やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
先輩に告白して付き合えることになった。それはとても嬉しいことなのだが、いざ付き合うことになったら、何をしていいのかが分からない。
「先輩、恋人同士って何をするものなんですかね?」
「そんなこと俺に聞かれても知るわけないだろ」
「ですよねー……」
デートまがいなことならしたことあるけど、私は恋人がいたことがない。当然先輩にもいたことがないので、お互いに経験値ゼロなのだ。
「てか、なんで俺の部屋に入り浸ってるんだよお前は」
「だって、先輩の料理の方が美味しいんですもの」
私だって最低限の料理くらい作れるのだが、先輩と比べたらせいぜいちょっと上手いくらいなのだ。
「それに、こういうのも恋人っぽくていいじゃないですか」
「恋人というより家族だろ、これじゃあ……」
それってつまり、先輩はもう私と結婚した後のビジョンができているということなのだろうか? なんて勘違いはしない。どうせ私のことを妹扱いしてるとか、そういうことだろう。
「ねぇ先輩。いい加減私のことを妹扱いするのはやめてくださいよ」
「別に妹扱いしてるわけじゃないって、何度も言ってるだろ」
「そうは言っても、私からしたら妹扱いされてる感じが否めないんですよね」
「俺は小町に料理を作ってやったことなんて殆どないぞ」
「そりゃ、小町さんはあまりこっちに来てないですからね」
小町さんの受験も終わったころなんだろうが、私は彼女が何処の大学を受け、その合否はどうなったのかは知らない。もしかしたら先輩も知らないのかもしれない。
「そういえば」
「何です?」
「由比ヶ浜は千葉に帰るって言ってたのに、お前は帰らないのかと思っただけだ」
「うわぁ先輩……彼女といるのに他の女の子の話題を出すなんて」
「なんだよ」
別に結衣先輩に嫉妬してるわけではないのだが、やはり先輩と結衣先輩の関係は羨ましい。彼女の立場は私が手に入れたが、結衣先輩がいる場所は私がどう頑張っても手に入らないからかもしれない。
「てか、どうしていきなり千葉の話なんですか?」
「……一度俺も帰らなきゃなと思ったから」
「何か用事があるんですか?」
「小町の合格祝いをやるから、金を振り込むか手伝えとお袋殿から……」
「うわぁ……」
相変わらず先輩に対する扱いが酷いご家族ですね……もしかしたら先輩が捻くれちゃった原因って、必ずしも先輩だけに原因があったわけじゃないのかもしれないですね……
「というか、小町さん合格したんですね」
「まぁ、あいつのレベルからしたら当然という感じだろ。お袋殿はもう少しレベルの高い場所を狙えと言っていたらしいが、親父殿があくまでも実家から通える場所に拘ったから、その中間を取ったという感じだ」
「溺愛されてるんですね」
「俺の扱いを見れば、小町が溺愛されてるのは分かるだろ」
「ですねー。先輩、殆ど興味持たれてないですもんね」
実際帰ってこいの理由が、小町さんの合格祝いの手伝いですし……
「それって、私も参加してもいいですか?」
「は? なんでお前が小町の合格祝いに――」
「先輩の彼女として、きちんとご挨拶しておきたくて」
「………」
私の言葉に、先輩は絶句している。まさか付き合って数日で家族に挨拶なんて思ってもみなかったのだろう。だが、小町さんにはいずれバレるだろうから、どうせならこちらから報告しておいた方が後々面倒なことにならないと考えたからだ。
「ところで、小町さんってどこの大学を受けたんですか?」
「由比ヶ浜から聞いてないのか?」
「結衣先輩? いえ、何も」
「小町が受けたのは、お前たちと同じ大学だ」
「えぇっ!?」
まさか小町さんがまた後輩になるとは……てか、先輩の実家からだとウチの大学はかなり通学が面倒な気がするんだけどな……通えないわけじゃないけど。
「遅くまで講義があった日とか、帰るの面倒じゃないですかね?」
「たまにこの部屋に泊まるかもしれないとは言っていたな」
「それって、私が先輩に甘えられる日が減るってことじゃないですか……」
