やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
先輩と一緒に年を越す。去年の私だったら考えられないような展開だが、二人きりだからと言ってこの人が私に手を出してくることはない。むしろ私が先輩に手を出したい。
「ねぇ先輩」
「なんだ?」
「せっかく二人きりだっていうのに、何なんですかねこの落ち着きようは」
「知るか」
私は今、先輩が淹れてくれたお茶を飲みながらのんびりテレビを観ている。別に先輩の部屋じゃなくてもできることだが、先輩が隣にいるということが重要なのだ。
「先輩はお参りとか行くんですか?」
「高校時代は行ってたが、こっちに来てからは行ってないな。そもそも俺は、人が多いところはあまり好きじゃないからな」
「先輩は筋金入りのヒッキーでしたからね」
「いや、引きこもってないからな? ちゃんと学校通ってただろ」
結衣先輩は先輩のことをそう呼ぶが、世間一般的に「ヒッキー」と言ったら、まぁそっちの意味になるだろう。
「知ってますよー。先輩は誰よりも不真面目に登校してましたもんね」
「俺ほど真面目な生徒はいなかっただろ。真面目過ぎて、周りの奴らの邪魔にならないようにしてたまである」
「そんな不真面目な先輩に乗せられて、生徒会長を務めたかわいそうな後輩がいるんですよ? 少しは反省してるんですか?」
「最終的には自分の意志だろうが」
あの段階では、まだ私の立候補を取り消すことはできた。だが先輩に乗せられ、私をハメた女子たちを見返すという目的で私はそのまま生徒会長になったのだ。
その結果、私はクラスの女子たちを見返すことができ、教師たちからの評価も上がり、そして先輩との時間を確保する材料まで手に入れたのだ。
「でもその所為でいろいろと大変だったのは事実ですからねー。先輩があんな提案してこなかったら、私はもう少し高校生活を謳歌できてかもしれないのに」
「陰で女子たちにクスクスされたかったのか?」
「………」
確かに私が立候補を降りていたら、私を推薦した女子たちは陰で笑っていたかもしれない。いや、むしろ堂々と私を指さして笑っていたまである。そいつらの鼻を明かしたと考えるなら、生徒会長になった意味もあるのかもしれない。
「でもそのせいで、二期連続で務める羽目になりましたし」
「卒業ギリギリまで人のことをこき使ってたんだから、文句言うなよな」
「先輩が私を生徒会長にしたようなものなんですから、最後まで責任を持つのは当然です」
「二期目は俺の所為じゃないって言ってるだろうが」
「一期目が好評でそのまま二期目もって流れになったのは、先輩の所為ですからね」
実質先輩が生徒会を運営していたんじゃないかってくらい、先輩は生徒会の仕事を手伝ってくれていた。むしろ他の役員より生徒会の仕事に詳しいんじゃないかってくらい、他の役員も先輩のことを頼りにしていた節が見られていたくらいだ。
その所為ではないのかもしれないが、先輩が卒業してから半年、生徒会業務は偶にではあるが滞ることがあった。教師たちからは不思議そうに思われていたが、内部の人間は先輩が卒業したからだと、原因ははっきりしていたためそれほど焦らなかったのだが。
「そういうわけで、先輩は私に対して責任を取る必要があるんですよ」
「俺はいつまでお前に対して責任を負わなければいけないんだか」
「(別に一生でも構わないですよ?)」
「ん? 何か言ったか?」
「何も言ってませんよ。ところで先輩、今日はこのままここにいていいですか?」
「は? 隣なんだから帰れよ」
「こんな遅い時間に女の子を外に追いやるんですか?」
「いや、だから隣だろうが……」
「じゃあ一回帰って、着替えとかいろいろ持ってきますね」
「人の話を聞けっての」
先輩の話を無視して、私は一度自分の部屋に戻る。せっかくのお泊りなのだからかわいい寝間着を持っていきたいが、生憎そんなものは持っていない。なので普段通りの寝間着と、最低限の化粧道具を持って先輩の部屋に戻る。なぜか鍵をかけられていたが、そんなものはこの合鍵でどうとでもなる。
「ただいまでーす」
