やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
言い出しっぺの玉縄さんが来れなくなったので、何をするのか相談しなければならなくなってしまった。とはいえこの面子で積極的に動くのは結衣先輩と折本さん、そして戸塚先輩だ。間違っても先輩が積極的に動くなんてことはない。
「それで、どうする? ウインドショッピングでもする?」
「でもそれだと集まってる意味無くない? もっと皆がいるときにしかできないことしようよ」
「でも由比ヶ浜さん、皆がいるときにしかできないことって? 映画はこの間行ったし」
このように三人が話しているのを、私と先輩は少し離れた場所で聞いている。
「お前も話し合いに参加してきたらどうだ?」
「どこに行くにしても、先輩が帰っちゃったら意味無いので。私は先輩の見張り役なんです」
「何だよそれ……さすがに黙って帰ったりしないって」
「ホントですかねー? 先輩は気配を消すのが上手ですし」
存在感が薄いのかもしれないが、人混みに紛れられたら見つけるのが難しい。ましてや私は男性に近づくのが怖いので尚更だ。
だから話し合い参加せずに先輩の見張りという安全地帯で目的が決まるのを待っているのだが、この人にはそのことが分かっていないようだ……
「というか先輩」
「何だ?」
「先輩が帰るなら私も一緒に帰りますからね? 黙って帰るなんて許しませんから」
「だから帰らないっての……どれだけ信用が無いんだか」
「普段の先輩は信用してますけど、こういう場面の先輩は信用できませんよ」
あえて笑顔で言うと、先輩は顔をしかめて頭を振る。集団行動が苦手だという私の言外に隠した本音は伝わったのだろう。
「ヒッキー、いろはちゃん、お待たせー」
「別に待ってない」
「まぁまぁ先輩、そんなこと言わずに。それで結衣先輩、何処に行くことになったんですかー?」
あえて語尾を伸ばして尋ねたので、若干馬鹿にしてる感じに聞こえる。先輩はそう感じた様だが、結衣先輩は気にした様子もなく答えてくれた。
「水族館に行こうって話になったよ」
「水族館? わざわざ人の多い場所に行くのかよ……」
「いいじゃないですか、行きましょうよ水族館」
先輩の腕を引っ張っておねだりする。かなり子供っぽい感じだか、私の行動を見た折本さんが悪のりして反対側の腕を掴んでおねだりを始めた。
「たまには良いじゃん。比企谷も付き合ってよ」
「二人で揺らすな! だいたい人が多いってことは一色、それだけ男も多いってことだぞ」
「さすがに水族館に男だけで来てるなんてことは無いでしょうから大丈夫なはずです」
「なら俺がいなくても平気だろうが」
私の言葉に勝機を見つけた先輩だったが、その程度で逃がす私ではない。
「移動の最中は分かりませんよね? それに、戸塚先輩だって許してくれませんよ?」
「比企谷も往生際が悪いよね。ここまで来たんだから最後まで付き合ってよ」
「分かったから二人で揺らすな!」
私と折本さんが交互に揺らしたお陰かは分からないけども、先輩は帰らないと言ってくれた。
「それじゃあ出発」
「てか二人ともズルいし! ヒッキーにくっつくなんて」
「結衣ちゃんもやってみる?」
「えっ、でももうヒッキーを揺らす必要無いし……」
先輩にくっつきたいけども理由がないのでくっつけない。見た目ビッチなのに純情な結衣先輩らしい感じに折本さんと二人で笑ってしまう。
「何で笑うし!?」
「いや、結衣ちゃんらしいなーって」
「てか、とっとと移動するならしようぜ。何時までもここでダラダラしてるのもあれだし」
「そうだね。それじゃあ行こうか」
いつの間にか私たちの間からすり抜けた先輩と戸塚先輩が二人で先に行ってしまう。私たちはその後を追い掛けるように移動し、電車の中では先輩にくっついていたお陰で安心して水族館へ向かうことができたのだった。
家族連れが多い中で私たちのようなグループは目立っちゃうのではないかと思ったが、意外とそうでもない。みんな水槽に注目しているからと言うのもあるが、意外と私たちみたいなグループもいるのだ。
