ボールがくれた出会い 作:御沢
「未雲・・・イギリスって・・・?お母さんって・・・?最愛の息子って・・・?」
「・・・」
そう楓に質問されたのは、今からほんの数分前。
その数分が、私にとってはとてつもなく長い時間に思えた。そして、自分の心落ち着かせて、大きく息を吸い、皆の方をしっかりと見据え、話し始めることにした。
「・・・私には、お父さんとお母さんと・・・お兄ちゃんがいるの。でも・・・今は、お父さんとの2人暮らし。なぜかというとね・・・お母さんとお兄ちゃんが、私たちを裏切って、イギリスへといったからよ」
「裏切った・・・?」
今度は葵が、か細い声で聞いてきた。私は、自分の怒りを抑えながら、答える。
「お兄ちゃんは・・・サッカーが・・・上手だった・・・だから、サッカー留学として、イギリスへ行く話が持ち上がっていた。もう、7年も前の話しだけどね・・・誰か、『フィールドの魔神』って聞いたことないかな?」
その声に反応したのは、以外にも剣城君だった。
「兄さんが気になっているといっていた。現役中校生でありながら、イギリスのサッカー界では名前を知らない人はいないほど有名なサッカープレイヤーだ・・・そうだな、金田?」
「うん・・・そう人の名前は・・・そ、空(そら)・・・金田(かねだ)・・・空(そら)・・・」
皆が、目を見開いた。
その反対に、私は俯いて目を細めた。その目が、どんどん小さくなっていき、とうとう私は目をつぶってしまった。再び開いた私の瞳は、いつものピンク色ではなく、髪の色と同じ、燃えるような赤色になっているはずだ。―――あのときもそうだったから。
皆が黙りこくる中、私は再び口を開いた。
「そう、その金田空(かねだそら)こそ、私のお兄ちゃん。このお兄ちゃんが、私たち家族の誇りだった。家では、家事も手伝うし、勉強もできる。スポーツもできて、妹である私の面倒もよく見てくれる。私は・・・私は、そんなお兄ちゃんが大好きだったっ!だから、私たちはお兄ちゃんの留学を、心の底から応援した」
「じゃあ、なんで裏切りもの・・・っ」
もう、どれが誰の声かなど、私にはわからなかった。
「お兄ちゃんが留学するにあたって、私たち家族も、本当はイギリスに行くはずだった。でもね、お父さんが、国会で大きな権力をゆだねる人になりつつあったから、ついていけなかった!そしたら、お母さんもお兄ちゃんも『しょうがないよ。大丈夫だよ』って言って、留学しないことになった。でもっ・・・!その、3カ月後、お母さんとお兄ちゃんは、突然姿を消した。家に唯一置いてあった置き手紙には、こう書いてあった」
皆が、私の方をじっと見据えている。
「『実は、未雲を産んですぐある人と出会って、私はその人と恋に落ちた。お父さんと空と未雲には「仕事」と偽って、お母さんはイギリスへ約2年間いたわ。そして、そこで娘を産みおとした。名前は言えない。そして、空のサッカー留学の話が持ち上がった時、その愛人の人の連れ子が、サッカー関係の仕事をしていることを思い出した。だから、この3ヶ月間秘かに計画を練っていたわ。そして、空には十分事情を理解してもらった。これからの人生を、私と空は、イギリスのその彼と彼の連れ子・・・今は、1人暮らしをしているみたいだけれど・・・そして・・・実娘と暮らしていきます。さようなら』・・・というものだった。私は怒りに震えたっ!今まで、ずっと隠し事をされていたのよっ!私は、お父さんは・・・っ!」
「でも、前に未雲が自分の過去について話してくれたじゃないっ!」
「あんなの全部うそっ!親がサッカーやってたとか、教師とか・・・だって、こんなこと知ったら、皆、私を軽蔑するでしょっ!?」
「み、う・・・」
私は、息を荒らげて、真っ赤な瞳で皆をにらみつけた。
そして、だんだんと自分の瞳がピンクに戻って行くのがわかった。それと同時に、自分が関係のない皆(なかま)達に八つ当たりをしてしまっていたことにも、気がついた。
完全にピンクに戻った瞳に、私は涙をためて皆から遠ざかった。
「皆っ・・・ごめっ・・・!!」
そう今更つぶやいても、誰も聞いてはいなかった。
今、皆がどんな表情をしているのかさえも分からなかった。