やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
しばらく四人で固まって飲んでいた――もちろんノンアルコール飲料だ――のだが、折本さんがお友達を連れてこっちに絡んできた。
「比企谷さー、本当にどっちとも付き合ってないんだよね?」
「どっちともって誰だよ? まさか戸塚と玉縄とか言わないよな」
「言わないって。どうしてそっちになるの。マジうけるんだけど」
「いや、この間材木座の連れにそんなことを言われたばかりだから……」
材木座先輩が所属している漫研には、所謂「そういう趣味」の人が多いそうで、戸塚先輩と一緒にいることが多かったり、玉縄さんに絡まれることが多い先輩を「そういう目」で見てるらしい。というか、エリート大学でもそういうことを考える人っているんですね……
「普通に考えれば、由比ヶ浜ちゃんか一色ちゃんのどっちかって思うでしょ」
「生憎、男はもちろん女とも付き合ったことねぇよ。お前にこっ酷くフラれてから、人間不信が加速したんだよ、こっちは」
「あれは悪かったって」
先輩は中学生の頃、勘違いから折本さんに告白、見事玉砕したという過去がある。ここまでならよくある話なのかもしれないが、その後折本さんは先輩に告白されたことを周りに面白半分で話して、先輩を曝しものにしたのだ。その所為で、今のひねくれた先輩が出来上がったと言っても過言ではないのかも。
「えっ、かおりこの人に告白されてたの? 何で付き合わなかったわけ?」
「だってあの時の比企谷、何だか根暗ぽかったし」
「いや、否定しねぇけど酷い言い草ですね」
「だから悪かったって。それより、誰とも付き合って無いのなら今度どっか行こうよ。戸塚くんも一緒にさ」
「僕も?」
完全に蚊帳の外だと思っていた戸塚先輩だが、急に名前を呼ばれて少し驚いている。
「由比ヶ浜ちゃんと一色ちゃんの入学祝も兼ねて、どっか遊びに行こうよ」
「わー面白そう」
こういうことにすぐ喰いつく傾向のある結衣先輩が、あっさりと折本さん側に付く。戸塚先輩も先輩と一緒ならという感じにスタンスを取っているし、これは先輩次第で今後の予定が決まるという感じだろうか。まぁ、私としても先輩と一緒にお出かけできるなら嬉しいですし、ここはあえて折本さんの思惑に乗るのも悪くないかもですね。
「先輩、行きましょうよー」
「えぇいくっつくな! 分かった、行けばいいんだろ、行けば。といっても、バイトがあるから都合つくか分からねぇからな」
「その辺はちゃんと考えて予定組むから大丈夫だって。それじゃあ比企谷、連絡先教えて」
「別に構わないけど、またふざけて俺を曝しものにするのだけはやめてくださいよ」
「しないって。ほんと疑り深いんだから」
「かおりがそうしたんでしょ?」
「そうだった。うけるー」
何が面白いのかさっぱり分からないけども、折本さんたちは先輩と連絡先を交換して満足げに離れて行った。
「ねぇ八幡」
「何だ、戸塚」
「さっきから玉縄君たちが怖い目でこっちを見てるんだけど」
「あぁ、ほっとけ。モテない男の僻みだろ。まぁ、俺もモテないんですけどね」
「そんなこと無い! ヒッキーはモテモテだし!」
「いや、悲しくなるからフォローとかしないでくれませんかね? 余計惨めでしょうが」
「フォローじゃないし! 事実だし!」
「はいはい」
結衣先輩のセリフを慰めだと思った先輩は、まともに結衣先輩の相手はしなかった。だけどこの空間だけを取っても、女子五人――もしかしたら戸塚先輩も――が狙っているのが先輩だという事実にどうして気づかないのだろうか。さっきの話じゃないけども、人間不信にも程があるというものだろう。
結局ただ騒いだだけで終わった合コンだったけども、後日先輩とお出かけできるということでとりあえずの収穫はあったのかな。
「それじゃあ、今日はこれで解散だね」
「結局騒いでただけじゃねぇか」
「まぁまぁ、こういうのも良いじゃない。それじゃあ、お疲れ様」
玉縄さんの合図でそれぞれが上りと下りに分かれて歩を進める。私と先輩は当然だが、戸塚先輩と結衣先輩も同じ方面なので、当たり前のようにお喋りしながら電車を待つ。
「なんだかお腹へったなー。ねぇヒッキー、彩ちゃん。どっかでご飯食べてこうよ」
「それじゃあ八幡の部屋で良いんじゃないかな? 食材を買っていけば大丈夫だよね? 今日はバイトもないって言ってたし」
「別にいいけど」
「じゃあ私が作る!」
「「「それは止めてください(とけ)(といたほうが良いんじゃ)」」」
「何で三人で止めるし!?」
