ボールがくれた出会い   作:御沢

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それぞれの『最高の幸せ』!(終)

「あっ、杏っ!ベスお姉さんからまた何かもらったの?」

「うんっ!ベスお姉ちゃんがね、クッキーくれたの!・・・ママもほしいの?」

 

 

イギリスの首都ロンドンのとある一角から、この地では珍しい日本語が聞こえてきた。その家の名前は『龍田』―――。

 

 

「ママにもくれるの?」

私は少し期待のこもった瞳で、目の前にいる女の子―――娘の杏を見つめた。しかし杏は、無邪気に微笑んで、そのまま手に持っていたクッキーを口に含んで、全て食べてしまった。

「あっ、ごめんね、ママぁ。食べちゃったよぉ。でも、またいつかあげるからね?」

娘は、きらきらと輝く瞳をこちらに向けて、また無邪気に言った。その瞳の色は、私―――未雲にも夫―――緑も持っていない瞳の色―――私の友達、楓と同じ紅だった。髪の色は私の別の友達、葵と同じ藍色で、でも、全体の雰囲気はどことなく夫であり、この子の父親である緑と似ている。

私の大好きなこの3人のいいとこどりをしたこの娘は、私のとても愛しい娘。そして・・・

 

 

「ただいまぁ、杏~、未雲~」

「あっ!パパぁ~!おかえり~!」

 

 

もう1人の愛しい人、緑も帰ってきた。

私たちは3人で、この家に3年前から住んでいる。近くには異父妹のベスちゃんとその旦那さんであるデイビットさんが住んでいる。親戚同士、私たちはとても仲が良い。

「ほらほらぁ、未雲、腰掛けて?」

「あ、うん、分ってるけど・・・」

「ママ、ポンポンがどうかしたの?」

ポンポン・・・そう言われて、私は自分の腹に目を落とす。

そこには、新たな愛しい命があった。この子ができてから、緑は過保護になったし、杏も2歳なのに手伝えることはよく手伝ってくれる。近くに住んでいるワトソン夫妻(ベスちゃんとデイビットさんのこと)も、よく手伝いに来てくれる。

私はそんな日々を過ごして、日々幸せを実感している。

 

 

夕食も食べ終わり、今は自分の部屋にいる。

 

 

「一人で何をしようかな・・・暇だなぁ・・・」

本を読もうか、音楽を聞こうか・・・色々考えたけれど、いい案は浮かんでこなかった。しかし、途中で突然いい案が浮かんできた。

「そうだっ!楓たちに電話しよっ!」

そう思いついた途端、私は受話器を取った。

 

 

プルルルルルル・・・・

 

 

―――同時刻、日本のとあるカフェにて―――

 

 

「あら、電話・・・未雲っ!?」

私は突然の出来事に、とにかく驚いた。そして、急いで携帯に出る。

「もしもし、未雲っ?」

「楓ぇ~!久しぶりっ!!」

それは紛れもなく、あの未雲―――金田、いや龍田未雲のものだった。

「どうしたの?急に」

「いやね、私最初に言っとくとぉ、第2子を妊娠したの。・・・で、緑が過保護になりすぎちゃって今は、自分の部屋待機・・・ってところなんだ」

私たち3人は、友人のおめでたい話に顔をほころばせて、3人でそろって

「「「おめでとうっ!!」」」

といった。案の定未雲は、驚いたようにしばらく黙りこくった。そして、つぶやいた。

「え・・・あ、葵?ちかちゃん?」

私はさすが、と感心しながら

「正解よ。今、一緒にいるの」

といった。

 

 

それからは、4人でいろいろ話をした。子育て、それぞれの夫のこと・・・幸せな時を4人で過ごした。

別れ際(電話を切るとき)、未雲はこうつぶやいた。

「私たちって、すっごくサッカーに愛されてたんだね。そして、すっごく幸せだね!」

「・・・そうね」

「・・・うん、そうだよね!」

「・・・はいっ!」

 

 

雷門中学校サッカー部だった皆は、それぞれの運命共同体(パートナー)のところへと戻って行った。そう、私たちはそれぞれの『最高の幸せ』を皆でつかめたのだ。―――色々なことがあった。別れなくてはいけないこともあった。でも、全てを乗り越えた私たちだからこそ、『最高の幸せ』がつかめたのだ・・・!

 

 

雷門中・・・雷門中学校サッカー部、私たちに『最高の幸せ』をくれてありがとう!

 

 

 




祝!『ボールがくれた出会い』完結ですっ!

今まで読んで下さった方々、ありがとうございました!

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