やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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盛り上がってるのは一人だけ


微妙な温度差

 そろそろ私の誕生日だというのに、先輩からはそんな話題は出てこない。まぁこの人がそういうイベントに積極的じゃないということは分かっているけども、それでも彼女の誕生日くらいはしっかりとしてもらいたい。

 

「ねぇねぇ先輩、最近冷たくないですか?」

 

「春先だからってちゃんと布団を掛けないで寝てるからだろ」

 

「そういうことじゃなくて――って、なんで私が布団を掛けてないって知ってるんですか?」

 

 

 もしかして私が寝ている部屋に侵入しているのかなんて思ったけど――

 

「いや、お前最近俺の部屋で寝てることが多いだろうが」

 

「そうでしたね」

 

 

――ここ最近は先輩の部屋でご飯を食べ、お風呂に入り、そのままお泊りという流れが多いのだ。別に部屋が隣なのだから帰っても手間ではないのだが、なんとなく先輩の部屋にいたいという気持ちが強いからである。

 そもそも今更寝顔を見られたからと言って文句を言うほど浅い関係でもない。私はあまり先輩の寝顔を見たことはないけど、先輩は私の寝顔をかなりの回数見ている。なので今更恥ずかしがることもない。

 

「てか、話をそらさないでくださいよ! 最近先輩が私に対して冷たいって話はどこに行っちゃったんですか!」

 

「そんな話は最初からしてないだろ。てかいろははそろそろ部屋に帰れ。俺は出かけるって言っただろ」

 

「お留守番してますよ。何なら、ご飯でも作って待ってます」

 

「……勝手にしろ」

 

 

 力なく肩を落として外出する先輩を見送り、私は先輩のいない部屋でダラダラと過ごす。今日は特に予定もないので一日先輩といちゃいちゃ――ではなくダラダラしようと思っていたのに、肝心の先輩が出かけてしまったのですることがないのだ。

 

「そういえば最近買い出しも行ってなかったな……」

 

 

 自分の部屋の冷蔵庫の中身を思い出し、そろそろちゃんとしなければと反省する。かといって今から一人で買い出しに行けるかと問われれば困ってしまう。最近は多少改善されてきたとはいえ、私は男性恐怖症になってしまっているのだ。大勢の人がいるスーパーで襲われる心配はないだろうが、男性客とすれ違うだけで大騒ぎになってしまうかもしれない。そういうことを考えると買い出しに出るのを躊躇ってしまうのだ。

 そんな言い訳を自分の中でしつつ、私は先輩の部屋の冷蔵庫を開けて今日の献立を考える。人の家の冷蔵庫を勝手に開けているなんてと思うが、先輩も最近は何も言ってこなくなったので罪悪感が薄れてきているのだろう。

 

「相変わらず先輩の部屋の冷蔵庫の充実具合は凄いなぁ……伊達に来客が多い部屋じゃないってことなんでしょうけども」

 

 

 ここ最近は先輩の部屋に来客がある時私も同席しているけど、たまに私がいない方がいい時もある。先輩が私に隠れて他の女を――とかではなく、私と面識のない男性が部屋に来ることもあるのだ。そういう時は先輩が先にメッセージをくれるので、鉢合わせることはない。

 そもそも先輩の部屋にいる必要はないと言われることもあるが、少しでも先輩を感じていたいという思いが日に日に強くなってきているのだ。わざわざ先輩がさっきまで座っていた位置に腰を下ろしたのは、そういう思いからなんだろう。

 

「昨日は先輩がご飯を作ってくれたから、今日は私が――って思いも最初はあったはずなんだけどな……」

 

 

 半同棲みたいな感じが続き、先輩に対する遠慮が無くなってきているのかもしれない。いや、最初からそんなもの無かったのかもしれないけど、ここ最近の私は厚かましすぎる。

 

「さっきだって露骨に構ってアピールしてたような……」

 

 

 あの結衣先輩だってあそこまでアピールしてなかったのに、やっぱり最近の私は箍が外れているのだろう。少し戒めなければいけない。

 そうは思うのだがどうしても先輩と一緒にいると甘えたくなってしまう。先輩もなんだかんだで許してくれるからいけないのだと責任転嫁しつつ、私は冷蔵庫と相談しながら献立を決めた。

 

「今日は野菜多めの野菜炒めとお味噌汁。それからアジの干物があるからそれも焼いて」

 

 

