やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
いろいろなお店を見て回ったけども、盛り上がっているのは結衣先輩と私の女子組だけで、先輩と戸塚先輩は私たちに付き合っているという感じにしか見えない。これって一緒に遊んでいるって言えるんでしょうか……
「結衣先輩」
「ん、どうしたのいろはちゃん?」
「先輩たち、ちょっとつまらなそうですけど」
「えっ? あっ、本当だ……」
女性向けのアクセサリーショップなんて、先輩たちにとっては退屈でしかない場所だったのだが、どうしても入ってみたかったので無理矢理連れ込んだのだけども、やっぱり二人には外で待っててもらってたほうが良かったかもしれない。
「そ、そろそろ出よっか?」
「そ、そうですね」
本音を言えばもう少しウインドウショッピングを楽しみたかったのだが、先輩たちと一緒に遊ぶという名目から大きく外れてしまっているので、私たちは慌てて先輩たちの手を取って店の外に出る。その際、店員さんに不審がられたが、別に疚しいことはしていないので堂々と歩を進めていった。
「なんだ、もう良かったのか?」
「だってヒッキーたち、退屈そうだったし」
「まぁ僕たちにはあまり関係ない場所だったけども、由比ヶ浜さんや一色さんは楽しそうだったでしょ? だから気にしなくてもよかったのに」
「いえいえ、今日は四人で遊ぶって名目なんですから、私たちだけ楽しんでちゃ意味ないですから」
お店を見て回る前から、私と結衣先輩、先輩と戸塚先輩の構図になりかけていたというのに、あの状況は完全に二対二の構図になっていたと今更になって気付く……だが、女子二、男子二だというのに、どうして女子同士、男子同士になってしまうのだろう……
「次は全員が楽しめるお店に入ろうよ」
「でも結衣先輩、先輩が楽しめる場所ってどこですか?」
「えっ……ヒッキー、どこ行きたい?」
結衣先輩、それを先輩に尋ねますか……そんなこと聞いたって、先輩の答えは決まってるとしか思えないんですけど……
「家」
「(ほらやっぱり)」
超インドアな先輩なんだから、何処に行きたいと聞かれたらそう答えるに決まっている。というか、戸塚先輩がいなかったらここに来ることすらしなかっただろうし。
「家は無しで!」
「じゃあどこでも良い……戸塚は何処か行きたいとこ無いのか?」
「僕? うーん……あっ! この前材木座君と一緒に行ったゲームセンターに行ってみようよ」
「材木座と?」
「うん。この間ばったり会った時に」
先輩がいないところでも戸塚先輩と材木座先輩は付き合いがあるのかと思ったけど、それ以上に戸塚先輩の口からゲーセンなんて単語がでてくるなんて思っていなかった。
「それいいじゃん! ヒッキー、行こ」
「あぁ、それで良いよ」
「先輩、何だか私たちの引率みたいですね」
「うっせぇ」
このメンバーで年齢が違うのは私だけのはずなのだが、結衣先輩と戸塚先輩はいい意味で幼い感じがするので、逆に先輩だけが浮いている感じがし始めている。私も落ち着こうとすれば落ち着けるのだが、ここは年下らしくはしゃいでいた方が可愛く見えると思って結衣先輩たちに合わせているから余計にそう見えてしまうのかもしれない。
「あれ? 先生じゃないですか」
「よう……何でここに?」
「ちょっとした息抜きですよ」
ゲームセンターに入ってすぐ、先輩は見知らぬ女子に――いや、私は彼女と会ったことがある。先輩が担当している女子中学生だ。
「(誰? というか、ヒッキーが先生って?)」
「(あっ、もしかして八幡が家庭教師を担当してる子じゃないかな)」
「(ヒッキーが家庭教師? でも、成績良かったし、教えるのも上手そうだし)」
「(結衣先輩が言っても説得力無いですよ?)」
「(どういう意味だし!?)」
どういう意味って……だって結衣先輩浪人してたじゃないですか……そんな結衣先輩が成績のことを言ったところで、あまり凄みを感じるわけ無いじゃないですか。
