やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
映画館近くのカフェで食事を済ませて、これから何をするか話し合っていると不意に結衣先輩が手を挙げた。
「私、いろはちゃんの部屋に行ってみたいな~」
「ウチですか~? 別に何もありませんよ」
「それだったら比企谷の部屋なら良いんじゃないか? 普段から客が多いから、いろいろともてなす準備もできてるだろうし」
「多いと言うか、お前らが勝手に人の部屋を溜まり場にしてるだけだろうが……それに毎回、食材とかは持ち寄りだろうが」
「だったら買物して比企谷の部屋に行けばいいんじゃない? 私もちょっと気になるし」
「折本まで……」
「八幡、僕も八幡の部屋でお喋りするの好きだよ」
「う……」
戸塚先輩にまで提案されてしまい、先輩は断れない雰囲気に呑まれてしまい渋々部屋に全員を招くことになってしまう。
「でもその前に何か買っていかないと何もないからな?」
「だったら僕と玉縄君でいろいろ買ってから八幡の部屋に行くから、由比ヶ浜さんたちは先に八幡の部屋に行っててよ」
「俺も行くが?」
「八幡の部屋に入るのに、八幡がいなかったら入れないでしょう?」
「その間一色の部屋で喋ってればいいだろ? どうせ隣なんだし」
さっき自分からバラしたから、先輩の提案に過敏に反応する必要は無かったのだけども、どうしても反応してしまう。こればっかりは慣れていくしかないんだろうな……
「だったら私が戸塚先輩と玉縄さんとお買い物に行きますから、先輩が部屋で――」
「お前、スーパーにも男は大勢いるんだぞ?」
「うっ……」
「だったら私が彩ちゃんたちと行くから、ヒッキーはいろはちゃんとカオリンと先に部屋に行っててよ」
「いや、お前は俺の部屋の場所を――」
「僕たちがちゃんと案内するから大丈夫だよ」
「まぁ、戸塚がそう言うなら……」
確かに結衣先輩は私の部屋も先輩の部屋の場所も知らないけども、戸塚先輩と玉縄さんは知っているので問題はない。
「だったら私も行くよ。一色ちゃんと比企谷は招く側の人だし、招かれる側の私が一緒にいるのもなんか変だしね。それに、玉縄が結衣ちゃんに変なことしないか見張ってないと」
「するわけ無いだろっ!?」
「あはは、それじゃあ八幡、僕たちは後から行くから」
何故か四人が買い物に行き、私たちは一足先に部屋に戻る事になってしまった……
「どうします?」
「どうもこうも、先に戻ってろと言われてしまったんだ。大人しく戻るしかないだろ」
先輩と二人でマンションまで歩く。この間襲われそうになった時以来だけども、先輩と二人きりなら怖い感じはしない。普段頼りない雰囲気の人だけども、いざという時はちゃんと助けてくれると思えるからなのだろうか。
「というか一色」
「なんですか?」
「お前そんなんで、大学生活とか平気なのか?」
「必要以上に近づかれなければ問題ないですし、普段は結衣先輩や他の友達と一緒にいますから、男子が近くに来ることなんて無かったんですよ。だから今日、玉縄さんにあんなに過敏な反応するなんて自分でも思ってませんでした」
「なるほどな……じゃあ何で俺や戸塚は平気だったんだ?」
「そりゃ戸塚先輩はあの見た目ですし、無許可にボディタッチしてくるような性格でもないですし」
「なるほど」
「それに先輩は……」
私が黙ってしまったのが気になったのか、先輩は歩を停めて私の方へ振り返り顔を見詰めてくる。先輩に見詰められるなんて無かったので、何だか照れ臭いがしっかりと言わなければ。
「先輩は私をあの窮地から救い出してくれた人ですし、いざとなれば頼りになるって分かりましたから怯える必要はないって思ってるんです。部屋が隣だって言うことも理由なのかもしれませんけど」
「いや、あれは偶々だし、何時でも助けられるわけじゃ――」
「『責任』取ってくれるんですよね?」
「お前、何時のこと言ってるんだよ……」
私が高1の時の冬、ディスティニーの帰りに電車で使った『責任』という単語を覚えていた先輩が、不意に顔を顰めた。だって私はまだ、先輩に責任を取ってもらっていないのだから。
