やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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ある意味一番近い相手ですし


適任な相談相手

 先輩との関係を考えると結衣先輩と話して数日、私は今までのように先輩の部屋を訪れることができず悶々と過ごしている。

 

「変に意識しちゃって気まずくなってるのが分かってるのに、どうすればいいのか分からない……」

 

 

 以前のような関係で良いと思えなくなってしまった以上、気軽に先輩の部屋に上がり込んでダラダラと過ごすなんて難しい。だが普通に話せると思っていたのにここまでになるとは……

 

「意識的に先輩に会わないようにしてるから仕方ないんだけどね……」

 

 

 先輩は何も変わっていないので、どう考えても先輩と話せないのは私の所為。先輩もさすがに不審がっているだろうけども、向こうから私の様子を窺うようなことはしていない。

 

「はぁ……」

 

「あれ、一色さん?」

 

「へ?」

 

 

 声を掛けられて振り返ると、戸塚先輩が笑顔で手を振っている。

 

「戸塚先輩、お久しぶりです」

 

「この間そっちの大学に行って以来だね。最近八幡の部屋に行ってないから会わなかったけど」

 

「何かあったんですか?」

 

「八幡が忙しそうだから遠慮してるんだよね。僕たちもそれなりに忙しくなってきたから、集まって何かするのはもうちょっと先まで無理って玉縄君も言ってたし」

 

「そうなんですね。最近隣の部屋からバカ騒ぎが聞こえなくなったなって思ってたんですけど、そういう事情が」

 

「そんなに騒がしかったかな?」

 

「主に玉縄さんと材木座先輩を怒る先輩の声が聞こえてくるくらいですから」

 

 

 その声も聴き耳を立てていなければ聞こえないくらいの声量だ。だが戸塚先輩は私が先輩の部屋での会話を盗み聞きしてるなんて露とも知らずに苦笑いを浮かべた。

 

「八幡は自分の部屋でも苦労してたからね……」

 

「ところで、戸塚先輩はこんなところで何を?」

 

「買い物の帰りだよ。一色さんこそどうしたの?」

 

「ちょっとぶらぶらしてました。考え事もしたかったので」

 

「考え事? 僕で良ければ相談に乗るけど」

 

「良いんですか? 戸塚先輩はこの後予定とか」

 

「特にないよ。今日はサークルも休みだったし時間が余っちゃってるんだよね」

 

 

 思わず見惚れてしまいそうな笑みを浮かべる戸塚先輩に、私は内心苦笑いを浮かべる。男性恐怖症の私でも戸塚先輩相手なら変に身構えなくて済むし、戸塚先輩に憧れている女子は多いだろうな、と。こんな所を見られていたら、また変な噂が流れそうだなー、と。そんな考えが過った。

 

「だったら相談しても良いですか? 先輩に近い戸塚先輩なら、何か解決策を授けてくれるかもしれませんし」

 

「一色さんの悩みって八幡のことだったんだ」

 

「あっ……」

 

 

 うっかり相談内容をバラしてしまったが、この人は他人に言いふらすような人ではないという信頼感があるからだろうと、私は自分の失敗を誤魔化す為にそう結論付ける。

 

「それじゃあ、何処か人の耳を気にしないような場所が良いよね。一色さん、男性が苦手だったし」

 

「そんなところありますかね?」

 

「この前八幡に教えてもらったお店が良いよ。内緒話をするにはちょうどいい感じだし」

 

 

 先輩が何故そんな場所を知っているのかとか、そんな場所に行って先輩と鉢合わせしないだろうかとか、いろいろと聞きたいことがあったが、戸塚先輩は私がそんなことを考えているなど思っていないのかすたすたと歩き始める。見た目からは想像できないが、やはり歩幅は男の人。私は少し駆け足で戸塚先輩の後に続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分程歩いたところで、戸塚先輩は一つのお店を指差す。恐らくそこが目的地のカフェなのだろうと思い外観を眺め、とても先輩が知っていそうなお店ではないと思ってしまう。

 

「先輩は何故ここを戸塚先輩に?」

 

「僕、サークルの男子からよく相談されるんだけど、何処か良い場所ないかなって八幡に聞いたらここを教えてくれたんだ。お客さんは多いけど、隣の席の会話が聞こえない程度には離れてるからって。八幡も外でレポート制作とかするときに利用するって」

 

「なる程」

 

 

 戸塚先輩がされる相談内容も気になったが、とりあえず今はそれを聞くためにここに来たわけではない。私の現状を打破する為には、戸塚先輩に頼るしかないのだ。先輩の一番近くにいるであろう戸塚先輩に。

