やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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ライバルでいいのか?


最大のライバル?

 クリスマスイブ当日、先輩はお昼から夜にかけてバイトを掛け持ちするので不在だが、先輩の部屋でパーティーをするのでその準備の為に夕方から戸塚先輩たちがやって来る。本来であれば先輩の部屋の合鍵は戸塚先輩が知っている場所に置いてあるのだが、今は私が持っているので戸塚先輩にメッセージを送っておいた。

 他の男の人であれば邪推されそうな内容のメッセージを送ったのだが、戸塚先輩は純粋に私が先輩から鍵を預かっているのだろうと受け取ってくれた。

 

「何か罪悪感……」

 

 

 純粋な戸塚先輩を騙している気がしてきて、私は心の中で戸塚先輩に謝罪する。

 

「そもそもクリスマスイブにバイトなんてしてる先輩が悪いってことにしておきましょう」

 

 

 先輩が在宅であれば合鍵の問題も無く、私が戸塚先輩に嘘を吐く必要も無かった。そんな責任転嫁をして自分を誤魔化してみたが、やはり罪悪感は薄れなかった。

 

「私が先輩に合鍵を返せば丸く収まるんでしょうけども……」

 

 

 せっかく手に入れた先輩の部屋の合鍵を返すなんて考えたくない。先輩からは再三「返せ」と言われているのだが、本気で怒られていないので返していない。もし先輩が本気で「返せ」と言ってきたら素直に返すのだが、あの人はなんだかんだで私が合鍵を持っていることを許容してくれているのだ。

 

「でも、どうして?」

 

 

 ふとそんな疑問が私の中に芽生える。男性の先輩が女子の私から鍵を取り返すなんて難しいことではない。まして私は男性恐怖症である前に小柄なので、先輩が本気になれば簡単に鍵を取り返すことができるだろう。

 それなのに鍵は私の手の中にある。これはつまり、先輩が本気で鍵を取り返そうとしていないということなのだろう。

 先輩は私のことをある程度信用してくれているので、鍵を預けたままでも問題ないと思ってくれているのかもしれないが、もしかしたら別の理由があるのではないか。そんな期待をしてしまう。それが幻想だと分かっているのに、私は鍵を見て浮かれてしまう。

 

「先輩が私のことを想ってくれているなんて、あり得ないことだって分かってるんだけどな……」

 

 

 先輩の心の中にいるのは私ではなく雪乃先輩だ。これは結衣先輩に聞いても同じことを答えるだろう。それくらい雪乃先輩の存在はあの人の中で大きいのだろう。

 だが雪乃先輩は今葉山先輩とお付き合いしているらしい。家の都合とはいえ雪乃先輩が別の男性とお付き合いしている今、先輩の中に私という存在を大きくするチャンスではないか。

 

「とりあえず妹扱いは脱却しなきゃ、先なんてありませんけどね」

 

 

 普通に考えて妹は異性として見ないだろう。つまり妹扱いされている内は異性として見られていないということ。高校時代冗談で妹扱いする男は――なんて話をしたことがありましたが、あの人の中の妹は完全に異性とは違う対象だということが分かっている。

 

「はぁ……」

 

 

 思わずため息を吐いてしまったが、そろそろ戸塚先輩がやって来る時間だと気付き慌てて心を落ち着かせる。戸塚先輩は私の気持ちを知らないが、あの人は鈍くないのでモヤモヤした気持ちで対峙したらすぐに悩み事があると見抜かれてしまう。そうしたら誤魔化せる自信が無いし、そこから先輩に私の気持ちが知られてしまうかもしれない。

 一瞬それもいいかもしれないと思ったが、どうせなら自分の気持ちは自分でちゃんと伝えたい。たとえそれが叶わぬ想いだとしてもだ。

 

「よしっ!」

 

 

 目一杯伸びをして気合いを入れ、私は部屋の前に出る。戸塚先輩のことだから約束の時間に遅れる時はちゃんと連絡してくるだろう。そう思って五分前に部屋に出たのだが、私が出てすぐに戸塚先輩がやってきた。

 

「お待たせ」

 

「いえ、私も今出てきたところですので」

 

 

 嘘偽りなく本音なのだが、何だか待ち合わせのカップルのような気がしてきて恥ずかしい。私はその気持ちを誤魔化す為に先輩の部屋の合鍵を出し、戸塚先輩を先輩の部屋へ案内したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戸塚先輩と準備をしていると、玉縄さんと材木座先輩がやってきた。そもそもこの面子では料理ができる人間がいないので、出来合いの物を持ち寄るだけなのでさほど準備など必要ないのだ。