「兎に角、私をこんな風にしたのは先輩なんですから、最低限の責任は取ってくださいね」
「人聞きの悪いこと言わないでくれませんかね? お前は俺たちの会話を勝手に盗み聞いて、勝手に影響を受けただけだろ? それの何処に俺が責任を取らなきゃいけない理由が――」
「それだけじゃないです。先輩にあんな風に助け出されてしまったら、他の人に興味が持てなくなっても仕方ないですよね? だから、私が他の異性に興味が持てるようになるまで、先輩は私に付き合ってください」
「はぁ……お前、高校の時と変わってないな」
「いいじゃないですか。卒業してまだそれ程経ってないんですし」
「俺は一年以上経ってるんだが?」
「そこは気にしちゃダメです!」
言いたいことを言ってスッキリした私は、先輩の腕を掴んで家路を急ぐ。先輩は振り解こうとすれば簡単に振り解けたであろう私の手を振り払うことはせず、大人しく私に手を引かれるように歩き始めた。
先輩の部屋で四人を待つこと三十分、ようやく戸塚先輩たちが先輩の部屋にやって来た。何故か荷物は玉縄さんが一人で持って……
「ここがヒッキーの部屋か~。うん、綺麗だね」
「比企谷って家事得意だったっけ?」
「一年以上一人暮らしをしてるんだから、これくらい普通だろ。というか、これで綺麗ってことは由比ヶ浜、お前の部屋って――」
「汚くないから! ただちょっと今、散らかってるかもしれないけど……」
「結衣先輩……」
見事に自爆した結衣先輩に、私は同情的な視線を向ける。料理は得意ではないと知っていたけども、まさか掃除や洗濯も苦手なのだろうか……
「というか玉縄、何時まで荷物を持ってるつもりなんだ?」
「あぁ、これ頼むよ」
玉縄さんから荷物を受け取った先輩は、冷蔵庫にしまうべきものはしまい、すぐに使うものはそのままキッチンに置いた。
「八幡、何か手伝う?」
「いや、戸塚たちは買い物に行ってくれたから気にするな。ここは俺が用意するから。といっても、さっき喰ったばかりだから、簡単なおやつくらいだがな」
「じゃあ晩御飯はヒッキーの手作りだね」
「えっ、なに? お前らそこまで居座るつもりなの?」
「当然。だから材料も買ってきたでしょ?」
「随分と量が多いはずだ……」
「それに比企谷、今日は何もないって言ってただろ?」
「まぁな……」
今日のスケジュールを知られている先輩は、バイトという名目で私たちを追い返すこともできなくなってしまい、肩を落としながらお菓子の用意を始める。結衣先輩が手伝いたそうに先輩に視線を送るが、私と戸塚先輩がさりげなくその視線を遮りお喋りに花を咲かす。
「ところで八幡」
「なんだ、戸塚?」
「部屋の中では名前で呼んでくれる約束だよね?」
「アレってあの時だけじゃないの?」
「僕は外でも良いんだけど、八幡が照れ臭いって言ったから部屋の中だけってことになったんじゃないか」
「そうだったか……?」
「八幡は、僕の名前、呼んでくれないの?」
「うっ……そ、そんなことは無いぞ……彩加」
「うん! ありがとう、八幡」
「あー良いな彩ちゃん。ヒッキー、私のことも名前で呼んで!」
「だったら私もー。比企谷に名前で呼ばれるなんてなんかうけるし」
「いや、うけねぇだろ……というか、名前呼びなんてリア充みたいなこと、俺ができるわけ無いだろ」
「でも彩ちゃんのことは呼んだじゃん」
「それは戸塚だからであって――」
「八幡?」
「さ、彩加だからであって……」
呼び慣れていない所為もあるのだろうが、先輩は戸塚先輩のことを名前で呼ぼうとしない。すかさず戸塚先輩が頬を膨らませて抗議すると、詰まりながらも名前で呼び直す。何だか付き合いたてのカップルを見ているようでモヤモヤする。
「だったら私の名前なら呼べますよね?」
「は? 何だよお前ならって」
「(だって、助け出してくれた時しれっと名前で呼んでましたよね?)」
「(あれはその場しのぎだろ。苗字で呼んでたらリアリティが無かっただろうし)」
「何話してるの?」
「なんでもない! というか、異性を名前呼びなんて、俺は小町しかしたことないからできん!」
そういって作業に戻っていった先輩だが、私は先輩が嘘を吐いていると知っているので、何だか誇らしげな気持ちになった。
やっぱりホモっぽい……