 女子大生らしく華やかな料理――なんて考えは私の中にはない。そもそも先輩がそんな見た目重視の料理を喜んでくれるはずもないし、彼が作る料理もだいたいこんな感じ。洋食と和食の違いはあるけども、先輩だって基本に忠実な料理の方が圧倒的に多いのだ。たまに凝った料理も出てくるけど……

 

「てか、私は誰に言い訳してるんだろう」

 

 

 言葉にしてないとはいえ、言い訳じみていたことを考えていたのは事実。私は自分自身にツッコミを入れてから気合を入れ直し、先輩が帰ってくるまでに料理を済ませようとキッチンに立つ。

 

「そういえばエプロン姿を見ても何も言ってくれなかったっけ」

 

 

 男の人はエプロン姿が好きとかなんとか友達が言ってたからしてみたけど、先輩の反応は薄かった。まぁ、小町さんで見慣れてたとか、結衣先輩やそのお母さんと一緒にお菓子作りをしたことがあるとか聞いたし、今更新鮮でもなかったんだろうな。

 

「……でも、そう思うとなんだか複雑かも」

 

 

 小町さんは兎も角として結衣先輩は最近までライバルだった人だ。その人のエプロン姿の方が良かったとか思われてたらと考えると、ちょっとイラっとする。

 

「結衣先輩、ゴメンなさい」

 

 

 完全な八つ当たりだと理解しているので、とりあえず謝っておこう。そうじゃないと、今度結衣先輩に会った時に気まずい気がするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誕生日前日、私は午前中のみ講義に出て午後からはフリーだった。なので友達に誘われて近くのファミレスで一日早い誕生日パーティーを開いてもらっていた。もちろん、友達に宣言されるまでそんな感じだとは思っていなかったのだが。

 

「一日早いけど、おめでとう」

 

「ありがとう。でもなんで今日? 普通に明日でも――」

 

「だっていろは、彼氏持ちでしょ? 明日は彼氏と過ごすんだと思って」

 

「いいなーいろはちゃん」

 

 

 特にそういう予定はないのだが、友人たちの中では明日は先輩とデートと言うことになっているらしい。結衣先輩だけは羨望のまなざしをしているけど、残りのメンツはからかう気満々の顔をしている。

 

「何を期待してるのか分からないけど、明日の予定は未定だから」

 

「そうなの? いろはから聞く限りだけど、いろはの彼氏は真面目そうだから記念日とかちゃんとしてくれそうなのに」

 

「いやいや、何処をどう聞いたらあの先輩が真面目だと思うのよ」

 

「何回か見たことあるけど、真面目そうな人だとは思うよ?」

 

 

 あの見た目で何をどう解釈したらそうなるのか聞きたいけど、自分の彼氏をぼろくそに言われるよりかはマシだろう。とりあえず明日のことを考えるより、今はこのパーティーを楽しもう。

 

「さて、誕生日パーティーということは、もちろんプレゼントがあるんだよね?」

 

「いやー……」

 

「それはー……」

 

「あははー……みんな金欠でねー」

 

「まっ、そもそもパーティーだって知らなかったし、開いてくれただけでも感謝してるよ。あっ、ここは奢りでお願いしますけど」

 

「それくらいなら」

 

 

 豪遊するわけでもないし、ファミレスで奢ってもらうくらいならこちらもさほど罪悪感は覚えないし、向こうのお財布にもダメージは少ないだろう。

 

「いろはは明日二十歳になるわけだけど、お酒とかどうするの?」

 

「今のところ興味ないかなー。先輩も呑まない人だから」

 

「ヒッキーそれほどお酒に弱いわけじゃないのにね」

 

「なんで結衣さんがそれを知ってるの?」

 

「もしかして浮気してるんですか?」

 

「そうじゃなくて、一回私とヒッキーと彩ちゃんの三人で呑んだことがあるんだよ。その時ヒッキーだけが無事で、私と彩ちゃんは酔いつぶれちゃったから」

 

「ちなみに、その場に私もいたからね」

 

 

 なんだか変な誤解をされてそうだったので早めに修正を入れておく。てか、結衣先輩が成人してお酒を呑むかどうかの時、この子たちもいたような気がするんだけどな……

 

「とりあえず、今日まではまだ未成年だからジュースで乾杯しておこう」

 

「結衣さんはどうします?」

 

「私もジュースで」

 

 

 全員でグラスを持って乾杯をする。なんだかこういうノリも懐かしくて楽しいな。でも、やっぱり先輩と一緒の方が楽しいと思ってしまうのは、私が先輩に依存しているからなのだろうか……




共依存という言葉がちらつくいろは
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