やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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猫サンタから読者の皆様にクリスマスプレゼント


高校生活の思い出

 ちょっと遠慮してたけども、先輩に勧められて先輩の手料理を口にして、私は小さくないダメージを負う。

 

「(私なんかよりよっぽど美味しい……)」

 

 

 家庭料理なら私だって作れる。というか、先輩以外なら勝てる自信がある。でも先輩の料理は豪華さはないけども堅実な味付けで、ちょっとしたアレンジも加えているのか普通とは少し違う美味しさがある。

 

「先輩、本当に主夫志望だったんですね」

 

「男の一人暮らしだからな。自然と出来るようになった感じだ」

 

「その理屈で言えば、三人も料理が出来てもおかしくない事になりませんか?」

 

 

 私が先輩から視線を三人に逸らすと、三人ともゆっくりと私から視線を逸らした。玉縄さんと材木座先輩は兎も角として、戸塚先輩も料理が苦手だというのはちょっと意外だ。見た目から一番料理が上手そうなのに。

 

「僕たちは良いんだ。僕たちは比企谷君に食費を払い、比企谷君は料理の腕を試せる。Win-Winの関係だからね」

 

「大して払ってねぇだろうがよ……確実にこっちの方が利益が少ない。というか、戸塚以外に食わせても嬉しくもなんともねぇよ」

 

「でも、こうして皆で集まると楽しいよね」

 

「そうだな」

 

「うわぁ……」

 

 

 相変わらずの戸塚先輩至上主義というか何と言うか……こんなに鮮やかな掌返しは滅多にお目にかかれないんじゃないかってくらいの速さで自分の意見を翻した先輩を、私は冷ややかな目で見つめる。

 

「さて、そろそろお暇するとしようか。部屋が隣のいろはちゃんは兎も角、僕たちはそういうわけにもいかないからね」

 

「そうだね。それじゃあ八幡、片付けは僕たちがやっておくよ」

 

「悪いな」

 

「何処か出かけるんですか?」

 

「バイトだよ」

 

「先輩がバイト? 先輩、何か悪い物でも食べたんじゃ……」

 

「お前、相変わらず失礼だな……」

 

 

 だってあの先輩が労働をするなんて、何か悪いものを食べた影響としか考えられないじゃないですか。と言いたかったけども、私はそれを声に出す事はしなかった。もう先輩と会わなくなって一年以上経っているのだから、先輩の中に変化が生じても不思議ではない――いや、それが普通だ。

 私だって先輩と会わなくなってから随分と変わったし、それ以外の人たちも日々変わっている。先輩だけが変化なく過ごしていたなんて思う方が間違いだ。

 

「それじゃあ戸塚、鍵は何時ものところにしまっておいてくれればいいから、後は頼んだ」

 

「うん、任せて」

 

 

 そう言い残して先輩は三人と私を残して部屋から出て行ってしまう。この時間からという事は、深夜バイトなのだろうと推測し、私も先輩と同じところで働けないかと想像して――慌てて頭をふる。

 

「どうかしたのかい?」

 

「な、何でもありません! それより、片付け手伝いますよ」

 

「一色さんは部屋の片づけがまだ残ってるんじゃない? ここは僕たちがやっておくから、一色さんは自分の部屋の片づけをしちゃいなよ」

 

「そ、そうですか? それじゃあ、戸塚先輩のお言葉に甘えて」

 

 

 正直それ程物を持ってきていないので、部屋の片づけはすぐに終わる程度だ。だが先輩がいないこの空間に留まる理由も無いので、私は戸塚先輩の提案に乗って隣の自分の部屋に退散する事にした。

 

「あっ、そう言えば一色さんが言ってた大学、由比ヶ浜さんと同じ場所じゃない?」

 

「えっ、結衣先輩とですか?」

 

「確かそんなメールが着てたような……ほら、やっぱり」

 

 

 戸塚先輩が見せてくれたメールには、確かに私が通う大学の名前が書かれている。でも少し気になるのは、メールの内容が『合格した!』というものなのに対して、メールが送られてきたのが最近……これはつまり……

 

「結衣先輩、浪人してたんですか?」

 

「そうみたいだね。八幡と一緒のところしか受けてなかったみたい」

 

「何と言うか……結衣先輩らしいですね」

 

 

 結衣先輩の成績で、先輩と同じところ、同じ学部しか受けないというのは無謀だ。恐らく周りの大人たちも必死になって止めただろうけども、どうやらその説得は無意味に終わったようだ。

 

「ということは、結衣先輩が同期生になるってことですか?」

 

「そうみたいだね。由比ヶ浜さんは一色さんが同じ大学だって知らないだろうから、会ったら驚くんじゃない?」

 

「どうですかね。浪人して高校の後輩と同期生になったなんて、周りに知られたくないんじゃないですか?」

 