「水族館なんて久しぶりだね」
「普段来るような場所でもないからな」
「八幡はあんまりこういった場所に出かけないもんね」
「一人で来る場所でもないしな」
水槽に夢中な私たちの後ろで、先輩と戸塚先輩が小声で会話をしている。何時もだったらまた二人で空気を作っていると思うのかもしれないが、今の状況では仕方が無いだろう。
「来るまではあまり乗り気じゃなかったけど、意外と楽しいんだね」
「だから言ったじゃん。来れば楽しめるって」
「結衣先輩、折本さん。そろそろ移動しましょうよ。先輩と戸塚先輩が引率みたいな立ち位置になっちゃってますし」
「「あっ……」」
私のように意識の半分を先輩に向けていたわけではなく、水槽に夢中だった二人は、完全に先輩と戸塚先輩のことを忘れていた様子。バツの悪そうな顔で二人に顔を向ける。
「ごめんごめん、つい夢中になっちゃって」
「別に構わないが、声のボリュームは気にした方が良いかもな」
「目立つまではいかないけど、ちょっと大きかったよね」
先輩と戸塚先輩に注意され、折本さんと結衣先輩はますますバツの悪そうな顔になる。
「ついテンションが上がっちゃってね……気を付ける」
「そろそろイルカのショーをやるらしいけど、見に行く?」
「俺はどっちでも」
「「行くっ!」」
「おっ、おぉ……」
食い気味の二人に気圧される先輩の図……何だか意外なものを見たような気も。
「それじゃあ行こうか」
「そうだな」
「八幡、疲れたなら休んでていいよ? 僕がしっかりと見ておくから」
「そうか? じゃあ頼む」
「一色さんは? 一緒に来る?」
既にイルカショーに意識が向いている折本さんと結衣先輩のお守りは戸塚先輩が、先輩は休憩するということで、私はどちらについていくか考える。
「(イルカも見たいですけど、先輩の側を離れるのは得策ではないですよね……この人のことですから、私たちがいないところでまたフラグ建設をしそうですし)」
この間もゼミの先輩に言い寄られていましたし、意外とモテるので心配なのだ。
「私も少し疲れたので休んでいます」
「分かった。それじゃあ八幡、終わったら迎えに来るから」
「悪いな」
折本さんと結衣先輩を連れて移動する戸塚先輩を見送り、私と先輩は休憩スペースに向かう。途中先輩がお茶を奢ってくれたので、それを飲みながらまったりとした空気を醸し出す。
「先輩、疲れる程はしゃいでなかったですよね?」
「あの二人の勢いに疲れた」
「あの二人ははしゃぎすぎですよね。二人ともいい大人なのに」
折本さんはまだだが、結衣先輩は成人を迎えている。まぁ見た目が幼い感じなので変ではなかったが、普通なら目立ってしまうだろうな。
「しかし、お前も良く付き合うよな。一人だけ年下だというのに」
「折本さんとは二ヵ月しか違いませんし、結衣先輩は同級生ですからね」
「そんなもんか?」
「はい。それに先輩もいますし」
この人がいれば安心して何処へでも出かけられる。それに意識している異性なので、集団だとしても一緒にお出かけできる機会を逃すわけにはいかないのだ。
「それを言うなら先輩だって、なんだかんだで付き合ってくれるじゃないですか」
「戸塚に頼まれると断れない……」
「やっぱり先輩は――」
「違うからな」
まぁ戸塚先輩にお願いされたら私だって断れないでしょうし、異性に免疫がない――戸塚先輩は男性だが――先輩が断れるはずが無い。
「そうですよねー、先輩はゼミの先輩にモテモテでしたしねー。もしかして、満更でもなかったんじゃないんですかー?」
「あの時にも言っただろ。気になる相手がいるのに付き合える程、俺は器用じゃないって」
「その気になる人って――」
誰、と聞こうとしたタイミングで、先輩に近づいてくる陰に気が付く。
「八幡?」
「……留美か?」
「うん、久しぶり」
「誰ですか?」
「クリスマスイベントで主役をやってくれた鶴見留美だ」
「……あぁ!」
この間思い出したのはこの子だった。まさかこんなところで再開するとは……まさか、あの思考がフラグだったのでしょうか。
建てたからには回収しないと