やはり私が先輩に本物を求めるのは間違っていない   作:猫林13世

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致し方ない感じもあるのか?


現状の理由

 小町さんが先輩の部屋に泊まるということは、今日も先輩と二人きりになれないということ。小町さんは妹だから仕方ないと分かってはいるのだが、少しくらいは私に気を遣ってくれてもいいのではないかと思ってしまう。

 

「――というわけですからいろはお義姉ちゃん、お昼は小町とお義姉ちゃんの二人で用意しましょう」

 

「はい?」

 

 

 別のことに意識を取られていたので、どういう流れでそうなったのかが分からず、私は間の抜けた返事をしてしまう。そのせいで小町さんには不審がられ、先輩には呆れられてしまった。

 

「いろは、また別のこと考えてただろ」

 

「しょっちゅうあるの?」

 

「あぁ、割とな」

 

 

 確かに先輩に見惚れていて先輩の話を聞いていなかったことは何度かありますけど、そんなしょっちゅうと言われるほどないはずだ。精々両手で足りるくらい……いや、もっとあるかもしれない。

 

「それで、どういう話の流れで私たちがお昼の準備をすることになったんですか?」

 

「昨日からお昼はお兄ちゃんに用意してもらいましたし、夕飯もお兄ちゃん。ついでに朝食もお兄ちゃんに作ってもらいましたから、このままお兄ちゃんに甘えっぱなしだと、小町といろはお義姉ちゃんが料理できないんじゃないかってレッテルを貼られそうじゃないですか」

 

 

 いったい誰がそんなレッテルを貼るというのだろうか。小町さんが料理上手だということは割と知られていることですし、私だって最低限の家事くらい出来る。そりゃ、最近は先輩の好意に甘えまくって自分のことをさほどしていない自覚はありますけど……

 それでも、そのことを他人に話したりはしていないですし、結衣先輩は単純に羨ましがるだけで、そのことを吹聴するようなことはしていない。あの人の性格から、そんなことはしないだろうと分かっているので、私も安心して話せているまである。

 つまり、小町さんの心配は杞憂でしかないのだが、確かに昨日から先輩に甘えっぱなしだ。お昼くらいは私たちで用意しても良いのかもしれない。

 

「分かりました。先輩はゆっくりしていてください」

 

「今の一瞬で何を考えていたのかは分かりませんけど、お義姉ちゃんも納得したことだから、お昼は私たちに任せてね、お兄ちゃん」

 

「あぁ」

 

 

 どことなく不安そうな顔をした先輩だけど、私たちが料理できるというのは先輩も知っている。なので過剰に止めるということはしてこない。

 

「それじゃあ私の家で料理しましょうか」

 

「ここの方が良いんじゃないですか? お兄ちゃんに料理してる彼女萌えを提供できますよ?」

 

「先輩はそんなことで萌える人じゃないんですけど」

 

「ほぅ? では、兄の萌えポイントはいったい――」

 

「阿呆なこと言ってると、親父殿に小町に彼氏が出来たと嘘を吹き込むからな」

 

「さぁいろはお義姉ちゃん! 頑張って美味しいお昼ご飯を作りましょう!」

 

 

 よほどお父さんが怖いのか、小町さんは先輩の脅しにあっさりと屈して私を弄ることを止めた。まぁ、父親に娘に彼氏が出来たなんて教えられたら、根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるだろう。まして先輩の家は小町さん至上主義のようですし、愛娘の彼氏なんて考えただけで、お父さんが暴走しかねない。それこそ、小町さんがいう『外出禁止』になるような勢いで。

 小町さんもなんだかんだで先輩がそんなことをしないだろうと思っているのだろうけども、万が一があるのでふざけ続けることが出来ないんだろうな。

 

「ところで、その呼び方で固定なんですか?」

 

「さすがに大学では先輩って呼びますけど、お兄ちゃんと小町しかいない時は良いじゃないですか。お兄ちゃんも止めないですし」

 

「人前で呼ばないなら……」

 

 

 さすがに大学で呼ばれるのは勘弁願いたかったので、小町さんの言葉はありがたかった。もし大学でそんな風に呼ばれたなら、間違いなく友達に詰め寄られるだろうし、もしかしたら既に結婚したのかなどというあらぬ疑いを掛けられかねない。

 

「私よりもお義姉ちゃんの方ですよ。何時までお兄ちゃんのことを『先輩』って呼んでるんです? 付き合ってもう三ヶ月ですよね? お兄ちゃんの方は名前で呼ぶことに抵抗なくなってきているというのにお義姉ちゃんときたら……こんなんじゃ、お兄ちゃんの彼女失格の烙印を押さざるを得なくなりますよ?」

