やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
バレンタインが近いとはいえ、改まって先輩にチョコを渡すのはなんだか恥ずかしい。義理チョコだと偽れるほど自分の気持ちを抑えられないだろうし、だからと言って本命だと言って告白する勇気もない。
「(でも、渡さないなんて選択肢はないし……)」
先輩なら勘違いしないだろうけど、チョコを渡されなかったから自分に興味がないと思われる可能性は避けたい。いっそのこと告白でもしてしまおうか……
「それができれば苦労しない、か……」
何度も言おうとはしているが、いまだに言えていないこと。雪乃先輩と対峙した時に自分の気持ちをはっきりと言葉にしているので、今更自分の気持ちが本当にそうなのかという疑問はない。だがその気持ちを本人に伝えることができていないのだ。
「結衣先輩もだけど、私も大概ヘタレだよね……」
結衣先輩も何度もチャンスがありながら告白していないので大差ないのだが、あの人は雪乃先輩に遠慮して告白しなかったという理由がある。それを気にしなくても良くなっても告白できていないのは間違いなくヘタレなのだろう。人のこと言えないけど……
「でも、何時までもうだうだしていると先輩を盗られちゃうかもしれないし……」
別に私のものではないのでこの表現は正しくはないのだが、他の誰かの許に行ってしまうと考えると、どうしても盗られたと思ってしまう。
その相手が私なんかじゃ太刀打ちできないくらいの美人だったらあきらめがつくだろうけども、そもそもそのレベルの女性を先輩が信じるかどうか微妙だ。あの人は常に人を疑っている人だから。
「美人局とか思いそう」
きっと心の中で――
「俺じゃなきゃ騙されただろうけどね」
――なんて思うんだろう。あの人はそういう人だ。少しくらいは人を信じても良いんじゃないかと思いつつ、私も全面的に他人を信用していないなと思い苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、材料だけでも買っておかないと。直前になってからじゃ何も残ってないとかありそうだし」
そう考えて私は携帯を操作し先輩にメッセージを送る。
「『先輩のためのチョコを作るための材料を買いに行きたいので、一緒に来てください』と」
なんともおかしな誘い文句だが、これくらいストレートの方があの人に効果がある。下手にはぐらかすと変な勘違いをされてしまうので、少し恥ずかしくても自分の気持ちははっきりと伝える。それが先輩と過ごした時間でたどり着いた、先輩攻略の最善手だと私は思っている。
「おっ?」
先輩から返事があり、私はすぐさま先輩からのメッセージを開く。
『めんどい』
「『せっかく可愛い後輩が先輩の為に愛のこもったチョコを作るって言ってるんですから、少しくらいときめいても良いんですよ?』……いやいや、この文面はないな」
慌てて文字を消去し、私はいつも通り不貞腐れた態を装って返事をする。いくらストレートに表現すると決めたとはいえ、さっきのはない。先輩も呆れるだろうが、それ以前に私が恥ずかしい。
「そもそも愛のこもったって何よ……」
私と先輩の関係を考えれば、そんなことを言える仲ではないし、それでフラれたら立ち直れない。私は自分の気持ちを上手くコントロールしなければと軽く頬を叩いて、先輩の部屋に特攻をかける。
「せーんぱい? 早速お買い物に行きましょう!」
「なんで人の返事を待たないで部屋に来てるんだお前は……」
「メッセージの通りですから、早速ゴー、ですよ」
「はぁ……」
私の力では先輩を引っ張って行くことなんてできないのだが、何度も腕を引っ張ると先輩が諦めてくれた。なんだかんだで付き合いのいい人だなーと思いつつ、他の人にはこれほど付き合っていないんじゃないかという疑問が私の中に生まれる。
「(つまり、私は先輩の中でそれなりに優先度が高いということ?)」
