やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
先輩と腕を組み、先輩と一緒にプレゼントを選ぶ。これだけ見れば私と先輩が付き合っているように思えるが、私はまだ答えを得ていない。
「(先輩は私のことをどう思っているんですか?)」
声にすればすべてが終わってしまうかもしれない言葉が、私の中で何度も繰り返される。私にもう少し勇気があれば聞くことができるのかもしれないが、そのもう少しが私には無い。だからこうして恋人ごっこで満足しているのだ。
「いろは、本当にさっきのでいいのか?」
「十分ですよ。まさか本当に買ってくれるとは思っていませんでしたので」
「人を引っ張ってきておいて酷い言い草だな……買うと言ったんだから買うに決まってるだろ」
「ほんと、そういう所律義ですよねー」
高校時代から感じていたことだが、この人は付き合いのある人には律義だ。一見するとそう見えないから勘違いされてしまうのかもしれないけど、一度責任を負ったものに関しては最後までやり通す。たとえその所為で自分が悪者になってしまうとしても、この人はそれをやり通すのだ。
私が生徒会長になった原因の一端でもあるので、私は散々先輩に仕事を手伝ってもらうよう仕向け、先輩は私がわざとそうしていると分かっていながらも手伝ってくれた。
「別に律義とか、そう言う理由で買ったわけじゃねぇけど」
「何か言いました?」
「何でもない。それで、もう帰っていいのか?」
「ダメですよ。今日は特に用事もないんですから、もっとデートを楽しみましょう」
「夜からバイトだっての……」
こういう日だからこそ、先輩はシフトを入れているのだろう。他の人が休みたがる日だからこそ、自分がとでも思っているのだろうか。もちろん、先輩に聞けばそんなことないって答えるでしょうけども。
「ところで先輩、さっきの質問ですけど――」
さっきは誤魔化したが、今度はちゃんと尋ねようと思ったのだが、またしてもタイミングが悪かったようだ。
「あっ、ヒッキーといろはちゃん。やっはろー!」
「結衣先輩……」
「由比ヶ浜か。こんなところで何してるんだ? 迷子か?」
「迷子じゃないし! てかヒッキー、私のこと幾つだと思ってるの?」
雪乃先輩の呪縛から解放されたと思っていたのに、今度はもう一人の呪縛である結衣先輩と遭遇。これはもう呪いの類いなのかもしれない。
「冗談だ。それで、何してるんだ?」
「ママとお買い物に来てたんだけど、ちょっと時間がかかってるから私はぶらぶらしてたんだー」
「結衣先輩とお母さんって仲良いですよね」
ウチもそこまで悪くはないのだろうが、結衣先輩と比べると霞んでしまう。私の方が普通だと思うのだけども、少し羨ましいと思ってしまうのはないものねだりなのだろうか。
「仲良いよー。さっきも姉妹に間違われてママが大喜びしてたし」
「まぁ、あのお母さんならそんなこともあるのかもしれませんね」
結衣先輩のお母さんと言うのだから、若く見積もっても四十前後。なのにその見た目は十分結衣先輩のお姉さんで通用するくらいなのだ。
「それで、二人は何してるの?」
「先輩に買い物に付き合ってもらってるんですよ。ほら私、異性がダメじゃないですか」
チクリと胸に痛みが走る。半分は本当のことだが、結衣先輩の前で堂々とデートと言えないのが悔しい。
「そうなんだ。腕組んでるからてっきりデートなのかと思っちゃった」
「あっ」
先輩と腕を組んでいるのをすっかり忘れていたので、結衣先輩に指摘されて私の顔に赤みがさす。別に結衣先輩に遠慮する必要は無いのに、どうしてもこの人を出し抜きたいと思いきれないのだ。
「こうしてれば一色に声を掛けてくる阿呆がいなくて済むだろ。リスク回避の一環だ」
「へー、ラスク回避」
「リスクな」
「知ってるし! 冗談だし!」
「結衣先輩……」
その反応は知らなかったと言っているようなものだが、私も先輩もそのことにツッコミは入れなかった。だって、事実は分かり切っているから。
「結衣、お待たせー」
「ママ!」