 店に入り席に案内され、私はメニューに目を落としビックリする。コーヒーの種類もだが、デザートメニューも豊富で目移りしてしまったのだ。

 

「凄いよね。八幡はコーヒーしか頼まないらしいけど、僕はここのデザートも好きなんだ。だから利用してるって言うのもあるんだけど」

 

「美味しそうですしね」

 

 

 二人で注文を済ませ、物が運ばれてくるまでは雑談をし、店員が近づいてくる心配が無くなってから本題に入る。

 

「それで、一色さんと八幡、何かあったの?」

 

「何かあったというわけではなく、何も無いのが問題でして……」

 

「どういうこと?」

 

 

 私は少し逡巡したが、先輩とした会話を戸塚先輩にもすることに。もちろん、名前は伏せたのだが戸塚先輩にはバレバレだった。

 

「つまり、八幡が雪ノ下さんの告白を断った理由を聞いて、一色さんと由比ヶ浜さんが八幡との距離の取り方が分からなくなったってことで良いんだよね?」

 

「ぶっちゃけるとそうです」

 

 

 誰一人名前を出さなかったのにここまで正確にバレるとは……伊達に付き合いが長いわけではないのだろう。まぁ明らかに奉仕部だって分かるように話したので、これで分からなかったら期待外れだと思っただろうけども。

 

「確かにある日を境に奉仕部の関係がおかしくなったなって思ったけど、そういう事情があったんだね」

 

「戸塚先輩も聞いてなかったんですか?」

 

「聞いたけど『俺が悪いんだ』としか言ってくれなかったし」

 

「まぁ、先輩が悪いのかもしれませんが、先輩一人の所為ではないですよね」

 

 

 功を焦った雪乃先輩にも責任はあるだろうし、雪乃先輩が振られた後すぐにアタックしなかった結衣先輩も問題だと言えるかもしれない。二人に気を使って自分まで気まずくなる必要など無かったのだから。

 

「でも雪ノ下さんが振られた理由を聞いたからと言って、それで八幡との距離の取り方が分からなくなるっておかしくないかな? 理由はどうあれ二人は八幡が雪ノ下さんを振ったことは知っていた。共依存は八幡と雪ノ下さんに当てはまるだけで、一色さんや由比ヶ浜さんには関係ないよね? 少なくとも、アピールを控える理由にはならないと思うけど」

 

「先輩にどう思われているのかが不安になったといいますか……」

 

 

 私は振った理由だけでなく、雪乃先輩と結衣先輩のことを異性として見ていなかったということを聞かされたことも戸塚先輩に話す。

 

「なる程ね……それで、一色さんも急に不安になっちゃったんだね」

 

「前々から手のかかる妹って感じに思われてそうでしたし……」

 

 

 何度も妹ではないアピールはしていたのだが、ここ最近の私たちの関係は兄妹だと言えなくもないだろう。手のかかる妹の世話をしてくれる優しいお兄ちゃん、そう見えなくない光景だっただろうし。

 

「でも変に変えようとすると先輩と一緒にいられないような気がして……それでここ数日、意識的に先輩を避けてしまってるんですよね」

 

「女の子は大変なんだね。八幡は『最近見かけない』くらいしか思ってなかったみたいだけど、一応心配はしてる感じだった。でも一色さんはそんなことを考えていたなんてね」

 

「心配はしてくれていたんですか」

 

 

 思考の片隅には置いていてくれたようで安心したのと同時に、その程度にしか思ってくれていなかったのかと肩を落とす。

 

「まぁ僕から言えるのは、八幡だって何時までも彼女がいない現状を善しとしていないってことかな。新しく出会う相手より、旧知の相手の方が気が楽だって思うかもしれないしね」

 

「つまり、大学で知り合った相手より、私や結衣先輩の方が可能性があるってことですか?」

 

「無責任な言い方になっちゃうけど、僕にはそう見えるな。実際、大学外で会ってる異性って、そんなに多くないし」

 

「そう…ですよね! あの先輩が異性に積極的になるわけ無いですもんね! だったらこっちから行かないとどんどん距離が開いちゃいますよね!」

 

「アハハ……一色さん、声が大きいよ?」

 

 

 気合いが入り過ぎて大声になり立ち上がっていた私は、戸塚先輩に指摘されて急に恥ずかしくなり腰を下ろし顔を背ける。だがこれで方針は決まった。先輩相手にうだうだ考えても仕方が無い。私は今まで通りアピールを続けるだけだ。




盛り上がりに欠けた気もするな……
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