やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
折本さんから指定された日の前夜、私は隣の部屋にいる先輩に話を聞きに行く。
「なんだかんだ言って、先輩も付き合い良いですよね~」
「いきなりやってきてなんだ……」
先輩はレポートを作成していたようで、私がインターホンを鳴らして出てきたときは眼鏡を掛けていた。普段から掛けているのだが、今掛けているのはまた別の物だ。
「折本さんから誘われたんですよ~。玉縄さんたちと出かけるけど一緒に行かないかって」
「あぁ、あれな……俺は断ったんだが、戸塚に誘われたら断れなくなって」
「また戸塚先輩ですか……先輩ってやっぱりホ――」
「断じて違う! ただ戸塚の悲しむ顔は見たくなかっただけだ」
恐らく先輩とお出かけできると思っていた戸塚先輩が、先輩は参加しないことになりそうだと察知しお願いしたのだろう。あの先輩もなかなかあざといと思うんだけど、恐らく素でやってるから先輩はあざといと思わないんだろうな……
「(私だって結構素なのに……)」
私に対してはあざといと言い放つくせに、戸塚先輩には何も言わない先輩に心の中で愚痴をこぼしながらも、表情は明るく先輩の隣に腰を下ろす。
「えっ、なに? 居座るつもりなの?」
「先輩のことですから、お出かけの時間になっても部屋から出るつもりが無さそうだなーって思いまして、今日はここに泊まって明日の朝起こしてあげますよ」
「いや、お前俺より起きる時間遅くね? 実際は知らんが、お前が動き始める気配って結構遅かったような気も……」
「なんですかそれ、何で私の気配なんて探ってるんですか? もしかして私のこと意識してくれてるんですか?」
「いや、単純に隣の部屋だし、ある程度物音とか聞こえるだろ?」
「意識してないと聞こえないと思いますけどね~」
ちなみに私は、先輩の部屋の物音に神経を傾けているのでよく聞こえるのだが、先輩の方は自然に聞こえてくると言っている。これはもしかして、先輩も私の部屋に興味があるということなのだろうか?
「とにかく! 先輩が来てくれないと気まずい空気になる予感しかしないんですから、ちゃんと来て下さいね? 何なら本当にお泊りしてでも連れていきますから!」
「何で俺に拘るんだよ? 俺が行かなければ三対三でちょうどだろ」
「あの面子で誰かとペアになるなら戸塚先輩一択じゃないですかー? そして戸塚先輩と結衣先輩は仲がいいですし……玉縄さんとか材木座先輩とかはちょっと嫌ですし……」
玉縄さんは折本さん狙いだから、必然的に私は材木座先輩とペアにされるだろう。せっかくのお出かけなのに会話無しはちょっと寂しいと思うし……その前にまだ、先輩以外の男性が怖いですし……
「お前、まだあの時の恐怖が残ってるのか」
「あれ? ひょっとして声に出してました?」
「あぁ、バッチリな」
「うわぁ……恥ずかしいです」
先輩に聞かせるつもりなど無かったので、恥ずかしさは倍増し、私は顔が真っ赤になってるのが良く分かる。それでも先輩の側を離れたくないと思うのは、何処か安心するからなのか、それとも……
結局先輩を押し切って先輩の部屋にお泊りすることになったのは良いが、先輩が言っていたように起きる時間は先輩の方が早かった。普段嗅がない匂いで目を覚ますと、既に着替え終えた先輩がキッチンに立っているではないか。
「せーんぱい、おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「テンション低くないですかー?」
「だってお前のソレ、あざといんだもん」
「なんですとー! せっかく可愛い後輩が朝の挨拶をしてあげてるって言うのに!」
何だか似たような遣り取りをしたことがあるような気もするけど、とりあえず一旦自分の部屋に戻り着替えを済ませ、再び先輩の部屋にやってくる。鍵は掛かっていないので普通に先輩の部屋に入ったけども、何だか同棲カップルみたいな気分だ。