戸塚先輩に頼まれたのなら、この人は何をおいてでも付き合うだろうし、小町さんに頼まれてもそうだろう。この二人からの頼まれごとを、この人が断る光景が想像できないくらいだし。
だが折本さんや結衣先輩の誘いは断っていることが多いらしい。あくまでも二人との会話から得た情報だが、誘っても付き合ってくれないと。だが今、先輩は私の誘いに乗ってくれている。それはつまり、あの二人より私の方が上ということなのだろう。
「(もし先輩が告白を断っている理由である『気になってる人』というのが二人のどちらかなら、その誘いを断るはずがないよね)」
先輩はツンデレではなく捻デレだから、もしかしたらということもあるが、そんなことをしても相手の気を引けないということくらいは分かっているだろう。
「――聞いてるのか?」
「はい?」
急に先輩に顔を覗き込まれ、私は慌てて距離を取ってから先輩に問い返す。どうやら考え込んでいたらしく先輩の問いかけを無視していたようだ。
「出かけるのは分かったが、何処に行くんだよ」
「そりゃチョコの材料とラッピングに必要な物とか、いろいろと買わなきゃいけないですから沢山回りましょう」
「渡す本人と一緒にっておかしくないか?」
「えっ? 先輩本気で私からのチョコがもらえると思ってるんですか?」
いつもの癖でからかってしまったが、先輩は軽くため息を吐くだけだった。もしかして欲しくないのだろうかと思ってしまうが、それを聞いたら私の負けな気がして聞けなかったが。
高校時代はイベントとして一緒にチョコを作ったりしたことあるが、今回はあくまでも私個人として作る。そうじゃないと先輩に気持ちを伝えられないから。
「結衣先輩や折本さんも作るって言ってたし、その日が勝負の日になるかもしれない」
折本さんは違うかもしれないけど、結衣先輩は確実に本命だ。あの人の料理の腕を考えればさほど気にしなくてもいいかもしれないが、下手なアレンジを加えない限りチョコを不味く作る方が難しい。結衣先輩だからと油断しない方がいいだろう。
「先輩の味の好みは一応知ってるし、高校時代にあげたチョコくらいは甘くしても平気だろう」
今の先輩はコーヒーをブラックで飲んでいるが、基本的に甘いものは好きなのだろう。以前一緒にバイトしていたカフェでも、試作品としていろいろとデザートを試食していたのを見たことがある。その後から店に出ているメニューは普通に甘いものだったから、甘さ控えめな物の試食というわけでもない。
問題は今の先輩が何処まで甘いものが好きなのかということが分からない点だ。というか、昔もどこまでの甘さなら平気というのは知らない。
「まぁ、現実的な甘さなら問題ないでしょう」
私だってそこまで甘いものは遠慮したいし、甘すぎて糖尿になるとか言われたくないし。
「味は普通にして、形成に拘ってみるとか?」
さすがにハート形とかは恥ずかしいが、違う形にしてみるとかは良いだろう。
「一応型も買ってきてるから、そこに流し込んで固めれば作れるし」
市販の型だと安っぽくて気持ちが伝わらないんじゃないかとか一瞬思ったが、そもそもあの先輩がチョコを受け取ったくらいで気持ちに気づいてくれるなんて思ってる方がおかしい。もっと積極的にアピールしても流されてきたのだ。チョコにかける気合でどうにかなるはずもないじゃないか。
「だからと言って、手を抜くのは嫌だし」
これは自分の性格上仕方ないことなのだが、戦わずにして負けるのは気に食わない。いや、戦って負けるのも嫌だけども。とにかく、伝わる伝わらないは置いておくにして、今は先輩に喜んでもらえるように頑張らなくては。
「……あれ? よくよく考えたら、私って本気でチョコを作ったことあったっけ?」
高校時代のアレは、すでに葉山先輩にフラれた後意地になって作ったという面が大きいし、その後はチョコを作る暇なんてなかったし……
「えっ、ちょっと待って……もしかして、これが初めての本気チョコ?」
そう考えると頬に熱を帯びてきた気がして、私は今更ながら恥ずかしくなってきたのかと自覚し、更に頬が熱くなったのだった。
頑張ってるなぁ