ボールがくれた出会い 作:御沢
私は話し合いの後、深い眠りについた。そして、久々に夢を見た。
それは、今までの私と京介の思い出だった。
―――幼い春のある日。菜の花が一面に咲き乱れる、とある公園。私は、レモン色のワンピースを着て、編み上げの茶色のブーツをはいている。そんな私を追いかける京介。あたりには、私たちのように追いかけっこをする、黄色や白の美しい蝶たちがいた。
―――小学校中学年の頃の夏の日。私と京介は、親に見つからないように2人でこっそり海へ行った。そこで食べた、かき氷。キーンと頭が痛くなって、もう食べられなくなってしまった私のかき氷を、京介はいやな顔1つせずに、全て食べてくれた。
―――数年前の秋。イチョウの葉が散るゴットエデンのとある1本道。道路全面を隠してしまうくらい大量に散ったイチョウを、ふわりふわりとまいあげながら、2人で「もう秋だね、寒いね」と笑いあったあの日。
―――小学校卒業の年の冬。珍しく大量に積もった雪で、私と京介は雪だるまを作った。私が鼻にしようと持ってきたのは、1本200円もする人参だった。その人参を雪だるまの鼻につけ、写真をとったら一緒に煮込んで食べた。
あぁ、私、京介との思い出は、全部楽しいものばっかりだわ・・・
きっと中には、楽しくないようなものもあったのかもしれない。でも、それは京介に対する気持ちの方が大きくって、全然気にならなかったのね。
分かった、私・・・私も、剣城京介が好き。出会ってから今までも、これからもずっと。
「ん・・・ふわぁぁぁぁぁ・・・」
気がつくと、もう柔らかな陽が窓から部屋に差し込んで来ていた。―――もう朝だ。そして、今日は忙しい。プレゼントを用意したり、飾り付けを手伝ったり、皆に知らせたり・・・京介に返事をしたり。もう、返事は決まっている。揺らぐことはない。
ベットから出て、天蓋からぶら下がるカーテンをめくって、ウォークインクローゼットの中に入る。クローゼットの中は、カジュアルな服からドレスまで何十着という服が干してある。私はその中から、黒のタンクトップと、麻で出来た肩だしトップス、下の棚からはカーキの先が広がっているショートパンツを出してあわせ、ニーハイの黒のソックスをはいた。それらの上から、グレーの毛糸の編み込みのニットを羽織り、そして部屋の外へと出る。
「おはよう、皆さん」
私は、いつもよりもすがすがしい気持ちで挨拶をした。それにこたえるかのように、使用人、執事、メイドの皆さんも、爽やかな挨拶を返す。そして、リビングルームへとしばらく歩く。
リビングルームの大きなドアをぎぃぃ・・・と開けて、目に入ってきた光景に私は驚いた。そこにいたのは、監督、コーチたちだった。皆、身を投げ出してすやすやと寝ている。きっと、昨日も夜遅くまで準備をしていらっしゃったのだろう。そんなみなさんを起こさぬよう、私は忍び足差し足でダイニングルームへと向かった。
「おはようございます、お嬢さま」
「おはようございます、料理長」
ダイニングルームには、清楚なコック服をきれいに着こなす美青年がいた。山吹邸の若き料理長こと髙橋翔太(たかはししょうた)さん。年は30歳くらいで、この家には住み込みで働いている。私はこの料理長の料理を、この家に養子に来てからずっと食べ続けている、いわば私にとっての『家庭の味』。そんな料理長の見た目も美しく味も抜群の料理を食べながら、私は料理長と話す。
「お兄さんたち、昨日は一体いつまで起きていらっしゃったの?」
「はい、確か4時くらいかと・・・」
「えっ!?今が8時だから、ちょっと前じゃないの。全く、円堂監督も、コーチたちも無理をするんだから。選手たちの気持ちも、考えてほしいものね」
「でも、そのおかげで飾り付けは終わられたようですよ。まぁ、有人さんたちにとっては可愛い教え子の引退式なんですから、少しの無理くらいどうってことはなかったのでしょう」
なるほど、と私は1人で納得しながら、ケチャップで楓の葉が描かれているオムレツを口に運んだ。
「・・・それもそうね。もぐもぐ・・・まぁ、このオムレツ、とっても美味しいわ!さすが料理長、料理の見た目もいいし、尊敬するわ」
「ありがたき幸せ。しかしお嬢さま、お嬢さまにはまだ仕事が残っていらっしゃるのでは?それに、この髙橋の記憶が正しければ、今日は9時から空野様たちとお遊びに行かれるとか・・・」
料理長の言葉で思い出した、親友との約束。壁にはまっている大時計の針は、8時30分を指していた。
「あぁっ!!そうだった!ありがとう、料理長!では、よい1日をっ!」
「はい、お嬢さま。それでは行ってらっしゃいませ」
「行ってきますっ」
私は、こげ茶色のピンヒールの編み上げのブーツを履くと、急いで家の大きな門をくぐった。
―――実は、今日は葵との約束ではなく、京介との約束なの。