「何で戻ってきた?」
「何でって、先輩が作ってくれた朝ごはんを食べる為じゃないですかー」
「あっそ……ほらよ」
先輩は不機嫌そうに振る舞っていますが、迷惑そうではないので一安心。差し出されたカップと食事を見て、ちょっとだけ複雑な思いを抱きましたが、これはこれで良いものです。
「あまり時間もないですし、ゆっくり味わないのが残念です」
「別に急ぐ必要ないだろ。遅れたら遅れたでいいし」
「駄目ですよー。というか、先輩と一緒に行ったら結衣先輩に家バレしそうですし」
「いい加減教えればいいだろ。というか、由比ヶ浜と折本以外は知ってるんだし」
「そりゃ、引っ越し初日に家バレしましたからね」
マンションの前で戸塚先輩と材木座先輩に、そして玄関先で先輩に私の部屋を知られた。そして流れで玉縄さんにも知られたので、今日の面子で私の部屋を知らないのは女子二人ということになる。
「じゃあ今日結衣先輩には教えます。ただし、今日偶然先輩の部屋を知ったという感じにしてください」
「面倒じゃね?」
「結衣先輩の気持ちを考えれば、それくらいしておかないと」
「やれやれ……最初から教えておけばこんな面倒はしなくても良かったと思うんだがな」
食べ終わった食器を片付けながら愚痴る先輩に、私は結衣先輩にだけは教えたくなかったという気持ちを知られないように表情を偽り続けたのだった。
先輩と待ち合わせ場所に向かう途中、電車の中で戸塚先輩と合流。戸塚先輩を見つけた時の先輩の態度が気に入らなかったが、とりあえず三人で待ち合わせ場所にやってくると、玉縄さんが既に到着していた。
「やぁいろはちゃん。今日はよろしくね」
「こんにちは」
相変わらず私の名前を当たり前のように呼ぶ玉縄さんに、若干イライラしながらも、他のメンバーを待つことに。待つこと五分――
「あっ、ヒッキーに彩ちゃん、いろはちゃんもやっはろー」
「結衣先輩、やっはろーです」
「うん、やっはろー」
「よう……」
私と戸塚先輩がノリよく返事をしたのに対して、先輩は相変わらずのぶっきらぼう。だが返事をするだけ結衣先輩に対して心を開いている証拠なのだろう。
「あれ、比企谷が先にいるとは思わなかったわー。そんなに楽しみだったの?」
「そんなわけねぇだろ。俺一人だったらバックレてた」
「なにそれうけるー。って、一人じゃなかったわけ?」
「そうなんですよー。それが偶然先輩が私の部屋の隣の部屋に住んでましてー、家を出たタイミングで顔を合わせてビックリしたんですよー」
「ヒッキーの部屋っていろはちゃんの部屋の隣だったんだ」
「みたいだな」
「ん? いろはちゃんは比企谷の――」
玉縄さんが余計なことを言いそうになったので睨みつけると、事情を察してくれたのか言葉を呑み込んでくれた。
「ところで厨二さんは?」
「深夜アニメで盛り上がり過ぎて、そのままのテンションで出かけようとして、明日までのレポートが手つかずだった事を思い出したと、さっきメールが着た」
「アイツ、レポートは終わってるって言ってた気がするんだが」
「あはは……僕は終わりそうにないって聞いてたんだけどね」
「ヒッキーと一緒にお出かけしたかったから、嘘吐いたんじゃない?」
「だが、これで三対三になったからちょうどいいんじゃないかい?」
「てか玉縄も自分で女子を探せばいいじゃん。なんで毎回私にお願いするわけ?」
「それは……」
折本さんの言葉にたじろぐ玉縄さん。恐らく彼の本音は「折本さんが好きだから」というのと、「自分では呼べないから」という二つが隠れているのだろうが、折本さんはそのことに気付いていない。
「とりあえず移動しようよ。もうすぐ時間になっちゃうし」
「てか、何で集まって映画なんだよ……」
「いいじゃない。僕は好きだよ」
「お、おう」
愚痴をこぼしていた先輩だったが、戸塚先輩の笑顔で何も言えなくなってしまったようだ。というか、相変わらず戸塚先輩が最大のライバルなんですね……
アニメの陽乃さんが何だかエロかった……