やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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カップルと言って良いのかどうかは微妙ですが


無自覚カップル

 今日は結衣先輩が強引に決めた四人で遊びに行く日なのだが、先輩のことだから忘れてたという理由で待ち合わせ場所に来ない可能性が考えられる。なので私は待ち合わせ時間の一時間前に先輩の部屋の前にやってきた。

 

「先輩、起きてますかー? そろそろ支度しないと間に合いませんよー?」

 

 

 あえてインターホンを鳴らさずに声をかけるのは、この場所を通った他の人が出かける予定があるのだろうと思わせるのと共に、先輩が起きているのを確信しているからこそであった。インターホンを鳴らしても取らないだろうし、そうすれば私が諦めて一人で出かけるだろうと考えているのだろうが、その程度のことは想定内なのだ。

 

「せんぱーい? 早く入れてくださいよー」

 

「……うるさい、近所迷惑だろ」

 

「やっと出てきてくれましたね? というか、全然準備出来てないじゃないですかー」

 

「なに? 本当に出かけるつもりなの?」

 

「当然ですよー。というか、戸塚先輩からも連絡着てるんじゃないですか?」

 

 

 私の言葉に先輩の目が一瞬泳いだ。恐らく戸塚先輩からも楽しみにしているという内容の連絡があったのだろう。それを無視するのは先輩としても辛いのかもしれない。

 

「ほらほら、早く着替えて待ち合わせ場所に行きましょうよ。なんなら、お着替え手伝ってあげてもいいですよー?」

 

「いらん。……はぁ、せっかくの休みが」

 

「先輩、夜からバイトだって言ってたじゃないですか」

 

 

 恐らくこの間あった中学生の家に行くのだろうが、先輩はあくまでも仕事だから嫉妬する必要は無いだろう。中学生の方は先輩に興味がありそうだったが、先輩の方はあくまでも生徒に接する講師という感じだったし。

 

「おじゃましまーす」

 

「えっ? 何で入ってくるの?」

 

「だって、着替えるっていって二度寝するかもしれないじゃないですかー」

 

「……さすがにシネェって」

 

 

 私を追い出して五分後、着替えた先輩が諦めた表情で玄関から出てきた。

 

「何で待ってるの? 先に行ってればいいのに」

 

「何でって、一緒の場所に行くんですから、別々に行く理由は無いですよね? 結衣先輩には、途中で会ったとか言っておけばいいですし」

 

「というか、何時まで由比ヶ浜に隠してるんだ? 別に教えても問題ないだろ」

 

「えっと……何となくですけど、結衣先輩は私が先輩の部屋の隣に住んでるって知ったら、毎日のように部屋に凸してきそうなんで……それだけならまだいいですけど、遊びに来たお礼だって料理でも創り出しそうですし……」

 

「それは……問題だな」

 

「しかも、私だけで済めばいいですけど、先輩におすそ分けとか言い出しそうですし」

 

 

 あくまでも可能性の話なのだが、私と先輩は同時にため息を吐いてしまう。結衣先輩はあくまでも善意だということは私たちも理解できるのだが、その善意が恐ろしいから黙っているのだと理解してくれた先輩は、私の嘘に付き合ってくれると約束してくれた。

 

「あくまでも今回だけだからな」

 

「分かってますよー。私だって、何時までも隠し通せると思ってないですし」

 

 

 いくら結衣先輩が鈍いからといって、何時までも隠せるなんて思っていない。というか、そろそろ勘付いても良いんじゃないかと思うくらい、私と先輩が一緒にいるところを見てるはずなのに……何故まだ気づかないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせ場所に到着する前に戸塚先輩と偶然会って合流し、私たちは三人で結衣先輩が指定した店に入る。結衣先輩は既に着ており、私たち三人を見て笑顔で手を振っている。

 

「ヒッキー、彩ちゃん、いろはちゃん、やっはろー」

 

「おはようございます、結衣先輩」

 

「やっはろー、由比ヶ浜さん」

 

「……おう」

 

 

 三者三様の挨拶を返してから席に座り、今日の予定を結衣先輩に尋ねる。実のところどこかに遊びに行くということしか聞いておらず、詳しい予定は結衣先輩が立ててくれているはずなのだ。

 

「それで、今日は何処に行くんですかー?」

 

「遠出したかったんだけど、よくよく考えたら私、それ程お金に余裕がなかったんだよね」

 

「それは私もです」

 

 

