やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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久しぶりの人が


偶然の合流

 結衣先輩の部屋にお泊りして、なんだかんだで朝になった。それ自体は普通のことだし、私は別に眠りが浅いわけでもないので、途中で目が覚めてまだ夜だったということはない。問題はそこではないのだ。

 朝になったということは、当然の流れで朝食ということになる。これが先輩の部屋へのお泊りだったらそこが問題になることは絶対にない。先輩が作ってくれなかったとしても、自分の部屋が隣だから。まぁ、作ってくれなかったことなんてないんですけど。

 そんな風に現実逃避気味に別のことを考えなければいけないくらい、今の私は危機に面している。具体的には、結衣先輩が朝食を作ると言い出しているのだ。

 

「せっかく二人がお泊りに来てくれたんだし、ここは私が作るべきだと思うんだよね」

 

「いえいえ、部屋を貸してくれたお礼として、今日は小町といろは先輩で用意しますから。ねっ、いろは先輩」

 

「そ、そうですよ。結衣先輩はゆっくりしててください」

 

 

 小町さんの言葉に一瞬理解が追い付かなかったが、小町さん一人より私も一緒の方がよりお礼感が出る。そのことを瞬時に理解し、私も朝食の準備を手伝うと申し出る。それでも結衣先輩は自分が作りたいオーラを出しているので困ってしまう。だって、あの顔をされるとどうしても止めにくくなってしまうから。

 だが小町さんには結衣先輩のあの表情は効果が薄いようで、てきぱきと結衣先輩の分のコーヒーを用意して彼女の前に置く。

 

「結衣さんはお砂糖とミルクたっぷりですよね」

 

「ヒッキーほどじゃないけどね」

 

「先輩は最近ブラックですよ?」

 

「そうなんだー。ヒッキーといったら、マックスコーヒーのイメージだから」

 

「ですよねー。小町も久しぶりに会ってブラックコーヒーを飲んでるお兄ちゃんを見てびっくりしましたよ。まぁ、酒飲みになってるわけじゃなかったので、その点は良かったですけど」

 

 

 先輩はお酒が呑めないわけではない。周りにいる人間がお酒に強かったら先輩も普通に吞んでいただろう。だが結衣先輩も戸塚先輩もお酒に非常に弱い。この二人が酔っ払った時のことを知っている身としては、この二人にお酒を勧めないためにも、先輩にはお酒を呑まないでもらおうと思ったくらいだ。

 もし私が呑める体質なら先輩と一緒にお酒――というのも悪くはないだろう。まだ一度も呑んだことないので分からないけど、お父さんもお母さんもお酒は呑まないので、恐らく私もそこまで強くないのだろうな。

 

「ほらいろは先輩。義姉妹の共同作業をしましょうよ」

 

「なんだかおかしくないですか、その表現」

 

「そんなことないと思いますよ? いつもお兄ちゃんが全部やっちゃって、こうしていろは先輩と一緒に何かをするってことがなかったですから、ちょっと楽しみです」

 

「そんな頻繁にヒッキーの部屋にお泊りしてるの?」

 

「それほど多くないと思いますけど、いろは先輩と一緒にいる時って、だいたいお兄ちゃんも一緒にいますから。その時の給仕はだいたいお兄ちゃんです」

 

「まぁ、先輩の部屋ですからね」

 

 

 半分くらい私の部屋みたいな感じにもなっているけど、あの部屋は間違いなく先輩の部屋だ。その主がその部屋のことを一番理解しているのだから仕方がないのだが、お茶の準備とか食事の準備とか、私がやらなきゃと思った時にはすでに先輩が用意し終わっているのだ。

 彼氏彼女としてそれでいいのかと友達に聞かれたこともあるけど、私たちの場合はそれが自然であり、別に居心地が悪いわけでもない。まぁ、ちょっとばかし彼女として複雑ではあるけども。

 

「いいなー。今度は私もヒッキーの部屋にお泊りしたいなー。いろはちゃんや小町ちゃんと一緒におしゃべりしながら、ヒッキーにご飯作ってもらって」

 

「いろは先輩の部屋でもいいと思いますよ? お兄ちゃんの部屋だとちょっと複雑になっちゃいますけど、いろは先輩の部屋なら、お兄ちゃんの部屋でご飯を食べて、いろは先輩の部屋でお泊りという形が取れますから」

 

「まぁ、彼氏の部屋に別の女性が泊るというのは、確かに複雑ですね。小町さんは身内ですから我慢できますけど」

 

 

 結衣先輩は先輩の身内ではない。ある意味では身内みたいなものだけども、血縁ではない。だから万が一があるかもしれないと思うと、私の心中は穏やかではないだろう。もちろん、先輩がそう言った過ちを犯すとは思っていないけども。だって、私にも何もしてこないんだから……

