やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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手伝ってもらえれば力強いこと間違いなし


援護射撃の申し出

 先輩が帰ってきたので私はすかさず先輩の腕を掴み自分の隣に座らせる。この人のことだから自由に座らせたら戸塚先輩の隣に座るだろうし。

 

「先輩、遅かったですね」

 

「そうか? まぁ食材とか買ってきたからな」

 

「八幡は用意しなくていいって言ったんだけどな」

 

「そういうわけにもいかないだろ? 玉縄や材木座は兎も角、戸塚や一色はいろいろと準備したみたいだし」

 

「おい、僕だって準備したぞ」

 

 

 玉縄さんの抗議をまるっと無視して、先輩は座ったばかりだというのに立ち上がりキッチンへ消えていく。この面子で料理ができるのは先輩だけなので仕方が無いかもしれないけど、もう少し私の隣にいてくれても良かったのではないだろうか。

 

「とりあえず比企谷の準備が終わったら乾杯と行こうか」

 

「全員ジュースなんですね」

 

「悪酔いするかもしれないだろ? いろはちゃんもいるから止めとけと比企谷に言われてね」

 

「そうなんですか?」

 

 

 私はキッチンにいる先輩に声を掛けると、先輩は無言で頷いた。恐らく私がいなくてもお酒は許可しなかったかもしれないけど、こうした気遣いは本当に嬉しい。些細なことでも先輩が私のことを考えてくれているから。

 

「それじゃあ比企谷の準備も終わったことだし、ここはいろはちゃんに音頭をお願いしようかな」

 

「私ですか? 玉縄さんがすればいいじゃないですか」

 

 

 何で私に振るのか分からない。はっきり言って玉縄さんに面倒事を押し付けられた気がして、私は無愛想な表情で反射的に答えてしまう。

 

「まぁ、僕が音頭を取るよりいろはちゃんが音頭を取った方が盛り上がるかなと思っただけだから」

 

「盛り上がるも何も、別に普通で良いだろ。何時も通り、ただ集まっただけみたいな感じで」

 

「でもせっかくのクリスマスなんだし――」

 

「だったらいい加減折本に告白して恋人と過ごせばいいだろ。何時までもヘタレてないでいい加減覚悟を決めれば良いものを」

 

 

 先輩にバッサリと斬り捨てられ、玉縄さんはガックシと肩を落とす。ここまではっきり言われたらさすがの玉縄さんも反論出来なかったのだろう。

 

「恋人と言えば八幡。以前我が偶々見てしまった女子からの告白はどうしたのだ? 確か保留にしてたはずだが」

 

「っ!?」

 

 

 材木座先輩の言葉に肩を跳ねさせる。先輩がモテているのは知っていたが、私が知らないところで告白されていたとは……

 

「とっくに断ったに決まってるだろ。あの時はお前がいたから保留にしただけで、その場で断るつもりだったんだから」

 

「そうなのか? 我が言うのもなんだが、結構可愛い感じだったではないか」

 

「良く知らない相手に告白されても困るだろ?」

 

「そうなのか?」

 

 

 先輩の発言に、材木座先輩と玉縄さんは首を傾げ、戸塚先輩は苦笑いを浮かべる。多分だが、戸塚先輩は経験したことがあるから先輩の考えが理解でき、他の二人は経験がないから分からないのだろう。

 

「そういえば八幡は気になってる人がいるからっていう理由で断ってるんだよね」

 

「それが一番角が立たない断り方だからな」

 

 

 実際先輩が誰かを想っているかどうかは分からないけども、確かにそう言われればあきらめがつくかもしれない。

 

「だが比企谷が誰かを好きになることなんてあるのか? それ程付き合いが長いわけではないけど、恋愛に興味があるようには見えないんだが」

 

「興味はないが、何時までも独りで生きるつもりもない。タイミングが合えば誰かと付き合うこともあるだろうよ」

 

「まぁ先輩は中学時代のトラウマから人間不信になってましたからね」

 

 

 折本さんに関するトラウマの所為で、先輩は人からの好意に疑いを持つようになってしまっている。今でこそ多少は素直に受け入れられるようにはなっているようだが、それでも全面的に人を――もっと言えば異性を信用していない。

 

「人のトラウマのことを弄る余裕があるなら、お前も自分のトラウマと向き合ったらどうだ? いい加減俺以外の大丈夫な相手を探せ」

 

「探してはいるんですけど、先輩程使いやすい――安心できる相手ってなかなかいないんですよね」

 

