やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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こういうシーンって作ったことなかったかも


二人の告白

 折本さんに背中を押され――退路を断たれたともいえるかもしれない――私と結衣先輩は覚悟を決めた。元々逃げるなんて考えていなかったが、改めて自分の気持ちと向き合って先輩に想いを伝える。その結果がどうあろうと、前へ進むには逃げては通れない道だから。

 

「いろはちゃん、どっちも選ばれなかったらどうしよう」

 

「怖いこと言わないでくださいよ……」

 

 

 先輩の中に意中の相手がいるのかどうかも分からない現状だ。高校時代は結衣先輩のことは異性として見ていなかったらしいが、今はどうか分からない。大学生となり少し大人っぽさを手に入れた結衣先輩に惹かれていてもおかしくはないだろう。さらに先輩と結衣先輩は気心の知れた仲だ。一緒にいて居心地が悪いということもないだろうから、その点から考えても先輩と結衣先輩はお似合いなのかもしれない。

 だからと言って私が結衣先輩に白旗を上げる理由にはならない。私だって先輩にとって気心の知れた相手だと思うし、ここ最近だけに限れば結衣先輩より私の方が先輩と一緒にいる時間が長い。その点から考えれば私だって可能性がないわけではないだろう。

 

「それじゃあ、行こう」

 

 

 先輩の部屋の前で何時までも長考しているわけにはいかないので、結衣先輩の合図で私たちは先輩の部屋に入るためにインターホンを押す。

 

「はい? 由比ヶ浜と一色?」

 

 

 ドアを少し開けて来客の顔を確認した先輩は、半分だけしか開けていなかったドアを開けて私たちを招き入れてくれた。

 

「ヒッキー、作業中だったの?」

 

「担当している子が今日受験だからな。何時連絡が来ても対応できるようにしてただけだ。今のところ俺が何かしなきゃいけないってわけじゃない」

 

「立派な先生をしてるんですね、先輩」

 

 

 確かにこの時期は高校入試と重なっているため、中学生はバレンタインを満喫できないかもしれないなんて考えながら、どうしてこの人はここまで真面目なのだろうと思ってしまう。

 

「(自分が嫌われることを厭わず、物事を成功へ導くような人だもんね)」

 

 

 当時はそういう方法しか取れなかった人だが、今は違う。自分を犠牲にすればいいという考えは捨てたようで、周りの人を心配させることもなくなったようだし。

 

「てか、わざわざ人の部屋に来て世間話をしに来たのか?」

 

「そういうわけじゃないけど……」

 

「てか先輩、私たちが来た理由なんて分かってるんじゃないですか? 今日が何月何日なのか、忘れてるわけじゃないでしょうし」

 

「………」

 

 

 教え子の受験日だと誤魔化そうとしたのかもしれないが、それが意味をなさないと分かっているようで先輩は何も言わなかった。今更誤魔化されたからと言って私たちが退散するとは思わなかったのかもしれない。

 

「ヒッキー、これ受け取って」

 

「私からもチョコです。先輩の為に作りました」

 

「あ、あぁ……ありがとう」

 

 

 私たちの勢いに圧されたわけではないだろうが、先輩は少しためらいがちに私たちのチョコを受け取ってくれた。とりあえず、これで終わり――というわけにはいかない。私たちは覚悟を決めてこの部屋にやってきているのだから。

 

「それからね……ヒッキーに聞いてほしいことがあるんだ」

 

「聞いてほしいこと?」

 

「うん。私はね、ヒッキー……ううん、比企谷八幡さんが好きです。友達としてだけじゃなくて、一人の男の人として」

 

「由比ヶ浜……」

 

「本当は高校時代に告白しようと思ってたんだけど、ゆきのんが先にヒッキーに告白したでしょ?」

 

「あぁ」

 

「あの時、私はてっきりヒッキーとゆきのんが付き合うと思ってたんだ。それなのにヒッキーはゆきのんと付き合わないでそのまま奉仕部は離れ離れになっちゃって、これ以上ヒッキーとの距離が開いちゃうのが怖くて告白できなかった」

 

 

 結衣先輩の気持ちを、先輩は黙って、まっすぐ彼女を見つめながら聞いている。一方で結衣先輩の方は今にも泣きだしそうな顔で先輩を見つめている。まるで、この先の未来が分かっているかのように。

 

「だからヒッキー、私と付き合ってください」

 

「由比ヶ浜」

 

「うん」

 

「まずはありがとう。こんな俺を好きになってくれて――いや、好きでい続けてくれて。俺は誰かに好かれるような人間じゃないって思ってたし、由比ヶ浜は優しいから勘違いしちゃいそうになったこともあった。だが、お前の気持ちを聞いて、勘違いじゃなかったんだって思えた」