 

 私だったら必死になって隠すだろうな。だって要するに、私が小町ちゃんと同期生になるということでしょ? 考えただけでも恥ずかしくて死にたくなる……生徒会長を二期務めて浪人とか、知られたら笑われるだけでは済まないだろうし。

 

「まぁ、向こうから話しかけて来たら、私も普通に付き合いますけどね」

 

「そうしてあげなよ。雪ノ下さんは留学しちゃってるし、海老名さんたちも千葉の大学に進学したはずだから、話せる相手がいないと思うし」

 

「えーでも結衣先輩ならすぐにお友達作れそうですけどね。そういう事は得意みたいでしたし」

 

 

 勉強ダメ、料理壊滅的に下手、空気読むのが苦手と、あまり良いイメージの無い結衣先輩だけども、友達作りは上手だった印象がある。まぁ、葉山先輩グループに入ってただけあって、人付き合いが上手でも不思議ではないのだけども、あの人の側にいたのが先輩と雪ノ下先輩だからな……そういう風に見えても不思議ではなかったのかもしれない。

 

「それじゃあ、結衣先輩が私に気付いたら戸塚先輩にお知らせします。アドレス聞いてもいいですか?」

 

「いいよー」

 

 

 気軽にアドレス交換に応じてくれた戸塚先輩。何だろう、私が女なのに、戸塚先輩に女子としての魅力に負けたような気が……

 言いようのない敗北感を抱きながら、私は隣の自分の部屋に戻る。引っ越してきたばかりで荷物が少ない部屋だけども、散らかっていないのでそのままでも構わないと思えるような状況だ。

 

「でも、一応片付けておかないと」

 

 

 先輩がこの部屋に来ることはないだろうけども、何時人を招いても問題が無いようにしておきたい。そんな考えが私の突き動かし、日付が変わる前には部屋の片づけは終わり、女の子の一人暮らしの部屋として恥ずかしくない光景になっていると思う。

 

「それにしても、まさか結衣先輩と同じ大学とはね……」

 

 

 完全な仲違いはしていないようだけども、先輩と結衣先輩ってまだ付き合いがあるのかな? 明日聞いてみようかな?

 先輩が隣で生活しているのだから、話を聞くチャンスはあるだろう。そう考えながら私は、携帯を開いて――何もせずに閉じる。今更ながら思ったけども、私って連絡する相手いなくない?

 

「いやいや、先輩じゃないんだから……クラスの中に居場所もあったし、生徒会メンバーと出かける事もあったし」

 

 

 でも、それだけだった。個人的に予定を合わせて出かけたのは、クリスマスイベントの時に参考になればという事で行ったディスティニーランドと、フリーペーパー作りという名目で先輩を連れ出したくらいしかないような……あれ? 私ってボッチだったの……? 三年になって何度かデートしたけども、あれだって別に楽しい思い出とかではないし……

 

「いやいや、そんな事ないはず。だってアドレス帳にはクラスメイトの殆どが登録されているし――連絡した事あったっけ?」

 

 

 殆どと言っても、交換しただけで一度も連絡をしたことが無い相手もいる――というか殆どそれだ。男子はすぐに交換してくれたけども、女子はあまり乗り気ではなかったような気も……一応付き合いで、って感じの人も多かった気がする……

 

「まぁ、同性から嫌われてたから、嫌がらせで生徒会長に立候補させられたんだけどもさ……」

 

 

 何だか気分が滅入ってきた気がする……高校では確かに入学してすぐに葉山先輩に取り入ろうとして近づき、同性にイラつかれたりしたけども、二年生になってからはそんな事は無かったはず。クラスメイトたちとも普通にお喋りしたり、出かけたりだって――

 

「……してない。教室で喋ったりはしたけども、放課後や休日にどこか出かけたって記憶が無い」

 

 

 二年に進学してからは先輩にちょっかいを出すので忙しかったのもあるので、誘われても行かなかったんだった……

 

「……先輩に付きまとっていた所為で、私は先輩のようにボッチになっていたなんて」

 

 

 今更ながらに自分の高校生活が寂しいものだったと気付き、私は誰もいない先輩の部屋に向かって文句を言ってやろうかと息を吸い込み――無駄だと思い吐き出す。

 

「こうなったら、先輩に責任を取ってもらわないと」

 

 

 私の高校生活が寂しいものになってしまったのは、間違いなく先輩に責任がある。全てとは言わないけども、半分くらいはあの先輩の所為だ。そう結論付けて、私は明日からまた先輩に付きまとってやろうと心に決め、明日が入学式だという事を思い出して慌ててベッドに潜り込んだのだった。




今年最後ーーにはしたくないな……頑張ってもう一話くらいやりたい
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