やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
先輩の家に挨拶に行った――実際は小町さんとおしゃべりをしただけだが――からといって、何かが大きく変わるわけではない。春休みの間は私も先輩もそれぞれバイト以外は出かける用事もないので、どちらかの部屋でダラダラすることが多い。
だが今日、久しぶりに先輩の部屋に戸塚先輩と材木座先輩、そして玉縄さんたちが遊びに来るそうだ。
「結衣先輩や折本さんも来るみたいですね~」
「ようやく玉縄が自分で誘ったのかと思ったが、戸塚が誘ったらしい」
「あの人が自分で誘えるわけないじゃないですか」
玉縄さんは高校時代から折本さんに恋心を抱いているようだが、未だに進展する様子が見られない。というか折本さんにその気持ちがないのだから、玉縄さんが頑張っても進展しないだろう。
「てか先輩」
「なんだ?」
「私と付き合ってること、他の人には教えたんですか?」
「戸塚には報告してある。材木座と玉縄には言ってない」
「そうなんですか……じゃあ、集まってるときはくっついたりしちゃダメですかね?」
今日はお昼から先輩がバイトだったので、いつもより先輩成分が足りない。だから夜は思いっきりくっつこうと思っていたのだが、まさかの戸塚先輩たちの来訪なのだ。このままでは我慢できずに先輩のベッドで一緒に寝たくなってしまうかもしれない。
「必要以上にくっつかなければ構わない。戸塚と由比ヶ浜は知ってるんだし、どうせ今日残りのメンツにも話すつもりだからな」
「なら良かったです」
我慢しなければいけないと思えば思うほど、先輩にくっつきたくなってしまう。最近の私はどうも先輩に甘え過ぎている気がする。
「………」
「どうかしたのか?」
「いえ……どうやったら先輩なしで生きて行けるか考えていただけです」
「大げさな……」
「大げさじゃないですよ! いいですか!? もうすぐで新学期が始まるわけです。そうなると大学が違う先輩と過ごす時間が大幅に減ってしまうんですよ!? そうなったら何時禁断症状が出て寝ている先輩を襲おうと考えだすか分からないんですから」
「それは大変だな……」
若干引かれてしまったが、先輩は私のことを避けずにいてくれるようだ。
「大学が違うのは今に始まったことじゃないし、そもそも普通に通えてただろ? なんで今更無理になるんだよ」
「そりゃ、私がずっと我慢していた先輩と付き合うということが現実になったからですよ。今まではちょっと思うだけだったことが、少し頑張れば現実になるんですから、我慢できなくなっても仕方ないじゃないですか!」
「お、おぅ?」
先輩にはピンと来ていないようだが、私だって思春期の女の子だ。好きな異性とアレコレしたいと思ったりもする。ましてやその相手が隣の部屋で生活しているのだから、箍が外れたら大変なことになるだろう。
そういうことも考えて、春休みは目一杯先輩と触れ合おうと思っていたのに……まぁ、恋人の友人関係に口を出すなんて、最低最悪だからやりませんけど……
「あいつらが帰った後、ゆっくりすればいいだろ。さすがに日付が変わる前には帰るだろうし」
「そうだといいですけど……もし日付が変わってもいたら?」
「……泊っていけばいいだろ」
「はいっ!」
めったに出ないお泊り許可が出たので、私は誰か一人でも日付が変わるまでこの部屋にいてくれないかなと思いつつ、早く先輩と触れ合いたいという二つの気持ちで揺れるのだった。
先輩の部屋を一番最初に訪れたのは、ある意味想像通りの玉縄さんだった。
「やあ、いろはちゃん」
「こんばんは。今日はお誘いありがとうございます」
「良いって」
実際は誘われていないのだが、玉縄さんは戸塚先輩が折本さんや結衣先輩と一緒に私も誘ったのだろうと解釈してくれた。
「毎回思うんだが、なんで俺の部屋なんだよ。お前の部屋の方が広いんだろ?」
「僕の部屋より比企谷の部屋の方が来やすいって人が多いんだ。だから比企谷の部屋を使わせてもらってるんだよ」
「まぁ、先輩の部屋と玉縄さんの部屋なら、先輩の部屋の方が来やすいですよね――気持ち的に」
