やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
もやもやとした気持ちで夜を過ごした所為か、若干寝不足ではあるが問題は無い。今日は先輩とお出かけの日。とはいえ二人きりではなく、意中の相手を自力で誘うことができない玉縄さんが、私たちを巻き込んで遊びに行くというだけなのだが、先輩と一緒ということに変わりはない。
「せーんぱい。そろそろ時間ですよ」
「分かってるっての……というか、さっさと合鍵を返せ!」
先輩の部屋には鍵がかかっていたのだが、私が持っている合鍵ですんなりと入ることができた。先輩からは返せと言われているけども、これは返したくない。
「良いじゃないですか。先輩が鍵を無くしちゃっても私が持ってれば安心ですよね?」
「管理人に頼めばいいだけだろうが」
「管理人さんと繋がりがあるんですか?」
「別にねぇけど」
「だったら、私が持ってた方が早いじゃないですか。先輩と繋がりがありますし」
何が何でも返したくなかったので、私は高校時代の先輩のような屁理屈をこねくりまくり、何とか合鍵を回収されずに済ました。
「というわけで、レッツゴーです」
「楽しそうだな……」
「はい! 先輩が一緒なら、言い寄ってくる男たちを気にしなくて済みますので。思う存分遊べるわけですから」
実際先輩が隣にいる時に声を掛けられることは無い。それは私たちが恋人同士に見えているのか、それとも私が先輩を頼りにしているのが周りに見え見えなのかは分からない。だが結果として先輩といれば男性恐怖症が発動しないということだけは確か。なのであれこれ理由を付けて先輩とお出かけする機会が増えているのだ。
「そろそろ玉縄のヤツにも文句を言っておかないとな」
「いい加減自分で折本さんを誘え、とか言うんですか?」
「まぁ、折本に相手にされないだろうって分かってるから俺たちを巻き込んでるんだろうけどもな」
どうやら先輩にも玉縄さんの目的はバレバレのようだ。それでも付き合ってあげる辺り、やはり人が良いのだろう。
「そんなこと言って、先輩だって誘われなかったら寂しいんじゃないんですかー?」
「え、なに? そんな風に思ってるように見える?」
「正直に答えても良いんですか?」
「止めて? その顔は止めて? なんか怖いから」
私が真顔で聞き返すと、先輩は慌てた風を装って断ってきた。以前似たような遣り取りをした記憶はあるが、先輩は意外と真顔で返すと弱いようだ。
「先輩、怖いので手を繋いで良いですか?」
「人が多いところに出ると全くダメだな、お前……」
駅が近くなってきたので先輩の手を掴んで怖さを誤魔化す。知り合いに見られたら勘違いされそうだけども、こればっかりは先輩にしか頼れない。もう少し、この関係は続けていこう。
待ち合わせ場所に到着すると、既に結衣先輩と戸塚先輩が待っていた。あの二人が一緒にいると絵になるのは以前から思っていたことだ。
「あっ、いろはちゃんにヒッキー、やっはろー!」
「おはようございます、結衣先輩」
「八幡、おはよう」
「おう」
私たちが挨拶を交わしながら合流すると、先輩が携帯を取り出してため息を吐いた。
「どうしたの?」
「材木座のヤツ、サークルの集まりが急に入ったからこっちはキャンセルだと」
「厨二さん、サークルのメンバーと仲良しなんだね」
「まぁ、同じ趣味の奴らが集まってるからな。こっちより居心地が良いんだろう」
そう言って先輩は私と結衣先輩を交互に見てもう一度ため息を吐いた。恐らく材木座先輩がこっちに来ない理由は私たちだと思っているのだろう。
「そういえば以前も材木座君が来れなくなったことあったよね」
「あの時はレポートを忘れてたんだっけか?」
「まぁ、玉縄君の目的は一人だけだろうから、彼女が来れば問題ないでしょう」
どうやら戸塚先輩もこの集まりの本当の目的に気付いているようだ。ただ結衣先輩は分かっていないようで、戸塚先輩の言葉に首を傾げる。
「彩ちゃん、どういうこと?」
「玉縄君の目的は僕たちと一緒に遊ぶことじゃなく、折本さんと一緒に出掛けたいってことだよ」