 

「そんなことしたら、小町は嫌味な小姑の烙印を押されるな」

 

「むぅ……その発言はポイント低いよ、お兄ちゃん」

 

「いろはを弄って遊んでる小町には、それくらいでちょうどだろ」

 

「すっかり彼氏が板についてきてるのは、小町的にも嬉しいことだけどさ……それで小町に冷たくなるのは違うんじゃない?」

 

「冷たくはしてないだろ。いろはを弄るのを止めろと言ってるだけだ。いろははそういうのに慣れてないんだから」

 

「それじゃあ、もっと慣れてもらう為にいっぱいしなきゃだね! これから義姉妹としてずっと付き合っていくんだから」

 

 

 先輩の言葉を都合よく解釈して、これからも止めない宣言をする小町さん。そんな姿を見て、私と先輩は同時にため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼は私たちが用意したけど、晩御飯は結局先輩が用意してくれた。美味しいご飯を食べた後、私の部屋で小町さんと二人でお風呂に入っている。さすがに私も小町さんも、先輩の部屋のお風呂に入る勇気はないので、小町さんがお泊りする時は私の部屋のお風呂を使っている。

 

「――でも、なんで毎回一緒に入りたがるんですか?」

 

 

 別に一人で入ればいいのでは? とは言い出せない。もしかしたらこれも、小町さん的義妹の振る舞いなのかもしれないので。

 

「だって、ここならいろは先輩は逃げられませんし、お兄ちゃんも助けに入ってこれないですから」

 

「いや、後で先輩に報告すればいいだけですけど」

 

「聞き出せちゃえばいいので、その後でお兄ちゃんに報告されても小町的にはダメージゼロなのです」

 

「本当にお父さんに嘘を吹き込まれても知りませんからね?」

 

 

 外出禁止になれば、大学も休学しなければならないだろう。せっかく入学したというのに二ヵ月で休学。そんなことになれば、あらぬ噂を流されかねない。復学しても周りからの視線に悩まされるキャンパスライフになるだろう。

 そのことを理解しているので、小町さんは最後の最後で本当に嫌がることはしてこない。そこで自重できるのなら最初からしないでほしいというのが本音なのだけども、小町さんのキャラを考えたら仕方がないのだろう。何せあの雪乃先輩にですら、このようなノリで話せるのだから。

 

「それは兎も角として」

 

「(あっ、誤魔化した)」

 

 

 分かりやすく話題を変えようとした小町さんを見て、私はそんなことを思った。ここで追及できれば今後の弄りも減るのだろうけども、意地の悪い彼女だと思われたくないので止めておこう。

 

「本当にお兄ちゃんと何も進展がないんですか? 恋人同士が隣の部屋で生活して、しょっちゅうお泊りもしてるというのに」

 

「そんなしょっちゅうと言われるほどでは……いや、そこはどうでもいいです。何を疑っているのか分かりませんけど、私と先輩は健全なお付き合いをですね――」

 

「そんな中高生みたいな付き合いで、いろはお義姉ちゃんは満足なんですか?」

 

「満足か否かと問われれば、少しくらいは不満はありますよ。先輩は私に興味がないんじゃないかと思ったりもしますけど、私たちには私たちのペースがあるので、周りがとやかく言うことではないと思いますし」

 

「まぁ、お兄ちゃんは初めての彼女だから、どんなペースが正しいのか分からないのかもしれないですしね」

 

 

 そんなことを言っている小町さんは、彼氏がいたことないのではないだろうかという疑問が頭をよぎったが、この子は結構耳年増なところがあるので知識はあるのだろう。逆に先輩は、そう言ったことに興味が薄かったせいか、知識がないのかもしれない。

 

「もし我慢できなくなったら、お義姉ちゃんの方から誘ってみるのもありだと思いますけどね」

 

「そんなはしたないこと出来ませんよ」

 

「うわぁ……高校時代のいろは先輩に聞かせたいセリフですね。すっかりお兄ちゃんに変えられてしまっちゃって」

 

「そういう訳ではないんですけどね……」

 

 

 確かに高校時代の私は、気になる相手が居たらとりあえず手を出すという考え方をしていた。だが今は男性恐怖症もあって、必要以上に男性に近づくことが出来ないのだ。唯一と言っても良い相手である先輩に拒否反応を示したらどうしようという考えから、積極的にいけないという理由もある。

 それが分かっているのかは知らないけど、先輩の方も必要以上に私に近づいたりはしてこない。それがありがたくもあり、もどかしいというのが現状なのだが、それを小町さんに馬鹿正直に言ったりはしないだろうな。




八幡が積極的になる感じが想像しにくいのもある
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