やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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出所はだいたいわかりそう


悪い噂

 私に告白してきた男子は、彼が所属しているグループに戻り不機嫌そうな視線を私に――ではなく先輩に向けている。彼に睨まれる覚えがない先輩は、一度だけ気にした様子を見せたがすぐに興味を無くしたようで、今は結衣先輩のお喋りに付き合わされているのだった。

 

「それでね、この前レポート課題をすっかり忘れちゃってたさー」

 

「浪人してせっかく合格したのに、このままだと留年しそうですね」

 

「そんなこと無いし! あっ、言いきれるほど勉強できないけど、留年はしないようにするし!」

 

「最初の勢いは何処に行った……」

 

 

 結衣先輩が気弱になったのを見て、先輩は苦笑いを浮かべながらツッコミを入れる。相変わらずこの二人の遣り取りを見ていると心がざわつく。私と先輩には無い雰囲気を感じ取っているからだと理解しているのだが、それを気にしないようにできないのは何故なのだろうか……

 

「そういえば八幡、一色さんと同じバイト先なんだっけ?」

 

「ん? あぁ、俺はあくまでヘルプ何だが、オーナーがなかなか抜けさせてくれなくてな」

 

「先輩のお陰でお客さんが増えてるって言ってましたし」

 

「俺、殆ど店に出てないんだが?」

 

「たまに見れるから良いんだって、お客さんたちも言ってましたし」

 

「いいな~。私もヒッキーたちと同じお店でバイトしたいな~」

 

「結衣先輩はバイトの前に学業をちゃんとしないとですし」

 

「どういう意味だし!」

 

「そろそろテストもありますし、しっかりと復習しておかないといけないじゃないですか」

 

「持ち込み可だから、多分大丈夫だし」

 

 

 随分と自信なさげな感じだが、高校時代も赤点は無かったようだし、結衣先輩が後輩になる可能性は恐らくないだろう。まぁ、レポートの提出期限を忘れたりしなければなのだが。

 

「バイトで思い出しましたけど、戸塚先輩ってバイトしてるんですか?」

 

「うん、偶にね」

 

「彩ちゃん、何のバイトしてるの?」

 

「いろいろとしてるんだけど、サークルが優先になってるから単発バイトなんだよね。もちろん、何回かお世話になってる場所もあるんだけど」

 

「戸塚がレジをやると店が繁盛するから、正式にバイトをお願いしたいって言われてたな」

 

「その気持ちは分かります。戸塚先輩と先輩がレジをやってたら、間違いなく戸塚先輩の方に並びますし」

 

「ああ、俺でも戸塚側に並ぶね」

 

 

 ほんとこの人はどれだけ戸塚先輩のことが好きなんですか……

 

「ところでいろはちゃん」

 

「はい、なんですか?」

 

「さっきから男子がこっちを睨みつけてる気がするんだけど、何かあったの?」

 

「あぁ、あれですか……」

 

 

 私が呼び出されたのは、丁度結衣先輩が他の友人に先輩との関係を聞き出されてる時だったので、結衣先輩は私が彼に呼び出されて告白されたなど知らないのだろう。私が戻ってきた時には結衣先輩も先輩たちと一緒だったが、別の用件で席を外していたと思っているのかもしれない。

 

「さっき告白されまして、ハッキリ断ったら逆恨みでもされたんじゃないですかね」

 

「随分とあっさりしてるし!? でも告白なんて、いろはちゃんやっぱりモテるんだね」

 

「不特定多数にモテても仕方ないですし」

 

「?」

 

 

 結衣先輩は私の言葉回しが理解できなかったようだが、先輩と戸塚先輩は私の真意に気付いているようだ。以前の私ならモテていることをステータスだと考えていたかもしれないが、今は違う。不特定多数よりもたった一人に想われていなければ意味が無いのだ。

 

「(葉山先輩を追い掛けてた時は、こんなこと考えてなかったかもしれないな)」

 

 

 あの時も不特定多数にモテていても嬉しくは無かったが、便利な相手がいることは悪いことじゃないと思っていた節がある。まぁ、今回の相手は都合よく動いてくれ無さそうだし、気にしなくてもいいかと思い素で振ったのだが。

 

「結衣さん、せっかくだからお酒でも飲みません? 校外にあるコンビニで買って」

 