 

「まぁ、結衣先輩ならありえるのかもしれませんけど」

 

「何がですか?」

 

「な、何でもないですっ!」

 

 

 心の中でつぶやいたつもりだったのだが、まさか声に出していたとは……小町さんに顔を覗き込まれて私は慌てて調理に集中するふりをする。包丁さえ持ってしまえば、小町さんもちょっかいを出してくることはないだろう。

 

「さぁ、何を作りましょう」

 

「いろは先輩はお味噌汁をお願いします。小町は卵焼きと軽いサラダを作りますから」

 

「分かりました」

 

 

 これくらいなら結衣先輩でも作れたんじゃないかという気持ちと、これだけでも結衣先輩なら失敗するんだろうなという気持ちが両方湧き出てくる。それくらい結衣先輩の家事スキルは壊滅的なのだ。

 小町さんからの追及を避けるためだったとはいえ、任された以上はちゃんとしたお味噌汁を作りたい。なので調理中は一切会話することなく、私たちは朝食を作り終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特にすることもなかったので、三人で外出することに。具体的にどこに行くというのは決めていないので、気の向くままお散歩をしているといった感じだ。

 

「あれ? 彩ちゃんと厨二さん?」

 

「珍しい組み合わせですね」

 

 

 あそこに先輩がいれば不思議ではないのだけども、二人きりというのは珍しい気がする。高校時代も先輩を介して交流はあったようだけども、どうしてもあの二人が一緒にいるのを見るのは違和感をぬぐい切れない。

 

「あとでお兄ちゃんも合流するんでしょうか?」

 

「聞いてみようか」

 

 

 二人と交流があってこういうことに物怖じしない結衣先輩が二人に声をかける。私と小町さんは顔を見合わせ苦笑いを浮かべてから、結衣先輩の後に続く。

 

「彩ちゃんやっはろー。厨二さんも」

 

「由比ヶ浜さん、やっはろー」

 

「こ、こんにちは」

 

 

 女子態勢が低いのか、材木座先輩は相変わらず挙動不審だ。戸塚先輩の方は結衣先輩の意味の分からない挨拶を可愛らしい笑顔を浮かべながら返している。これで男だというのだから、何とも言えない気持ちになるんですよね。

 

「戸塚さん、お久しぶりです」

 

「小町ちゃん、久しぶり。遅くなったけども、大学合格おめでとう」

 

「ありがとうございまーす」

 

「それで、彩ちゃんと厨二さんは何してるの?」

 

「八幡を誘ってお昼でもって思ってね。せっかく八幡も休みだし、たまには男だけでって思ってたんだけども、三人も一緒にどう?」

 

「お兄ちゃんに確認しなくていいんですか?」

 

 

 先輩のことだから私たちが居たら帰るとか言い出しそうだと思っていたら、私の考えを見透かしたかのように小町さんが戸塚先輩に質問する。

 

「三人だったら問題ないんじゃないかな? 八幡にとって三人とも身内みたいなものだし」

 

「うむ、そうだな」

 

 

 空気だった材木座先輩も戸塚先輩の考えに同意したので、私たちも参加させてもらうことに。もちろん、私たちがいることは先輩には内緒なままで。

 

「――で、どうしてお前たちがいるんだ」

 

「偶然彩ちゃんたちに会って、一緒にどうって誘われたんだー」

 

「そうそう、たまにはお兄ちゃんの交友関係でも確認しておかないと」

 

「先輩、交友関係狭いですもんね」

 

「酷い謂われ様だな……」

 

 

 実際先輩は交友関係は狭い。必要最低限と言えば多少は聞こえが良いかもしれないが、要するに人付き合いが苦手なのだろう。まぁ、そんなことはこの人の高校時代を知っていれば誰でも分かることだが。

 

「そういうわけで、支払いはお願いね、お兄ちゃん」

 

「は?」

 

「先輩、ご馳走様でーす」

 

「おい」

 

 

 妹である小町さんに便乗して、私も先輩に奢ってもらう流れにしておこう。決して小町さんに負けたとか、そう言った理由で奢ってもらいたいわけではない。

 

「あはは……八幡、なんだかゴメンね?」

 

「いや、戸塚が悪いわけじゃないだろ……」

 

 

 自分が誘ったせいで先輩の財布にダメージを与えたということで、戸塚先輩が謝っているのを見たけど、相変わらずこの二人は仲が良すぎる……同性だって分かってるんだけども、モヤモヤしてしまうのは仕方がないだろう。だって戸塚先輩だし……




八幡の財布にダメージが……
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