やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない 作:猫林13世
結衣先輩が先輩を好きになった理由というのは、確かに私も気になっている。雪乃先輩もだが、結衣先輩だって言い方は悪いが選び放題だろう。それなのに何故あの先輩に惹かれたのかというのは、私も気にしていたことだ。
だからと言って、結衣先輩の理由を聞きだすのと引き換えに、私が先輩に惹かれた理由を話さなければならないとなるなら、無理に聞きたいとは思わない。以前に小町さんにはそれらしいことは伝えたけど、あれだって百パーセントの理由ではないから。小町さんもそれが分かっているから私にも追及しているのだろう。
そもそもの話として、兄の恋人に対してここまでグイグイ来る妹というのはどうなのだろう。先輩はシスコンを公言しているからありかもしれないけど、小町さんは自分がブラコンであることを認めていない。いや、認めているのかもしれないけど、それを声高に宣言はしていない。それなのに何故ここまでしつこく聞いてくるのだろうか。
「それで、結衣さんは何時頃から兄に好意を持っていたんですか?」
「まだその話なのっ!?」
「だって小町的には、それが聞きたくてお泊り会を提案したまでありますからねー」
さすがは兄妹。言い回しが凄く似ている。先輩もそう言った言い回しを使うことがあるし、小町さんが使っていても違和感を覚えないのはそうとしか言いようがないだろう。
「そもそもですよ、女子同士のお泊り会なんて、コイバナ大会しかやることないじゃないですか」
「そんなことないと思うけど……」
「じゃあ結衣さんは何が目的でお泊り会を開いてくれたんですか?」
「そりゃ、普通にお喋りとかしたいなーって」
「じゃあじゃあ、好きになった理由をお喋りしてくださいよ」
このままでは理由を話すまで解放してもらえないんじゃないだろうか。そんなことを考えていたら、ふいにメッセージ着信音が鳴り響き、私は意識を小町さんからそちらに向ける。
「(先輩から?)」
このタイミングで先輩からメッセージが来るのは、果たして良いことなのだろうか悪いことなのだろうかと考えながらも、私はメッセージを開く。
「誰からですか?」
「先輩からです」
普通に聞かれたので普通に答えてしまったが、質問してきた相手をよく確認するべきだった。この空間にいる人間は三人で、私に敬語を使う相手は一人しかいない。そしてその一人は、今最も送られてきたメッセージを見せたくない相手だったのだから。
「お兄ちゃんからいろは先輩にですか? ちゃんと恋人やってるのか気になりますねー」
私のスマフォを横からひったくり、小町さんはメッセージを確認する。咄嗟の行動で反応できなかったが、慌てて取り返そうとしたが遅かった。
「何々? 『小町が迷惑かけてないか?』だって。うわ、ちゃんと彼女の心配してる兄なんて知りたくなかった」
「だったら返してくださいよ!」
小町さんからスマフォを取り返し、私は先輩にメッセージを返す。
『思いっきり小町さんにこのメッセージを見られました』
別に見られたからと言って問題のあるやり取りではないのだが、やはりどこか恥ずかしい。私は恨みがましい視線を小町さんに向けると、流石に罰が悪そうな表情で私から視線を逸らした。
「あ、返信」
小町さんがもう一度私のスマフォを狙ってくるかと思い警戒したが、流石に二度目は無いようだ。私は安心して先輩からの返信を確認する。
『思いっきり迷惑かけてるじゃねぇかよ……今度会ったらお仕置きだな』
「お仕置き?」
「っ!?」
私が零した疑問に、小町さんの肩が撥ねた――ように見えた。結衣先輩も不思議だったのか、小首をかしげながら小町さんを見ている。その姿が可愛らしいと思ったのは、結衣先輩には内緒だ。
「小町ちゃん、急に怯えたようだけどどうしたの?」
「な、な、な、何でもにゃいですよ?」
「いや、分かりやすく動揺してるし!?」
「思いっきり噛んでますし」
先ほどまで私と結衣先輩が小町さんに追い詰められていたので、その意趣返し――というわけではないが、私と結衣先輩は小町さんに動揺している理由を尋ねる。
「どうして小町ちゃんは動揺してるの? ヒッキーにお仕置きされるのが怖いの?」
「こ、怖くはないんですけど、あの兄がすることですからね……下手をしたら外出禁止とかになりかねないので」
「あぁ……先輩ならやりかねないですね」
先輩自身はご両親に対して思われていないようだが、妹の小町さんは違う。もし先輩があることないことご両親に吹聴したら、小町さんの自由が制限されるかもしれない。それは確かに『お仕置き』というに値するだろう。
ただでさえ先輩の代わりに期待されて自由が少ないとボヤいている小町さんだ。そこに外出禁止という罰が課せられたらと思うと、怯えてしまっても仕方がないかもしれない。
「と、兎に角小町はもう寝ますね! 結衣さん、いろは先輩、おやすみなさい!」
「ちょっと小町ちゃん!?」
「布団にもぐって五秒経たずに寝ちゃいましたね……」
よっぽど怖かったのか、それとも早いところその恐怖から解放されたくて意識を手放したのかは分からないけど、小町さんの布団からは規則正しい寝息が聞こえてきている。これはもしかしたら、先輩に助けられたということになるのだろうか?