「僕は立地的な意味で言ったんだけどな……」
玉縄さんも女性には一応紳士的な対応を取る人だが、精神的には先輩の方が信頼できるので先輩の部屋と言われれば、玉縄さんの部屋と言われた時より参加しやすいだろう。
そもそも玉縄さんの目的は折本さんなので、折本さんが玉縄さんの部屋に行くかどうか問われたら何と答えるかなど、玉縄さん本人も分かっているんだろうな。
「てか、戸塚はどこだよ」
「戸塚君は少しよるところがあると言っていたな。もうすぐ来るんじゃないか?」
玉縄さんの言葉が合図だったかは分からないが、戸塚先輩たちがちょうどやってきたようで、外から声が聞こえる。
「ほら来た」
「てか、なんでお前だけ別行動なんだよ」
「僕は買い出しでは戦力になれないらしいから」
「材木座はなってるのにな」
先輩の言葉に込められた意味に気づくことなく、玉縄さんは残りのメンバーを部屋に招き入れる。
「待ってたよ」
「なんでお前が扉を開けるんだよ……」
戸塚先輩たちから荷物を受け取った先輩が文句を言うが、玉縄さんは気にした様子はない。本当にこの人は空気が読めないというかなんというか……
「こうして八幡の部屋に集まるのも久しぶりだね」
「最近の八幡は付き合いが悪いからな」
「いろいろと忙しかったんだよ。てか、俺が居なくても三人で集まったりすればいいだろ」
「そうなんだけど、八幡がいないとなんか違うなーって感じがするんだよね」
先輩と個々は付き合いがあるけど、先輩がいないとそこまで付き合いが深いわけではないようで、先輩抜きで集まることはしないと戸塚先輩が言う。確かに高校時代もそうだけど、先輩抜きで他のメンバーが喋ってるところを見たことがないかもしれない。
「そういえば比企谷、妹ちゃんがうちらの大学に入学するってマジ?」
「あぁ。由比ヶ浜と一色は高校に続き小町の先輩に――そういえば由比ヶ浜、単位採れたのか?」
「ヒッキー、あたしのこと馬鹿にしすぎだし! ちゃんと単位は採ったから!」
「それはよかった。小町と同窓になるのかと思った」
「それはそうと、比企谷はなんで結衣ちゃんをフッたの?」
「……折本、部屋に来ていきなりその話題かよ」
「だって、結衣ちゃんに聞くわけにはいかなかったからさ」
折本さんの質問に、事情を知らない玉縄さんと材木座先輩が勢いよく先輩に視線を向ける。当事者である結衣先輩と私、そして事情を知っている戸塚先輩はそれぞれ折本さんから視線を逸らす。下手に助け舟を出すより、先輩本人が答えた方が折本さんも納得するだろうと思って。
「前々から言っていたんだが、由比ヶ浜のことを恋愛対象として見たことがなかったからな。それに、半端な気持ちで由比ヶ浜と付き合うのは、相手に失礼だろ」
「じゃあ、一色ちゃんと付き合っているのは、比企谷も一色ちゃんのことが本気で好きってことなんだね?」
「「っ!?」」
結衣先輩をフったという話題の時は声を出さなかった二人が、私と付き合っていると知って先輩により強い視線を向けた。
「八幡貴様、何時の間に彼女持ちになっていたのだ!」
「この間のバレンタインデーに、二人から告白された。それで一色と――いろはと付き合ってるだけだ」
「ぬぅ……この我は未だに異性とろくに喋れないというのに……いったいどこで差がついたというのだ」
「最初からだと思うよ。八幡は誤解されがちだけど、意外と女子の間でも話題になってたし」
「おっふ! 戸塚殿、最近我に対して容赦がなくなってきてないか?」
「そんなことないよ。材木座君が八幡と同じレベルだと思ってるから、それを指摘してあげてるだけだよ」
戸塚先輩の黒い面が見えたような気がして、私たちは少し戸塚先輩から離れる。
「比企谷が女子を名前で呼ぶなんて信じられない」
「さすがに彼女だからな。苗字で呼ぶと返事しなかったりするから、いい加減呼ぶのも慣れた」
「そっか。比企谷、大事にするんだよ」
「分かってるっての」
折本さんの表情が少し寂しそうなのに、私だけが気づく。折本さんの中に先輩に対する気持ちがあるのではないかという疑問が残ってるけど、とりあえずは折本さんも祝福してくれているので大丈夫かな。
材木座も声はカッコいいんだから……