やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
さすがに料理を用意するだけと言うのは申し訳ないということで、今日は先輩と一緒に結衣先輩の誕生日プレゼントを選びにお出かけしている。
「――というか、何で俺も? お前が由比ヶ浜への誕生日プレゼントを買いに来たんだろ?」
「せっかくですから、先輩との合同誕生日プレゼントということにしてあげます。先輩じゃセンスがないものになりそうですから、私が選んで先輩がお金を払ってください」
「いや、その理屈はおかしいだろ……」
「まぁ、半分以上冗談ですから」
さすがの私も、選んだだけのものを私からのプレゼントと言い張れるはずも無く、ちゃんとお金だって用意している。だがもし先輩がそれでも良いと言ってくれたのなら、その時はお言葉に甘えるつもりだったのだが。
「結衣先輩、先輩に祝ってもらえるってここ数日楽しそうなんですから、期待を裏切らないようにしてあげてくださいね?」
「はいはい。しかし……誕生日プレゼント、か」
「どうしたんですか?」
先輩がふと遠い目をしたので、私は興味本位で先輩に尋ねた。
「高二の時に、由比ヶ浜にはプレゼントをやったなと思ってな」
「へーそうなんですか。ちなみに、その時は何をあげたんですか?」
先輩のことだからどうせ大したものではないのだろうとは思いつつも、先輩が結衣先輩にあげたものが気になってしまいちょっと前のめりに尋ねる。
「首輪だ」
「はい?」
「だから首輪」
「えっ……先輩ってそういう趣味が?」
「お前は何を勘違いしてるんだ?」
「だって、先輩は結衣先輩に首輪をしてペット扱いしたいってことですよね?」
「お前の思考は由比ヶ浜並みだな……」
「それはちょっと嫌です」
結衣先輩に失礼かもしれないが、結衣先輩と同列視されてちょっとショックを受ける。
「由比ヶ浜は犬を飼っていたから、ソイツ用だ」
「あっ、なるほど……」
てっきり先輩が結衣先輩をペットのように扱いたいという願望の表れだと思ってしまった……でももし先輩がそういう趣向の持ち主だったら……
「なんだ?」
「先輩、調教は優しくしてくださいね?」
「は?」
「な、何でもないです!」
想像していたことを思わず口に出してしまい、その後はずっと先輩から「コイツ大丈夫か?」みたいな目で見られ続けてしまった……
「(私のバカ……)」
ちなみに、結衣先輩へのプレゼントはペンダントを選び、先輩が七割くらい払ってくれたので、私は少し申し訳ない気分を味わいつつ、残りを支払い商品を受け取ったのだった。
誕生日当日、参加者の殆どは同級生ということで、それ程集まるのに時間は要さなかったが、外部からの出席者が現れた時、食堂内の時間が一瞬止まった――ように感じた。果たしてそれは、戸塚先輩を見たからか、それとも先輩を見たからか……
「あっヒッキー! 彩ちゃんもやっはろー!」
「由比ヶ浜さん、誕生日おめでとう」
「よう」
何時も通りの笑顔で結衣先輩に挨拶する戸塚先輩と、こちらも何時も通りのぶっきらぼうな挨拶を返す先輩。なんだかんだ言ってもちゃんと参加してくれるのが、この人の良いところなのだろうな。
「一色さんも、こんにちは」
「こんにちはでーす、戸塚先輩」
「本当に僕たちも参加して良いのかな? 何だか見られてる気がするんだけど」
「気にしたら負けですよ~」
戸塚先輩なら見られることに慣れているでしょうと言いたかったけども、せっかくのパーティーの雰囲気を悪くしたくなかったので、その言葉は呑み込んだ。戸塚先輩には私の葛藤は分からなかったようだけど、先輩が少し離れた場所で私を見ていたので、先輩には私の考えはお見通しだったようだ。
「(何だか先輩に見通されているって、気分が良いような悪いような……)」
「あっ、由比ヶ浜さん」
「なーに?」
「これ、プレゼント」
戸塚先輩が結衣先輩にプレゼントを渡したのを見て、私も結衣先輩にプレゼントを差し出す。
「結衣先輩、これ私と先輩からです」