 

 

 先輩のセリフを聞いていると、まるでこのまま告白を受けてしまうんじゃないかと思える。だが、先輩の顔はそんな勘違いをさせないように無表情を貫いている。

 

「そしてごめんなさい。俺は由比ヶ浜のことを異性として思えない。友人としてはかけがえのない存在だと思っているが、一人の異性としてそう思えるかと問われれば否だ」

 

「そっか……そうだよね。ゴメンねヒッキー」

 

「……なんで、由比ヶ浜が謝るんだよ」

 

「なんでって……なんでだろうね」

 

「……ゴメンな」

 

 

 囁くような先輩の謝罪を聞いて、結衣先輩は堪えきれずに泣いてしまった。

 

「分かってたけど……ヒッキーにフラれるのって辛いよ……」

 

「ゴメン……」

 

「謝らないで。余計に惨めになっちゃうからさ……」

 

「ごめ――いや、ありがとう」

 

 

 もう一度謝ろうとした先輩だったが、謝罪の言葉を飲み込み感謝の言葉を告げる。その言葉を聞いて結衣先輩は泣きながら笑顔を見せる。

 

「もしヒッキーの中に誰もいなかったら、私にも可能性はあったのかな?」

 

「どうだろうな……お前といる時間は嫌じゃないし、あったかもしれないかもな」

 

「そっか……違うって思ってたけど、恋愛って早い者勝ちなのかもね」

 

「どうだろうな……」

 

 

 先輩はどこか遠い目をしながら答える。まるで結衣先輩を見ないようにしているようだと感じる。

 

「……よし! それじゃあ私は伝えたから、次はいろはちゃんだよ」

 

「分かりました」

 

 

 結衣先輩が無理矢理気持ちを切り替えて私に促してきたので、私も頷いて先輩と向き合う。

 

「先輩」

 

「おう」

 

「私は先輩が――比企谷八幡さんが好きです! 葉山先輩に抱いていたような偽物の気持ちではなく、先輩に対する気持ちは『本物』です」

 

「………」

 

「いったい何時からこんな気持ちを抱いていたのか分かりませんが、私の中で先輩の存在が大きくなっていて、会えなくなって初めてこの気持ちが恋なんだって気づきました。そして再会した時、今度こそちゃんと伝えようと思っていました。随分と足踏みしてしまいましたが、これが私の気持ちです」

 

 

 結衣先輩のように上手く伝えられない。どうして足踏みしていたのかも、何時から先輩のことを想っていたのかも、何もかもあやふやなままの告白だ。これじゃあ本心でぶつかっていった結衣先輩の告白よりも陳腐だろう。

 

「ずっと勘違いしないようにしようと思っていた」

 

「はい?」

 

「お前はあざといし俺のことを都合のいい先輩としか思っていないって思うようにしていた」

 

「………」

 

「葉山のことを理由にしてお前と一緒にいられるだけで良いと思っていた時もあったが、お前がフラれて落ち込んでいるのを見て、あざといだけじゃなくてちゃんと弱い部分もあるんだと思った時、俺の中にお前の気持ちが芽生えたんだろうな、守ってやりたいって」

 

「それって……」

 

「お前はそれを妹扱いだと言っていたが、俺にしてみれば特別扱いだったんだ。何せ妹以外の異性に優しくしたことなんてなかったからな」

 

 

 そう言いながら先輩は不器用に笑っていた。

 

「お前にだけ言わせるのは不公平だよな……」

 

 

 一度視線を外してから、先輩がまっすぐに私を見つめてくる。その視線に捕らわれ、私は息をするのを忘れた。

 

「一色いろはさん、貴女が好きです。こんな俺で良いのなら、付き合ってください」

 

「……はい!」

 

 

 先輩の告白を自分の中で消化するのに若干のタイムラグがあったが、私は先輩の告白を受け入れ先輩に飛びつく。まさか飛びつかれると思っていなかったのか、先輩は一歩退いたが倒れることなく私のことを受け止めてくれた。

 

「おめでとう、いろはちゃん」

 

「結衣先輩……ありがとうございます」

 

「ヒッキー! 私、諦めないからね! いろはちゃんと結婚するまでは、私にもチャンスがあるって信じて」

 

「け、結婚って……」

 

 

 結衣先輩の覚悟を聞かされ、私が赤面する。結衣先輩の中でお付き合い=結婚なのかと思ったのと同時に、新婚生活を夢見てしまった自分にも恥ずかしさを覚えたから。




結衣、諦めない宣言
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