やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
今日は結衣先輩の部屋でのお泊り会。本音を言えば今日も今日とて先輩の部屋でのんびりしたかったのですけど、こういった付き合いも大事だと割り切って参加している。
お泊り会と言っても、メンバーは私と結衣先輩、そして小町さんの三人だけ。大学内でのお喋りの延長でしかないのだけども。
「やっぱり小町も一人暮らしとかしてみたいですね」
「でも小町ちゃんの場合、私たち以上にお父さんの説得が大変なんじゃないの?」
「そこなんですよねー」
小町さんのお父さん――つまり先輩のお父さんは小町さんを溺愛している。息子の先輩など眼中にないくらい小町さん中心の考えをしている人で、その人が小町さんの一人暮らしを認めてくれるとは到底思えない。
私や結衣先輩も父親の反対をなんとか押し切って一人暮らししている。小町さんももしかしたら可能なのかもしれないけど、娘を思う気持ちが私や結衣先輩の父親と小町さんのお父さんとでは違い過ぎる。私たちのはあくまでも過保護レベルで済むかもしれないけど、小町さんに対する思いはそれでは済まなさそうだ。
先輩が言うには「小町の可愛さを考えれば当然」らしいけども、それを「当然」で済ませて良いのかどうかという疑問も出てくる。
「お兄ちゃんが先に実家を出て行ってしまったから、小町もってなったら悲しむでしょうから――カマクラが」
「カマクラって……」
カマクラというのは、比企谷家で飼われている猫の名前。先輩にはさほど懐いていないようでしたけども、小町さんからしたら先輩にも懐いているらしい。
「お父さんとかじゃなくてカマクラなんだ」
「結衣さん、無理に私たちに合わせなくていいですよ」
「何が?」
「だって結衣先輩、いつもパパ、ママって呼んでるじゃないですか」
この中で結衣先輩が一番大人なのだが、呼び方に関しては一番子供っぽい。そのことを気にしてなのか、それとも無意識なのかは分からないけども、さっきから結衣先輩は私たちに呼び方を合わせていた。
そのことを小町さんが指摘して、結衣先輩の表情に赤みが増す。恐らく指摘されるとは思っていなかったので、いざ指摘されたら恥ずかしかったんだろうな。
「気にしなくていいと思いますよ。お兄ちゃんがそんな風に呼んでいたら気持ち悪いですけど、結衣さんの見た目ならぴったりですから」
「褒められてる気がしないのは気のせい?」
「どうでしょうね。そんなことより」
「そんなことって――」
結衣先輩がまだ何か言いたそうにしていたが、小町さんはそれに取り合うことはしない。彼女の中では結衣先輩に付き合うよりこの後の話題の方が大事だったからだ。
「お泊り会の本題に入りましょう」
「本題?」
「結衣さんやいろは先輩が、兄の何処を好きになったかですよ」
そういえばそんなことを話していたような気もする。だが小町さんには悪いけども、私はその原因を人に話すつもりは毛頭ないのだ。だって、私と先輩との思い出で、結衣先輩も詳しくは知らない話だから。
逆に結衣先輩が先輩を好きになった理由も私は知らない。知ろうとしたこともない。雪乃先輩に関しても同じだ。先輩のことを好きなんだろうとは思っていたけど、その原因を知ろうとしたことなど一度もないのだ。
「そんなことより小町さんこそどうなんですか? 良いなーって感じの男性とかいないんですか?」
「小町のお眼鏡に適う人はいませんねー。中学時代からそうですけど、同級生ってなんだか子供っぽいって思っちゃうんですよ」
「なんとなくわかります、それ」
私の場合は最初は葉山先輩、それ以降は先輩に粘着していたから仕方がないのかもしれないが、小町さんの場合はやはり先輩が基準になってしまっているからなのだろうか。あの人を基準で考えたら相当厳しいと思うんだけどな。
「そうかな? 私の場合は同級生は同級生って感じで楽しかったけどな」
「結衣先輩は戸部先輩とかと一緒に行動してましたもんね」
「うん。戸部っちだけじゃなくて優美子とか姫菜とかも一緒だったけど」
