やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
デート当日。私は大事なことを決めていなかったことを思い出し、朝早くから先輩にメッセージを送ることに。
「朝十時に駅で待ち合わせですよ、っと」
せっかくのデートなのに待ち合わせ時間も場所も決めていなかったのだ。隣に住んでいるんだから待ち合わせなどしなくてもいいって考えがあったのだろうけども、デートなのだからそれくらいしておきたい。
「おっと返信が」
『わざわざ待ち合わせる意味が解らん。というか、あれって冗談じゃなかったのか?』
先輩は割と効率主義なところがあるので、やっぱり待ち合わせの意味を尋ねてきたし、出かけるのを嫌がっている。ここまできて往生際の悪い人ですね。
「『こんな可愛い後輩とお出かけできるんですから、諦めてください』っと」
先輩にとって私はただの後輩でしかない。だから無理矢理決められた予定に付き合う必要は無いのだろうけども、ここで逃げられるのは面白くない。これ以上ごねるのなら部屋に乗り込んで無理矢理連れ出そう。
『自分で可愛いって言うなよな……まぁ、本気なら仕方が無いな』
「なんだかんだで付き合い良いんですよね……」
私が乗り込もうとしているのが分かったのかは定かではないが、先輩は必要以上にごねることもなくお出かけしてくれることに。本気で嫌ならそもそも誘った時に断ってただろうし、先輩も私とお出かけすることを楽しみにしてくれているのかもって、ありもしないことを考えてみたり。
「先輩が想ってるのは雪乃先輩だろうし……」
あれだけ罵倒されていたにも拘わらず雪乃先輩の夢を応援できるんだから、異性として意識しているに違いない。私は先輩の想い人が誰なのかを確かめる勇気も無く、そう決めつけている。だってもし先輩に聞いてしまったら、ただの横恋慕になってしまうって分かってるから……
「聞かなければ……知らなければ……」
自分に言い聞かすようにそう繰り返し、私はデート用の服を選ぶ。おふざけでデート紛いなことならしたことはあるけども、今日は完全にデートなのだ。少しでも異性だと意識してもらう為にも、できる限り可愛らしい恰好をしていきたいのだが――
「そんな服なんて持ってないんだった……」
――普段とあまり変わらないラインナップしか持ち合わせていない自分に絶望する。誘ってから日にちがあったんだから、それくらい用意しておけよ、と。あれだけ意気込んでいたんだから、当日の朝までそんなことに気付けないなんて、本気じゃなかったのではないか、と。私は自分自身に愚痴を抱きながらも、その中で一番可愛いと思われそうな服を探す。
「先輩のことだから、目一杯おしゃれしたとしても気付かないかもしれないけど……」
どうでも良いことにはよく気づく人だが、異性の変化なんて気付かないだろう。だって女性の扱いに長けているとはどうしても思えないし、思いたくない。あの人はそんなことに縁がない人生を送ってきたんだって、そう思いたい。
「あっ、先輩からメッセージ」
服選びに集中していたから気付けなかったが、先輩からメッセージが着ていた。私は慌てて携帯を操作すると。
「『待ち合わせは分かったが、お前、一人で駅まで行けるのか?』……そのことを忘れてた」
駅に行くのだから当然人が大勢いるだろう。ましてや今日は土曜日、休みの人だっていれば、仕事で駅を利用する人だって普段程ではないがいる。その中には当然男性だっているだろう。私はまだ大勢の男性がいる場所に出かけるのが怖く、先輩と一緒に出掛けたり結衣先輩や事情を知っている友人に付き合ってもらって漸く出かけられるレベルなのだ。
「大学には何とか通えるけど、あれは何とか自分を誤魔化してだし……」
誰も私になんて興味がないと言い聞かせながら大学に通っているので、到着したらかなり疲れていることが多い。時間が合えば友達に部屋まで来てもらったりもするし、先輩と出かける時間が合えば駅まで付き合ってもらったりと、何とかして駅に行っている私が、一人で駅に向かうなんて考えただけで足がすくんでしまう。
「でも、せっかくのデートだし……」
