高校時代との印象が違い過ぎるのだ。

 私が先輩に遠慮しているのをいいことに、小町さんはここぞとばかりに先輩に甘えて見せたり、私がなかなか出来ないようなことまで先輩にしてみたりと、何か私に敵対心を抱いているのではないかと思わせるくらいの行動が目立つ。それくらい小町さんのブラコン度は高い。

 

「(私だって先輩にあーんしたいのに)」

 

 

 兄妹だから普通なのかもしれないが、小町さんが買ってきたケーキを一口ずつ食べさせあいっこをしていたのだ。先輩の方はなんとなく嫌そうではあったが、小町さんの方はノリノリで。私だって先輩と食べさせあいっこなんてしたことないのに、わざわざ私の目の前でやって見せたのだ。一時期最大のライバルは戸塚先輩なのではないかと思ったこともあったが、最大の敵はどうやら先輩の実妹だったようだと実感したのもその日だった。

 

「また考え事か?」

 

「っ!? な、何でもないです」

 

「そんなに難しい顔をしたまま何でもないって言われてもな」

 

「……私、そんなに難しい顔をしてますか?」

 

 

 私としては精一杯の笑みを浮かべていたつもりだったのだが、どうやら考え事をしていた時の表情からあまり変わっていなかったようで、先輩に余計な心配をかけてしまった。

 

「さっき言っていた小町の件か? そのことなら後で小町に連絡して修正しておくように言っておくが」

 

「いえ、そのことだけではないんですけど……まぁ、小町さん関連ではあるんですが」

 

「小町がそれ以外にもいろはに迷惑をかけてるってことか?」

 

「迷惑と言うか、羨ましいというか」

 

「羨ましい? 小町が?」

 

 

 先輩はピンとこないようでしきりに首をかしげているけども、先輩の中で小町さんが占めている割合と言うのはかなり高いだろう。もちろん恋人である私の事の方が割合的に高いと思っているが、それに匹敵するくらい小町さんは先輩に想われている。そのことを知ってか知らずかは分からないけども、小町さんも先輩ならこれくらいは許してくれるという確信を持って甘えているのだ。その信頼関係はまだ私が到達できていない域でもある。

 

「この間先輩にケーキあーんしてましたよね」

 

「あぁ、あれは子供の頃からの癖なんだろ。いろいろなケーキを食べたいと考えた小町がたどり着いた答えみたいな感じだからな。俺以外でも両親とかともしてるから、必ずしもいろはに対する当てつけということではないと思うが」

 

「そうかもしれませんけど、私だって先輩とああいうことをしたいって思ってるのに」

 

「いや、俺といろはは同じものを食べてることが多いから食べさせあいをする必要はないだろ」

 

「そういう問題ではないんです!」

 

「お、おぅ……そうか」

 

 

 私に気圧されて先輩がコーヒーを飲んで誤魔化すが、私からしてみてもとても恥ずかしいことを力強く言い放ったような気がしてきて慌ててカフェラテを飲む。

 

「私からしてみれば、ああいう風に自然に甘えられる小町さんが羨ましいってことだけは覚えておいてください」

 

「血縁相手だからあれくらい普通だとは思ってたが、いろはからしてみたら羨む対象だったんだな……分かった、覚えておく」

 

「お願いします。それから、私がこういうことを考えているということはくれぐれも小町さんにはご内密に」

 

「わざわざ報告してるわけじゃないんだが」

 

「念のためです」

 

 

 先輩としては何気ない会話だと思っているかもしれないけど、そこからどう尾ひれが付いて噂を流されるか分かったものじゃない。私は先輩に念を押してからもう一口カフェラテを啜るのだった。




やられる側はたまったもんじゃない
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