「興味あるけど、お酒って怖いって聞くし……」

 

「大丈夫ですって。この子なんて二十歳になったら速攻で飲むとか言ってるくらいですから」

 

「うーん……」

 

 

 この中で成人しているのは結衣先輩を除くと戸塚先輩だけ。先輩もまだ誕生日が来ていないので未成年なので、お酒の怖さを知っているとすれば戸塚先輩だけ。そしてその戸塚先輩がお酒を飲んだらどうなったかを、先輩は知っているので結衣先輩にお酒を勧めようとはしていなかったのに……

 

「ヒッキー、どう思う?」

 

「お前の意思で飲む分には良いんじゃないか? だが、何かあっても俺は何もしないが」

 

「彩ちゃんは?」

 

「あ、あはは……僕はもう二度と飲まないって決めてるから」

 

「一回くらい飲んでみたいとは思うんだけど、今日は止めておこうかな。飲むなら誰かに迷惑を掛けないシチュエーションで飲みたいし」

 

「だったら先輩の誕生日に三人で飲んだらどうですかー? 私はさすがに未成年なので飲みませんが」

 

 

 先輩の誕生日は八月八日。思いっきり夏休み真っ最中なので家飲みなら誰かに迷惑を掛けることは無いだろう。

 

「ヒッキー、それでも良いかな?」

 

「えっと、僕も飲まなきゃダメ?」

 

「一色が何かあったら処理してくれるなら、俺はそれでも構わないが」

 

「それはさすがに遠慮します」

 

 

 戸塚先輩が酔っぱらったらどうなるか分からないし、結衣先輩や先輩もお酒に強いのか弱いのかも分からないのに、そんな責任を押し付けられても困るので、私は笑顔でその話題から逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結衣先輩の誕生日パーティーから一ヶ月くらいが過ぎたころ、何故か私の悪い噂が大学内で流れていた。ただ、全くの事実無根であると友人たちが噂を否定してくれていたお陰で、私の耳に入る前にその噂は収束していた。

 

「いろは、何か心当たりとか無い?」

 

「そう言われましても……以前結衣先輩の誕生日パーティーの際に告白してきた相手が逆恨みで流してたのかなー、くらいにしか心当たりは無いし、その男は別の女子と付き合ってるって聞いてますし、今更逆恨みで噂を流す必要も無さそうだし」

 

 

 見た目通りの陽キャだったようで、私に振られてすぐ別の女子と付き合い出したという噂が私の耳にも届いている。別に振った相手がすぐに別の相手と付き合ったからと言ってどうこう思うこともないので気にしていなかったのだが。

 

「ホント困るよね、こういう噂って」

 

「『一色いろはは他大学の男子と夜な夜な遊んでる』だっけ? そもそもいろはって男性恐怖症じゃなかったっけ?」

 

「多少は改善してるけど、まだちょっとね……」

 

 

 親しい友人には事情も説明しているので良いが、あまり大っぴらに話すことでもないので殆どの人は知らない。だからこの噂もそれなりに信じられていたのかもしれないが、別に気にすることでもないだろう。

 

「もしかして結衣先輩の誕生日パーティーの時に先輩か戸塚先輩に惚れた女子が私を貶めようとしてたのかな?」

 

「でも、いろはの株を落としたからといって、あの二人とお近づきになれるわけじゃないでしょ? むしろ遠ざかりそうだし」

 

「あの二人、かなりかっこよかったしね」

 

「戸塚先輩は兎も角、先輩はどうだろうね……多少は改善されてるけど、あの人の目の濁り方は尋常じゃなかったし」

 

「何々~? ヒッキーの話?」

 

「そういえば結衣さんもあの人たちのこと知ってるんですよね」

 

「むしろ私より知ってると思いますよ。同級生なんですから」

 

 

 私から二人の情報を聞こうとしていた友人たちの興味は結衣先輩に向いたので、私は噂の出所を考えることに。

 

「(気にしてなかったけど、知らぬ間に恨みを買っていたということだよね……しかし、どうやったらあんなデタラメな噂を流せるんだろうか)」

 

 

 私生活を知っているわけでもないのに、私が夜な夜な遊んでるとか、誰がそんなことを考えたのか。噂の出所よりも、そんな噂を考えついた頭の持ち主に、私は若干の興味を懐いた。




振られた腹いせはカッコ悪い

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