やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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そう言ってもおかしくないくらいですから


お家芸

 三人でお茶をしてある程度は楽しく過ごせたが、やはり先輩の用事が何なのかが気になってしまう。気になったのなら本人に確認すればいいと思い、私は結衣先輩や折本さんと別れてから先輩の部屋で先輩を待つことにした。

 

「――で、人の部屋に勝手に入った言い訳はそれで全部か?」

 

「はい……」

 

 

 割と本気で先輩に怒られたので、私は表面上だけではなく本気で反省する。さすがに無人の部屋に勝手に入ったら怒りますよね……

 

「それで先輩、用事って何だったんですか?」

 

「教授に呼ばれてゼミの集まりに参加しただけだ」

 

「先輩が集まりに参加って、なんだか意外ですね」

 

「そんなことは俺だって分かってる。だがさすがに教授に呼ばれたのを無視するわけにはいかないだろ」

 

 

 昔の先輩ならそれでも参加しなかったかもしれないが、今はあの時より大人の考え方ができるようになっているからこそ参加したのだろう。

 

「てか、事前に俺の予定を聞かなかったお前らが悪いんだろ。なんで俺が悪いみたいになってるんだよ」

 

「だって先輩ですよ? バイトだったらそういうだろうし、それ以外の予定って何なのか気になるじゃないですか」

 

「気にしなきゃいいだけだろ」

 

「私だけじゃなくて結衣先輩や折本さんだって気にしてたんですから」

 

 

 折本さんは兎も角、結衣先輩は先輩に対して恋愛感情を抱いている。そのことはこの間の電話でも分かる。

 

「それで、なんで俺の部屋に行こうって話になったんだよ」

 

「結衣先輩、成人式の後の記憶があやふやで、先輩に電話した理由が分からないって」

 

「あぁ、酔っ払って忘れたんだろ」

 

「そのことを先輩に確認しようって流れだったんです」

 

「確認されたところで、あいつが欲しい返事ができるわけじゃないんだがな」

 

「………」

 

 

 結衣先輩が欲しい返事とは何か、そんなものは考えるまでもない。だが先輩はその返事はできないと言っている。つまり結衣先輩の告白を受けるつもりはないということだ。

 

「(先輩曰く、気になっている人がいるかららしいけど、その相手は結衣先輩ではない。じゃあ、本当に誰なんですか?)」

 

 

 先輩の周りにいる異性で、先輩が気にする相手というのが分からない。前までなら雪乃先輩一択だったのに、その雪乃先輩ははっきりと先輩にフラれた。そのシーンを間近で見たのだから間違えようがない。

 雪乃先輩じゃなかったら次の可能性があるのが結衣先輩なのだが、先輩は結衣先輩とも付き合うつもりはないと言っている。こちらも前々から恋愛対象として見ていなかったと言っていたのが嘘ではないということだ。

 

「急に黙りこくってどうした?」

 

「ひょっとして本当に戸塚先輩じゃないですよね?」

 

「何が?」

 

「先輩が気になっている相手っていうのが」

 

「戸塚は男だ。いくらあいつが可愛いからと言って、そういう目で見るわけないだろ」

 

「良かった……海老名先輩歓喜の展開になるのかと思っちゃいましたよ」

 

 

 海老名先輩ともこの間話した――先輩がだ――ので、もしかしたらそんな展開もあるのかもと思ってしまったのだが、とりあえず戸塚先輩が恋敵ということではなくて安心した。

 

「てか、用事が済んだならさっさと部屋に帰れ」

 

「せっかくですし、ここでご飯食べてきまーす」

 

「何が『せっかく』なんだよ。俺は外で済ませてきたっての」

 

「えー、先輩の用事が気になってずっと待ってた後輩に対してそれは酷いんじゃないですかー?」

 

 

 先輩相手だとどうしても子供っぽい対応になってしまうが、先輩は特に気にした様子もないので大丈夫だろう。中には馬鹿っぽくて無理とか思う男子もいるかもしれないけど、不特定多数に何と思われようが、たった一人に好かれれば問題ないのだ。

 

「はぁ……お前、少し俺に甘え過ぎじゃないか? 一人暮らしって分かってるのか?」

 

「良いじゃないですか。お隣の好で。知らない間柄でもないんですし」

 

「俺はお前に何かしてもらった覚えがあまりないんだがな」

 

「何ですか口説いてるんですか? 遠回しに『お前の手料理が食べたい』って言ってもらえて嬉しいですけど、遠回り過ぎて分かりにくいです。もうちょっとわかりやすい表現でやり直してくださいごめんなさい」