「自分一人で折本を誘う勇気がないから、由比ヶ浜に頼んだんだろ」
「でも私は彩ちゃんに誘われたから」
「だからそれも、玉縄さんが戸塚先輩を使って結衣先輩を誘い、結衣先輩が私や折本さんに声を掛けると想定してのことですよ」
私たちの説明で納得がいったのか、結衣先輩はなにかを考え始める。
「だったら、カオリンと玉縄君を二人きりにしてあげようよ。もし付き合えればそれでもいいし、カオリンに振られたらこれ以上巻き込まれなくても済むだろうし」
「あのヘタレが二人きりになったからといって告白するとは思えん。もしそんな行動力があるのなら、お前たちを巻き込んで出かける必要は無いだろうからな」
「何の話?」
結衣先輩の案を却下したタイミングで折本さんが到着。私たちを巻き込んだ張本人が一番最後ということになった。
「何でもない。というか折本、近い」
「気にし過ぎだって」
「カオリン、やっはろー」
「結衣ちゃんおはよー。いろはちゃんも」
「おはようございます」
折本さんは結衣先輩とは違い、現役で合格している為大学でも先輩。結衣先輩にもそれ程なれなれしくしているつもりは無いが、しっかりと挨拶しておかなければ。
「戸塚君も」
「おはよう、折本さん」
「相変わらず綺麗な肌してるよねー。羨ましい」
先輩から興味が戸塚先輩に移った折本さんは、戸塚先輩の肌をじろじろと見ている。確かに戸塚先輩の肌は綺麗だし、あれで男性だと言われても信じられない人が多そうだとは思ったこともある。
「ところで、玉縄のヤツはどうしたの? てっきり一番に来てると思ってたんだけど」
「知るわけないだろ。というか、何をするのか聞いてないんだが、今日って何をするんだ?」
「集まって遊ぶとしか聞いてないから、僕も知らないや」
どうやら誰も今日何をするのか知らないようで、私たちは言い出しっぺの到着を待つ事にした。しかし十五分後――
「腹を崩して行けないらしい」
――あまりにも遅いので先輩が電話を掛けると、死にそうな玉縄さんの声が聞こえてきた。
「じゃあ解散だな。俺は帰る」
「まぁまぁ八幡。せっかく集まったんだしどこかで遊んでいこうよ。由比ヶ浜さんたちも、それでいいよね?」
「私はヒッキーや彩ちゃんがそれでいいなら良いよ」
「あたしも。比企谷が休日に外出してるなんて、中学の友達が知ったらなんていうか」
「いや、以前も言ってませんでした、それ?」
昔の話をされると、私や結衣先輩は会話に入っていけない。高校時代なら折本さんより詳しいが、中学時代の先輩のことは知らない。いや、伝え聞いた限りで良ければ知っているが、実際に見てきた折本さんには勝てない。
「まだあの時のこと気にしてるの? ほんとにごめんって」
「気にしてねぇよ」
「何なら、今からでも付き合う? あたしは別に構わないけど」
「「っ!?」」
折本さんの言葉に、私と結衣先輩が同時に肩を跳ねさせる。もしかしたら先輩が折本さんとお付き合いしてしまうかもしれないと思ったからなのだが、先輩の答えは予想通りのものだった。
「付き合わねぇよ。そもそも、あの時は勘違いで告白して悪かったな」
「だよねー。あたしも、面白半分で比企谷のことをネタにしてゴメンね」
「八幡も折本さんも大人になったってことで、この話はおしまい。それじゃあどこ行こうか、八幡」
二人の会話が終わったタイミングで戸塚先輩が二人の間に入り話題を強引に変える。男同士だって分かっているのに、何故か戸塚先輩までライバルなのではないかと思ってしまう構図だ。
「あっ、せっかくだからあたしも名前で呼んでも良い? あたしのことも名前で呼んでいいから」
「何でだよ、嫌だよ」
「友達同士なら普通でしょ」
「女子のノリを男子にあてはめないでくれます?」
「でも戸塚君は比企谷のこと名前で呼んでるじゃん」
「戸塚は特別なんだよ」
そう言えば先輩のことを名前で呼んでるのって、戸塚先輩だけのような気が……あっ、もう一人いましたね。クリスマスイベントを手伝ってくれた女の子が、確か先輩のことを名前で……まぁ、会うことないから気にしなくても良いかもです。
なんだかんだで仲が良い二人