「いろはちゃんとヒッキーから……?」
「まぁ色々ありまして、先輩にプレゼント選びを手伝ってもらったんです。ついでにお支払いも」
「そうなんだー。ヒッキー、アリガトね」
「大した額じゃねぇし、選んだのは一色だ」
「ううん、嬉しいよ」
結衣先輩の笑顔に、先輩が視線を逸らす。普段分かり難いのに、こういう時は分かり易いんだから……でも、他の男子のようにあからさまな態度を見せないのはさすがだ。
「結衣さん、少し向こうでお話ししましょうよ」
「えっ、何急に?」
他の友人たちに取り囲まれて連れていかれていった結衣先輩を見送り、私は先輩に話しかける。
「やっぱり先輩ってモテるんですね」
「はっ? 何言ってんの?」
「だって、結衣先輩が連れていかれた原因、先輩ですよ?」
「どういう意味だ?」
本気で分かっていない様な先輩の態度に、私は少し苛立ちを覚える。この人は自分を過小評価し過ぎなのだ。
「(先輩、自分がモテてる自覚無いんですか?)」
「(あるわけ無いだろ。俺程非リア陰キャという言葉が似合う男もいないだろ)」
「(一度ボコボコにされた方が良いんじゃないですか?)」
あれだけ可愛らしい人に好かれていて、なおかつこんなかわいい後輩から慕われているというのに、自分の事を非リアと表現するとは……
「一色さん」
「はいっ?」
参加している男子から声を掛けられ、私は声を裏返しながらなんとか返事をする。不意に声を掛けられるとまだ怖いという感情が出てきてしまうのだ。
「ちょっと良いかな?」
「別に良いですけど……」
何となく二人で話をしたいという雰囲気だったので、私は声が聞こえない程度に皆から離れる事にした。さすがに視界から外れる程離れることはできなかった――向こうは少し不満そうだったけども。
「(しかし、見るからに陽キャな感じだな……)」
さっきまで一緒にいたのが先輩だったから余計にそう思えるのだろうけども、この男子は十中八九陽キャだろう。
「それで何です?」
私としてはこのタイプは好みではないので、さっさと話を切り上げて先輩が作ってくれた料理を楽しみたいという思いしかないのだが、向こうはそう簡単に私を解放してくれそうではない感じだ。
「(力尽くということは無いだろうけども、いざとなったら大声で先輩を呼ばなきゃ)」
先輩もそれ程力があるわけではないけども、私よりは確実にある。それに事情もすべて知っているから、助けてくれるだろう。
「実は前から一色さんのことが気になってて」
「はぁ……」
高校の時のように愛想を振りまいていたなら兎も角、素に近い感じで過ごしていて私のことが気になるって、この人はドMなのだろうか。私に調教されたいとか思ってるんだろうか?
「一色さん、いや、いろは! 良ければ俺と付き合ってくれないかな?」
「ゴメンなさい、無理です」
「どうして?」
「いきなり人のことを名前で呼ぶとかキモイですし、そもそも貴方のこと知りませんし」
何時も結衣先輩と仲良くしてるグループと一緒にいるなーくらいの感覚の相手に告白されて嬉しいわけがないだろ。そんなことも分からないのか、こいつは?
「でも俺なら君を守ってあげられるし、あんな陰キャよりも楽しませることが――」
「先輩のことを知りもしないくせに、あの人のことを悪く言うのとかサイテー。用が無いなら良いですか? 失礼します」
こっ酷くフッてやった。これで二度と私に声を掛けてくることは無いだろう。
「何かあったのか?」
「なんでもないですよー。それにしても、相変わらず先輩の料理はおいしいですねー」
「相変わらずって程食ってないだろ?」
「少なくとも、結衣先輩の料理よりかは確実に美味しいですって」
「どういう意味だし!?」
「褒めてないだろ、それ……」
「ヒッキーも酷くないっ!?」
私たちの遣り取りを聞いていた周りが大爆笑をして、結衣先輩は周りに抗議し始める。なんだかんだで楽しい雰囲気になったので、私はホッとして先輩の隣でまったりとした時間を過ごした。
褒めてないだろうな