結衣先輩の料理スキルは知っているので、私たち三人は必至に結衣先輩を止めた。というか、先輩の家のキッチンを破壊するつもりだったのでしょうか……
「由比ヶ浜さん。八幡が作ってくれるから大丈夫だよ」
「えっ、ヒッキー料理できるの?」
「一応な。というか、一人暮らししてるんだから出来るようになってても不思議じゃないだろ」
「じゃあ私もできるようになるのかな?」
「由比ヶ浜。ゼロパーセントの確率では何回やっても成功しないんだ」
「どういう意味だし!」
先輩は半分笑いながら結衣先輩に告げ、結衣先輩も口では怒っていながらも顔は楽しそう。
「(やっぱり、この二人の雰囲気は苦手だな……)」
私と先輩との間にも独特の雰囲気はあるけども、ここまで親密そうな感じではないだろう。一緒にいる戸塚先輩に聞けば、どっちが親しそうに見えるかなんてすぐ分かる。もちろん、そんなことを聞いてショックを受けたくないので聞かないけど……
「それじゃあ買い物に行こう! いろはちゃんもそれでいいよね?」
「もちろんです! 先輩の料理、楽しみにしてますね」
「いや、良いんだけどね、うん……でもさ、こういう時って女子が作るもんじゃないの? もちろん、由比ヶ浜は期待してないけど」
「さっきから酷くないっ!?」
「酷くない」
同じ言葉を違うニュアンスで言う結衣先輩と先輩。これに関してだけ言わせてもらうのならば、私も戸塚先輩も先輩に同意だ。
「そういえばヒッキーの部屋ってどこなの? ひょっとしてエッチな本が散乱してるとかないよね?」
「あるわけ無いだろ! いつ戸塚が泊まりに来ても良い様に、常に綺麗にしてあるからな!」
「もう、八幡ったら」
「うわぁ……」
先輩の顔がガチ過ぎたので、私はとりあえず一歩引いておいた。戸塚先輩も満更でもなさそうな顔をしているから、材木座先輩のお仲間に「そういう関係」なんじゃないかって疑われてるんだと思うんですよね。もちろん、それを言って先輩と戸塚先輩の関係を悪化させたくないので、心の中だけに留めておきますけど。
「それじゃあ何時ものスーパーで良いよね?」
「問題ないだろ。てか、由比ヶ浜と一色は何か食べたい物はあるのか? ある程度なら要望に応えられるが」
「ヒッキーの料理がどの程度か分からないし、彩ちゃんに任せるよ。彩ちゃんはヒッキーの料理、食べたことあるんだもんね」
「結構お世話になってるからね。それじゃあ、僕がぱっぱと選んじゃうから、一色さんもそれで良いかな?」
「はい。お願いします」
一応私も先輩の料理を食べたことはあるのだけども、ここでそれを言えば結衣先輩に事情を聞かれてしまう。まぁ、この後先輩の部屋に行くのだから、遅かれ早かれ隣が私の部屋だということはバレてしまうのだが……
「(食事中に険悪な雰囲気になるのは避けておきたいし)」
結衣先輩ならそんなことで怒ったりしないだろうけども、何となく私が気まずくなるのだ。
「そういえば彩ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「さっき彩ちゃんのことをずっと見てた人がいたんだけど」
「何時?」
「合コンの時」
「おっ、さすが戸塚」
どうやらあのメンバーの中に戸塚先輩狙いの人がいたようで、私は視線で結衣先輩に尋ねる。先輩を狙っていると思っていたけども、女性側には戸塚先輩狙いの人がいてホッとしたのも束の間――
「玉縄君の隣にいた男の人。知り合い?」
「……今日初めて会ったんだけどな」
「さすが戸塚だ……」
「あんまり嬉しくないかな……あはは」
引きつった笑いを零す戸塚先輩の肩を、先輩が軽く叩く。何度かあったことなのか、戸塚先輩も先輩のそう行為で切り替えたようだ。
「いっその事男らしい恰好でもしてみようかな」
「でも彩ちゃん、その恰好似合ってるし良いと思うんだけどな」
「そういえば戸塚先輩って、高校時代ジャージばっかりでしたけども、何か理由があったんですか?」
「一年の時、制服でいたら『男装?』って言われてね……それ以来式典とかじゃなければジャージでいることが多くなったんだ。特に怒られなかったしね」
「なるほど」
戸塚先輩なら男装の麗人にも見えなくないだろうし、むしろ下手な女子よりも絵になるだろう。男性なのだから当然なんだろうけども、何故かそう思ってしまうのだ。
「それじゃあ、ヒッキーの部屋に行こう!」
買い物を済ませて先輩の部屋に向かう途中、私は先輩が持っている荷物を手伝おうとしたけども、先輩は私を頼る事は無かった。というか、この人が重たい荷物を女の子に持たせるはずはないって分かってて近づいたんだけど、やっぱりそういうところは優しい人なんだろうな。
戸塚が不憫だ……