やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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自分もトマトは苦手


八幡の好み

 私の得意料理を先輩にふるまうため、私は近所のスーパーにお買い物に向かう。もちろん、先輩も一緒に。

 

「そういえば私、先輩の好き嫌いってあんまり知らないんですよねー。確か、トマトが大好きなんでしたっけ?」

 

「お前、知ってて言ってるだろ……」

 

「えー、なんのことですかー?」

 

 

 先輩がトマトを苦手にしていることは知っている。だからわざと問いかけているのだけども、先輩には私がわざとやってることはバレているようだ。

 

「基本的にはなんでも食べる。だがトマトだけはどうしてもな」

 

「それじゃあトマトは使わないでおきますね」

 

「別に食えないわけじゃないから気にしなくてもいいぞ」

 

「せっかくの手料理ですし、苦手なものはなるべく出さない方向で考えますよ」

 

 

 男の人だからがっつり食べられるものの方がいいのかもしれない。世間一般の女の子が考えている彼氏に作ってあげたい料理と、男性側が考えている食べたい物は一致しないことが多いので、そこも考慮して考えなければ。

 

「てか、一色の得意料理で構わないぞ?」

 

「先輩には劣りますけど、私だってそれなりに料理できるんですから。いざ得意料理って言っても何を作ればいいのか分からなかったんですよねー」

 

 

 最近は先輩に甘えることが多いが、私だって最低限の料理くらい作れる。だがいざ『これ』と言われると、何を作ったらいいのか分からない。

 

「うーん……チャーハンと唐揚げとかどうです?」

 

「えらく男飯くさいものをチョイスしたな。まぁ、揚げ物とかちゃんとしようとしたら大変だが」

 

「男の人が好きそうなものをチョイスしてみたんですけど、先輩は好きですか?」

 

「まぁ、嫌いではない」

 

「ふふ」

 

 

 相変わらず捻くれた表現をしているが、どうやらこの二つは先輩の好物のようだ。だって本当に微妙だったら、この人の性格上はっきり言うだろうから。

 

「それじゃあ必要な物を買っちゃいましょう! まずはお肉コーナーからですね」

 

「おい一色、あんまり先走るとぶつかるぞ」

 

「子供じゃないんですから」

 

 

 意気揚々と商品を見て回る私を、先輩は一歩後ろからついてきている。普段なら先輩がリードするんでしょうけども、今日は私がメインのお買い物なのでこの形をとっているのだ。

 

「先輩の部屋にお米と油はあるから」

 

「俺の部屋で作るの? お前の部屋じゃなくて?」

 

「先輩の部屋の方が調理器具が揃ってるんですよ」

 

 

 隣同士なのだから、自分の部屋で作って先輩の部屋に持っていくとか、私の部屋に先輩を招き入れるとかでもいいのだが、私は先輩の部屋にいたいのでテキトーな嘘を吐く。まぁ、あながち嘘ではないのだけども……

 

「てか先輩」

 

「なんだ?」

 

「なんでまた苗字呼びに戻ってるんですか。お買い物デート中ですよ!」

 

「えぇ……これをデートと捉えるのは無理があるんじゃないか?」

 

「私がデートって言ったらデートなんです。こんなこと言わせるなんて、いろは的にポイント低いですよ」

 

「なんで小町の真似してるんだよ……」

 

 

 先輩と小町さんのやり取りを思い出して真似をしてみたのだが、どうやら不評のようだ。今後はやらないでおこう。

 というか、自分で妹扱いするなとか言っておきながら、どうして私は小町さんの真似をしたのだろう……

 

「(ひょっとして、妹として見られたいのかな?)」

 

「……どうしたんだ?」

 

「お兄ちゃん」

 

「やめろ」

 

「ちょっとした冗談ですよ、じょーだん」

 

 

 本気で嫌がられたので意外だったけど、私の方も別にショックは受けなかった。

 

「せっかく小町さんの真似してみたのに、先輩は不服そうですね。小町さんのこと、嫌いになったんですか?」

 

「別にそういうのじゃねぇよ。ただお前が小町の真似をするのは違うだろ」

 

「?」

 

 

 先輩がどういう意図でそんなことを言ったのか、今の私には分からない。ただ本当に小町さんの真似はしてほしくなさそうだったので、今後はしないでおこう。

 

「それじゃあお会計ですねー。先輩、お支払いお願いします」

 

「はぁ……」

 

