やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
半分くらい冗談で誘ったデートだったのだが、先輩が快諾してくれたのでこちらが焦ってしまう。だがこうして何気なく誘っても了承してくれるのはありがたいことだろう。
「せーんぱい。お待たせしました」
「相変わらずあざといな、お前は」
「あざとくないですよ! というか先輩。呼び方がまた『お前』に戻ってます」
頬を膨らませて上目遣いで抗議――うん、今の私は十分あざといな。
「とりあえず行くぞ。何時までも部屋の前で口論してるのもばかばかしい」
「あっ、待ってくださいよ!」
駆け足で先輩に追いつき、少しドキドキしながら腕を絡めてみる。付き合う前なら隣を歩くまでで満足していたけど、今の私たちは恋人関係だ。これくらいしてもいいだろう。
「歩きにくいんだが」
「少しくらいいいじゃないですか。それに先輩だって、こういうことしてみたいって思ったことあるんじゃないんですか?」
「さぁな」
そっぽを向かれてしまったが、恐らく先輩もこういうシチュエーションに憧れたことがあるのだろう。そうでなきゃこの人ははっきりと否定するだろうから。
「いろはは着替えてきたんだな」
「せっかくのデートですから。部屋で着るようなダル着じゃ出かけられませんよ」
「女子は大変だな」
「先輩も少しはおしゃれしたらどうですか?」
口ではこんなこと言っているが、私としては先輩がおしゃれをして他の女性に注目されるのは避けたい。だからいつも通りの恰好でいてくれて内心ホッとしているのだが。
「めんどい。それに、もともと予定してたわけじゃないんだし、別にいいだろ?」
「でも私だけ気合入れてるみたいで嫌じゃないですかー。せっかくのデートなんですし」
「はいはい、次からは考えておく」
「約束ですからね」
恐らくだけど、次もこんな感じではぐらかされるんだろうな。この人の頭の回転は私では太刀打ちできないくらい早いので、何か理由をつけて誤魔化されてしまいそう。
「それで、何処に行きます?」
「さすがに今から遠出するわけにもいかないしな……」
とりあえず駅に向かっているのは分かるが、先輩も具体的なビジョンは見えていない様子。まぁ、三十分前に誘ったばかりなので、その辺は仕方ないんだろうな。
「私は別にこのままお散歩デートでも構いませんよ?」
「それをデートとして認めてくれる彼女で助かるが、ちょっと行きたいところがあるからな」
「そうなんですか?」
この人のことだから、自分のための本を買う為に本屋に行くとか、そんな感じなんだろう。私としては先輩のお買い物に付き合うだけでも十分楽しいのでいいんですけど、普通の彼女だったら怒って帰ってしまうだろう。
だが私の予想は大きく外れた。先輩行きつけの駅前の本屋を素通りして、普段先輩が行かないようなアクセサリーショップに向かっている。
「先輩、装飾品でも買うんですか?」
「いや……いろはにプレゼントをな」
「えっ?」
少し照れながら言われて、私も一瞬理解するのに時間を要した。だってあの先輩が私にプレゼントとか言い出したのだから、フリーズしてしまっても仕方がないだろう。
「もちろん誕生日には別のものをプレゼントするが、さっき小町との会話が聞こえてな……さすがにペアは無理だが、俺からいろはにプレゼントくらいならできるから」
「そこはせっかくだしペアネックレスとかにしましょうよ」
「俺のキャラじゃないだろ」
「恥ずかしがらずに」
先輩からのプレゼントだけでも十分嬉しいのだけど、もう一歩踏み込んでも良いんじゃないかと思い提案しているのだ。もちろん、先輩がこの程度で折れてくれるとは思ってはいないけども。
「そういうのはまた今度な。とりあえず選んでくるから、いろははテキトーに見ててくれ」
「はーい、期待しないで待ってます」
本音は期待しまくりなのだけど、そんなことを言えば先輩にプレッシャーを与えてしまうだろうからいつも通り憎まれ口をたたいておく。可愛くない彼女だと思われるかもしれないけど、先輩は私の気遣いに気づいたのか、軽く肩を竦めてアクセサリーを選びに行った。
「私は私で先輩へのプレゼントでも選んでみようかな」