 

「やぁ、いろはちゃん」

 

「お久しぶりです」

 

 

 相変わらず人のことを勝手に名前で呼ぶ人ですね……もしはっきりと言って良いのならこの場で文句を言いたいくらいです。ですけど、今日という日を考えれば、この場で険悪な空気にするのは避けなきゃいけないですよね……何しろ、私が後から参加してるわけですから。

 

「八幡はそろそろ帰ってくると思うから、とりあえず部屋で待ってようよ」

 

「そうだね。比企谷は最近付き合いが悪くて困ってるんだ。戸塚君はどうだい?」

 

「八幡はいろいろと忙しいからね。僕もサークルの手伝いを頼みにくくなってるって先輩から愚痴られるくらいだよ」

 

「我もなかなか八幡に頼みごとをし辛くてな。最近は相手にしてくれなくて困っていたところだ」

 

 

 戸塚先輩は兎も角として、先輩が玉縄さんや材木座先輩の相手をまともにするとは考え難い。腐れ縁ということでお付き合いは続いているようだけども、先輩の中で優先度は低いんだろうな。

 

「いろはちゃんは、最近比企谷とどうだい?」

 

「どうって言われましても、先輩は忙しそうだなーって感じですかね」

 

 

 私と先輩の関係は、あくまで隣人。高校の先輩後輩でしかない。そこに特別な関係があるとでも思っているのでしょうか、この人は……

 

「ところで、三人はクリスマスイブにデートする相手、いないんですか?」

 

 

 完全なる嫌がらせの質問だが、玉縄さんを黙らせるのには抜群の効果があった。最初から興味のない材木座先輩は兎も角、戸塚先輩もちょっと顔を引きつらせている。

 

「いたら比企谷の部屋に集まろうなんてしないよね」

 

「ま、まぁ……僕はテニスサークルの方でも誘われてたんだけど、せっかく八幡と遊べる機会が来たからこっちを選んだんだ」

 

「我は三次元のイベントになぞ興味なかったが、八幡といられるから参加した」

 

「えぇ……」

 

 

 内容だけ聞けば戸塚先輩と材木座先輩は先輩狙いと聞こえなくもない。だがこの二人は純粋に先輩と会えていなかったから会いたかったという気持ちなのだろう……そも思っておかないと平静を保てない。

 

「いろはちゃんこそ、わざわざこっちに参加しなくてもお誘いがあったんじゃないかい?」

 

「ありましたけど、下心むき出しで誘われても嬉しくないですし、かといって女子だけで集まるのも寂しいですからねー。先輩の部屋でクリスマスパーティーするって結衣先輩から聞いて、せっかくなら参加させてもらおうって思ったんですよ」

 

「まぁ、一色さんがいてくれれば華やかになるだろうし、八幡も許可してるんだしね」

 

 

 先輩は最初難色を示していたのだが、私が本気でお願いしたので参加を許可してくれたのだ。というか、そもそも先輩はクリスマスパーティー自体に難色を示していたのだが、そこは戸塚先輩パワーでどうにかしたようだ。

 

「それにしても、いろはちゃんと再会してもう結構経つんだね」

 

「そうですね。私が引っ越してきた日に再会したわけですから、もう結構経ってますね」

 

「まさか八幡の隣の部屋に一色さんが引っ越してきたとはね。前から誰か引っ越してくるとは聞いてたんだけどさ」

 

「私もまさか自分の部屋の隣に先輩が暮らしてるなんて思っても見ませんでしたよ。運命ですかね?」

 

 

 冗談のように言っているが、私としては運命でも良いと思っている。先輩からしたら運命(doom)だとしても私からしてみたら運命(destiny)だ。このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

「比企谷といろはちゃんは赤い糸で結ばれているのかい?」

 

「どうなんですかねー? あんな捻くれた人とつながってる人なんているんですかね?」

 

「確かに八幡は捻くれてるけど、それだけじゃないって一色さんも知ってるよね?」

 

「そう、ですね……」

 

 

 何となく戸塚先輩から圧が掛けられたので、私は少し引き気味に答える。やはりこの人は先輩のことを好きなのだろうな――いろいろな意味で。

 

「うわ、ほんとにいるよ……」

 

「先輩、お帰りなさい」

 

 

 私が戸塚先輩に対して気まずさを感じてるタイミングで先輩が帰ってきた。私はそそくさと先輩の出迎えに向かい、戸塚先輩も私に向けていた圧を消してくれた。ほんと、ナイスタイミングです、先輩。




戸塚が怒ったら怖そう……
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