やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
先輩の手を引いて改札を通ったが、さすがにホームについたら解かれてしまった。周りの目もあるので仕方が無いと分かってはいるのだが、少し残念。
「それで、何処に行くんだ?」
「先輩の服でも買いに行こうかなーって思いまして」
「俺の?」
心底意外そうな表情で私を見る先輩。普段なら私の買い物に付き合わせるパターンなのでそう思われてしまっても仕方が無いけども、そこまで意外そうにしなくてもいいんじゃないでしょうか。
「せっかくのデートなので、記念にです」
「なんの記念なんだか……」
先輩にとってはデートと言うより私の我が儘に付き合ってる度合いが強いのだろうが、私にとっては正真正銘、嘘偽りなく先輩とのデート記念なのだ。ちなみに、高校時代のアレは、半分仕事だったので今日が初デートという扱いになる。
「先輩はもうちょっと女の子の扱いを勉強した方が良いですよ? 妹扱いばかりじゃ、モテないですから」
「別に妹扱いした覚えはないんだがな……」
「先輩にそのつもりが無くても、妹扱いされてるように感じるんです、私は」
「分かったから大声を出すな。周りから変な目で見られてるぞ」
「変な目で見られるのなんて慣れっこなんじゃないんですか?」
「いや、お前が見られてるんだって……」
本気で呆れてるような表情で私にツッコミを入れ、頭を抑える先輩。やっぱりお兄ちゃんが妹にするように感じてしまう仕草をしている。私、お兄ちゃんいないけど。
「兎に角電車が来たから乗るぞ」
「そうですね。何時までも駅で先輩と漫才してるわけにもいきませんしね」
「漫才をしてた覚えはない」
「まぁまぁ、先輩なら出ただけで笑ってもらえる顔してますから」
「お前な……」
また呆れられてしまいましたが、先輩があからさまに意識してくれているのでこれはこれで善いものだと思おう。ちゃんと私のことは妹じゃないって分かってるので、本気で異性として見ていないこともないのだろうし。
「高校時代から数えて、お前と出かけるのは何回目だ?」
「どうでしょうね? 結構みんなで出かけたりもしましたし、お手伝いってことで一緒に帰ったりもしてましたから」
「手伝いというか、半強制だっただろうが」
「そんなことないですよ~。というか、先輩たちの部活を考えれば、あれはお手伝いじゃなくて部活動なんじゃないですか?」
「そもそも俺は自分の意志で入部したわけじゃないんだが」
「今更そんなこと言って文句を言われてもどうしようもありませんよ。あっ、だったら私が代わりに先輩にご奉仕しましょうか?」
「いらん。というか、周りに勘違いされるように誘導するな」
先輩は私の意図に気付いたようだけども、『ご奉仕』と言われればどのように感じるか、想像するのは難しくない。私がメイドなら普通の意味に取られるだろうが、私と先輩はどっからどう見ても従者と主ではないので「そういった感じ」に考えてしまうのも仕方が無いだろう。
「先輩は変なところで真面目ですよね」
「お前にはそう言われっぱなしだな」
「だって、どっからどう見ても不良学生っぽかったのに、意外と仕事はできますし、細かいことによく気が付きますし」
実際私が無事に生徒会長を務められたのは、先輩のサポートがあったからだと言って差し支えないだろう。だって、私一人だったら問題に直面した時点で諦めていただろうし。
「というか先輩」
「何だよ」
「せっかくのデートなのに、会話がそれらしくありません!」
「仕方ないだろ。実際に付き合ってるわけじゃないんだから。日常会話の延長程度しか話せないだろ?」
「そこはもうちょっと頑張ってくださいよ。こんなに可愛い後輩と休日デートなんですよ?」
「はいはい可愛い可愛い」
「心が篭ってないです!」
おざなりに言われたけども、先輩に可愛いと言ってもらえるのは嬉しい。これをしっかりとした場面で言ってもらえたら、私はどうなるか分からないくらいに。
「というか、お前は異性に『可愛い』だなんて、言われ慣れてるんじゃないのか?」