 いい加減バイトをしなければいけないと思っているのだが、なかなか好条件のバイトが見つからないのだ。先輩が働いている居酒屋も考えては見たが、酔っ払いとかに絡まれたら面倒だからという理由で却下した。

 

「だから今日は、この周辺のお店を開拓したいなーって思ってるんだけど」

 

「良いですね、それ。私もまだこの辺は詳しくないですし」

 

「僕もそれで良いよ。八幡は?」

 

「これ以上遠出しなくていいなら何でもいい」

 

「遠出って、八幡の家からここまで三駅でしょ?」

 

「俺にとっては十分遠出ですけど何か?」

 

「もう、八幡ったら」

 

 

 私たちの目の前で楽しそうに繰り広げられる先輩と戸塚先輩の遣り取り。それを見せられている私と結衣先輩は、自分たちが引き攣った笑みを浮かべているのを自覚しながら、互いの顔を見る。

 

「(前々から思ってたんだけど、ヒッキーって彩ちゃんのことが好きなんじゃないかな?)」

 

「(この前プロポーズしてたくらいですし、もしかしたらそうかもしれませんね)」

 

「(えっ、プロポーズなんてしてたの?)」

 

「(はい。この前結衣先輩と別れた後、二人で買い物に行くって話してた時に)」

 

 

 本当は私もその買い物に同行したのだが、そこは伏せて先輩が戸塚先輩にプロポーズした経緯を話す。冗談だと分かっているのだが、そのことを話すと胸がチクリと痛むのは気のせいだということにして。

 

「ん? 由比ヶ浜さんと一色さん、どうかしたの?」

 

「ううん、何でもないよー。それで、ヒッキーと彩ちゃんはこの辺り詳しいの?」

 

「僕はあんまり……八幡は?」

 

「前に材木座に連れられて何件か入ったことはあるが」

 

「じゃあそこに行こう!」

 

「アニメグッズショップとかだぞ?」

 

「……そっか、厨二さんだもんね」

 

 

 先輩の同行者を思い出してため息を吐く結衣先輩……というか、それだけで納得される材木座先輩も可哀想な気がしないでもないが……

 

「もしかしたら今日もいるかもしれないぞ? アイツも休みだって言ってたし」

 

「そうなの? だから玉縄君も集まらないかってメッセージ送って来たんだ」

 

「集まりたいのは良いんだが、何で毎回俺の部屋なんだよ……広さで言ったら玉縄の部屋の方が広いんだろ?」

 

「どうなんだろうね……玉縄君の話だけで、僕も行ったこと無いし」

 

「というか、俺は戸塚の部屋も材木座の部屋も行ったことないんだが」

 

「じゃあ今度僕の部屋に来る? 何もないけど」

 

「戸塚がいるなら行く」

 

「もう、僕の部屋だって言ってるじゃん。僕はいるよ」

 

 

 またしても恋人のような遣り取りを始めた二人を、今度は睨むように見詰める私と結衣先輩。というかこの二人は本当に付き合っていないのだろうか?

 

「(何だかこの二人が付き合ってるって聞かされても、それが自然な感じがしてきたんですけど)」

 

「(ま、まぁヒッキーも彩ちゃんも男の子だし、付き合ってるわけ無いって)」

 

「(でも海老名先輩が好きな世界かもしれませんし)」

 

「(あれってリアルでもあり得るのっ!?)」

 

「(どうなんでしょうか……)」

 

 

 少なくとも私の周りではそのようなカップルは存在していませんし、先輩と戸塚先輩がお付き合いしていないということも分かってはいるのですが、それでもこの光景を見せられるとどうしても疑ってしまうんですよね……戸塚先輩も頬赤らめてますし。

 

「それじゃあとりあえずどこかに行こうか。特に行き先も決めないで、ぶらぶらとお散歩するのも楽しそうだし」

 

「大学生の遊び方ではない気がするが、のんびりできるなら俺はそれで構わない」

 

「ヒッキー何だかおじいちゃんみたいだよね」

 

「ほっとけ」

 

「先輩、本当に私の一つ上なんですかー? 実は十年くらい歳誤魔化してるとか」

 

「あるわけ無いだろ。というか、俺は現役だからな」

 

 

 このセリフに結衣先輩が苦笑いを浮かべたが、別に先輩は結衣先輩をバカにしたわけではない。そのことは全員が理解しているので、それ以上先輩の年齢詐称疑惑については話さずに、ファミレスを後にしたのだった。




八幡はいろいろと経験してるからな
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