やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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だいぶデートっぽく……ならないな


次の催促

 まさか目的地を通り過ぎてしまうとは思わなかったが、無事に先輩をコーディネートすることはできた。先輩本人はあまり興味なさそうでしたけども、この人は普段ちゃんとしていないだけで、磨けばカッコいい部類に入る人だ。店員さんがやたら先輩に視線を向けていたのは、業務上の興味だけではなかっただろう。

 

「先輩、これからはその服を基準に考えてくださいね?」

 

「めんどい……着られれば何でもいいだろ」

 

「ダメです! 先輩はやる気を出せば立派な人間になれるんですから、服装でもやる気を出してください」

 

 

 そして私の隣に――などと言えるはずもない。異性にフラれるのはかなり堪えるということは、葉山先輩にフラれた時に学習している。まして今回は本気で好きになった相手。フラれると分かっているのに特攻なんてできるはずもない。

 私が何かを言いたげな表情をしていたのに気付いたのか、先輩はなにか探るような視線を向けてきているが、それが何なのか分からない様で追及はしてこなかった。

 

「それで、この後はどうするんだ?」

 

「どっかでご飯を食べましょうよ」

 

「それじゃあそこのファミレスで――」

 

「却下。先輩、今はデートなんですよ? 高校時代でも嫌がられたんですよね? 大学生にもなってデートでファミレスって」

 

「何なんだよ……」

 

 

 以前結衣先輩から聞いたことがある。偶々私が遭遇したあの日、先輩は折本さんたちにファミレスをバカにされたと。

 

「(まぁ、お金があるわけでもないですから、ファミレスでも良いんですけど)」

 

 

 せっかく先輩とデートだというのに、普段から行ける場所と言うのはいただけない。こういう時にしか行けないような場所に行ってみたいと思うのは仕方が無いだろう。

 

「先輩、あの店にしましょう」

 

「えぇ……」

 

「あの店のカップル限定メニューを注文すれば、少しはデートだという自覚が出てくるのでは?」

 

「そんな自覚出てこなくていいって……」

 

「ほら、いい加減覚悟を決めてくださいって」

 

 

 体格差があるので私の力では先輩を引きずっていけるわけがないのだが、暫く引っ張っていると先輩は諦めたように引きずられてくれる。

 

「漸く諦めてくれたんですね」

 

「周囲の目がな……」

 

「?」

 

 

 先輩に言われて周りを見回すと、生温かい目を向けてくる人や、嫉妬の感情が篭った視線を突きさしてくる人など、さまざまな思いをぶつけてきていた。先輩に集中していたからとはいえ、これ程の視線を向けられて気付けないとは……

 

「私たちって、どんな風に見られているんですかね?」

 

「我が儘な後輩に振り回される可哀想な先輩」

 

「何ですかそれー! ひねくれた先輩を更生させる健気な後輩でしょうが!」

 

 

 本当なら恋人同士と言いたかったが、そんな風には見られていないのは分かっている。どう見ても私が先輩に我が儘を言っているような光景にしか見えなかっただろうし、先輩には私に対する好意の情が感じられない。それも合わさって、お世辞にも恋人と言える雰囲気ではなかっただろうし。

 

「というか一色」

 

「………」

 

「いろは」

 

「何ですか?」

 

「本当にこの店に入るのか? 正気で?」

 

「ここまできて怖気づくのは無しですって」

 

 

 確かに店内にはラブラブなカップルが大勢見受けられる。普段なら舌打ちしそうな空気が漂っているけども、今だけは私だってその空気の中に突撃できる――はず。

 先輩を伴って店内に入ると、早速他のカップルたちがイチャイチャしているのが目に入ってきて思わず後退る。だが、ここで引くわけにはいかない。

 

「先輩、顔が引きつってますよ」

 

「いろはこそ、目が笑ってないぞ」

 

 

 自分で入ると言った手前今更無しとは言えない。だが想像以上にこの空間は居心地が悪いのだ。多少目に殺気が宿ってしまっても仕方が無いだろう。

 

「とりあえず食事を済ませてさっさと出るぞ。この場所は精神衛生上宜しくない」

 

「そうですね。とりあえずカップル限定メニューを注文して、さっさと食べてしまいましょう」

 

 

 先輩が自然に名前を呼んでくれたことで、私の殺意はとりあえず収まっていく。この程度で懐柔されるとは何とも安っぽい女だなと思いつつ、地獄のような空間でも先輩がいてくれればとりあえず大丈夫だと思えるくらいにはなれるのかと感心してしまう。自分のことなのに……