 

「はいはい、そんなこと言ってないからな」

 

「何ですかその反応! それはそれで凄くむかつくんですけど」

 

「だってこのやり取り何回目だよ。てか、段々と否定が弱くなってきてるような気がするのは気のせいか?」

 

 

 先輩も気づいているようだが、私のこれは否定のようで肯定になってきている。今のだって、先輩に受け入れてもらえて嬉しいという気持ちがはっきりと含まれているのだ。だが先輩はそれに気づかないふりをしてくれている。

 

「何か冷蔵庫に残ってたか?」

 

「なんだかんだ言って面倒を見てくれる先輩が好きでーす」

 

「都合よく動いてくれるからだろ」

 

 

 本当はそうじゃないのだが、とりあえずそれで誤魔化しておこう。だって今はまだ、先輩の答えを知るのが怖いから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大学生になって二回目の試験が近づいてくると同時に、世間的にはとあるイベントに向けて盛り上がっている。

 

「もうじきバレンタインだねー」

 

「結衣先輩はそっちより単位を心配した方が良いんじゃないですか?」

 

「今回はレポート課題の方が多いからそこまで心配する必要ないし!」

 

「そこはレポート関係なく大丈夫って言ってほしかったところですけどね」

 

 

 結衣先輩には今期の講義は難しいようだが、少なくとも私は難しいと感じる物はない。殆ど同じ講義を受けているのにだ。

 

「ところでいろはちゃん」

 

「はい、何ですか?」

 

「この間いろはちゃんのことを紹介してほしいって言われたんだけど」

 

「断っておいてください」

 

「うん。そういうと思って断っておいた」

 

 

 高校時代の私ならとりあえず会ってみようとか思っただろうけども、今の私はそんなことを考えない。結衣先輩もそれが分かっているからか、すでに断ってくれていたらしい。

 

「それにしても、いろはちゃんってやっぱりモテるんだね~。結構紹介してほしいって言われるんだけど」

 

「私よりも結衣先輩の方がモテるんじゃないですか? 結構男の人に声をかけられてるシーンを見るんですけど」

 

「そうかなー? でも、半分くらいはいろはちゃんを紹介してほしいとか、カオリンを紹介してほしいとかだけどねー」

 

 

 折本さんも結構モテるようで、交流がない一年生がなんとかして知り合おうとするなら、本人に声をかけるか知り合いの結衣先輩に頼むかだろう。結衣先輩は年上だが今は同窓生ということで、幾分か結衣先輩の方が話しかけやすいんだろうな。

 

「折本さんも彼氏欲しいとか言ってる割には、誰かと付き合ったって話を聞かないですよね」

 

「カオリンもいろいろと考えることがあるんじゃない? 昔ヒッキーに酷いことをしちゃったらしいからさ」

 

「また同じ過ちを犯さないとも限らない、ですか?」

 

「うん、そんな感じじゃないかな」

 

 

 結衣先輩は折本さんが先輩に対する罪悪感から異性と付き合えないと考えているようだが、私はちょっとだけ違う。もしかしたら折本さんも、先輩のことが気になっているのではないかと思ってしまうのだ。

 

「(中学時代に酷い感じでフったせいで今更言い出せないだけじゃないかと)」

 

「いろはちゃん?」

 

「いえ、先輩はもう気にしてないでしょうし、折本さんも何時までも気にしてないんじゃないかなーって思っただけです」

 

「でも、ヒッキーがますます捻くれた考え方になっちゃったのは、カオリンが原因なんだよね?」

 

「あの人が捻くれてるのは、多分元々だったと思いますけどね。より酷くなっちゃった要因の一つではあるでしょうけども」

 

 

 先輩の幼少期は知らないので何とも言えないが、酷い失恋をしたからと言って、あそこまで捻くれた人間になるとは思えない。実際、葉山先輩にフラれて酷い失恋をした――当時はそう思っていた――私はそこまで変わっていない。男女の差はあるかもしれないけど、それでも違うと思う。

 

「まぁ、そのおかげでヒッキーと出会えたから、ある意味カオリンには感謝してるんだけどね」

 

「捻くれてたから奉仕部に入れられ、その結果結衣先輩と親しくなったんですもんね」

 

 

 あの人はクラスメイトの顔すら覚えていなかったくらいだから、接点のなかった結衣先輩と親しくなるわけもない。その点は本当に折本さんに感謝してもいいところかもしれませんね。




八幡の捻くれは最初からのような気がしますが
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