ボールがくれた出会い 作:御沢
「じゃあね~、また明日」
「楓、家を使わせてもらってありがとう!」
皆が口々に言いながら、私の家から帰っていく。楽しい楽しいパーティーが終わり、私の家―――山吹邸―――も、さっきのドンチャン騒ぎがうそのように、しぃぃん・・・と、静まり返った。母が主催していたパーティーも終わったらしく、いよいよ家の中は静かだった。それに、母が主催した、といっても、母は今、外国にいるから実際には、私が主催者のようなものだった。
今家にいるのは、私とお兄さんだけ。・・・そう思っていた。でも、実際は違った。いや、半分あっていて、半分違った。私の家の庭に、誰かがいた。私は、その気配に気が付き、ドレスのまま外へと出た。
「なんだ、京介だったの」
そこにいたのは、京介だった。前に来た時に気に入ったらしいバラ園のベンチに腰掛けて、私の方を見ている。京介の顔が、変に赤いように私はその時感じた。
「京介ぇ?ここで何をしてるの?」
「・・・」
返事はなかった。私は、むっとした。だから、もっと近づいて真下から京介の顔を眺めた。その顔を、間近で見て、私ははっとした。―――その顔は、何か覚悟したように輝いていて、オレンジの瞳は、何かに燃えるようだった。
なにか、知らない人を見たようで、私はドキドキした。体が硬直したようだった。11月の冷たい風が、羽織っているだけのボレロカーディガンをすりぬけ、急に震えた。そんな震える体を、京介が優しく抱きよせた。その行動に、私の体はさらに硬直する。
「きょ、京介・・・?」
「・・・だ」
ぼそっと京介が、何かをつぶやいた。でも、私は聞こえなかったから、聞き返そうとした。でも、その前に京介に手をひかれたから、聞き返せなかった。
一緒にバラ園を歩くことなんて、今までに何度もあったのに、なぜか今日は雰囲気が重かった。言葉も、一言も交わさずにただひたすら庭の中を歩いた。時折、ひゅぅぅぅぅ・・・と、昼間の暑さがうそのような冷たい風が、ボレロカーディガンをすり抜けて吹いてきた。
私たちがついたのは、庭の隅の方にあるもう枯れかけてしまっている『金木犀』の木だった。
「この木・・・」
「あぁ、そうだ。俺たちが、初めてであったところだ」
「えぇ」
ようやく交わせた会話の喜びをかみしめながら、私たちは思い出に浸った。
―――7年前。
私は、この金木犀の木の下で、帝国学園に通う家の使用人たちとかくれんぼをしていた。でも、家は広いから、家の隅っこなんてなかなか探しに来ない。暇だから、隣のクスノキの上にある『ツリーハウス』に登った。そして、見つけた。何かに落ち込んでいる、少年を。少年は、木の上にいる私―――もっとも、木の上にあるツリーハウスにいる私だが―――に気がついて、目を見開いた。私は、その少年が家の近くにやってきた途端、腕をめいっぱい伸ばして、その少年を家の敷地内へと連れ込んだ。そして、金木犀の木の下で、その少年の名前を知った。
「私は、山吹楓。7歳よ。あなたは・・・?」
「俺は、剣城京介。同じ7歳だ」
「懐かしいわ・・・それで一旦別れたけれど、同じ小学校だったり、同じようにフィフスに所属していたり、何かと再会したのよね」
「そして、中学校でも再び楓を見つけた。まぁ、関係はぎくしゃくしていたけどな」
「ふふっ。でも、今は和解できたからいいんじゃないの?」
「・・・だな」
ふと京介の顔を見る。そこにあったのは、いつものような優しくて強そうな、私の見慣れた京介の顔だった。そんな私の視線に気がついたのか、京介は、ゆっくりとこちらに向きなおした。そして、私のことを見降ろす。私も、京介のことを見上げた。京介の顔は、私の瞳よりも真っ赤に染まっているんじゃないの?というくらい、真っ赤に染まっていた。本当は、いつもは「熱があるんじゃない?」と聞く。でも、今は京介の手で口をふさがれて、何も言えなかった。
そして、京介が静かに話し始めた。
「楓は、『運命』って信じるか?きっと、どっちとも言えないだろうけど、俺は案外信じる。だって、この場所でたった一度だけあった少女―――楓と、今日ここまでで、何度偶然の再会を果たしたか?普通に考えたら、びっくりすることだって、今、気がついた。そして、ここ数カ月、ずっと意味のわからない気持ちに苦しんだ。楓が、先輩達とか、空野たちと話す時でさえ、胸が苦しくなった。ずっとずっと考えた結果、俺は1つの結論にたどり着いた。―――俺、剣城京介は、山吹楓が好きだ。出会ってから、7年間、ずっと・・・」
私の眼は、ゆっくり大きく見開かれた。はっきり言うと、信じられなかった。幼馴染で同級生の男の子の、好きな人が自分なんて、普通は信じられる?ずっと、そんな気持ち分らなかったから、尚更驚いたし、ドキドキもした。ひゅぅぅぅ・・・また、冷たい風が吹いた。
戸惑う私を見て、京介は優しく微笑んだ。
「いいよ、返事は後で。ちゃんと自分の頭の中を整理して、返事を返してくれ。じゃあな、おやすみ、楓」
そして、京介は自分の家に帰って行った。
私は、ただ呆然として、その場に立ち尽くしていた。