「あのグループって葉山さんが中心だったからじゃないですか? あの人は同学年の中でもかなり大人っぽかった感じでしたから。小町たちの学年でも、葉山さんは人気高かったですし」
「葉山先輩ですからね」
見た目の良さで手を――興味を持った相手だったが、実際内面を知っていくにつれて興味は薄れていった。初めに抱いた印象はだいぶ違っていたのだ。カッコよくてなんでも自分でこなせるスーパーマン。そんなのは幻想でしかなかった。
詳しいことは私には分からないけども、葉山先輩は問題に直面しても自分で解決しようとせずに先輩を頼り、先輩のお陰で問題が解消されたにもかかわらずそのやり方を否定したとか。まぁ、解決ではなく解消な辺りがあの人っぽいのかもしれませんが、何もできなかった人にそのやり方を否定する権利はないと思うんですよね。
「それと同時に、何故か兄の評価も高かったんですよね」
「ヒッキーの?」
「はい。だから結衣さんやいろは先輩が兄の何処に魅力を感じたのかを聞けば、当時の疑問も少しは晴らせるのかなって」
「そこに戻るのっ!?」
結局は小町さんからの追及を避けることはできなかったようで、私ではなく結衣先輩が声を上げた。まぁ、私も上げたかったんですけど、結衣先輩の方が反応が早かっただけなのだが。
「前にも言いましたけど、小町からしたらお兄ちゃんはゴミいちゃんだったわけで、異性としての魅力とか言われてもピンとこないわけですよ。それなのに同級生からは一定の評価を得て、先輩の中でも人気の高いと言われていた三人から想われているとか意味わからないんですよ」
「三人って、私とゆきのんといろはちゃん?」
「はい! 沙希さんとかも人気高かったですけど、トップスリーを上げるとしたら結衣さんたち三人ですね」
小町さんの言葉に、私は少し意外に思ってしまう。雪乃先輩や結衣先輩は納得いくが、まさかそこに私が加わっているとは思わなかったのだ。川崎先輩の面倒見の良さは私たちの代でも有名だったし、三浦先輩のような感じの女子も人気が高かったからだ。さらに言えば、私たちの代なら城廻先輩のことを知っている代なので、私よりも城廻先輩の方が人気が高かったからだ。
そもそも私は自分が興味のない相手からどう思われていようが気にしないというスタンスだったので、小町さんの代の男子との繋がりなどほとんどない。精々二期目を務めていた時にいた後輩たちとしか繋がりはなかった。それなのに何故そんなにも人気があったのだろう。
「雪乃さんはミステリアスな雰囲気がありながら、猫相手にデレデレになってるところを見られたんだとか」
「あー、ゆきのん猫大好きだからね」
「結衣さんは見た目もですけど性格も可愛いですし」
「いろはちゃんは?」
「真面目な生徒会長カッコいいって感じから、普段の猫っぽい雰囲気が良いとか言ってました」
「猫?」
「興味のない相手にはとことん冷たい感じですかね」
まさか私のスタンスが受けていたとは……てか、猫っぽいんですかね、私みたいな対応って。
「てか雪乃先輩がそんな油断するとは思えないんですけどね。あの人、常に周りに人がいるかどうか気にしてる感じでしたし」
「もしかしたら陽乃さんが雪乃さんのそんな映像を流したのかもしれませんね」
「あー陽乃さんならやりかねないかもしれないねー」
「でもあの人の重度もシスコンですよね? シスコン過ぎて愛情表現がおかしな感じでしたけども、雪乃先輩を貶めるようなことをしますかね?」
「逆に近づきやすい雰囲気を出したかったのかもしれませんよ?」
小町さんの言葉に、思わず納得してしまう。雪乃先輩はどこか近づきにくいオーラを放っていた。だからではないが、親しくない人からは勘違いされていたとかいないとか。それをどうにかしようと陽乃さんが動いたとしても不思議ではない。
「そんなわけで、人気の高い人たちが何故お兄ちゃんなんかを好きになったのか、小町は興味津々なのです」
「結局そこに戻るのっ!?」
脇道に逸れたはずなのに結局小町さんの中での本筋に戻ってしまい、結衣先輩がもう一度大声を出す。いやほんとに、なんでそこに戻るんですかね……私は話したくないっていうのに……
脇に逸れそうで逸れない