「毎日入り浸るつもりだったのか、お前は……」
私が楽をしようとしていたのがバレてしまい、私は誤魔化すように笑みを浮かべる。それで誤魔化されてくれればいいのだが、この人には私の笑顔は通用しないのだ。
「一人暮らしの自覚が足りてないよな、お前……」
「やる時はやりますけど、長期休暇の時はどうしてもやる気が……てか先輩」
「なんだよ」
「さっきから『お前』としか呼んでくれてないですよね! 名前で呼んでくださいよ」
「いや、お前だって俺のこと『先輩』としか呼んでないだろ? いきなり呼び方を変えろと言われても難しいんだよ」
「それはそうですけど……でも先輩は私のこと『いろは』って呼んでくれたことが何回かあるじゃないですか。付き合ってなくても呼べたんですから、呼ぼうとすればできますよね?」
「………」
私の切り替えしに、先輩は何も言わずにコーヒーを啜った。
「黙らないでくださいよ……」
「……いろはも参加するって、お袋殿に言っておく」
「あっ、ありがとうございます……」
不意打ち過ぎる名前呼びに、私の頬は赤く染まる。こういう不意打ちが多すぎるから気をつけておかないと。
数日後。私は先輩と一緒に千葉へ帰ってきた。帰ってきたと言っても、小町さんの合格祝いを手伝ったらそのまま東京へ戻る予定なのだが。
「そういえば、先輩の実家って行ったことなかったですね」
「そうか? まぁ、来ても何もないからな」
雪乃先輩や結衣先輩は来たことがあるのだろうかとか、ご両親にどう挨拶すればいいのかとか、私の頭の中ではそんなことがぐるぐると駆け巡っている。
「ここ、ですか?」
「表札見れば分かるだろ」
「ですね……」
表札には『比企谷』の文字が。つまりここが先輩の実家で、今から私が彼女として初めて訪れる彼氏の実家ということだ。
「そういえば先輩、私手ぶらなんですけど」
「気にすることないだろ。あくまでも小町を祝いに来ただけで、正式な挨拶ってわけじゃないんだし」
「でも、気の利かない彼女だって思われたら……」
「気にし過ぎだ。てか、俺の親に何と思われようが、いろはは俺の彼女なんだから」
「先輩……」
この間催促したからではないが、先輩は私のことをちゃんと名前で呼んでくれる。そんな小さなことが先輩の彼女なんだと実感させてくれる。
「ほら、行くぞ」
「は、はい」
先輩に手を引かれ、私は比企谷家の中へ入っていく。
「ただいま」
「お、お邪魔します」
先輩に続くように挨拶をしてから、私は恐る恐るリビングへの道のりを進む。
「お兄ちゃんおかえりー。そして、いろは先輩いらっしゃい!」
「受験が終わって元気が戻ったようだな」
「さすがに死ぬかと思ったよ。まぁ、お兄ちゃんみたいにハイレベルな大学を受験したわけじゃないから、そこまで死にそうになってたわけじゃないけどね」
「それで、親父殿とお袋殿は? 人のこと呼びつけておいて不在か?」
「なんか二人とも急な仕事が入っちゃったらしいから、お祝いは小町とお兄ちゃん、あといろは先輩でやっておいてくれってさ」
「相も変わらず社畜か……」
「そんなわけですからいろは先輩、そんなに緊張する必要はないですよ」
小町さんには私が緊張していることがバレバレだったようで、そんな声をかけられてしまった。
「てかお兄ちゃん、本当にいろは先輩と付き合ってるんだね」
「なんだよ急に」
「だって、ずっと手をつないでるからさ」
「ん?」
先輩は無意識だったようで、小町さんに指摘されて漸く私と手をつないだままだったと気づいたようだ。
「てか、二人が不在じゃお祝いって感じにならないんじゃないか? なにも用意してないようだし」
「だねー。だからお兄ちゃんが何か作ってよ」
「俺が?」
「小町はいろは先輩からいろいろと聞かなければいけないことがあるので忙しいのです」
「な、なにを聞きたいの?」
「そりゃいろいろですよー。というわけでお兄ちゃん、いろは先輩借りるね~」
小町さんに引っ張られてリビングを出ていく時、先輩が同情的な目をしていた気がした。というか助けてくれないのかと文句を言いたかったが、小町さんの勢いに先輩も圧されたんだろうな……
小町の口調が難しい