せっかく先輩がプレゼントしてくれるのだから、私からもお返しを用意した方がいいだろう。そう考えた私は男性用のアクセサリーコーナーへ足を向けた。
「うーん、どれも先輩にしっくりこないな……」
そもそもさほど着飾らない人だから、こういうアクセサリーを着けている光景が想像できない。似合いそうだなと思っても、いざ先輩が着けている場面を想像すると何か違うのだ。
「先輩が好きな物の形をしたネックレスでもあれば……」
あの人が好きな物って何だろう……
「そういえば私、先輩の好き嫌いってあまり知らないかも……」
いや、嫌いはそれなりに知っているが、好きを知らない。先輩が好きだと公言しているのは戸塚先輩と妹の小町さん。そして恋人の私――
「っ!」
余計なことを考えて顔が熱くなったので、私は慌ててその熱を追いやる。そのせいで店員さんに不思議そうに見られてしまったが、とりあえず冷静に戻れた。
「無難に三日月の形にしておこうかな」
これなら先輩でも似合うだろうし、最悪私が着けてもおかしくないデザインだ。先輩が気に入らなかったら自分用ってことにしよう。
「そうと決まれば」
私はそそくさとプレゼント用にとお願いして三日月型のネックレスを購入。先輩と別れた場所に戻ると、先に先輩が戻ってきていた。
「……お前も何か買ったのか?」
「そんなところです」
先輩の手には可愛らしい色で包まれたネックレスらしき物が見受けられる。
「気に入るかどいうか分からないけどな」
「ありがとうございます。実は私からも先輩にプレゼントがあります」
そういって私は、落ち着いた色の紙に包まれたネックレスを渡す。
「交換ってわけか?」
「私からプレゼントです。何気に彼氏彼女になって初めての贈り物ですし」
いや、先輩後輩の時だって贈り物をしたことなんてない。チョコのお返しにクッキーとか、帰り道にジュースとかはあったけど、こういうちゃんとした贈り物は初めてだ。あっ、誕生日にあげたっけ。
「家に帰ってから開けるか」
「ですね」
意外と短かったデートを終えて、私は先輩から貰ったプレゼントの包装紙を解いていく。
「これは、クローバー?」
無難といえば無難なデザインのネックレスを見て、私は先輩らしいと笑みをこぼす。
「私も無難なデザインにしたけど、先輩も同じ考えだったんだな」
早速着けて鏡の前に立つ。
「えへへ」
特別可愛いとか、高そうとか言うわけではないけど、先輩からのプレゼントというだけでだらしない顔になってしまう。先輩も私からのプレゼントを見て、こういう顔をするのかな。
先輩から貰ったネックレスを着けてバイトへ向かう。最近は人通りがあっても過敏に反応することもなくなってきたので、通勤もスムーズだ。
「お疲れ様です」
「一色さん、こんにちは。ん? そのネックレスどうしたの?」
先輩バイトが目ざとく私のネックレスを見つけ尋ねてくる。それほど目立つようにしていなかったんだけど、やっぱり女性はこういうのを見つけるのが上手なんだろうな。
「プレゼントしてもらったんです」
「彼氏? な訳ないか。一色さん男性恐怖症だし――」
「そうですよ」
「――だよね。彼氏な訳……って、えぇ!?」
「う、うるさいですよ……」
大声を出して詰め寄られたので、思わず顔を顰めてしまう。それを見て慌てて距離を取ってくれたが、追及はやめてくれなさそうだった。
「いつ彼氏ができたの? てか、男性恐怖症なのに彼氏できたんだ」
「付き合い始めたのはバレンタインデーです。相手は比企谷八幡さんですよ」
「あっ、なるほど。前から気にしてる様子だったけど、本気だったんだ」
「意外と競争率高いんですよ、先輩は」
私が知っているだけでも雪乃先輩に結衣先輩。それから川崎先輩なんかも先輩のことを意識してたようだし、本気かどうか分からないけど平塚先生も先輩のことを意識してたらしいし。
「それで彼氏からのプレゼントか。いいなー、私も彼氏欲しい」
「いつかいい人が現れますよ」
「くっ、彼氏持ちの余裕か」
「そんなんじゃないですよ」
仕事中はさすがに外していたが、ロッカーにあるネックレスに意識が向きすぎて、細かいミスを連発したのは先輩には内緒だ。
付き合って余裕が出てきてる