やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
この半年以上、先輩の側に居た年下キャラは私だけだったから気にしていなかったが、先輩は年下の扱いが上手いので、それなりに年下から慕われる。この間再会した鶴見留美さんが先輩に勉強を教わっているのを知り、私はなんとなく面白くない気持ちになってしまったのだ。
「(これって嫉妬なのかな……)」
別に年下に勉強を教えているだけなのだから気にする必要は無いのかもしれないけど、留美さんは先輩に特別な気持ちを懐いている様子。恋心ではないのだろうが、人のことを値踏みするような視線を向けられたことから、恐らく先輩の彼女に相応しいかどうかを見られていたのだろう。
「(留美さんからはどことなく雪乃先輩の雰囲気を感じたし、あの雪乃先輩が認めてただけあるのかな)」
自分と似ていると言っていたのを昔聞いたことがある。何処が似ているのかは分からなかったけども、確かに似たものを感じたのだ。
「ねぇねぇいろはちゃん」
「どうしたんですか、結衣先輩」
「さっきから何か考え込んでるようだったからどうしたのかなって思って」
「そんなに考え込んでました?」
「だってもう講義終わってるのに移動しようとしないから」
「え?」
結衣先輩に言われて漸く私は講義が終わっていたことに気が付く。確かあと半分くらい時間が残ってたような気がしたんだけども……
「あの、結衣先輩……」
「どうしたの?」
「後でノート見せてください」
「良いよ~」
留美さんに嫉妬していた所為で講義を半分聞き逃すなんて……別に私と先輩は特別な関係ではないのだから、あの人が誰とどのような付き合いをしていようが関係ないのに……
「(いや、私は先輩と『本物』の関係になりたいって願ってる)」
あの人が言う『本物』がどのようなものかは私には分からない。だが私が思う『本物』の関係になれるとしたら、あの人しかいないと確信している。だって、葉山先輩に懐いていた気持ちとは比べ物にならないくらい、私はあの先輩に執着しているから。
「そういえばこの大学もそろそろオープンキャンパスだね」
「もうそんな時期でしたっけ?」
「いろはちゃんは去年来たの?」
「一応は他のとこも行きましたけどもね」
先輩が何処の大学に通っているのか分からなかったので、目ぼしい大学のオープンキャンパスを覗き、自分の成績と相談してこの大学に決めたのだ。まさか大学でではなく、新居で先輩と再会するとは思っていなかったが。
「私たちは手伝いとか無いからどうしようか」
「あれ? 結衣先輩はお手伝いを頼まれていませんでしたっけ?」
「いろはちゃんがじゃなかっけ?」
「私でしたっけ?」
折本さんから「良かったら手伝って」と言われたのは覚えているが、それが私にだったのか結衣先輩にだったのかは忘れてしまった。
「カオリンに聞いてみるね」
結衣先輩がスマホを操作して折本さんへメッセージを送り、数分後に返答があった。
「出来れば両方にお願いしたいって」
「そうなんですか……」
せっかくの休みだから先輩にちょっかいでも出そうかなと思っていたのに、まさか手伝いが入ってしまうとは……
「まぁ、手伝いって言っても資料の配布とかだろうけどね」
「説明とかは折本さんたちがしてくれるでしょうし、本当にお手伝い程度なんでしょうね」
バイトもお休みだし、来年からは自分たちも作業をする立場になるのだからどんなことをするのか知っておいた方が良い。そう考えて私はその手伝いに参加することにしたのだった。
オープンキャンパス当日、私と結衣先輩は大量に用意されていた資料を研究室から割り振られている教室へ運んでいた。
「思ってた手伝いとちょっと違うんですけど……」
「こう言うのは男の人の仕事だと思うんだけどな」
「まぁ、折本さんが在籍してるゼミには男性がほとんどいないらしいですし、資料運びをするだけの余裕がある人もいなかったから仕方ないのかもしれませんけど」
文句を言いながらも結衣先輩と教室まで運び終えると、折本さんがペットボトルを差し出してきた。
「ありがとね。これ、教授から」
「何だか申し訳ありません」
「いいっていいって。本当ならあの人が運ぶべきなんだろうし」
