やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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戸塚なら十分あり得る


告白の内訳

 居心地の悪い雰囲気が漂っていた構内からファミレスに移動した私たちは、とりあえず注文を済ませてお喋るに興じることに。

 

「彩ちゃんもヒッキーも人気高いんだね~。今日改めて感じたよ」

 

「戸塚は兎も角、何で俺も?」

 

「八幡は自己評価低めだよね。ウチのサークル内でも八幡のことを気にしてる人って結構いるんだよ?」

 

「そんなこと言われてもな……」

 

 

 先輩はあまり恋愛に興味がないのか、人気があると言われても嬉しそうではない。まぁ、この人の場合は雪乃先輩や結衣先輩から好意を寄せられていたという実績があるから、そこらへんのモブじゃ満足できないのかもしれないけど。

 

「(じゃあ、私だったら?)」

 

 

 ふと、そんな疑問が頭を過る。私はこれでも可愛い部類に入る容姿をしていると自覚している。性格はまぁ、ご愛嬌ということで許してもらえる範囲だろうし、胸だって――

 

「? いろはちゃん、どうかしたの?」

 

「いえ、何でもないですよ」

 

 

――結衣先輩と比べる必要は無いのだろうけども、どうしてもその部分に視線が行ってしまう。まぁ、先輩はそこまで気にしてる感じでもないから、私も気にしなくて良いのかもしれないが……

 

「俺より戸塚の方が人気だろ? 今日だって何人に言い寄られてたんだ?」

 

「あ、あはは……見られてたんだ」

 

「あの面子で俺が話せるのは戸塚だけだからな。絡まれた時に戸塚の場所を把握しておかないとと思って探してたんだが、まさか数人に告白されてるとは思っていなかった」

 

「彩ちゃん、何人に告白されてたの?」

 

「私も気になります」

 

 

 考えを切り替える為に、私は無理矢理話題に乗ることに。戸塚先輩が告白されていようが興味は無いですが、複数人に告白されたという部分は少し気になったのだ。

 

「えっと……四人、かな……」

 

「どうして歯切れが悪いんですか? 戸塚先輩なら、何人に告白されたかちゃんと覚えてそうですし」

 

「一色、聞いてやるな……」

 

「先輩は戸塚先輩のキレが悪い理由、知ってるんですか?」

 

 

 私の肩を掴んで左右に首を振る先輩に事情を尋ねようとすると、戸塚先輩が言い難そうに視線を逸らし、意を決したのか説明してくれた。

 

「告白自体は六人からされたんだけど、二人は男の人だったから……告白された回数に入れていいのか分からなくて……」

 

「あっ……」

 

 

 戸塚先輩の容姿なら「そう言った趣味の男性」からのアプローチがあっても不思議ではない。もしかしたら戸塚先輩で目覚めたのかもしれないが、その辺を深く掘り下げる勇気は私には無い。

 

「彩ちゃん可愛いもんね~。女の子と間違われたのかもしれないし」

 

「い、一応男物のジャージを着てるんだけどな……」

 

「というか、更衣室で告白されてたんだから、女子と間違えてというわけじゃなさそうだよな……」

 

「あ、あはは……材木座君のサークルの女子たちの趣味の世界が、現実で起こるとは思ってなかったよ」

 

 

 材木座先輩の所属しているサークルというのは、所謂オタク趣味が集まっているものらしい。その中には海老名先輩のような趣味の女子も大勢いるとのことで、私は戸塚先輩が言った「趣味の世界」というのがどういうものかを理解し、顔を引きつらせることしかできなかった。

 

「えっと……先輩って戸塚先輩から頼まれると素直ですよね?」

 

 

 気まずい空気が流れたので、私は話題を変えようと先輩に話を振ったのだが、内容が思い付かなかったのでこのような質問をしたに過ぎない。だが聞きようによっては先輩が戸塚先輩のことを狙っているように聞こえると、言ってから気付いた。

 

「べ、別に変な意味で聞いてるんじゃなくて、私や結衣先輩が誘っても断ることがあるから、どうしてなのかなって気になっただけです」

 

「誘われてないから断っても無いだろ」

 

「そんなことないよ! ヒッキー、この前遊びに行こうって誘い断ったじゃん」

 

「予定があったから仕方ないだろ。というか由比ヶ浜、お前だってバイトするとか言ってなかったか?」

 

「なかなか良いバイトが無くて……」

 

「えり好みしてるから金欠なんじゃないのか?」

 

「うっ……」

 

