やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
部屋の片づけもそこそこに、私は隣の先輩の部屋に上がり込んだ。といっても勝手にお邪魔したのではなく、戸塚先輩に誘われたので仕方なく――という態を取っている。
だが本心は違う。ずっと会いたかった先輩が私の隣で生活している。それが何よりもうれしく、また先輩と一緒に過ごせるんだと思うと、思わず顔がにやけてしまいそうになる。それを必死に隠しているのだが、とりあえず誰にもバレていないようだ。
「本当に久しぶりだね、いろはちゃん」
「そうですね」
相変わらず人の事を勝手に名前で呼ぶなんて……まぁ、この人は出会った時からこんな感じだから、今更何も言わないですけど……というか、先輩と玉縄さんってどんな関係? クリスマスイベントやバレンタインイベントで一緒になったくらいで、後は接点無かったような気もするんだけどな……
「そういえばこの四人って、どんな集まりなんですか? 先輩と個々は関係あったとは思うんですけど、集まって何かするような感じではなかったので」
考えても分からない事は聞けばいい。というか、私が少し本気を出せば、大抵の男は隠し事なんて出来ないだろう。
「僕たちは同じ大学なんだよ。まぁ、学部は違うけども」
「そうなんですかー」
聞いておいてなんだけど、はっきり言って興味が無い。なのでテキトーに流しておく事にした。
「僕が英文学部で、材木座君が文学部」
「戸塚殿は経済学部」
「あれ? 戸塚先輩って文系じゃなかったでしたっけ?」
「僕はどっちでも出来たんだけど、八幡が文系にするって言ったから僕もそっちにしたんだ」
「そうだったんですか。それで、先輩は何学部なんですか?」
一番聞きたかったことを尋ねる。そもそも材木座先輩や玉縄さんが何学部なのかなんて、はっきり言って興味なかったですし。
「八幡は法学部だよ」
「えっ? あの先輩が?」
「悪いかよ」
キッチンで作業をしていた先輩が顔だけこちらを向いてそう聞いてくる。別に悪くはないですし、法学部なら将来も期待できるから私としては嬉しい誤算なのだけども、何事にも無気力無関心だった先輩と法学部が、どうしてもつながらない。
「専業主夫が将来の夢とか言っていた先輩が法学部って……しかも結構なエリート大学ですから、就職にも強いんじゃないですか~? 先輩、働くんですか~?」
「確かに二年生の時は本気でそんな事を思っていたが、さすがにその夢が叶えられるとは思えなくなってな」
「八幡、三年生になってから物凄く頑張って勉強してたもんね」
「うむ。我の誘いにもなかなか付き合ってくれなくなった」
「もともとお前と付き合うつもりなんてねぇよ」
「あふんっ!? 我と八幡は魂で結ばれて――」
「体育の時間であぶれた同士ペアを組んでただけだ」
「三年の時は僕と組んでたからね」
つまり、材木座先輩は本物のボッチと成り果てたと……
「というか、先輩もこっちに来てお喋りしましょうよ~」
「もう少しだから待ってろ。というか、何で一色までここにいるんだよ。お前の部屋は隣だろ?」
「何でって、戸塚先輩に誘われたからですよ」
「……なら仕方ないな」
本当に、どれだけ戸塚先輩の事が好きなんですか、この男は……普通可愛い後輩である私が部屋に来た時点で喜ぶべきなのに、戸塚先輩に誘われたという事実を知った途端に掌を返しやがったよ……中学時代に女子に夢を見て玉砕した所為で、異性を信じられなくなってるとは知っていますけども、いい加減私の事をちゃんと見てくれても良いじゃないですか。
「そういえば、いろはちゃんは何処の大学なんだい?」
「えー、普通の私大ですよ~。私は皆さんのようにエリート大学に合格出来るような頭脳は持ってませんので」
まさか先輩がそんな高ランク大学に通ってるなんて知らなかったので、手ごろな大学を選んだのが失敗だった……少し無理をすれば狙えない事も無かったのに……
「まぁ、部屋が隣ならいつでも会えるし、またこうして集まろうじゃないか」
「テメェの部屋じゃ無いだろうが……ほらよ」
玉縄さんにツッコミを入れながら、先輩が何かを持ってきた。私は首を傾げたけど、戸塚先輩と材木座先輩は目を輝かせて先輩にお礼を言う。
「ありがとう、八幡。やっぱり八幡の料理が一番おいしいしね」
「然り。我が調理しようとしても、何故か黒龍を召喚したかのような惨状にしかならんからな」
「お前は下手以前の問題だからな」