「そんなこと言って良いの?」
「本人に聞かれなきゃ問題ないっしょ」
折本さんとそんなことを話していると、高校生たちが続々とやってきた。私たちは会話を切り上げて資料を配ることに専念し、折本さんは高校生たちに説明をしている。
「何だか懐かしいね、高校生って響き」
「私は去年まで普通にそう呼ばれてましたけどね」
「私はもう二年前だし」
そんな話をしていると、何だか見覚えのある女子高生がやってきた。
「小町ちゃんだ。やっはろー!」
「結衣さん! やっはろーです」
何と先輩の妹の小町さんがやってきたのだ。結衣先輩が小町さんと話していると、折本さんが不思議そうに近づいてきた。
「知り合い?」
「ヒッキーの妹さんだよ」
「比企谷の?」
「あ、どーも。比企谷八幡の妹の小町です。兄がお世話になっています」
小町さんが礼儀正しく一礼すると、折本さんもぎこちなくではあるが一礼を返した。
「ところで結衣さんといろはさんはこの大学に通ってるんですよね?」
「そだよー。訳あって同級生なんだけどね」
「結衣先輩……自分で浪人してたって言わなくても良かったのでは?」
「あはは……ところで小町ちゃんはヒッキーみたいにエリート大学には通わないの?」
「さすがにあそこまでの成績はありませんからね。無理して通っても楽しくないですし、私はお兄ちゃんのようにはなれそうにないですしね」
高校に入るまでは小町さんの方が優秀な感じだったようだが、どうやら先輩の方がスペックは上だったようだ。
「ところでこちらの方とお兄ちゃんの関係は?」
「中学の時の同級生」
「昔先輩を振ったんですよね?」
「その話は今言わなくてもいいでしょ」
「もしかして、折本さんですか?」
「知ってるの?」
「昔兄から聞き出しました。さすがに名前は教えてくれませんでしたが、そこらへんは頑張って調べました」
「そう」
小町さんが折本さんを睨みつけるような目をしているのが分かる。この人にこっ酷く振られた所為で、あの人の人間不信が加速したらしいし、妹の小町さんが折本さんを責めても文句は言えないだろう。
「結衣さん、この後時間あります? 少し話したいんですけど」
「大丈夫だよー。あっ、せっかくだからヒッキーの部屋にでも行く?」
「お兄ちゃんの部屋、知ってるんですか?」
「あれ? 小町ちゃんは知らないの?」
結衣先輩だけでなく、私も意外だと感じた。だって先輩はシスコンだし、小町さんに部屋の場所を教えていて当然だと思ってたから。
「父も母も教えてくれないんですよね。お兄ちゃんからは連絡もありませんし」
「そうなの? 高校の時から考えると、ヒッキーが妹離れするなんて思わなかったんだけど」
「受験に集中させる為に両親が連絡するなと言ってるようです」
「ヒッキーからいろいろと聞いてるけど、ご両親は随分と小町ちゃんに期待してるんだね。ヒッキーの時はそんなこと無かったって聞いたし」
「お兄ちゃんはただやる気が無くてゴミいちゃんだっただけで、やる気を出せば立派にできる人ですから」
事情を知らない人からすれば酷い言い草に聞こえなくはないが、小町さんのこれは一種の愛情表現だと私たちは知っている。先輩は間違いなくシスコンだが、小町さんも十分ブラコンなのだろう。
「それじゃあサテライトしようか」
「サテライト?」
「結衣先輩、サプライズです」
「し、知ってるし。冗談だから」
どうやら本気で間違えたようで、結衣先輩は早口で話題を変える。
「ヒッキーお盆休みにも帰ってないから、小町ちゃんも会うの久しぶりなんでしょ?」
「そうですね。お正月にも帰ってきてないから、もう一年くらい会ってないですね」
「ヒッキー、本当に帰ってなかったんだ」
「これも両親が圧を掛けていたからかと。私の邪魔をしないようにって」
「でもヒッキーなら小町ちゃんに勉強を教えられるんじゃないの? なんて言ってもエリート大学の法学部に通ってるんだし」
「両親のお兄ちゃんの記憶は、高校時代で止まってるようです」
「そうなんだ」
無関心なんだなと私は感じたが、結衣先輩は気にした様子はない。別に蔑ろにされているわけではないのだろうが、先輩の実家に先輩の居場所は今は無いのかと、私は少し先輩に同情したのだった。
遂に小町登場