「あら、いろはちゃんにヒッキー君じゃない。お久しぶりー」
「お久しぶりです」
「ども」
手を振りながら私たちに挨拶してきた結衣先輩のお母さんに、私は丁寧に、先輩は会釈で応える。
「二人は付き合ってるの?」
「いえ、そう言う関係ではないです」
「そうなの? じゃあこの後一緒にご飯でもどう? せっかくの再会だから、ママが奢ってあげるわよ」
「一緒に食事は構いませんが、自分の分とコイツの分は俺が出します」
「えー、遠慮しなくていいのに」
どうやら結衣先輩のお母さんも先輩のことを気に入っているようで、先輩に遠慮されて不満そうに頬を膨らませている。とても成人女性の母親とは思えない行動だが、この人がやると絵になるのは何故なのだろう……やはり、先輩が言うように遺伝子の凄さなのだろうか……
「まぁ、一緒にご飯が食べられるだけでも善しとしましょう。それじゃあ、レッツゴー!」
「おー!」
「先輩、この母娘って……」
「いうな。それがこの人たちの為だ」
「そうですね……」
一緒にいるのが恥ずかしくなるようなテンションで前を進む二人を見ながら、そんなことを先輩と話すのだった。
由比ヶ浜母娘との食事は、想像以上に楽しいものだった。私が結衣先輩に対して懐いている負い目に気付いているのかは分からないが、お母さんはそのことに触れることなく楽しい会話になるようにしてくれた。
「こんどヒッキー君も千葉に帰ってきた時は遊びに来てねー。ちゃんとパパがいない日に招待するから」
「ママっ!」
「なんだったら、ママもお出かけするわよ?」
「そう言うの止めてって言ってるでしょ!」
「いやーん!」
「あ、あはは……」
とても母娘の会話とは思えないが、この二人にとっては普通なのだろう。そう思っておかないといろいろと大変だ。
「(先輩、何とかしてくださいよ)」
盛り上がる母娘を見ながら、私は小声でそう先輩に助けを求める。ついでに脇腹も小突いておく。
「お誘いはありがたいですが、当分は千葉に帰る予定はないですね。年末年始は小町も追い込みでしょうから」
「小町ちゃんの学力なら、そこまで必死にならなくても大丈夫だと思うんだけどな」
「結衣が言っても説得力に欠けると思うわよ?」
「そんなこと無いし! 単位ちゃんと取ってるもん」
「結構ギリギリじゃなかったでしたっけ?」
結衣先輩の前期の単位は、不可は無かったがとても褒められた成績では無かった。私も自慢できる程ではないけど、それでも結衣先輩よりかはだいぶマシだと思えるくらいに。
「分かってるとは思うけど、留年なんてしたらパパに怒られるわよ?」
「分かってるって……実家に帰ってこいとか言われそう」
「それって――」
怒ってるんじゃないのでは? と言おうとしたが、先輩のアイコンタクトで寸でのところ呑み込む。由比ヶ浜家ではそれが怒ってることになるのだろう。
「そういえばヒッキーのご両親ってみたことないかも」
「何だいきなり……」
「ゆきのんのお母さんは見たことあるから、ヒッキーのも見たことある気でいたのに気付いてさ」
「滅多にいないからな。一緒の家で生活していた俺ですら、まともに会った記憶がないくらいだ」
「大袈裟じゃない?」
そう言えば先輩の食事の準備は妹の小町さんがしていたとか聞いたことがある。そう言う面から考えれば、先輩が誇張しているとは考え難いのだが、まともに会わないとも思えない。
「立派な社畜だからな。家にいるより仕事場にいる時間の方が圧倒的に長いだろう」
「先輩にもその素質はありそうですけどね。部屋でも家庭教師の仕事してる時ありますし」
「こっちも追い込みだからな。志望校に合格できるよう最大限手助けをしなければいけないだろ」
「どうして自分のこと以外では真面目なんですかね、先輩って」
「そんなことないだろ」
「ヒッキーは昔から自分のことは後回しだとは思うよ」
私からだけではなく結衣先輩にも言われ、先輩は反論するのを止めた。これ以上反論して高校時代の黒歴史をほじくり返されるのを避けたのだろうが、それでも私は先輩に勝った気分に浸れたのだった。
結衣の成績はな……