やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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今時こんなこと起こらないかもですが


危機

 戸塚先輩と遊んでる先輩を見ているとますます心が痛むので、私は先輩の邪魔をするためにすり寄り、先輩の腕にさりげない感じで自分の胸を押し付ける。

 

「先輩、あっちで一緒に遊びましょうよ~」

 

 

 受け手によっては卑猥に聞こえなくもない感じになってしまったが、先輩はこの程度で勘違いするような人ではない。私に軽く視線をずらして非難するような口調で答える。

 

「一色……お前、誰にでもそうやってすり寄る癖、治した方がいいぞ。俺だから勘違いしないが!他のやつなら勘違いして変なことされるからな」

 

「なんですか、その言い方! まるで私が誰彼構わず抱きついてるみたいに聞こえるんですけど」

 

「実際そういう感じで言ってるんだから、そう聞こえて当然だ。というか、それ以外の聞き取り方があるとは思えないんだが」

 

「それって酷くないですか? 私は、ちゃんと相手を見てこういうことをしてるんですから~」

 

 

 間違っても材木座先輩や玉縄さんにこんなことはしないし、戸部先輩にだってするつもりは無い。一時期は葉山先輩にできたらな~とかは考えたことはありますけど、実際にやったことがあるのは先輩にだけだ。つまり私の中でそれだけ先輩が特別な存在だということである。まぁこのことは、鈍感な先輩には教えてあげませんけど。

 

「だったらなおのこと止めろ。お前みたいな女子がそういうことをすれば、大抵の相手はお前を意識してしまうだろうからな」

 

「先輩はどうなんですか~? 私のこと、意識しちゃって寝られなくなっちゃいますか~?」

 

「いや、そんなことはあり得ない」

 

「それって酷くないですかね?」

 

 

 こんなに可愛い後輩が抱き着いているというのに、この人は意識するどころか眼中にないとまで言い放ちやがったよ……いや、実際に言われたわけじゃないけども、先輩のニュアンスからそんな感じが受け取れるのだ。

 

「いろはちゃん、ちょっとこっちに――って!? 何してるし!?」

 

「先輩が私たちのことをほったらかして戸塚先輩とばっかり遊んでるから、ちょっと誘惑してただけですよ~。あっ、なんなら結衣先輩もしますか~? 反対側の腕、空いてますよ?」

 

「い、いや……それは無理だし」

 

 

 相変わらずの純情っぷりですね……見た目ビッチなのにこの先輩は。結衣先輩は遊んでる風に見えるけども、ものすごく一途で高校入学からずっと先輩のことしか見ていなかったようだ。他に興味を持てていれば、今頃彼氏の一人や二人いてもおかしくない見た目をしているというのに……

 

「(それは私も似たような感じなんですけどね)」

 

 

 私だって他の女子と比べれば可愛い方だし、男受けが良い感じを演じているので結構言い寄られたりもする。だが入学当初は葉山先輩しか、先輩と出会ってからは先輩以外の異性に興味を懐けなくなってしまっているのだ。

 

「八幡、そろそろみんなで遊ぼうよ」

 

「そうだな。何時までも一色に腕を掴まれていたらやり辛いしな」

 

「そんなこといって、肘に全神経を傾けてたんじゃないですか~?」

 

「というか離れろよ」

 

 

 鬱陶し気に払われてしまったけども、先輩の顔が若干赤くなっているのを見逃さなかった。興味ないフリをしながらも、ちゃんと興味あるんじゃないですか。

 

「それじゃああっちに四人でできるゲームがありましたから、それで遊びましょうよ」

 

「分かったから引っ張るなっての!」

 

「あはは、八幡と一色さん、何だか付き合ってるみたいだね」

 

「な、何を言うんですか戸塚先輩! 私が先輩みたいな男に興味あるわけないじゃないですか! というか、先輩が可哀想だから引っ張っていってあげてるだけで、この格好に深い意味なんて……」

 

 

 自分の気持ちに蓋をするのが難しくなってきていると気づく。初めは威勢よく否定していたのに、徐々に語気が弱くなっていくし、最終的には言葉を発することすらできなくなってしまったのだ。

 

「と、とにかく! 先輩が逃げないようにこうしてるだけですから!」

 

「う、うん、分かったよ」

 

「じゃあ戸塚先輩も結衣先輩も、一緒に行きましょう!」

 

 

 勢いで何とか誤魔化したけども、さすがに先輩にも不審がられている。まぁこれだけ一気に捲し立ててればおかしいと思われても仕方ないし、否定しておきながらも私は先輩の手を離していないのだから、鈍感な先輩でも何かおかしいと思っても不思議ではない。

 

「(何だか急に恥ずかしくなってきちゃった……でも、ここで手を離したら私が意識してるみたいだって思われそうだし……)」

 

 