 

「えっと……これって食べさせあえということなのか?」

 

「妙にお箸もスプーンも長いですし、そういうことなんでしょうね……」

 

 

 所謂「あーん」というやつをやれということなのだろう。今更ながら、こんな頭の悪そうな店に入ろうなんて提案した自分を殴り飛ばしたい衝動に駆られつつも、看病以外で先輩に食べさせてもらえる機会など無いだろうという気持ちを懐いている自分もいる。

 

「先輩からお願いします」

 

「お、おぉ……」

 

 

 この後何とも恥ずかしい空気になりながらも、何とかデザートまで完食し、お会計を済ませて店から逃げ出す。割り勘かなと思っていたけども、先輩が払ってくれたのはデートぽかったけども、これからは入るお店はしっかりと見て決めようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきの食事の所為で微妙な空気になりつつも、私は先輩と一緒にゲーセンへ入った。思う存分遊びたいとかではなく、さっきのイライラをどうにかして解消できないかと考えての選択である。

 

「先輩、格ゲーしましょう」

 

「ヴァーチャルで人を殴ろうとするな」

 

「だって!」

 

「いろはが入るって言ったんだろうが」

 

「そうですけど……」

 

 

 あそこまで居心地が悪いとは思っていなかったのだ。自分から提案したので仕方なく突撃したが、そこで強がらずに逃げ出せばよかったと後悔しているのだ。

 その後悔を見抜いているのか、先輩は私の頭を撫でながら私の気持ちを宥めようとしてくれている。これも妹扱いっぽいけども、これはこれで悪い気分ではないので抵抗はしていない。

 

「とりあえず落ち着きました。先輩、すみませんでした」

 

「落ち着いてくれて良かった」

 

「そもそも私、格ゲーなんてしたこと無かったですし」

 

「なら何で――って、そんなにストレスが溜まってたのか」

 

「そりゃあんな空気に中てられた誰でもイライラするでしょうが」

 

 

 自分たちもバカップルなら気にならなかったのだろうが、私と先輩の関係はあくまでも先輩後輩。そんな空気を醸し出すことなどできはしないのだ。

 

「先輩が撫でてくれたお陰で、とりあえず殺意は収まりました」

 

「物騒なことを言うやつだな……」

 

「先輩がもう少し私のことを彼女扱いしてくれていれば、あそこまでイラつかなったでしょうけども」

 

「だったらちゃんと彼女扱いしてくれる相手を探せよな……」

 

「それなんですよねー。ほら、私って男性恐怖症じゃないですか?」

 

「同意を求めるな」

 

 

 確認の形をとっているが、圧力を掛けているのがバレバレなので先輩は私を押し返す。距離が開いてしまって残念だが、ここであからさまに詰め寄れるのは結衣先輩くらいだろう。

 

「先輩以外の男性とこんなことできないでしょうから、当面は先輩で満足しておこうかなーって」

 

「戸塚は大丈夫だったじゃないか」

 

「それじゃあ先輩は、戸塚先輩がこんなことに付き合ってくれるとでも?」

 

 

 あの人はあの人で忙しい人だ。態々知り合い程度の後輩の気まぐれに付き合ってくれる程暇ではないだろう。

 

「分かってるなら俺にも遠慮してもらいたいんだが?」

 

「先輩はほら、私をこんな風にした『責任』があるわけですし」

 

「まだ言うのかよ……もう十分生徒会長にした責任は果たしただろうが」

 

「それだけじゃないですけど……」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないでーす」

 

 

 聞こえない程度に言ったので先輩は聞き取れなかったようだ。私が先輩以外の異性がダメになってしまったのは、絶体絶命の場面から救ってもらったからだけではなく、先輩の気持ちの一部を聞いてしまったからでもあるのだ。この人が、あんなことを考えているなんて、考えても見なかったから。

 

「とりあえず、今度は先輩がデートプランを考えてくださいね?」

 

「今度があるのかよ……」

 

「何なら、お持ち帰りしてくれても良いですよ?」

 

「部屋、隣だろうが」

 

「そう言うことじゃないですって」

 

 

 本気でそんなことをされたら怖かったかもしれないけど、この人がそんなことをしないという確信があったから言える冗談。私は笑顔で先輩の肩を叩きながら、本気にされなくて良かったと心の中でホッと息を吐いたのだった。




八幡はお持ち帰りしないだろうな
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