ボールがくれた出会い 作:御沢
「ただいまより、雷門中学校サッカー部3年生引退式を開会致します!」
楓の美しい声が会場いっぱいに響いて、引退式が始まった。
引退式・・・といっても、形式はほとんどパーティー。昨日と同じくビュッフェがあったり、スイーツバーがあったり、ドリンクバーもあったり・・・楽しくって面白い思い出に残るパーティーになりそうだった。
そんな中、私はお手洗いに行きたくなった。やばい・・・もう我慢できないかも・・・まるでミミズのようにぐにゃぐにゃする私を見て、楓が気がついてくれたみたいだった。
「葵、もしかして・・・その・・・アレ?」
「/////う、うん・・・その、ごめんけど・・・いい?」
ゆでダコのように真っ赤な私を見て、楓が小さく吹き出した。むぅ・・・と反抗すると、楓は小さな子供をなだめるような口調で話した。
「ご、ごめんなさい。でも、葵・・・可愛いんだもの。だから、許してくれる?」
「もう・・・絶対、相手にしてないでしょ?いいですよー、どうせ私は楓と違って、子供っぽいですよーだっ」
「まぁまぁ、そんなに怒らないでちょうだい?それに、それが葵の魅力よ?あ、そうそう、お手洗いだったわね。付いてきて」
急にしたかったのを思い出したら、またぐにゃぐにゃ・・・となってしまった私。でも、今度は楓に見つからなかったみたい。―――いや、気がつかないふりをしてくれたのかな?
・・・で、楓について行ったけれど、楓の家ってやっぱり広い・・・!!
「はぁ・・・はぁ・・・屋上から1階に下りるだけでも5階から1階まで降りることと同じなんだから、疲れるなぁ~」
息を切らしてゼェゼェ言っている私を横目で見ながら、楓は軽い足取りで美しく歩いている。それはまるで、モデルさんのようだった。
「まぁしょうがないかしらね。別にもう慣れっこよ。そうだわ!お手洗いに行った後、私の部屋に少しだけ来ないかしら?」
えっ?私、そういえば楓の部屋に来たこと、去年1回くらいしかないかも・・・この1年の間に、薄れてしまっているあの豪奢な部屋をもう一度見たくなった私は、その誘いにすぐに乗った。
お手洗いの後・・・
私と楓は、あの天国のような美しい空間へと足を踏み入れた。
部屋の内部は、1年前と少しだけ違っていた。
柔らかなベビーピンクと純粋な白と桜のような少し濃いピンクのグラデーションがきれいな天蓋付きベットは、壁のコーナーにはまるように取りつけてあった。ベットのマットレスはふかふかで、上に乗っている掛け布団も様々な形のクッションもふわふわだ。そンなベットの横にはドアがあり、そのさらに奥はウォークインクローゼットになっていた。壁に取り付けてある棚には、ミニサイズの観葉植物や、ビスクドール、テディベアなどのかわいらしいナチュラルな小物が並んでいる。部屋の中心には、コーナー付きの長くてふかふかの草原を思わせる美しい緑色のソファーと、長ソファーとセットだったらしい1人掛けの同じくふかふかの緑色のソファー。その前には、木でできたようなナチュラルなテーブル。テーブルの上には、繊細なレースのテーブルクロスがかけられている。その目の前には、超巨大な映画館のスクリーンのようなはめ込み式のTV。入口の横には、少しだけ個室らしいものがあって、その入り口となっているテーブルクロスと同じ繊細なレースの暖簾をくぐるとそこには、超薄型の最新式のパソコンやタブレットが置いてあった。大きな窓は、まるで物語から飛び出してきたかのようなロマンチックなもので、ピンクとグリーンのグラデーションがきれいなカーテンとレースのカーテンで飾られている。それは、何もかも現実離れしていることだけが、1年前と変わっていないことだった。
「わぁ・・・!!きっれ~っ!!」
思わずあげてしまった声に、楓が優しげに微笑む。そして、2人でソファーに腰掛けて話し始めた。その時、ドアが鳴った。楓は威厳のあるようなでも謙遜するような声で、
「どうぞ、入ってください」
といった。―――楓の部屋に入ってきたのは、30歳くらいの若い男の人だった。楓はその人のことを「料理長」と呼び、その「料理長」さんは、美味しそうな料理をたくさん持ってきた。
「ありがとう、料理長。話がわかるわね」
「ありがとうございます、お嬢さま。しかし、やはり戻られた方がよいのでは・・・?」
「・・・いいのよ。ここでしか話せないことだもの。・・・本当にありがとう」
「はい、では失礼いたします」
そして、その「料理長」さんは部屋を出て行った。その瞬間、私は楓に食らいつく。
「ねぇ、もう会場に戻らないの?そして、ここでしか話せないことって!?」