 

 半分くらい冗談だったのだが、先輩はお財布を出してお支払いをしてくれました。恐らくですが、先輩の中では自分が食べる物という認識なのでしょう。

 

「後で半分払いますね」

 

 

 さすがに全額払ってもらうのは申し訳ないのでそう申し出たのだが、先輩は気にするなと言うだけでレシートを見せてはくれませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先輩の部屋で調理をするのは初めてではない。だがあれは料理というには簡単すぎる物だったので、実質的には初めてだろう。

 

「先輩はゆっくりしててくださいね」

 

「おちつかん……」

 

「普段は先輩が全部してくれますからねー。たまにはゆっくりしてもいいんじゃないですか?」

 

「やけどとかするなよ」

 

「気を付けますから大丈夫ですよ」

 

 

 妹扱いされているのか、それとも私だから心配してくれているのか分からないけど、先輩は私のことを心配してくれていることには違いはない。私はそれだけでも嬉しくなり、気合を入れて調理をスタートさせた。

 

「(なんだか新婚気分だな。先輩が外で働いて、私が専業主婦で先輩を支える――悪くないかもしれない)」

 

 

 私も一回くらい働いてみたいとは思うけど、先輩が言うのであれば家を支える役目でも構わない。

 

「ねぇ先輩」

 

「なんだ?」

 

「先輩って結婚相手に何を求めるんですか?」

 

「いきなりなんだ……」

 

「ほら、高校時代は専業主夫が夢だとか言ってましたけど、今は違うんですよね?」

 

「まぁな」

 

「でも主夫が夢ってことは結婚願望はあったわけですよね? 相手に求めるのってどんなのかなーって思ったんです」

 

 

 当時の先輩なら経済力とか答えたでしょうが、今の先輩が相手に何を求めるのかが分からない。分からないことは聞けばいいと思える内容だったので聞いたのだが、先輩はなかなか答えてくれない。

 

「先輩?」

 

「いざ改めて考えてみると、別にそこまで求める物もないかな」

 

「どういうことですか?」

 

「こっちが求めても、相手が応えられるかどうかは分からないだろ? こっちの理想を押し付けるのは相手に申し訳ないから、出来る範囲でやってくれればそれでいい。たまに頑張ってくれたらそれはうれしいけど、毎日頑張ってもらう必要はないから、何かを求めるということはしないかもしれない」

 

 

 意外と正直に答えてくれたので、私は数秒間フリーズしてしまう。

 

「どうした?」

 

「いえ、はぐらかされると思ってたので……」

 

「お前がいい加減な気持ちで聞いてきていたのならはぐらかしただろうが、真剣に聞いてきたから答えただけだ」

 

「それって――」

 

「てか揚げ物は良いのか?」

 

「えっ――あっ!」

 

 

 先輩に言われて思い出したが、私は今調理中だった……慌てて鶏肉を油から上げたが、少し焦げて硬くなっている様子……

 

「先輩、ごめんなさい……」

 

「気にするな。チャーハンの方は美味そうにできてるんだし」

 

「そうですけど……」

 

 

 先輩に慰められて、私はちょっとみじめな気持ちになる。せっかく意気込んで得意料理を作るって言ったのに、こんなミスをしてしまうとは……

 

「ほら、食べるぞ」

 

「ごめんなさい」

 

「気にするな。いろはなりに頑張ったんだろ」

 

「当たり前です。てか先輩」

 

「なんだ?」

 

「こういう時だけ名前呼びなんて、あざとすぎですよ」

 

「お前にあざといと言われるとは」

 

 

 高校時代は私の方があざといと言われていたけど、やっぱり先輩の方があざといんですよね。

 

「十分美味くできてる。気にする必要はないだろ」

 

「今度はちゃんと作りますからね」

 

「今度があるのかよ」

 

「先輩が食べてくれるなら、いくらでも作りますよ」

 

 

 ここで拒絶されたらショックだったけど、先輩は少し考えてから頷いてくれました。

 

「いろはの気が向いた時で構わない」

 

「それじゃあ次回、ちゃんとしたものを作りますからね!」

 

「あぁ、期待しないで待ってる」

 

「そこは期待してくださいよー!」

 

 

 セリフだけなら期待されていないのかもって思いましたが、表情がとても優しい雰囲気だったので誤解はしない。先輩は私にプレッシャーを与えないようにしてくれたのだろう。




あざと八幡でした
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