「ちゃんと宿題は終わらせてあるんだろうな。後で確認するぞ」
「も、もちろん終わってますよ~……あっ、急用を思い出したので私はこれで失礼しますね。ゴメン、先に帰るね」
恐らく宿題を終わらせてなかったのだろう。女子中学生は先輩に頭を下げた後、一緒に来ていたと思われる友達に断って先に店を出ていった。
「やれやれ」
「先輩、家庭教師を通り越して保護者みたいな感じでしたよ?」
「八幡、いい先生だね」
「ヒッキーに勉強を教われば、私も頭良くなるのかなー?」
「由比ヶ浜はそのままでいいんじゃないか?」
「えっ、そうかな?」
「(先輩、結衣先輩に教えても無駄だって思いましたね?)」
私は先輩の腕を引っ張って小声でそう告げると、先輩は顔を引きつらせる。恐らくは私が言ったことが正解なのだろうが、それを結衣先輩に言えば面倒なことになると分かっていたからそれだけで済ませたのだろう。
「せっかく来たんだし、少しは遊んでいこうよ。この前材木座君と来た時は、彼のプレーを後ろで見てただけだったし」
「何のゲームやってたの?」
「えっ……僕はよく分からなかったんだけど……」
戸塚先輩が指差した筐体は、女の子向けのアニメか何かのゲームだった。材木座先輩は所謂『大きなお友達』というやつだったのだろう。
「ヒッキー、これ取れる?」
「クレーンゲーム? やめとけやめとけ。由比ヶ浜、昔の偉い人はこんな言葉を残しているんだ」
「どんなの?」
「クレーンゲームは貯金箱だ」
「どういう意味?」
「つまり、殆どの確率でお金を取られるだけって意味だと思いますよ」
実際上手い人とかなら兎も角、下手な人がやっても取れないだろうし……
「でもこのパンさん、可愛いし」
「パンさん、か……」
「先輩?」
何処か遠い目をした先輩を見て、私の心は痛む。パンさんから連想される人は、私の知り合いの中で一人しかいない。
「(やっぱり先輩、雪ノ下先輩のことが……)」
三年生の時、先輩と雪ノ下先輩は良い雰囲気に見えていたし、あのまま付き合って私はまた失恋するんだと思っていた。だが結局先輩たちは付き合うことはなく、雪ノ下先輩は海外留学で先輩の側から離れていった。
「それじゃああっちのゲームは?」
「結衣先輩、それクイズゲームですけど?」
「こ、これくらいはできるし!」
結衣先輩は勇んでクイズゲームに挑戦したが、案の定というべきか殆どの問題で首を傾げて、先輩か戸塚先輩に尋ねている。
「結衣先輩、こういうのは自力でやらなきゃ意味ないんですよ?」
「だって、こんな難しいなんて思ってなかったから」
「だからやめておいた方が良いって言ったんですよ」
「言って無いじゃん!?」
「ストレートに言ったら結衣先輩が傷つくと思って遠回しに言ったんですが、気が付かなかったみたいですね」
結衣先輩の頭では理解できないかもとは思っていましたけど、まさか本当に理解していなかったとは。先輩も戸塚先輩も引きつった笑みを浮かべているということは、私と同じことを想っているんだろうな。
「八幡、あっちのゲームやってみようよ」
「あぁ、戸塚となら良いぜ」
「あっ、ヒッキーと彩ちゃんが行っちゃったらこのゲームどうするのさ!」
「結衣先輩、素直に負けを認めたらどうなんです?」
結衣先輩一人なら、ステージ1で終わっていたでしょうし、ここまでこれたのだって先輩と戸塚先輩が教えてくれていたからって分かってるんですから。
「というか、また先輩と戸塚先輩のペアになってますし……」
「ヒッキーと彩ちゃん、仲いいよね~」
「ですね……」
戸塚先輩は男の人なので、結衣先輩のように素直に仲がいいで片づけられればいいんですが、どうしても私には、先輩と戸塚先輩が普通の友情ではない感情で一緒にいるような気がしてならないのです。
「(こんなに気になるなら、さっさと先輩に告白すればいいじゃない……)」
自分に悪態を吐きながら、私はそんな度胸がない自分にため息を堪えられなかった。こんな思いを、何時まで続ければ良いのだろうか……
取れる時は簡単に取れますけどね