 

 先輩に論破された結衣先輩はその場で沈没し、暫く浮上してこない感じになってしまう。

 

「そうそう、バイトと言えば先輩」

 

「何だ?」

 

「戻ってきてくれませんか? 先輩が抜けた穴が大きくて、オーナーも困ってるんですけど」

 

「まだ一ヶ月だろ? 入って早々の人間に何を期待してるんだ」

 

「そりゃ、先輩が即戦力過ぎたのがいけないんですよ? その後釜なんですから、期待されて当然です」

 

「そんなこと言われてもな……」

 

 

 先輩としたら、普通に仕事をしていただけなのだろう。だが周りから見れば、先輩は仕事ができる人という印象を与えるには十分すぎる成果を残していた。その後に入ってきた人が、可哀想なくらいの実力と結果を見せつけていたのだ。

 

「本当に困ったのならその内連絡は来るかもしれないが、今すぐ戻るのは無理だからと伝えておいてくれ」

 

「残念です……先輩がいてくれたら楽が――回転が速くて助かるのに」

 

「いや、本音隠せてねぇからな」

 

「あはは、八幡と一色さんは仲が良いよね」

 

「そうですか~? まぁ、こんなひねくれた先輩と仲良くしてる後輩女子は私だけでしたからね~」

 

「お前が一方的に絡んできただけだろ……」

 

 

 本当に嫌そうな顔をした先輩だが、この人が本気で嫌がっているのならそもそも話してもくれないだろう。つまり、先輩も心の何処かで私のことを受け容れてくれているんだろうと、私は良い方向に解釈しておいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先輩たちとお喋りしてから数日後、私たちの大学内では何故か、私と結衣先輩があの二人と付き合っているという噂が流れていた。まぁ、元々の知り合いということを知っている人たちの間では鼻で笑われるような内容だったのだが、交流の無い相手は嫉妬して私たちを睨みつけてくるということが多々ある。

 

「困りましたね」

 

「ねー……別にヒッキーや彩ちゃんとお付き合いしてるわけじゃないのに」

 

「直接聞いてくれれば否定できるんですが、何も聞かれてないのに否定してたら、逆に怪しまれますしね」

 

「あの二人の人気の高さを誤解してたよ……まさかここまでとは」

 

 

 結衣先輩も私と同じ考えの様で、私たちはあの二人がどれだけ注目されていたのか、正確に把握できていなかったのだろう。

 

「あっ、いろはと結衣さん」

 

「今構内で話題の二人の登場だね」

 

「からかわないでよ」

 

「ほんと、迷惑してるんだから」

 

 

 友人たちと合流しても、この様にからかわれてしまう。有名税と言えば聞こえはいいのかもしれないが、要はただの嫉妬から来る嫌がらせなのだから。

 

「まぁ、あの二人とお近づきにすらなれなかった人の内の誰かが流した、根も葉もない噂なんだし、その内消えると思うよ」

 

「そうだとしても、行く先々でひそひそと囁かれるのって、結構精神的に来るんだよ?」

 

「おまけに、結衣先輩は浪人生だってバレちゃいましたしね」

 

「別に隠してなかったけど、ハッキリと言われるのはちょっとね……」

 

 

 交流の無い同級生たちから結衣先輩はひそひそと「浪人生だ」と囁かれている。結衣先輩以外にも浪人生はいるのだろうが、結衣先輩は注目の的ということでそんなことになっているのだろう。

 

「いっそのこと本当に付き合っちゃえばいいんじゃない? あの二人だって、いろはや結衣さんから告白されれば嫌な顔はしないと思うんですけど」

 

「いやー、それもどうだろうね」

 

「あの二人ですしね……」

 

 

 戸塚先輩にはやんわりと断られそうだし、先輩には露骨に嫌な顔をされるであろう未来しか見えないのは、どうやら私だけではない様で、結衣先輩も引きつった笑みを浮かべている。

 

「手強そうな人たちだとは思うけど、そこまで二人が悲観的になる必要は無いんじゃない?」

 

「そうそう、ダメだったらダメだったで、噂の鎮火につながるだろうし」

 

「振られるダメージを負うくらいなら、噂が自然消滅するまで大人しくしてるって」

 

 

 なんとも思っていない相手なら兎も角、先輩に振られるのは私も結衣先輩もダメージが大きすぎて、再起不能になる可能性がある。なので私たちは、噂が収まるまで大人しくしておこうと頷きあったのだった。




嫉妬は醜いですよね
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