デートは待ち合わせからしたいって思うし、以前は先輩を少し待たせてしまったから今回はって気持ちがあるのかもしれない。
『だ、大丈夫です。それよりも先輩、デートなんですからちゃんとした服装で来てくださいね?』
強がりだとバレバレな文面だが、とりあえずこれで待ち合わせができる。私はできるだけ可愛い服を選んで着替え、先輩が出かける前に部屋を出ることに。これで待たされたら大変なことになりそうだと思いつつ、先輩ならそれ程遅れてくることは無いだろうなと思っている。
「その方面では信頼度高いからな……」
高校時代無理矢理約束を取り付けたりした際も、文句を言いながらも付き合ってくれた人だ。まさか来ないなんてことはしないだろうと思いながら、私は駅までの道を恐る恐るながらも一人で歩いたのだった。
待ち合わせ時間五分前に駅に到着したのだが、やはり先輩の姿はない。そりゃ先輩が部屋にいるのを確認して家を出たのだから、私より先に先輩が駅にいるわけ無いのだが。
「でもやっぱり、先輩には先にいて欲しかったかもしれない」
待たせたら悪いなと思いつつ、デートなのだから男性には先に到着していてもらいたいなんて思いも懐いてしまっている。
「とりあえず、何処か目立つところで――」
「一色」
「っ! 先輩、ビックリするから背後から声を掛けないでくださいよ」
先輩を待とうと思って数秒でその人が現れたので、私は多少驚きつつも振り返って先輩を確認する。それ程おしゃれをしているわけではないが、高校時代と比べればだいぶ大人っぽい恰好をしている。
「先輩、せっかくのデートなのに普段とあまり変わらないじゃないですか」
「そんな機会も無かったからな。それ用の服なんて持っていない」
「相変わらず寂しい人生を送ってきたんですね。まぁ、今日はこのいろはちゃんが先輩とデートしてあげますから」
先輩がデートと縁がないことをしれて嬉しいくせに、私の口から出てくるのは悪態ばかり。こんなことをしてもこの人に嫌われることは無いと分かっているからなのか、それとも私が素直になれない性格なのかは分からないけども、先輩相手だとどうしても本音とは違うことばかり言ってしまう。
「そういうお前だって普段とあまり変わらない恰好だろ? その服、着てるの何回か見たことあるし」
「何で私の服を記憶してるんですか? もしかして普段からそういう目で見てたんですか?」
「隣で生活してるんだ。嫌でも目にするだろうが」
「そうですかねー? 意識して見てないと記憶なんてしないと思うんですけど」
先輩が私のことを意識してくれているのかと勘違いしそうだけども、この人は他人に興味なさそうで意外と相手のことを見ているので勘違いしてはいけない。
「とりあえずそう言うことにしておいてあげますね」
「勝手にしろ……」
「それじゃあ先輩、何処に行きましょうか?」
「は? そう言うのはお前が決めてたんじゃないのか?」
「何言ってるんですか。デートですよ、デート? 目的地は先輩が決めるに決まってるじゃないですか」
「そんな決まりなんて知らん。そもそもお前が半ば強引に決めた予定だろうが」
「そんなこと言ってるからモテないんですよ? まぁ先輩にそんなことを期待しても無駄だって分かってたので、今日はいろはちゃんがエスコートしてあげますね」
「いちいち癇に障るやつだな……」
「そんなの、高校時代からじゃないですか」
先輩の腕に自分の腕を絡め、私は改札に向かう。私の力では先輩を引っ張ることなどできないはずなのに、私の足はすんなりと改札まで進む。つまり先輩が私に付き合ってくれているのだと、私は内心大はしゃぎしたい気持ちを押さえつつ、平静を装って先輩の顔を覗き見る。
「(特に意識してる様子はなし……もうちょっと押し付けてみようかな?)」
これ以上露骨だと振り解かれそうだけど、全くの無反応と言うのも面白くない気が……だがあまり積極的だとまたビッチだと言われそうだし……
そんなことを悶々と考えているなど知らないだろう先輩は、私の横を黙って歩いている。もう少し意識してくれているって思えたら、こんなことで悩まなくてもいいのにな……
八幡が考えてるわけなよな