 実際意識しているのは私なのだから、思われてもおかしくはないのだが、そう思われたくないと願ってしまうのは、やはり結衣先輩に負い目を感じるからなのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四人で遊びに行ってからというもの、私は無性に隣の部屋が気になってしまっている。遊びに行く前はここまで露骨に意識したりしなかったというのに、最近では先輩が部屋にいる時ふと視線を壁に向けている。

 

「(これじゃあまるでストーカーみたいだな……)」

 

 

 先輩がここに住んでいるなんて知らなかったので、ストーカーではないと断言できるのだが、最近の行動を思い返すと、自分がストーカーなんじゃないかと勘違いしてしまいそうだ。

 

「(今日は先輩、バイトで遅いって言ってたし、今は誰もいないんだよね)」

 

 

 誰もいないとわかっていな分かっていながら先輩の部屋がある方の壁を見詰め、思わずため息を吐く。このままでは思考がおかしな方向へ進みそうだったので、気分転換に夜の散歩に出かけることにしよう。

 

「そういえばさっき、水とかいろいろ無くなっちゃったし」

 

 

 まだあると思っていたのだが、冷蔵庫を開けたら結構使っていたことに気付き、明日買い物に行こうと思っていたのだが、天気が良くないって言ってたし、まだスーパーもやってる時間だし、今から買いに行っちゃおう。

 

「運よく先輩とばったり――なんてことは起こらないよね」

 

 

 変な妄想をしかけたけども、すぐに頭を振って思考を外へ追いやる。最近講義中でも先輩のことを考えてしまうことが多くなってきており、友達から心配されてしまう程なのだ。

 

「(なんでこんなにも先輩のことを考えちゃうんだろう……)」

 

 

 自問自答するが、答えなど最初から分かっている。だがその事を認めることができない。だって先輩は私のことを後輩としか思っていないだろうし、先輩のことを好きな人は私以外にもいるのだ、しかも身近に。

 

「(結衣先輩と同じ大学、同じ学部じゃなかったらもう少し気楽に考えられたのかな?)」

 

 

 結衣先輩の気持ちは高校時代から知っているし、恐らく先輩も気付いているだろう。というか、あれだけ露骨に好き好きアピールしてるというのに気付けないなんて、そんな鈍感男がいるわけがないか。

 

「(あれ? そういえば私も先輩にアピールしまくってるような気も……)」

 

 

 そんなことを考えながら歩いていたからだろうか。私はよく分からない道に出てしまった。

 

「どこ、ここ……」

 

 

 来た道を振り返っても知らない場所だったので、どうやら迷子になったらしい。

 

「とりあえず携帯のGPSで現在地を――」

 

「おっ、良い感じの女発見」

 

「ヒュー、かなりのレベルじゃん」

 

「しかも小柄。楽しめそうだな」

 

「お前ロリコンだもんな。だけど壊すなら俺たちが楽しんでからにしろよ? この前なんか一番に使って後が大変だったんだからな」

 

「えっ?」

 

 

 気づけば男の人たちが迫ってきている。しかも言葉を聞く限り私のことを襲おうとしているようだ。

 

「っ!」

 

 

 とりあえず来た道を引き返せば知っている道に出るだろうし、一刻も早くこの場を離れなければ、私の純潔は散らされてしまうと本能で理解して、私は地面を蹴って駆け出す。

 

「おっと残念」

 

「えっ……」

 

 

 どうやら他にも仲間がいたようで、私の逃亡は五秒も経たずに失敗してしまった。

 

「逃げなくてもいいじゃん。別に酷いことしようってわけじゃないんだし」

 

「そうそう。割り切れば君も気持ち良い思いができるんだから」

 

「アンタたちみたいなのに興味がないだけです。というか、群れないと女子と遊べないなんて、男としてどうなんですか?」

 

「コイツ!」

 

「待て。こいつ、足震えてね?」

 

「っ!」

 

 

 虚勢だということを見抜かれてしまい、私は一気に恐怖に押しつぶされそうになる。

 

「それじゃあ、場所を移そうか」

 

「あっ――」

 

「何やってるんだ?」

 

「あー―っ!」

 

 

 私に腕を伸ばそうとしてた男の腕を掴んだのは、見覚えのある男性だった。

 

「先輩!」

 

「何でお前がこんなところに? お前が行きそうな店、この辺りに無いだろ」

 

「考え事をしてたら道に迷っちゃいまして」

 

「何してんだよ……」

 

 

 呆れながらも私の腕を掴み、ガラの悪い男たちから引き離してくれる。

 

「(あぁ、先輩に腕を掴まれると安心する)」

 

 

 さっき男たちに捕まれそうになった時は泣きそうだったのに、今は幸せを感じている。これだけで十分だと思ってしまうくらいに。




八幡が現れるご都合主義……

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