「本音を隠すつもりもないだろ、お前……」

 

「普段から本音で話してるじゃないですか。先輩大好きって」

 

「はいはい」

 

 

 全く以て信じてくれていないようだが、これは紛れもない本心だ。だが一度たりとも正面から受け止めてもらえたことが無い。

 こればっかりは私も悪いのだが、先輩への好意を素直に伝えられなかったから冗談だと思われてしまうのだ。

 

「(冗談じゃないんだけどな……)」

 

 

 異性に対するトラウマ云々が無くても、私は先輩以外の男性を好きになることは無いだろう。高校の時から今まで、先輩のことが好きと自覚してから他の男子のことなど考えられなかった。それこそ、葉山先輩に付きまとっていた時以上にだ。まぁ、あの恋は本気ではなかったと言えばそうなのだが、それでも結構本気でフラれた時は悲しかったくらいには思い入れがあったものだ。

 

「八幡も戸塚殿もモテるようだが、恋人など作られたら我も誘いにくくなるからな。暫くは恋人など作らないで欲しい」

 

「お前の為ではないが、当分は付き合うつもりは無いから安心しろ」

 

「僕も、とりあえずは恋人は作らないつもりだよ」

 

 

 材木座先輩の願いを叶えるつもりではないのだろうが、先輩も戸塚先輩も恋人を作るつもりは無いらしい。それはつまり私も先輩と付き合えないということなのだが、先輩が誰かと付き合わないと分かって安心してしまった。

 

「(当分はそれで良いのかもしれない)」

 

 

 先に進めないということなのだが、先が無くなるよりかは全然いい。だから私はとりあえず先輩に恋人ができるまではこの関係を続けたいと願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度の盛り上がりはあったけども、特にこれといった進展は無かった。だが先輩が誰かと付き合うつもりは無いと分かっただけでも収穫だと思おう。

 

「一色さん、ちょっといいかな?」

 

「はい、何ですか?」

 

 

 戸塚先輩に手招きされ、私は先輩の部屋から外へ出る。

 

「さっきの告白だけど、結構本気だよね?」

 

「な、ナンノコトデスカ?」

 

 

 戸塚先輩に確信を突かれて、思わず片言になってしまった。

 

「隠さなくてもいいって。僕は一色さんの気持ちを知ってるわけだから」

 

「そうでしたね」

 

 

 以前雪乃先輩関係の話を聞いた時、戸塚先輩に相談したのだ。その時に具体的な名前は伏せたのだが、戸塚先輩には全部知られてしまったのだった。

 

「確かに私は先輩のことが本気で好きです。高校の時は冗談で告白したりもしましたけど、さっきのは正真正銘本心でした。でも先輩には冗談だと思われちゃったみたいですけど」

 

「まぁ、八幡も色々と捻くれちゃってるから仕方ないけど、それでも一色さんのことはちゃんと考えていると僕は思うよ」

 

「そうなんですか? 何時までも妹扱いのような気がしますけど」

 

 

 小町ちゃんと比べればそうでもないのかもしれないけど、どうしても妹扱いされている気分が拭えない。デートしていても彼女扱いしてくれないので、先輩は私に興味がないと思っていたのだが、戸塚先輩から見たら私は先輩に想われているように見えるようだ。

 

「妹扱いかもしれないけど、八幡がちゃんと女の子の相手をするのは珍しいからね。サークルの女子も必要最低限以外の会話はしてないから」

 

「まぁ、先輩ですからね」

 

 

 必要以上の相手はしないのが先輩だ。つまり先輩にとって、私は必要な相手ということなのだろう。

 

「もし一色さんが本気で八幡と付き合うつもりがあるなら、僕は応援するからね」

 

「ありがとうございます。でも戸塚先輩にはあくまでも公平な立場でいて欲しいんですよね」

 

「公平な立場?」

 

「結衣先輩も、先輩のことが好きですから。恐らく私以上に」

 

「あぁ、由比ヶ浜さんもそうだったね」

 

「はい。だから戸塚先輩はどちらかに加担せず、あくまでも公平にお願いします」

 

「うん、わかったよ」

 

 

 戸塚先輩に手伝ってもらえれば多少は楽ができるかもしれなかったが、結衣先輩相手に抜け駆けしたくないので、戸塚先輩の申し出は断った。この選択が正しかったかどうかは、私の行動次第なのだろう。




あくまで公平に勝負するいろは
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