「鍵かけてただろうが」
「チェーンをしない先輩の優しさ、ちゃんと伝わってますから」
本当に私を部屋にあげたくなければ、チェーンロックをすればいい。いくら合鍵があるとはいえ、チェーンまでは突破できないから。だが先輩は一度もチェーンを閉めることはしていないのだ。それはつまり、本気で私を拒否しているわけではないということなのだろう。
「次からはしっかりとしてやる」
「そうしたら先輩の部屋の前で泣いてあげますよ。『私とは遊びだったんですね』って言いながら」
「本気でやりそうだから怖いわ……」
「もちろん、冗談ですよ?」
遊びどころか、私と先輩は付き合ってすらない。だから事情を知っていればいつもの悪ふざけなのだろうと思うだろう。だが私と先輩の関係を知っている人間がいないこの周辺なら、先輩が最低野郎に見られることだろう。
「あっ先輩」
「なんだ?」
「今年もよろしくお願いします」
「ん? あぁ、もう年明けたのか。こちらこそよろしくな」
意外にも素直に返事してくれたので、用意していた皮肉は行き場をなくす。とりあえず今年も先輩は私に付き合ってくれるということなので、私は安心して先輩の部屋のお風呂を借り、そのまま先輩のベッドで眠ったのだった。
何時もなら誰もいない部屋で目を覚ますのだが、今日は部屋に人の気配を感じる。
「むにゃ……」
「寝起きまであざといんだな、お前」
「はえ? なんで先輩が私の部屋に――って、先輩の部屋でしたね」
頭が覚醒し、ここが自分の部屋ではなく先輩の部屋だということを理解する。当然だが、先輩の方が先に目を覚ましていたので、私の寝顔を見られたということに。
「先輩は何時に起きたんですか?」
「一時間くらい前かな」
「せっかくのお休みなのに早起きなんて、やっぱり先輩には社畜の素質があるようですね」
「ほっとけ。てか、人のベッド占領しておいて言うことかよ」
「一緒のベッドで寝るわけにはいかないんですから、仕方なくないですか? それとも私と一緒に寝たかったってことですか?」
「お前が自分の部屋に戻ればよかっただけだろうが」
「そんなこと言って、私がベッド使うのを本気で止めなかったじゃないですか」
「言っても無駄だって分かってたからな。前にもこんなやり取りしただろ」
「そうでしたっけ?」
したような気もするが、とりあえず忘れたふりをして洗面台へ向かう。顔を洗い、軽くお化粧してから部屋に戻ると、先輩が作ってくれた朝食が並べられていた。
「お雑煮、美味しそうですね」
「雑煮なんてマズそうに作る方が難しいだろ」
「結衣先輩なら、できるんじゃないですか?」
「どうだろうな。てか、由比ヶ浜も一人暮らししてるんだから、多少は料理の腕が成長していてもいいんじゃないか?」
「じゃあ先輩は、結衣先輩が作った料理、食べたいですか?」
「遠慮したいな、うん……てか、外食以外で人が作った料理など、一人暮らししてから食ってないかもしれない」
「この間私が作ってあげたじゃないですか」
「お茶漬けを手料理にカテゴリーされたいのか、お前は」
「それは……じゃ、じゃあ! 今日のお昼ご飯は私が用意しますよ! それならいいですよね」
「何がいいのか分からんが、何時まで居座る気だお前」
「明日は実家に帰るので、少なくとも今日一日くらいですかね?」
「はっ? また泊まるつもりなのか?」
「良いじゃないですか。年末年始はかわいい後輩と二人きりだったって、大学の知人に自慢できますよ?」
先輩がそんなことを鼻にかける人ではないと分かっているので、これはあくまでも先輩を黙らせる手段でしかない。先輩は私が帰るつもりがないと理解してくれたのか、それ以上追及してくることはなかった。
「それじゃあ、あとでお買い物に行きましょうね」
「めんどい……あり合わせで済ませろよ」
「得意料理を披露するには、お買い物が必要なんですよ」
「一人で――あぁ、お前は無理だな」
「分かってくれてうれしいです、先輩」
こうして先輩とお出かけの約束もできたので、私は一旦部屋へ戻り、着替えを済ませて再び先輩の部屋でまったりするのだった。
あざとさに磨きがかかってる