「これ、先輩が作ったんですか?」
「いや、作業してるのお前も見てただろ」
確かに見ていた。先輩がキッチンに立って何かをしているという事は……でも、まさかこのクオリティの料理を作っていたなんて、夢にも見なかったのだ。だって先輩、高校時代の時はあまり凝ったものを作れなかったのに……
「男四人で集まってご飯って、先輩たち彼女いないんですか?」
「っ!?」
「それは……」
「あはは……そういう事に時間を使う余裕がないというか」
「悪いかよ?」
「別に悪くはないですけど、せっかくエリート大学に通ってるんですから、お誘いとかあっても良いんじゃないかなーって思っただけです」
良かった、先輩に彼女がいないって分かって。正直玉縄さんと材木座先輩に彼女がいるとは思っていなかったけど、戸塚先輩もいなかったんだ……ちょっと意外かも。
「でも八幡はウチの女子から人気高いよね」
「殆ど戸塚のファンだろ? 俺はお前のついでだよ」
「そんな事ないと思うけどな。実際、何人かに『紹介して』って頼まれた事あるし」
「っ!? それって、どんな集まりなんですか?」
「普通のテニスサークルだよ。八幡はたまに僕の相手をしてくれてるんだ」
「先輩は入ってないんですか?」
「いろいろと忙しいからな」
先輩が忙しいって、正直想像も出来ない……でも、確かに以前は目が死んでいたから目立たなかっただけかもしれない。今の先輩は、目に生気が宿っているので、以前のような近寄りがたい雰囲気はない。むしろちょっと目を引く感じになっている。
「というか、先輩って眼鏡かけてましたっけ? ゲームのやり過ぎで目が悪くなったんですか?」
「理由は違うが、最近視力が落ちてきてな。半年前くらいからかけ始めた」
「その所為で八幡の人気が更に上昇する事に……我も眼鏡をかけているというのに」
「材木座の場合は、その病気をどうにかしないと無理だろ。せっかく声はカッコいいのに」
「でも材木座君のそれは、ある意味彼のアイデンティティだからね。個性を否定するのは良くない」
「個性って言葉で片づけちゃダメな事だってあるだろう。だいたい材木座だって文芸サークルの腐女子に誘われてただろ?」
「あぁ……『是非八幡と好い感じになってくれ』と頼まれた」
ここに海老名先輩がいたら興奮しそうな話題になり、部屋の空気が微妙な感じに……やっぱりそういう事を考える人って、海老名先輩以外にもいたんだ……
「ぼ、僕も言われた事あるな……『八幡の逞しいのを受け容れて!』って」
「戸塚殿なら絵になるかもしれんが、我が八幡におk――ゲバっ!?」
「それ以上言うなら、今後出禁にするぞ」
「う、うむ……我が悪かった」
「一色もいるんだ。何時ものノリで喋るな」
どうやら私がいなかったらそのまま許していたようだけど、先輩が私の事を気遣ってくれたという事が嬉しい。普段どうでもいいみたいな感じの扱いしか受けてこなかったから、こういったちょっとした優しさが心に染みてくる。
「悪かったな、一色。男同士の会話なんてこんな感じだから、あまり気にするな」
「いえいえ、大丈夫ですよ。はっ! ひょっとして今口説いてましたか? ゴメンなさい、気遣ってもらってかなり嬉しかったですし、材木座さんを殴る先輩を見てかなりカッコいいって思っちゃいましたけどもまだちょっと心の整理がつかないので無理です、ゴメンなさい」
「……久しぶりに聞いたな、それ」
「なるほど、気遣いをすればモテるのか……」
「あっ、玉縄さんはそれ以前の問題だと思いますよ」
自分は出来る、みたいな感じで喋ってるのがむかつく、と言うか何と言うか。もちろん、それを本人に言う事は無いだろうけども。
「玉縄君はまだ折本さんと付き合ってなかったの?」
「な、何のことだい? 僕は別に彼女の事が好きなわけじゃない」
「隠せてると思ってるのか、こいつは」
「バレバレですよね」
バレンタインイベントの時にチラチラと見てたし、それ以前にクリスマスイベントの時に折本さんを呼んだのは、恐らく玉縄さんが意識してるからだろう。……あれ? その理論で行くと、私が先輩を呼んだのも先輩を意識していたからって事に……いやいや、あの時はまだ葉山先輩一筋でしたし……
「(本当に?)」
自問自答しても答えは出ない――いや、分かり切っている事なので考える必要が無い。私はあの時既に葉山先輩の事は好きじゃなかった。それが分かっていたから、ディスティニーランドでフラれると分かっていて告白したのだから。
材木座、ほんと声はカッコいいのに……