「そんな風に見えます? 先輩は私の素の部分、よく知ってますよね?」
「よくって程知ってるつもりはねぇけどな」
一部の頭の悪そうな男子からはもてはやされていたけども、その反面で私のことを悪く言う男子も大勢いた。いや、男子以外に女子もか……そうでなければ、嫌がらせで立候補なんてさせられなかっただろうし。
「(そういえば、私の素を知ってもしっかりと付き合ってくれた人は、先輩が初めてかもしれない)」
中学時代は勝手に私のことをアイドル扱いして、素の私を知って絶望した男子もいたくらいだったので、高校では素の部分を知られないようにしようとしていた。だがその所為で嫌がらせの対象になり、他に候補者のいない選挙に立候補させられてしまったのだ。
その時に前任の生徒会長と一緒に職員室に相談しに行って、奉仕部にたどり着いたのだ。あれが無かったら、私と先輩との間に接点は無かったのかもしれない。
「(今更ながら、私に嫌がらせをした奴らには感謝しなければいけないのかもしれない)」
あの嫌がらせのお陰で、私は先輩との接点を持てた。その後も生徒会長にした責任を取ってもらうという名目で先輩に仕事を手伝ってもらえた。葉山先輩との関係をどうにかするのにも、この先輩は手を貸してくれた――手というよりかは知恵かもしれないけど。
普通それ程仲良くない後輩の恋愛相談など乗らないだろう。ましてこの人は中学時代に勘違いから告白し、それを周りに言いふらされるという異性にトラウマ級の思い出があるのにも拘わらず。
「一色?」
「ねぇ先輩」
「何だ」
「今日だけ……今日だけで良いので、私のことを名前で呼んでください」
「いきなりなんだよ……」
「だって、デートなんですよ? 今日だけは、先輩に名前で呼んでほしいです」
どうでもいい相手なら、ここで上目遣いでもしてあざとくアピールするのだが、先輩に対してそれは使えない。たとえ使えたとしても使わなかっただろう。だってこれは、紛れもなく『本物』の気持ちだから。
「ダメ…ですか……?」
「……はぁ、今日だけだからな」
普段なら「あざとい」と言われて終わっただろうが、先輩は私が冗談やからかいで頼んでいるのではないというのに気付いて、私の気持ちを汲んでくれた。
「本当ですか!? やっぱり無しはダメですからね?」
「分かったって」
「じゃあ、呼んでみてください」
せっかく先輩に名前で呼んでもらえるというのに、この人はテキトーにはぐらかして終わりにしてしまうと私の勘が働いたので、早速最速する。
「……いろは」
「はい!」
以前部屋で呼んでもらったことはあったけども、こうして真剣な目で先輩に名前を呼んでもらったのは初めてだ。この人は、自分がどんな顔をしているのか分かっていないだろうけども。
「前にも言ったが、異性を名前呼びなんて俺にはハードルが高いんだが」
「でも、鶴見留美さんのことは名前で呼んでましたよね?」
「留美はそう呼ばないと反応しなかったからな。お前とか、そういう呼ばれ方は嫌だと言われたし、苗字も嫌そうだったから」
「やっぱり先輩は年下好きなんですか?」
「そんなつもりは無いんだがな」
「でも、小町ちゃんも然り、留美さんも然り、先輩が甘やかしてる相手って年下女子ですよね?」
「別に甘やかしてるつもりは無いんだがな」
その中に私も入っているのかもしれませんが、あの面子だと絶対に妹扱いになってしまうので自分の名前は出さなかった。私は先輩に妹扱いしてもらいたいわけではないから。
「というか一色」
「………」
「いろは」
「何ですか?」
「何処で下りるんだ?」
「えっ? あっ……」
先輩に言われるまで気付かなかったが、目的の駅は既に通り過ぎていた。先輩との関係を進展させるのに必死で、目的地を忘れるとは……何たる不覚。
「とりあえず、次で下りましょう。そして、逆方向の電車に乗り直しです」
「しっかりしてくれ……」
思いっきり呆れられてしまったけども、少しでも先輩と長く二人きりでいたいって思ってたんですから、もうちょっと乙女心を理解してくださいよね
浮かれすぎです