結衣先輩も寝てしまい、することがないので私も寝ようとしたのだが――
「寝られない」
――妙に目が冴えてしまっていて、私一人だけが起きていた。自分の部屋ならちょっと水でも、とか思うのかもしれないがここは結衣先輩の部屋。勝手にコップを使っていいものかとか、水を出した音で起こしてしまうのではないかとかが気になってそれもできない。
「(先輩なら、起きてるかもしれない)」
私は布団を抜け出して脱衣所に向かう。さすがに同じ部屋で電話をする勇気がないのと、声を聴かれて起こしてしまうのではという配慮からだ。
『何だ?』
5コール目で電話に出た先輩の声は、何処か不機嫌そう。
「せっかく愛しの彼女が電話したというのに、先輩テンション低くないですかー?」
『何時だと思ってるんだよ』
「えーと、夜中の二時ですね」
確かにこんな時間に電話がかかってくれば不機嫌にもなるだろうし、その相手に苛立ってしまうのも理解ができる。それでもこうやって相手をしてくれるのが、この人のいいところなのだろう。もちろん、本人には言わないけども。
「結衣先輩も小町さんも寝ちゃってて、私だけ暇なんですよ」
『お前も寝ればいいだろ』
「妙に目が冴えちゃってまして。先輩と話してたら眠くなるかなーって思って電話しました」
『どういう意味だ』
「だって先輩の話、つまらn――」
言い終える前に通話を切られてしまったので、私は慌ててもう一度先輩に電話を掛ける。もしかしたら出てくれないかもと思ったが、3コール目で出てくれた。
「いきなり切らなくてもいいじゃないですか」
『寝ていたところを叩き起こされて侮辱されるのは御免だからな』
「ちょっとした冗談じゃないですかー。それくらい分かってくださいよー」
半分くらい本気だったのだが、ここでそのことを正直に言えばまた切られてしまう。最悪、次は出てくれないかもしれない。そう思って私は咄嗟に冗談ということで押し通すことに決めた。
『それで、何か用があって電話したんだろ?』
「さっき小町さんが『お仕置き』って単語に怯えてたんですけど、何かあったんですか?」
『別に大したことじゃねぇよ。昔小町が悪戯した時にしたお仕置きを引き摺ってるんだろうよ』
「……何をしたんですか?」
私は反射的に嫌悪感を抱いてしまったが、先輩は私が誤解してるのを察してすぐに説明してくれた。
『足の裏のツボを思いっきり押しただけだ。相当痛かったのか、それ以降小町の悪戯は度を越えない範疇に収まったけどな』
「小町さん、内臓悪いんですか?」
『さぁな。それか、単純に俺の指圧が強すぎるのかもしれないが』
「なるほど」
とりあえず先輩が小町さんに厭らしいことをした疑惑は晴れ、私はとりあえずすっきりすることができた。それと同時に猛烈な睡魔に襲われ、私は挨拶もそこそこに電話を切って布団に戻る。
「(結局、先輩と話せなくてモヤモヤしてたから寝れなかったのかもしれない)」
そんなことを考えながら私は夢の世界に落ちていく。願わくば、先輩の夢が見れますように。
足つぼは自分も苦手